第二十一話 合同合宿!Day1
「はぁ…月夜、あの行動は流石に問題があるよ」
凍河は月夜の行動を咎めようと言葉を投げかけるが、月夜はまるで気にしていなかった。
「悪いけど、ルミナリアを悪く言うことだけは許せないんだわ。家族含め、大切な人を悪く言われることは嫌だからな。事実を元にした冗談っぽい軽口だったらいいが、こっちの人間は全員ルミナリアを直接見たことなんて当然ない。だからこそ、許せない。見てすらいない人間を下げる言動、それが向けられているのが自分の婚約者なら尚更だ。放置して天狗になられても不快だし、しっかりと釘を打たせてもらったよ」
「気持ちはわかる。だが、もう少し抑えてくれ。この後のことを考えると本当に頭が痛い」
「悪いな、ばっちゃん。っと、次は飛風だったか?」
「ああ。こっちでは流石にやめてほしいが」
「しないよ。兄貴の婚約者だっているしな。俺自身の関わりは薄いからルミナリアに何かしらの意識は向かないだろ」
「そうだと助かるけどね」
今回、飛風家からやってきた人材は、飛風家次期当主である飛風羽瀬、先代当主である飛風羽蜜、朝陽の婚約者である飛風美桜、明晰な頭脳で数多の妖の攻略法を導き出してきた才女、飛風風莉だ。
「飛風のとこの好々爺がいるから大体のことは丸く収まるだろうが…羽瀬や美桜は性格に問題はないが、風莉については未知数だ。何かしら問題があるとの話は聞いたが、判断はできない」
「何かしらの問題があるのかな…?美桜からはとても良い子で自慢の妹って聞いてるけど」
「やはり恋は盲目と言うべきか…あんたたちは大概ラブラブではあったが、忘れたかい?美桜は重度のシスコンだよ」
「シスコンではあるだろうけど…まぁ、事実じゃなきゃ言わないでしょ」
「はぁ…これだから心配だ」
凍河がため息を吐いた時、曲がり角の方から人の声が聞こえてきた。
「お祖父様!これから雹牙の方々がいらっしゃるんですよ!?大人しくしててください!」
「嫌じゃ〜!篩坊が言うとった人が来るんじゃろ?こちらから出向いて顔くらい見たいわい!」
「でーすーかーらー!早く会いたいからとこちらから出向くのはあちら側の礼儀を阻害することになります!ですから戻りますよ!もうすぐ雹牙の方々も来てしまい…ま、…っ、スー」
「ん?どうしたんじゃ?儂を止めぬなら儂は行くぞ!走って行ーーあだだだだっ!?ギブ!ギブじゃ〜!」
「相変わらず元気なジジイだね、羽蜜。大人しくすることを知らないのかい?」
凍河はイラついた表情で少女に対して駄々を捏ねてる老人の背後に回ると、頭を掴んで力を込める。少女は凍河が廊下の角から現れた時点で羽蜜がどうなるか大体察したが、自分もされるのではないかと若干恐怖した。
「朝陽。私はこのアホを少しの間しばいてるから他も連れて先に行きな。そこの少女なら案内してくれるだろう。断ること、するんじゃないよ?」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
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「ごめんね、うちのお義祖母様が。怖がらせてしまったようで」
「いえ、大丈夫です。すべてはお祖父様が悪いですから」
「あ、そうそう、僕は君の顔を見たことがないのだけど…もしかして」
「そうですね。初めまして、飛風風莉と申します。私の姉が大変お世話になっております。姉の自慢話、面倒かもしれませんが今後ともよろしくお願いします」
「あーいえいえ、聞いていて楽しいので。美桜もすごく幸せそうに話すものですから」
「そ、そうなんですね」
若干戸惑っている風莉に、華蓮が話しかける。
「ちょいちょい、風莉ちゃん」
「ええと…?」
