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第十二話 祓魔師の術

「ご主…人」


「セン。今は眠れ。後は任せなさい」


センがご主人と呼んだ青髪の男はセンのことを抱えて結界の中に放り込む。すると青髪男の方は振り返り、青い霊力を迸らせる。フードの男はそんな戦意を迸らせる青髪の男を馬鹿にするかのように笑うと、紅い閃光を青髪に向けて放った。それは小手調べのようにも、遊んでいるようにも見えた。青髪は手に霊力を多めに纏わせると弾いて地面に叩き落とした。


「貴様…悪いが、センを傷つけられては、こちらも黙っているわけには行かなくてね。例え、こちらから手を出したとしても…私怨で貴様を殺す」


「はっはっはっ、それは怖い。ですが、例え貴方といえど、私とレン…2人を相手取るのは無理でしょう?」


「さあな…やってみねばわからん…《豪赦天鎖(ごうしゃてんさ)》!《終焉的収束天界(オワリノカクリセカイ)!」


青髪は凄まじい霊力を動かすと、図太い青の鎖で周囲自分も含めて周囲を完全封鎖すると、鎖に囲まれている範囲の地面と遥か上空に巨大な術陣が展開された。その術による異変は、すぐに効果を表した。


「!これは…なるほど、面倒な術です。まさか霊力の強制徴収とは」


「主様」


「ええ、わかっています。すぐにお願いしますね」


「承知しました。《次元外れし隔離世界(カクリヨ)》」


「…次元をずらして効果をくぐり抜けるか。その術は術者の脳に膨大な効果処理をさせるのだが、防げるのは術のみ。物理攻撃は防げず、さらに脳のキャパを圧迫するのだ、動けないはずだ…何故、動ける」


レンと呼ばれた九尾は《次元外れし隔離世界》発動後も、普通に動いていた。術の性質上、帝級といえど動ける道理はないのだが…


「いやはや、祓魔師(エクソシスト)とは便利なものです。あちらは妖術師等などまるで興味はありませんからね。きちんと報酬を支払えば稀有(レア)な魔道具に法術具、霊器まで、ね。様々なものが手に入りますから」


「チッ…吸血鬼の瞳か…!」


「どうでしょうね?わからないからこそ面白いものでしょう?」


吸血鬼の瞳とは、人間の代わりに術の演算を行える魔道具の1つで、一定の霊力や法力などのエネルギーを与えることで一定時間効力を発揮し続ける使い切りの魔道具である。青髪の言っていることは当たっているが、使い切りである関係上、使えばすぐに消えてなくなる。そのため、本当に吸血鬼の瞳かどうかはわからないのだ。


「閉じろ、東の道を裂く割れ目よ…《東精天文(あずませいてんもん)》!」


「おっと、そうは行きませんよ。開きたまえ、西への道を閉ざす割れ目よ《西方郷門(せいほうごうもん)》」


守りを強制的になかったのことにする青髪の術に対し、フードはそれを防ぐ対特術を使用する。お互いの術は相反するために対消滅し、青髪の方は悪態を吐いた。


「面倒な…!」


「私も貴方も言えば一つ(・・)。そこに力の差は決して生まれないのですよ」


「そうかもな、くっ…」


「そうです。だからこそ…彼の存在が大きい」


青髪とフードの実力は拮抗している。お互いに一歩も譲らないし、戦いは動かない。しかし、そこにレンという九尾が加わることで錆びついた戦いの歯車は潤滑油を差し込まれたかのように円滑に回り出すのだ。


「なんの…!《突貫絶羅(とっかんぜつら)》!」


青髪はレンの振るった短刀と自分の間に岩の槍を生み出して防ぐ。さらにその槍は次々と地面から生え、フードとレンを襲う。しかし、フードはそれを地面に淀んだ霊力を流して安定化することで自分とレンの周囲の地面への青髪の干渉を妨害する。


