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ラリー 〜思いを球にのせて〜  作者: Macou
神明クラブ編
5/43

佐野監督のビンタ

全国大会が近づいていた。芽衣も香苗も予選は推薦の為出場せず本戦のみの出場だった。


小学生5.6年の部。芽衣も香苗も気合いは十分だ。王コーチも最近の練習の成果を発揮できる為2人に期待していた。試合の時にセットごとアドバイスをくれるベンチコーチも以前は佐野監督だったがこの試合から王コーチが入ることになった。芽衣も香苗もとても喜んでいた。


今日は全国大会、本戦だ。あまり来ない芽衣の父も応援にかけつけた。芽衣の父は卓球に詳しくない為、大きな大会にしか顔を出さない。そして観客席でビデオを回す係だ。

今日は芽衣も香苗も約束していたお揃いの最近購入したばかりのユニフォームで登場した。黄色いユニフォームは芽衣と香苗を輝かせた。


全国大会は知らない選手ばかりだった。芽衣は名前の知らない選手達が皆強そうに見えて少し緊張していた。香苗は堂々としていたので芽衣はその後ろにはりついていた。


そして予選リーグ戦が始まった。芽衣も香苗も別リーグで1位、2位に残れたら、次の日の決勝トーナメント戦に参加できるシステムだ。


始めの試合、相手も同じように小学5年生。芽衣は緊張からかいつものプレーができなかった。王コーチは私がコーチについたのに散々な結果になったらどうしよう・・・と焦りの表情だった。

1セット目が終わると王コーチは怒っていた。

「どうしたの芽衣!いつももっと足動くでしょ?寒いの?アップが足りなかった?」

芽衣はうつむいていた。大きい試合になるとすぐに緊張してしまう。


そしていつもだったら勝てるような相手に芽衣は負けた。


芽衣は落ち込んだ。王コーチは今までにないくらい冷静に怒っていた。そして冷静で冷たい王コーチの説教が始まった。怒られ慣れしている芽衣は説教を聞き流すことは得意だ。いつものように下を向き、話を聞き流していると佐野監督が鬼の形相でやってきた。そして芽衣の顔を見るなり会場に響き渡るような音がした。



"バッチーーーーーン!!!!!!"



芽衣は吹き飛んだ。その場はシーンと凍りついた。

佐野監督が芽衣の頬を思いっきりビンタしたのだ。心配そうに遠くから見つめる芽衣の母は泣いていた。



芽衣も思わず泣き崩れた。佐野監督は大きな声で怒鳴った。

「芽衣!!!コーチの話を聞かん奴は出てけー!!!」



芽衣は佐野監督がなんて言っているかより自分の頬を抑えて痛みで泣いていた。他の選手やその親達が会場でコソコソ話していた。


「あの監督怖そうやなー。」「あの子大丈夫やろか」


芽衣はコソコソ周りから言われることも慣れていた。だけど今日のコソコソは良い意味じゃなかった。そう思うとどんどん涙は流れてきて止まらなくなった。


香苗はそれを影からこっそり見ていた。そして身震いした。自分も負けたら同じ目に遭う。香苗は自分の気合いを入れ直して試合前のストレッチとジャンプして体を温めた。



芽衣は誰にも口を聞きたくなかった。恥ずかしかった。でも試合はまだまだ続く。芽衣はしばらくトイレの個室にこもって泣いていた。そしてトイレの個室から出ると母が待っていた。本当はさっきまで泣いていたのは母も同じだったのにそれは芽衣には秘密。笑って芽衣に話かけ、濡れたタオルで芽衣の頬を冷やしてやった。