「雹極華蓮。よろしくね。ちょっと耳を貸してくれる?」
「よ、よろしくお願いします。なんでしょうか?」
『あのね、朝陽は美桜ちゃんとベタベタだからさ、戸惑うかもだけどずっとこんな調子だから。ごめんね』
「はぁ…」
「ま、害もないし大丈夫!」
「な、なるほど…?と、とりあえず、ここが飛風家の部屋でございます。ご挨拶をどうぞ」
非常に困惑している様子の風莉だったが、飛風家の部屋に着いたことに気づくと、しっかりと挨拶を促し、襖を開いた。朝陽が小さく『ありがとう』と言って中に入ると、華蓮、月夜、透子の順で続いた。透子が入ったことを確認すると風莉は襖を閉め、奥のガタイのいい男性の横にちょこんと座った。
「飛風羽瀬だ、よろしく頼むよ。わざわざ挨拶に来てくれてありがとう、朝陽君。華蓮君も久しぶりだね」
「遅れてきたのですから挨拶は当たり前です」
「お久しぶりですね。で、いつになったら例の借りを返すんですか?」
「うぐっ…それは、後でにしてくれ。そして、月夜君に透子君。活躍の話は聞き及んでいるよ。ご足労感謝する」
「いえ。雹牙の一員ですので」
「よろしくお願いします」
「うむ。本日より4日の間、よろしく頼むぞ。共に切磋琢磨しようではないか。では、こちら側の皆にも挨拶してもらおう。美桜」
羽瀬に名前を呼ばれると、茶髪緑眼の少女が柔らかい表情を"朝陽に"向けた。
「こんにちは。飛風美桜と申します。そこの彼…朝陽の婚約者です。4日間、よろしくお願いします」
(うん、相当上手く隠してるな…でも、な)
月夜からしたら隠しきれていない朝陽好き好きオーラ。ここが畏まった場でなければ今すぐにでも朝日に抱きつきそうだ。とてもうずうずしている。
「先ほども名乗りましたが、飛風風莉です。1年ほど前まで病気で病院生活をしていました。あまり実力はないですが、4日間よろしくお願いいたします」
「風莉は戦闘は得意ではないのだが、観察する力や思考能力はうちで群を抜いているよ。今うちで最も期待されてる人の中の1人だけど…」
羽瀬はポンッと、手を風莉の頭に乗せ、髪が崩れないよう、優しく撫でる。
「風莉は普通の女の子なんだ。だから変な期待なんてしないで、普通に接してあげてほしい。兄として、お願いしてもいいかな?」
「わかりました。善処させていただきます」
「ありがとう朝陽君。それでなんだが…お祖父様はどこに行ってしまったのだ?凍河様もお見えになってないようだが…」
「…お祖父様は勝手な行動をしたため、凍河様に絞られているのではないかと」
「あー、なるほど。そうか…ならお祖父様との顔合わせは不要だな。お祖父様のために時間を取らせるのはあまりにも申し訳ない…それに、30分後には合宿の醍醐味であるペア練も始まってしまいますし」
「あ…本当だ。ありがとうございます。お義祖母様にはこちらから伝えておきますね」
「助かるよ、朝陽君。改めて4日間、よろしく頼むよ」
「はい、よろしくお願いします」
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「それにしても…今日の月夜、口数少ない気がするんだが、気のせいかな?」
「ん?俺がか?喋ることないから喋ってないだけだと思うが…」
「確かに。師匠ならもっと積極的にコミュニケーション取りにいってもおかしくないし」
「そう…か?さっきばっちゃんに言われたばかりだし、喋るのをちょっと抑えたりはしたが…」
月夜のその言葉は、普段はあまりない少し歯切れの悪いものだった。しかし、朝陽達はこれを困惑しているだけと片付け、その小さな違和感に気づくことはなかった。
