地域大会
前の全国大会の結果によって香苗や奈緒は卓球メーカーからのスポンサーがついた。ラバーを支給してもらえたりユニフォームにメーカーのロゴが入ったりした。芽衣はそれがとても羨ましかった。
芽衣の母はラバーの支給などが経済的に助かるので、奈緒にスポンサーがついた事を大喜びした。その母の喜んだ姿が、芽衣をさらに羨ましい気持ちにさせた。
芽衣の練習は前とは違った。自分からきつい練習を進んでやるようになった。香苗は会うたびにスポンサー自慢をしてきた。芽衣が手に入っていない物を手に入れることが香苗はなにより気分がいい。
芽衣はなるべく香苗を視界に入れないように練習した。王コーチは変わらず毎日厳しかった。
そしてある小さな地域大会。トーナメント表をみると第一シードは香苗だ。第二シードは芽衣。2人は決勝戦で当たる事が当たり前になっていた。この地域で有名な香苗と芽衣は他の選手から話しかけられることも多い。卓球の大会数は多い為、トーナメントを勝ち上がる選手は皆顔見知りになっていた。
いつもトーナメントで上まで残る田中選手が香苗に話しかけてきた。
「香苗ちゃんーーー。私今日ベスト8まで行ったら香苗ちゃんに当たっちゃうよ。今日は1セットでもいいから取らせてよー」冗談まじりに笑って話かけてきた。香苗は周りの選手を少し下に見ていた。"軽々しく話しかけないで♪"と言わんばかりにぺこっと会釈し過ぎ去って、会話を強制的に終わらせた。
田中選手はせっかく話かけたのに軽く流された事をよく思ってはいなかったがしょうがないか・・・と諦めた。
そして次に芽衣が近くを通ったので芽衣に話しかけた。
田中「芽衣ちゃん。今日香苗ちゃんと当たるんやけど、弱点とかないの?」
芽衣「わからない。香苗は強いから。」芽衣はニコっと笑った。
田中「芽衣ちゃんてかわいいよなー。香苗ちゃんに話しかけてもいつも無視やろ?」
芽衣「香苗は試合前、基本集中しているから誰とも話さないと思うよ?」
田中「いつでも自分が1番って感じがするんよな。」
芽衣「ふふ。じゃぁ私もストレッチあるからまたねー」
芽衣は香苗を悪くいう田中選手を軽く流したが、最近の香苗は偉そうな態度に上から目線。芽衣は少し怒れていたので否定はしなかった。
そして試合は始まった。いつも通り香苗も芽衣も順調に勝ち上がっていった。香苗は相手選手と握手するのも適当に済ませる。そんな試合態度を王コーチの長い説教が始まった。
そして香苗のベスト8の試合が始まった。相手はさっき話かけてきた田中選手だった。田中選手は表ラバーソフトというのを使っていて、ラバーの面がブツブツがついている。少し変わった回転がかかりとても打ちにくいプレースタイルだった。香苗はミスが増えた。そして打ちにくい返球にイライラしていた。香苗は自分がミスをすると大きく足音を立てたり、球を渡す時も強く相手に渡して感情を爆発させた。田中選手は香苗相手に必死だった。
そして試合はフルセットまでいってしまった。香苗は"こんな相手に2セットも取られてしまった"と相手の実力を認めようとしなかった。そして焦り始めた。
私・・・・もしかして・・・負ける???
この人に・・・・???
嫌っ嫌っ嫌ーーー!!!!!
焦るとミスは増える一方だった。そして香苗はまさかの敗戦をした。
香苗は田中選手に負けた自分を認めたくなかった。すぐにトイレにかけこみ泣いた。そして自分を責めた。
「どうしたのよ。私。なんであんなにミスするの?」
悔しくてももをグーで叩きながら泣いた。
王コーチも佐野監督も呆れていた。
王コーチ「ほらね。あの子調子に乗りすぎなのよ。」
佐野監督「今頃また泣いとるだろうな」
田中選手は飛び跳ねて喜び、みんなに讃えられていた。ストレッチをしていて試合を見ていなかった芽衣は驚いた。
"田中選手が飛び跳ねて喜ぶ??まさか・・・"
香苗が負けるなんて信じられなかった。でも気にしない気にしない。と自分に言い聞かせ、自分の試合に集中した。芽衣はいつも通り的確に一つ一つの試合に勝利していった。
そして決勝戦。相手は香苗をフルセットの激戦の末、破った田中選手だった。田中選手は芽衣と決勝戦で戦える事を喜んでいた。
そして田中選手と芽衣の決勝戦は始まった。確かに田中選手はやりにくい球を返球してきた。でも芽衣は冷静だった。丁寧に相手コートに返球して案外試合は簡単に進んだ。芽衣は3-0で田中選手に圧勝した。
芽衣は優勝だ。芽衣の母や王コーチは褒め称えた。
母「優勝おめでとうー!今日はどの試合もよかったわねー」
王コーチ「芽衣、フォアハンドがとても安定してきたね。」
芽衣「ありがとうございます」
芽衣は嬉しかったけど物足りなかった。決勝戦の相手が香苗じゃなかったからだ。
香苗は不貞腐れてずっと俯いていた。
芽衣は香苗の気持ちがよくわかる為、少しそっとしておくことした。