青髪が攻撃しても、フードが攻撃しても、それらは互いに防御し合い、どちらも攻撃は通らない。しかし、フードに

はレンというアドバンテージがあるため、少しずつではあるが、青髪は押し込まれ始めていた。青髪も薄々勘付いていた。否、最初からわかりきっていた。自分1人でフードとレンを倒すのは無理だと。しかし、やるしかなかった。1人の若き才能を、早いうちに潰させないため。又は、今となっては数少ない親戚を守るため、敗北必至な戦いを挑んだのだ。


「随分と霊力を消費してますねぇ。その調子で大丈夫ですか?」


「相変わらず口の減らない、野郎だ!」


「通しません」


なんとかこの状況を打開するため、青髪は一か八かフードの懐に潜り込もうとする。しかし、それはレンによって阻まれ、さらに一瞬固まった隙を突かれてフードの攻撃で右太腿の肉が少しえぐられ、攻撃を回避するための機動力を奪われてしまった。


「まずは機動力から。では段々と調理していきましょうか」


赤黒い閃光がフードの手から放たれた。


**********


「…見えた。あそこか」


空を飛ぶ月夜は、上空からあの妖力の起こりがどこなのか探していた。派手に戦闘を行っていたためにすぐに見つけることができた。しかし、そこには発動している結界と争う男達。ちょくちょく結界にも攻撃を加えられ、段々と結界にもダメージが蓄積していた。


「なるほど」


青髪の方の男は明らかに結界を庇うような戦い方をしていた。名前も顔も知らない、が…阿部家の者達と謎の九尾を囲う結界を彼が守っているのは明らかだった。月夜は青髪を対象として陰陽術を発動した。


月天(げってん) 紺碧(こんぺき)の夜 真なる姿 ここにありて 守り手の身 支えたるは 凛とそこに在りて ただ輝き続ける 夜空に浮かぶただ一つの星のように… 《真翔御殿(しんしょうみでん)》」


**********


「ッ!」


赤黒い閃光は青髪に直撃し、周囲には土煙が舞った。


「さて、邪魔者もこれで消えましたね。レン、後は結界を破壊して…おっと」


土煙を突き破り青白い閃光が放たれた。青髪だ。


「ふむ…確かに直撃した感触があったのですが」


「どこの誰かは、わからないが…感謝しよう。ぐっ…ただ、もう霊力、が…」


膝をつき、倒れ込みそうになった青髪を空から舞い降りた影が支えた。


現代日本には似つかわしくない着物に袴、水干という衣装。普段と比べてやけに騒がしい月夜の中、そこに降り立ったのは異世界最高の守護者にして、人類の最高峰の一角である男、雹牙月夜だった。


「さて、と…悪いけどこの先は通行止めだ。死にたくなきゃさっさと消えろ」


「いやはや…それは聞き入れられませんね、ッ!?」


「あっそ…じゃ、死ね」


月夜の言葉にフードが否定の言葉を溢した瞬間、青髪をゆっくりと地面に降ろすととてつもない速度で月夜がフードに肉薄した。


「通しませ…ガハッ」


「邪魔だ」


レンが月夜の妨害をしようとするが、神速ともいえる速度の拳で腹部を殴られ、一撃で吹き飛ばされた。さらに月夜はフードに向けて拳と同時に《大地の土杭(ロードスパイク)を無詠唱で発動し、フードの退路を封じる。フードは舌打ちをすると足を止め、右腕を使って月夜の拳を受けた。右腕の肘から先が消し飛ぶが、なんとかその場からの脱出に成功する。


「いい判断力だ」


「お褒めに預かり光栄ですね…まったく、こんなもの勝ち目などないですよ。私も死にたくはありません。なので、さっさと撤退しましょうかね」


「逃がすと思うか?」


「いいえ?ですので、これからは金輪際彼女達に手を出さないと約束しましょう。私の目的のために、貴方と敵対するのは得策ではありませんので」


「悪いが、それで見逃すと思っているのか?」


「ハハハッ、今この瞬間がそれ(・・)ですから」


次の瞬間、フードとレンの足元に幾何学模様の魔法陣が展開された。


「なるほど…なっ!チッ、しかも祓魔師(エクソシスト)の術か!用意周到な…!」


「では、またいつか。ご機嫌よう」


月夜は術の解析と同時並行で攻撃を仕掛けるが、ギリギリで間に合わず、フードとレンは魔法陣の光に飲み込まれて姿を消した。


「祓魔師の術…か。西洋の連中と何か関係があるのか?だとしたら…」


フードの男を気軽に処理することは、できない。陰陽師と西洋の祓魔師の関係は悪くはないが、特段いいわけではない。お互いがお互いを邪魔しないことで均衡を保っているのだ。特に確認することなく関わりのある者を殺せば、両者の関係に亀裂が入ることは確実だからだ。


