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第六話 初依頼

体調不良で投稿が遅れました…申し訳ありません。先日、友人から過去話(4)の内容について、「法皇陛下の名前はなんなの?」と問われました。まぁしばし待て、という感じですね。

「月夜、黒鬼討伐でイレギュラーが発生したと聞いたが、何かお前から言える情報はあるか?」


1月1日。謹賀新年を祝い、一般家庭では家族や親戚と共におせちを楽しんだりしているが、陰陽師はそうではない。何故なら、冬休みの前であったり、大晦日の休み前までに人々が溜め込んだ鬱憤が妖という形で放出されるため、年明けから1ヶ月は大忙しなのだ。凍河は現役を引退しており、月夜にはまだ依頼など来ていない。よって、2人は雹牙本邸でまったりとしながら話すことができるのだ。


「変なところか?心臓に何やら埋め込まれていたのと、そこから強い力を感じたことくらいか?あれが埋め込まれてると段々と力を増していくような感じではあったけど、埋め込まれた生物によって上限はありそうな感覚だな。心臓を破壊すれば討伐できるが、相手は心臓を庇うような行動もしてくるから結構面倒ではあると思うぞ」


「厄介な…特級程度まで成長をしたと聞いているが、そこは?」


「俺からしたら対して強くないし雑兵的なあれだから」


「なるほど、月夜の行った世界で言えば私の強さはどのくらいで表現できるんだい?」


「人間の中で考えるなら…そうだな、英雄クラスかな?多分その辺りだ。魔の神の隊長クラスとやりあえる、ってな感じ」


「その例えだとわからないんだが?」


「ああ、すまんすまん。詳しく説明すると、魔の神の組織図として、まず四天王がいて、その1人につき4人の幹部を抱えてる。その幹部1人につき4人の大隊長、大隊長1人につき隊長4人、隊長1人つき雑兵が2500だな。雑兵の強さはこっちでいう上級から特級、隊長なら王級、大隊長なら帝級、幹部は帝級から超級、四天王は限りなく天級に近い超級、魔の神が神級ってな具合だな。ばっちゃんなら全力かつ雪狐込みで命を投げ打つ覚悟を持って挑めばギリ勝てるかも、くらいか?」


「あんた随分とやばいところにぶち込まれてたんだね」


「そりゃあもう。というかばっちゃん、わざわざ呼び出したってことはこのことだけのためじゃないでしょ?なんか用があるなら早めに伝えてくれ」


月夜の言葉に、凍河はニヤリと笑った。


「実はな、正月シーズンだというのに誰一人として食いつかなかった依頼があるんだ。内容を見れば仕方のないことではあるがね」


「どういうことだ?誰も受けないってことはよっぽど報酬が悪いか、依頼内容に問題があるってことだろ。あっちの世界でだって冒険者ギルドからの依頼があったんだ。依頼を見に行った時に割に合わない報酬の依頼とかたまにあったからな」


「そういった例があることは否定できないが…今回は毛色が違ってな、依頼者に書いてあるのは依頼者の住所、必要な陰陽師の強さ、守秘義務、最後に報酬は要相談、だな。誰も受けない理由がわかるか?」


月夜は依頼があまりにもな内容であることから、言われなくとも誰も受けることのなかった理由がわかった。


「依頼内容がないこと、そして明らかに怪しいことだな。あまりにも露骨すぎて隠す気すら感じないぞ」


特に『報酬は要相談』が危ない。場合によっては報酬が存在しない場合もある、ということだからだ。


「そうだな。故に誰も受けない。だからこれから月夜に受けてもらうのは、正確に言えばこの依頼ではない。この依頼内容についての調査だ。私からしっかりと報酬は出るし、可能であればこちらの依頼を消化しても構わない」