母「すごいビンタくらったなーーーー♪痛かったー?」

芽衣「痛いってもんじゃないよ!私吹き飛んだよな?」そう言いながら母の優しさに触れるとまた涙が少しだけ出てきた。でも笑えていた。

母「吹き飛んでた吹き飛んでた!!!2メートルは飛んだかな笑」冗談まじりに笑っていた。

芽衣「ひどいよな佐野監督。まぁ芽衣の試合内容が悪いんやけどさ。やば。今の監督に聞こえてないよな?」

母「香苗の試合始まったから監督はそっち行っとるわ」

芽衣「よかったーーーー。香苗も同じようにやらかさないかなー」ニヤニヤ笑った。

母「香苗は大舞台に強いわ!芽衣のチキンハートとは違います♪」

そう言いながら2人はトイレを出た。するとそんな会話をトイレの外で聞きながら待っていたのは芽衣の父だった。父は思わず芽衣を抱きしめた。

父「辛かったら辞めていいんだぞ。パパは芽衣が心配だ」

芽衣「パパ何言っとるの?!監督に殴られてここまで育ってるの!!!そんな事でビビらないよーだ」

芽衣は舌を出しておちゃらかして見せた。父親に心配をかけさせたくない優しさだ。

芽衣の父は芽衣にそう言われても心配が止まらなかった。


芽衣「次は勝ってくるー!!」そう言い、芽衣の母と父に元気に手を振って会場に戻って行った。

芽衣の母は安堵した。芽衣の父はまだ心配していた。



香苗の第一試合はストレート勝ち。いつものように攻撃的なスタイルで相手を圧倒した。王コーチも安堵の表情だ。


芽衣の第二試合が始まった。さっきより足は動いてのびのびプレーをしていた。王コーチは芽衣が点をとるたび頷いてくれた。そして芽衣は観客席にいる佐野監督がどこで見ているか把握するのが早い。そして佐野監督の顔をうかがいながらも第二試合はストレート勝ちをした。


王コーチは観客席にいる佐野監督ばかり気にしている芽衣に少し注意した。

「芽衣!あんた誰のために試合しとるの?佐野監督にビンタされない為?私に怒られない為?よく考えて試合にでなさい」


今の芽衣の本音は1.佐野監督にビンタされない為2.大会で良い成績とって皆に褒められたい だった。


でも芽衣は王コーチに「強くなりたいからです!」と言った。王コーチも頷き

「次の試合集中しなよ!次誰かに負けたら予選敗退よ?」と言って行ってしまった。



香苗の調子は絶好調だ。香苗は次々、相手を圧倒していく。芽衣も調子を取り戻しているが初戦の負けは大きい。

香苗は一位で予選リーグ突破。明日も試合になった為近くのホテルに泊まることになった。

一方芽衣は、初戦以外は勝ったがセット数の関係で3位になった。その為、試合は今日までとなった。


香苗「芽衣大丈夫だった?頬っぺた!まだ少し赤いよ?」

芽衣「笑っていいのに♪すごかったんだから!!あの時の音!!!!」

香苗「聞こえてたわー!あの音!それで気合い入ったもん!」

芽衣「それじゃぁ勝てたのは私のおかげってことね♪まぁ明日も頑張り。私は呑気に応援しとるわー」

香苗「必死に応援せんと私がビンタするで?」

2人は笑い合っていた。


次の日は小学5.6年生の部の決勝トーナメントと中学生の部のトーナメント戦が始まる予定だ。奈緒が出場する為、芽衣の父、母、芽衣も近くのホテルに泊まる予定だ。

ホテルにつくと芽衣は母に言った。

「悔しいなーーー!!!奈緒と同じところで試合に出たかったなー」

母「ほんとよーーさすがに予選リーグ通過すると思ってたわよーこっちも予定崩れましたー♪」

父「芽衣はすごく頑張ってたよーかっこよかったー」

芽衣「パパはなんにもわかってないでしょーほんとは芽衣もっとかっこいいんだから」

父「十分十分!!」

母「奈緒が明日実力出せますようにー!!!」

仲のいい家族に囲まれながら、負けても悔しくても支えられながら芽衣は育っていた。

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