「それはさておき、どうしたものか」


そう言って月夜は、地面に倒れて気絶している青髪、セン、透子達に向けて歩き出したのだった。


**********


「まったく…長生きもしてみるものですね。無駄に蓄えた知識は本当に役に立つ」


「主様、申し訳ございません。足を引っ張りました」


「いえいえ、大丈夫ですよ。あれほどの強さを持つ陰陽師がいるとは。あまりにも想定外です。貴方がいてもいなくても、私は負けるでしょうから」


フードの男は正直な感想を述べる。実際に感じ取ったのだ。自分とは明らかに隔絶した強さを。そして同時に得られたものもあった。


「あれほどの陰陽師も、天級には及ばなさそうですね」


天級。陰陽師側には正確な情報のない化け物。しかし、過去に出現した天級は、確かな情報を置いていった。


『我は神代の世に住まう吸血鬼なり。我らのような存在は、貴様らをいつでも滅ぼせるだろう』


この言葉が指し示す意味は未だに確定していない。何かしらのルールを破ったことによる警告か、はたまた同じ領域に来いという挑戦状なのか。もしくは…近い時代、世界を滅ぼすことの予告なのか。それはわからないが、フードの男にとっては非常に大切な情報を残していった。それこそが『神代の世』が実在するという情報だ。彼は待ち望んだ神代の世の情報。彼は神代の世に行こうとしているのだ。彼の脳内は誰にもわからない。何が理由なのかも、またそうである。


「クックック…時は近いですよ。レン、共にやり遂げますよ」


「承知致しました、主様」


フードの男はいつにも増して(かがや)月夜(つきよ)に向けて、不敵な笑みを浮かべるのだった。

設定ちょい出し小話〜教えて!氷柱先生!〜

第二話「《真翔御殿》とは」

氷柱「さて、本日の授業のお時間です!お題は〜こちら!雹牙、土倉の直系にのみに伝わる秘術、《真翔御殿》についてよ!」

百花「あの…氷柱さん、私知ってるんですが。あと出番久々過ぎませんか?第三話以降名前しか出てないような…」

氷柱「《真翔御殿》は、術者は一切の霊力を消費することなく付与できる強化の術よ」

百花「無視!?」

氷柱「術者の霊力を使わない反面、効果はシンプル、ですが非常にデメリットが重いことで有名です。百花さん、ズバリ効果とデメリットは?」

百花「ここで私に振るんだ…効果は短時間の身体強化と霊力増強。デメリットとして凄まじい反動により、しばらくの間身体を動かせないほどの筋肉痛と霊力枯渇による体調不良に襲われます」

氷柱「はい、その通りです!花丸満点ですよ〜。補足するなら、筋肉痛と霊力枯渇だけでなく、霊力の回復が阻害された状態になるので、誰かしらに霊力を注いでもらう必要がある、という感じね」

百花「なるほど…!それは知りませんでした」

氷柱「百花ちゃんは学ぼうとする姿勢が真面目でいいわね〜。透子ちゃんなんて一コマ目の後逃げ出しちゃったのよ。お茶目ね〜」

百花「その透子さんって…」

氷柱「謹慎中ね☆」

百花(触れないでおこう)

作者の一言「百花さん、許してくれ。本格的に始まったらいっぱい出れるから。だから許して…土のハンマーなんて構えて危ないですよ。その身体のどこからそんな力が…まるでゴリr…あっ、ごめんなさい。許してくだsあああああああ!」

(作者がどうなったかはご想像にお任せします)

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