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「皆様、わざわざここ北海道までお越しいただき、誠にありがとうございます。この度の強化合宿は、最近活性化している妖達に対抗するべく、連携能力を主に磨こうと考えております。身内での連携も勿論、他家との連携も非常に重要。4日間、1日ずつ分け、それぞれ日によって違う家の者とペアを組み、順々に対戦していく形式なっており、最後にはバトルロワイヤルを行い、集団戦における改善点などの課題を見つけることがメインとなっております。それでは、本日より4日間、よろしく頼む。それで本日のスケジュールだが、引率の者を除けば参加者は各家4名ずつの参加となっているため、2人ペアを作ってもあまりは出ないようになっている。今日は同じ家の者と組んでもらうが明日からは別の家と組んでもらう。各々、個人の改善点を見つけるように!」
元の言葉の後、それぞれ身内とペアを組んでいく。月夜達も例に漏れず、事前に決めていたペアに分かれた。月夜と透子、朝陽と華蓮である。月夜が透子を絞ると希望を出したため、自然とこのペアになったのだ。
「さて、順番に進行していこう。まずは土倉の琥珀・叶ペア!対するは飛風の羽瀬・美桜ペア!」
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時間は進み、雷轟の次期当主、電と元のペアと朝陽と華蓮の対戦中。透子は疑問に思っていたことの1つを月夜に尋ねた。
「師匠はさ…さっき他人の刀とはいえ刀を向けていたけど大丈夫なの?」
「ああ、あれは正当防衛が成立するからな。あくまで攻撃された本人以外が剣を抜くのがダメなだけだ。あの状況なら俺ではなく土倉側に非がある。だから俺が咎められる要素はないぞ」
「そ、そうなんだ…」
「どうした?妙に歯切れが悪いが…」
「いや、さ。師匠、風莉ちゃんのこと知ってた?」
「ん?ああ、なるほど。俺に未来を見る力なんてものはないし、方法もないだろう?意味はわかるな?」
「うん、まあそうだけどさ…」
透子は納得できない、渋々といった表情をしていた。
「そんなことより、今日の俺はサポートだけだからな?そのこと、ちゃんと理解してるんだよな?」
「わ、わかってらぁ!自分の力でなんとかしろってことでしょ!」
「間違ってはないが合ってはいないな。正しくは自分で無理なく防げる攻撃と無理すれば防げる攻撃、防げない攻撃を見極め、無理なく防げる攻撃だけを自分で防げ、だな。これは今までの透子の傾向から俺が独自に判断する。支援と防御はある程度やるから、時々飛んでくる俺のアドバイスを頼りに頑張れ☆」
「うえぇ!?師匠の鬼!卵!米!」
「途中から別の方面で優しくないの出してくんな。しかも定期的に飯奢ってるだろうが」
「次!雹牙の月夜・透子ペア!対するは土倉の和葉・百花ペア!」
「おっ、呼ばれたな。行くぞ」
「ふえぇ…行きたくなさすぎる…」
「駄々捏ねんな行くぞ」
「ぴえぇ…」
粘る透子だったが、結局月夜に首根っこを掴まれて連れて行かれたのだった。
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「やぁ、さっきぶりだね。できれば面倒事解決を手伝ってくれないかい?」
「身から出た錆くらいなんとかしてくださいね」
「両者揃いましたね…では!開始!」
模擬戦開始早々、和葉は刀を抜いて突撃し、百花は弓の霊装を出して後方から攻撃する。それはまさしく速攻で終わらせる奇襲型。しかし、その奇襲は失敗に終わる。
「よっ…そぉれ!」
透子が脇差で和葉の刀の軌道をずらし、正面の矢をできる限り切り落とす。さらに、切り返しを狙った和葉の刀と軌道が曲がり、側面から透子を強襲しようとしていた矢は月夜が展開した障壁によって止められていたのだ。完璧に攻撃を凌いだように見えたこの盤面だが、月夜は透子の欠点を突いた。
