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過去話(12.5) 理解と納得は別物

「皇帝陛下。調査のほど、よろしくお願いしますよ」


「わかっておる。このままでは我が国の信頼は失墜、さらには裏切り者のレッテルまで貼られてしまう。テスタローザにも脱走されておるからな…この状況下でそのようなことは避けねばならぬ。調査は任せよ、ありとあらゆる手を利用しよう」


「…勇者としてしての俺は、一旦信じてあげます。では」


勇者アラン。彼は勇者という役割を持っているにも関わらず、非常に強い警戒心を持ち、そのことを隠すことなく面と向かって国に言える胆力の持ち主である。


**********


「ルミナリア、そろそろ行くわよ」


「…うん」


リタに促されて馬車に乗り込み、いつも通りの場所に座る。その右隣の空席には本来、月夜が座っているはずであった。


あの一件以降、私の心にポッカリと穴が空いたような、喪失感が私の中で渦巻いていた。何故かはわからないけど、一気に活力がなくなったことはわかった。ゲツヤが責任感が強く、一度堅い意志をもって決めたことは曲げない性格であることも知っている。だからこそ、失踪理由の最大の割合を占めている、責任に耐えきれず夜逃げ、ということはなくなるのだ。


「ゲツヤ…」


「ルミナリア…すまねえが、今から俺は最低なことを言う。だが事実だ。黙って受け入れて欲しい」


「何…?」


ルミナリアと同じ馬車に乗っているうちの1人であるガルムは今のルミナリアを見ていれなくなったのか、その口を開いた。


「俺も、ルミナリアも、ゲツヤも等しく勇者一行の一員だ。常に命を脅かされる立場にある。だがそれでも、人類の希望として立ち止まるわけにはいかねえんだ。だからよ…ゲツヤのことは死者として割り切れ。探しても見つからないなら諦めるしかねえ。ゆっくりじっくり探す暇なんてどこにもねえ。俺らは俺らの為すべき事を為さなきゃならん」


「ッ、ぁ…ぅ」


薄々わかっていたのだ。そうしなければいけないことくらい。剣聖として、そう言ったことは誰よりも早く踏ん切りをつけなくてはいけない。最前衛で戦う剣士にとって迷いは致命的な隙になるからだ。だが、理解していたとしても、その気持ちを整理することはできなかった。


「ルミナリア…すまない。でもわかってくれ。みんな辛いんだ。だとしても、わかっていたはずだ。いずれはこうなってしまうことも」


辛い、悲しい、苦しい。そういった苦悶の表情を浮かべるルミナリアにレイクは優しく話しかける。その声色は少し震えており、レイク自身も月夜のことを割り切ることができていないとわかる。ただ、それでもグッと堪えなければいけないとわかっていた。感情を押し殺し、痩せ我慢をしている状態なのだ。


「ルミナリア、理解と納得は全くの別物よ。納得は時間をかけてするしかない。でも、理解はしてちょうだい。理解すらできないのであれば…貴女は間違いなく死ぬわ」


「っ、…わかってる、わかってるけど…でも…うっ、あぁ…」


エルミナに言われずとも、ルミナリアも心の底では理解していたのだ。おそらく、月夜はもう戻らない、と。だが、どうしても納得はできなかった。確かに月夜の実力は勇者一行の一員にしては不足していた。そのことはルミナリアだってキチンと理解していた。もう少し鍛錬を続ければ間違いなく化けると、信じていた。だからこそ…と言うべきか、はたまた別の理由なのか。少なくともルミナリアに、それを知る術はなかった。


**********


「なっ…っ、そう、であるか」


「申し訳ございません、俺が至らぬばかりに…」


「…本件においてアランに非はない。『探し人のコンパス』は使ったのか?」


「グルリと一周、致しました」


「っ!アラン、お主はどう見る?」


「相当の実力者による誘拐、その後殺害が一番あり得る流れです。ですが、あのゲツヤが一切抵抗しないわけがありません。布団ですら一切乱れておらず、まるでゲツヤという存在が丸ごと消えてしまったかのようになっていました。窓や扉は施錠されており、不審な魔力も感じられませんでした」