「まず俺が受ける前提であることに驚きなんだが」


「お前なら並大抵のことはなんとかなるだろう?朝陽や凍哉に受けさせるより確度が高いじゃないか」


「その信用嫌だな…今までに受けたやつはいるのか?」


「個人活動の人間で1人。自分では依頼達成は無理だと諦めたらしい。依頼人からは依頼内容は秘匿事項とされているようだ」


「はあ…なんて面倒な」


「とりあえず、頼むことはできるか?今すぐ依頼に行け、というわけではないが」


「うーん、いいが、1つ、お願いをしてもいいか?」


「なんだい?可能なことなら聞こう」


「それはーーー


**********


随分と濃い呪いだな。わかりやすいが故に近寄りがたい雰囲気を作り出してる。実際にこの辺りを彷徨いてる人間はいないし、歩いている人はいてもこちら側には近づいてこない。人間の自衛作用が働いてるのか。


月夜は依頼者の住む屋敷から溢れ出す呪いに少しばかり嫌な澱みを感じつつも、屋敷の呼び鈴を鳴らす。


大して間を開くことなく屋敷の引き戸が開き、目にクマのある老人が現れ、月夜を出迎えた。


「陰陽師殿、よくいらっしゃってくださいました。ささ、中へお入りください」


老人は恭しく頭を下げたかと思えば素早く月夜を屋敷の中へと招き入れる。月夜はそれに応じて足早に歩く老人に着いていく。そして老人はある部屋の扉の前で立ち止まり、腰を下ろした。


「旦那様、陰陽師殿を連れて参りました」


「爺、感謝する。下がっても構わんぞ」


「はっ」


老人が襖を開き、その部屋の中に座っていた壮年の男は老人を下がらせるとゲツヤを手招きし、1対1で話せる状況を作り出した。


「改めて、私の名は阿部清光(あべきよみつ)。阿部家と関係がある、と思わせておいてなんの関係もないというひっかけのような性だな。陰陽師殿、わざわざこのような場所、あのような怪しい依頼を受けていただき、感謝する」


「いえいえ。お家から受けよとの命を受けましたので。雹牙月夜と申します。詳しい依頼内容についてお聞かせ願えますか?」


「ええ。と言っても、依頼はたった1つ。私の娘にかけられた呪いを、解呪してほしいのです」


「なるほど…それを何故秘匿していたのですか?」


解呪を目指すのであれば、大々的に公表し、解呪できる陰陽師に来てもらうのが最も妥当だろう。秘匿していた理由がわからない。


「適時増幅型呪術…お分かりになりますか?」


「なるほど…秘匿していたことも納得ですね」


『適時増幅型呪術』。これは最初期は大したことのない呪いであり、かけられた者でさえ気づかないこともある。しかし、この術は術者がかけられた者を直接視認したり、近づくことで効果が増幅されていくのだ。しかもこの術は複数人で使用することが多い術のため、下手に接触を増やせば、さらに命を削ることになるのだ。


「清光さんは呪術についてそれなりに多い知識を有しているようですが、どこでその知識を?」


「この家は昔は陰陽師の家系だった故に、古い書物などがそのま残っているのです。その本の情報などから」


「なるほど。今この場所では娘さんの術を解くことは不可能なので、娘さんに会わせていただけますか?もしかすれば呪いの術式を解読することもできるかもしれません」


「う、うむ…娘に、危害は加えることはないのだな?」


「家の名にかけて、俺から娘さんに危害を加えることはありませんので、ご心配なく」


「わかった、案内しよう。爺、符の準備を」


「かしこまりました」


いきなり天井の一部がひっくり返ったかと思えば、そこから先程の老人が降ってきた。とりあえずこの屋敷がカラクリ屋敷であることはなんとなくわかった。


「符…ですか」


「ええ、前に来た陰陽師殿が最低限呪いが及ぼす周りへの影響を抑えるものだと」


「見せてもらうことは可能ですか?」


「ええ。構いません。ただ、壊したりしないでくださいよ?」


「その時は俺が新しいのを作るので」


月夜はいつの間にか符を持ってきていた老人から符を受け取り、静かに観察する。


(術式に奇妙な点はない…確かになんの変哲もない符だな。それにしてもこの符の術式構造どこかで…)