「透子!一度防いだ後慢心するな!今のは防げた攻撃まだあったろう?」
「はい、師匠!」
月夜の言う防げた攻撃とは、和葉の切り返しの攻撃のことである。正面の矢を弾いた後でも透子のスピードなら十分受け流す体制を整える時間はあったのだ。故に月夜はその点について咎めたのだ。透子自身もそれに気づき、改めて身を引き締めた。
「百花!パターンB!」
「わかった!《砂土塊》!」
百花の使った術は周囲にサイズがバラバラな土の塊を浮かせる技だった。これ単体では、相手の視界と行動を少し阻害する程度のことしかできない。だが、それは和葉と組み合わせることで一瞬にして化けた。
「《土潜り》《竜泉》!」
「っ!?そういうことか!透子!2-4!《瞬間増強》・"霊"」
「おっけー!行っくよー!そぉれ!《凛晶鱗華》!」
《凛晶鱗華》。透子が原案を作り出し、それを月夜が術式に落とし込んだ陰陽術だ。対空に特化し、広範囲に弱い効力のため、一部属性とは非常に相性が悪いため、『氷』の属性だけに特化した特殊な術式になっている。空中にいる相手に弱いながらも冷気を付与し、じわじわと動きを鈍くしていくのだが、範囲を限定し、さらに月夜の支援によって術の威力は十数倍に高まった。これにより、浮いている《砂土塊》諸共和葉の身体を凍りつかせ、動きを封じたのだ。
「な、なにそれ…」
和葉が動かないかなっていることを確認すると、視線だけで百花を倒し切るよう指示する。
「了…解ッ!」
透子は自慢のスピードを活かして素早く近づくと、脇差を振るおうとするが、土の陰陽術で止められてしまう。しかし、月夜が黙って見ているだけの状態でない限り、百花に勝ち目はなかった。
「《風爆(小)》」」
月夜が百花の姿勢を崩すべく強めの風を起こし、百花の足元にぶつけた。それにより、百花は若干体制を崩してしまった。
「そこっ!」
透子が脇差を百花の喉元に突き立てる直前、透子の真横から土の杭が生えてきた。しかし、それは月夜の霊装によって防がれた。敢えて月夜の言っていなかった透子のミス。それは和葉にトドメを刺していないことだった。
土の杭に驚いた透子だったが、なんとか百花にトドメを刺すことはできた。月夜は月夜で関節技で和葉にトドメを刺しており、その目は呆れていた。透子は思った。嗚呼、なんとなくのノリで着いていくなんて言わなきゃよかった、北海道だからって観光できると思ってた…と。
*********
「ほら、走るぞ。止まってる暇なんてないからな」
「ひ、ひえぇ…し、ししょ、ちょ、ちょっと、やすみ、ません?」
「…そうだな。10分休憩にしよう」
月夜がそう言うと、透子は力尽きたように近くのベンチに座った。
現在月夜は透子の課題の1つである持久力の無さを改善するための走り込みを行わせている。現在10kmほど走っており、2回目の休憩である。月夜は朝こそかいているものの、そこまで疲れているような印象はなかった。
「し、師匠は体力お化けすぎます…」
「ん?ああ、継続は力なりってやつだな。ガキの頃からずっと走ってるし。元気すぎて生まれてから今まで風邪をひいた覚えがない」
「いや元気すぎ…それにしても、いつまで走るんです?」
「あと5kmだ。残り3分の1だからな。もうちょっとの辛抱だ。水分はしっかり取れよ、脱水症状が出たら鍛錬どころの話じゃない」
「わ、わかりましたよ…さて、頑張りますか!」
「もう休憩いいのか?じゃあ、行くぞ〜」
四家合同強化合宿の模擬戦では雷轟家と板無家のみが所有する特殊な霊器が用いられており、その霊器の効果範囲内では死ぬことはなく、霊器によって死亡判定を受けると無傷の状態で特定の場所に送られるようになっています。




