大恋愛の終わり
季節は冬の訪れを感じさせた。水曜日の夜、芽衣と颯は会う約束をしていたが、芽衣は気が重かった。颯に会うことをワクワクしていた頃が懐かしく感じた。
颯はいつも通り駅で芽衣を待っていた。芽衣の運転する車の助手席にのったが中々会話は続かない。
颯「この前の全日本さえに楽勝だったの?」さえ・・・芽衣はムッとした。
芽衣「さえとなんかあったの?」
颯「え?何もないけど。」
芽衣「さえにやたらと応援も気合が入っているように見えたし」
颯「それなら芽衣も加藤秀吾に最近べったりすぎないか?」
芽衣「なんで秀吾先輩なのよ。なんにも関係ないやろ」
颯「そうかな?なんか加藤秀吾の事になるとすぐ怒らない?」
芽衣「そんな事ない。秀吾先輩は8つも上の大人なの。秀吾先輩に嫉妬してんの?妹のように可愛がってもらってるだけ。何もないから!」
颯「妹のよう?あっちはどう思ってるのか知らないよ?男はみんなそうだよw」
芽衣「は???くだらないよ。バカみたい・・・」
颯「はあ????今なんて言った??」喧嘩は始まった。芽衣は大人に囲まれた生活を送っているせいか、颯が少し子供に見えてきた。颯も芽衣の横柄な態度に嫌気が刺していた。2人は会えば喧嘩になるってわかっていた。
芽衣「もう今日は1人になりたい。最近仕事で疲れてるの」
颯「また出た仕事・・・ね。わかったよ帰る」
颯は駅まで歩いて戻り、1人で帰って行った。芽衣はさすがにまずかったかな?と追いかけたが、颯は車に乗ろうとしなかった。
冬の夜は冷たかった。颯は悔しかった。2人を何かが離してくる。そんな風に感じながら寮に戻る道中、目から涙が落ちそうになった。
部員の誰かに泣き顔でも見られたら大変だ。颯は近くの公園のベンチで休憩した。
するとそこへやってきたのはさえだった。
さえ「芽衣と喧嘩でもした?」
颯「まぁそんな感じかな。励ますなよ?俺今弱いからw」さえは何も言わずに颯の頭を撫でた。そしてそれを、車で通りかかったのは芽衣だった。さすがに喧嘩したまま・・・と思って寮の近くまで颯を探しにきた最中だった。でもそこにいたのは颯だけではなくさえもいた。
「やっぱりね。そういう事だよね。」
芽衣は妙に納得した。そして涙が止まらなくなった。それは初めての失恋を意味することになった。芽衣は2人が一緒にいる姿がどうしても受け入れられなかった。この先、2人が付き合ったとしても付き合わなかったとしても、今 2人で同じ空間にいることが許せなかった。そこにどんな理由があろうと・・・・
"颯。今までありがとう。別れたい。"
すぐに既読がついた。
早かった。先走った。わかってた。でもこの決断は揺るぎなかった。こんな時、高校の時なら必ずさえに相談してたのに・・・涙が止まらなくなる。その日は声がひどくしゃがれるまで泣き喚いた。それは颯も同じだった。
さえは颯の事好き?
それだけは確かめたかった。何度かさえのLINEの画面を開くが中々送れなかった。すると玲から着信がなった。
玲「芽衣。大丈夫?颯ひどく泣いて帰ってきたで?」玲まで颯の心配か・・・芽衣はあまり聞きたくなかった。
芽衣「別れたの」
玲「それはさえも関係しているの?」玲は知っていたのだ・・・。その時芽衣は確信した。
芽衣「なんで知ってるのに何も言ってくれないの?あんた達意味わかんない」芽衣は玲にまで当たり散らした。すぐに電話を切った。またすぐに玲から着信が入ったが芽衣が出ることはなかった。
すると玲からメッセージが届く。
玲 ごめん芽衣。何も言えなかったの。さえも悩んでいる事知ってたから。ごめん芽衣。
なによそれ・・・・
恋人だけではなく、親友達も失った。芽衣の心には大きな穴が空いていった。それを忘れさせてくれるのは忙しい仕事と卓球の練習だけだった。
そして正月の連休。芽衣は久しぶりに実家に帰った。そして31日の夜はいつものように香苗が芽衣の家にやってきた。
香苗「芽衣ー久しぶりー!!」
芽衣「香苗〜会いたかった♪」
香苗「会って早々に聞きたい事があるんだけど・・・あんた達別れたの?」
芽衣「情報はやいな〜」
香苗「有名カップルだったからね。自然と耳に入ってくるよ。でも芽衣のその感じ、吹っ切れているの?」
芽衣「どうなのかな。相手がさえだとこうなるよね〜」
「はあああああ!?!?!?!?!?」
「待ってよ。さえに取られたの?」
「香苗声大きすぎるよw取られたのかな?わからないそれは。2人に聞いてみないと。でもきっとさえは惚れてるんじゃないかな?」
「はああああああ!?!?!?」
芽衣「2回目でーす。声大きいでーす♪」
香苗「あんたさー私に卓球以外のことで相談するとかないの?」
芽衣「香苗に男の事相談しても・・・ねえ?www」
香苗「今バカにしてるよね。私も女ですけどwwwまぁ彼氏もおらず卓球一筋ですけどwww」香苗といると辛かった事が嘘みたいに面白い。自然と笑顔になれる。芽衣は香苗がいると強くなれた。そして芽衣と香苗はお菓子を広げて喋って騒いだ。久しぶりに芽衣は笑顔になれた。思いっきり食べられた。
そして0時を過ぎた頃、芽衣と香苗は近くの神社まで初詣に行く事にした。あたりは真っ暗。会話のたびに、笑うたびに、息が白くきれいにうつる。2人の会話は途切れることがない。神社までずっと白い息を吐きながら、笑いながら向かった。
そしてその芽衣のポケットにはカイロを入れていた。
颯との思い出のカイロは、香苗神主が開封の儀を行ってくれ、見事に役目を果たし終えたのだった。芽衣はそんなごっこ遊びに大笑いをして楽しく年明けを迎えたのだった。
一方颯は。
芽衣に振られて何もかもやる気を失っていた。それをみかねた森田守は颯をひたすら自主練に誘い、2人でひたすらに技術を磨いていった。
それを近くで見守るさえ。なんとなく・・守は気づいていた。
守「お前も罪な男だなw」
颯「は?俺今人生最大の失恋したんだぞ」
守「周りをよく見てみろ。わかってやれよ。同じように失恋してるやつもいるんだよw」
颯「意味がわからないわ・・・」
守「他に好きな人でも作って忘れろよ♪」
颯「そんな簡単じゃねーよ・・」
守「俺も好きな人に中々振り向いてもらえてないのよ。」
颯「は?聞いてねぇし。誰なの?」
守「阿部愛菜。」
颯「は????お前すごいとこいくなwww」
守「一回向こうから連絡先聞かれて教えたのに全然連絡こないのよwそこから気になって気になってw」
颯「お前すげーなw応援するわそれ。」
颯もまた親友で幼馴染の守の優しさに救われていた。
もしも願いが叶うのなら、芽衣は楽しかった中学生に戻りたかった。香苗とさえと玲と芽衣。あの頃の私たちにもう戻る事はきっとこの先出来ないのであろう。
そして颯を思い返すと胸が締め付けられる。颯はいつも芽衣に自信をくれた。ちゃんとしたお礼も言えないままあっけなく芽衣の大恋愛は終わっていく。それはまだまだ若い2人には当たり前の事なのにそんな現実は到底受け入れられないのであった。