月夜は今はその時間ではないと思考を切ると、老人に符を返して清光と老人に案内を促す。


「陰陽師殿、間違っても私の娘に手を出そうだなんて考えるんじゃないぞ。即刻切り捨てるからな」


「将来を共にする約束をした彼女がいるんでね、そんなことはしませんよ」


「むむ、ならいいんだが」


「御二方、着きました。陰陽師殿、こちらでございます」


「ありがとう。ここからは俺の仕事です。呪いにどのような影響があるかわからないので、この部屋からは距離を取っていてください」


「…わかった、任せたぞ」


「旦那様。こちらへ」


「ああ」


清光と老人が部屋から離れて行ったのを確認した後、廊下の壁に符を貼ってから襖を軽く叩き、入室して良いかの確認を取る。どうぞ、と声が聞こえたために襖を開く。その瞬間、濃密な呪いの気配が部屋から飛び出して符の防護をもすり抜けようとした。月夜は即座に結界を張り、呪いを防いだ。それと同時に想定していた術よりもはるかに強力であることを確認した。月夜は布団に入り、動かない女性に近づき、声をかけた。


「はじめまして。雹牙家より派遣された雹牙月夜と申します。これから貴女にかけられた呪いを解こうと考えています。何か恨まれるようなことに心当たりはありますか?」


(フルフル)


「まあ、ありませんか…」


月夜は元から期待していなかったかのように首を左右に振ると、少し厳しい表情を見せる。


「これから俺が行うのは解呪です。呪いの出所がわからない限り、無限に依頼が来ることになり、その度に解呪となるとこちらの手間もかかりますし、そちらから出す依頼料も馬鹿にはなりません。なので、今回は呪詛返しまでセットで行います。すでに深く呪いに侵食されているので、解呪そのものに相当な痛みを伴いますが、構いませんか?」


「……」


女性の返答はなかった。その様子から、迷っているということだけわかる。月夜は止めと言わんばかりに言葉を発した。


「貴女に今かかっている呪いは周囲に影響を及ぼすものです。前回来たであろう陰陽師が呪いを抑える札があるにはありますが、すでに防ぎきれないほどの強力な呪いと化しています。早急な解呪を行うことで周囲への呪いの影響は段階的に消えていくと思います。どうしますか?」


女性はゆっくりと首を縦に振った。月夜はそれを確認すると、解呪を行う時の暗黙の了解とされている解呪の方法を被呪者に伝える段階に入る。


「解呪方法は移相解呪。構いませんね?というかこれしかないので。それなりに痛みがありますのでこの布で声を抑えてください。呪いは時に声にすら乗るので」


月夜は清潔な布を女性に噛ませると、霊装の霊符を5枚顕現させ、特に術式を描くことなく解呪を開始する。と言っても、霊装経由で女性にかかった呪いを自分自身に移し替えるだけである。他人にかかった呪いを解くことと自分にかかった呪いを解くことであれば後者の方が圧倒的に簡単であり、呪いを移し替えることでその他人からは呪いを引き離すことができるなど、メリットが非常に大きいが、その分高度な技術が必要とされる術なのだ。


女性から黒いモヤのようなものがじわじわと現れ、苦悶の表情を浮かべている中、女性の3倍近い苦痛を受けているはずの月夜は平然とした顔で解呪と同時に呪いの解析を行なっていた。


(随分と古典的な呪い…だが相当強力な術だ。そしてその強力な術に見合わないほど呪詛返しに対する耐性がない。そもそも解呪されることを想定していないのか?もしくはそこまでする技術がなかったのか。呪い自体の術式に雑さがある時点で後者だろうな。なるほど…ねえ。呪いとは面倒だ)


板無(いたなし)圭悟(けいご)。板無家所属の陰陽師。月夜と同年代、3年前の当時から黒い噂の絶えなかった人物だ。どうやら、ただの解呪では済まなされないようである。

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