アランの言葉に、ネオタルガは苦々しく顔を顰める。


「なんとも面妖な…ゲツヤが自発的にいなくなるとは到底思えん、やはり特殊な…待て。アランよ、魔導凶悪犯罪組織、『五人衆(シエル)』という組織について聞いたことはあるか?」


「…名前だけなら。あまりにも詳細がわからないので相当怪しい組織であるとは思っていますけど。それで、『五人衆』がどうかしたんですか?」


「…最近掴んだ情報ではあるが、『五人衆』の1人が遂に目撃されたらしい」


「!?そうなのですか?存在が明らかになって12年、尻尾を見せ続けなかったあの『五人衆』が姿を見せた…?」


「目撃情報があったのはヴァルナンテ公爵領領都レブナント。正直に言えば、怪しい。誘い込んでいるようにしか思えん。だが、『五人衆』の1人に《幻想楽園(エンタメイトイマジン)》という特殊な固有魔法持ちがいるという情報が存在する。詳細はわからないが、探る価値はあるかもしれぬな」


「確かに怪しいですね。本来釣られてはないない餌だと思います。ですが…」


「うむ。敢えて乗る、か」


「ええ。挑発に乗ってやります。竜巣入らねば卵得ず。その言葉通り、正面突破で行きます」


ここで言う『竜巣入らねば卵得ず』は、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』と同じような意味で使われている。


「承知した。勇者一行に手を出した時点で、最低でも魔族側の人間だ。本気で潰して構わん。幸い、『五人衆』のメンバーはたったの5名とのことだからな」


「5名…ですか。たったの5名で国一つ潰している組織と考えると相当恐ろしいですね。勇者一行全員であればできないことはないと思いますが」


「そう考えれば確かに脅威であるな。だが、余が止めようとお主らは行くのであろう?」


「ええ。潰しておいて損はないですし、何より…ゲツヤがもし殺されていた場合、仇を取らない訳には行きませんから」


「そうか…ヴァルナンテ公爵には事前に連絡しておこう。いつ襲撃されるか読めぬ故、単独行動は控えるように。そのくらい、わかっているだろうがな」


「無論です。全員に呼びかけましょう。では…あまりにも早い出発ではありますが、また後日お会いしましょう」


「うむ。健闘を祈る」


**********


「ルミナリア、大丈夫か?最近ずっと顔色悪そうだけど」


「大丈夫。気にしなくて、いい」


「な、ならいいんだけど…」


ヴァルナンテ公爵領へと向かう馬車の中の空気は控えめに言って地獄だった。アラン、リタ、ルミナリアの3人が乗っているが、ルミナリアは月夜の一件からずっと機嫌が優れず、さらにはスパルタの癖に溺愛してくるとかいう意味わからんクソ面倒くさい父親に絡まれることが確定しているので、少し、いや大分イラついているのだ。


「ルミナリア?苦しいなら苦しいって言っていいのよ?ゲツヤのことを割り切るのは決して楽なことではない。そういうこと言ってる私もまだ割り切れていないもの」


「…お父様に会いたくない」


「あっ、嫌なのはそっちなのね」


滅茶苦茶苦々しい表情でルミナリアはそう言い放ち、そっぽを向く。それはただただ気まずく感じた故の行動なのか、または本心を隠すための誤魔化し故の行動なのか…それを判断する術は、アランとリタにはなかった。

ルミナリア・ヴァルナンテ

身長156cm 体重41kg

髪の色・銀 眼の色・青

得意とする魔法属性 風、土

苦手な魔法属性 火、水、光、闇

好きな食べ物 オムレツ

嫌いな食べ物 レバー、ニラ

自分からは用がなければ喋りかけないくせに割とかまってちゃん。あまりにも放置してると拗ねて夕飯がその辺に生えてる雑草になる(アラン談)。

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