嵐の全日本選手権
芽衣の誕生日が終わり、9月に入ると全日本選手権の組合せが発表された。その日の夜練前は先輩達が皆それぞれのスマホで組合わせを見て、全日本選手権の会話で盛り上がっていた。
長野先輩「おい!秀吾!お前3回戦で芽衣の彼氏と当たるんじゃないか?」
秀吾先輩「ほんとだー。芽衣〜アイツの弱点はどこなんだwww」
芽衣「あはははwww秀吾先輩頑張ってくださいw」
そして芽衣は自分の名前をトーナメントから探すと驚いた。ベスト64まで勝ち上がるれば、さえと勝負することになる。"久しぶりだな〜さえと試合するの"さえの卓球を思い出すと懐かしい気持ちになった。
美羽は香苗とベスト64で当たる。
「最悪や。香苗ちゃんとや。芽衣友達よね?」
「うん。香苗は強いで?最近めっちゃ回転重いねん。美羽ファイト!」
なんだかみんな知り合いと当たる全日本。少し不吉な予感が見事的中するとはその時は何も思わなかった。
試合当日。芽衣は年に一度のお祭りに行くようにウキウキした気分でいた。
シードの颯は初戦が3回戦からのスタートだ。相手を見ると"加藤秀吾・・・芽衣の先輩だ。前、芽衣の頭を撫でてたやつだ"そして芽衣に視線を送ると、また芽衣は先輩達と楽しそうに笑って話していた。颯はまた少し嫉妬した。
しかし秀吾先輩は2回戦で敗退した。その為、颯と当たることなく全日本選手権を終えてしまった。
芽衣と美羽は順調に勝ち進んでいた。そして次の試合は、佐々木美羽vs多田香苗 になった。
芽衣は自分の試合が終わるとチームメイト美羽の応援にかけつけた。本音を言えば、どちらが勝っても嬉しかった。でも同じチームメイトの美羽を応援するのは仕方がない。芽衣は急いで、美羽vs香苗のやっている卓球台の近くの観客席に移動していた。すると颯とすれ違った。
颯「芽衣。ちゃんと勝ってる?」
芽衣「勝ってるよ。颯は?」
颯「勝ってるよ!芽衣の先輩と3回戦で当たる予定だったんだけど・・・その前に負けちゃった?ww」先輩を小馬鹿にしたような言い振りに芽衣は頭にきた。
芽衣「颯ってそんな事言う人だった?」颯は我に帰った。
颯「あ・・・いや・・・そんなつもりはないけど」
芽衣「私、美羽と香苗の試合見てくる!じゃぁね。」
通りすぎていく芽衣を見て、颯は頭を抱えた。"何言ってるんだ俺・・・でも芽衣のやつ。なんで加藤秀吾をかばうんだよ"颯は益々気に入らなかった。
そして美羽と香苗の試合が始まった。美羽もさすがU18日本代表に選ばれただけあって、ただ者ではない。香苗をどんどん追い詰めていた。でも香苗は技術の違いを見せつけてきた。セット数が1-1の途中。芽衣はもうすぐ自分の試合が始まる為、途中で試合の応援を辞め、アップを始めた。
そして芽衣の試合は始まろうとしていた。相手は元豊富中学高校同期の吉田さえだ。試合をする前に球の感覚を確かめる為、ラリーを行った。さえとのラリーは懐かしく、様々な思い出が次々に蘇ってきた。それはさえも同じ気持ちだった。でも今日は敵。2人は試合前の握手で一言「よろしく」とだけ言い、試合を始めた。
さえはまるで変わっていなかった。さえらしいサーブにさえらしいレシーブ。なんとなくここに来るのかな?が全て当たった。実力も芽衣のが上だ。さえは芽衣にぶつかるように一球一球全力で立ち向かってきたが、芽衣が優勢な試合展開だった。
そして芽衣はふと観客席に目がいった。懐かしい人たちが皆、芽衣とさえの試合を見ていた。それは豊富高校の星野監督や中学の野々垣監督がいた。そして「さえ頑張れーーー」一際気になったのは颯だった。
颯は名法大学のチームメイト。芽衣ではなく、さえを応援する事はしょうがない。でもなんだろう?この違和感は・・・あからさまに目立つように芽衣の邪魔をしてきている気がした・・・。芽衣は観客席のうるさい颯にムッとした。そしてそれを気にしないように颯をシャットダウンして試合を進めた。
結果3-0で芽衣はさえに勝利した。試合後、さえと芽衣は握手をかわした。
さえ「やっぱり敵わなかったか・・・」
芽衣「久しぶりにさえと卓球できて嬉しかったよ!」
さえ「うん。」さえは頷き、悔しがっていたのか早々にチームメイトの元に帰って行った。芽衣はさえにも少し違和感を感じた。そしてさえは名法大学の皆に励まされていた。その中の1人に颯はいた。芽衣は颯と目があったが芽衣はすぐに目を逸らした。颯も逸らした。さえはそれを見て颯を心配していた。
颯「どんまい」
さえ「芽衣と何かあったの?誕生日プレゼント渡せてないの?」
颯「あ・・・渡せたよ?ありがとね」颯はさえに嘘をついた。
さえ「芽衣喜んでくれた?」
颯「まぁまぁかな・・・」颯は遠くを見つめて切ない気持ちになった。
さえは"颯があんなに一生懸命選んだプレゼントだったのに・・・"と颯を不憫に感じた。
そして芽衣は次の試合で敗戦し、結果ベスト16で全日本を終えた。美羽も香苗にフルセットまで持ち込んだが結局64で全日本を終える結果になった。
優勝は去年に引き続きまたしても阿部愛菜だった。香苗はベスト8だった。香苗はいつでも強い阿部愛菜が憧れでもあるが最大のライバルのように見ていた。
そして芽衣が帰りの身支度をしているとさえがやってきた。
さえ「芽衣。今日はありがと」
芽衣「こちらこそだよ!!」なんだか2人のテンションには温度差があった。
芽衣「さえどうかした?」
さえ「芽衣。颯可哀想だよ。芽衣の事あんなに思ってるのに・・・」芽衣はびっくりした。
芽衣「え?何が?なんで?」
さえ「颯ずっと落ち込んでるよ?芽衣が冷たいって。」
芽衣「え?そんな事ないけど。っていうかそれをさえがなんで私にわざわざ言いに来るの?」
さえ「だって颯。辛そうなんだもん。芽衣の誕生日プレゼントだってあんなに一生懸命選んでたのに・・・」さえは余計な事を言ったのを自覚した。
芽衣「え?私も嬉しかったけど?何?さえ。どうしたの?」芽衣は戸惑った。そしてさえは走ってその場を去って行った。それを遠くで見守っていたのは玲だった。
そして玲は寮に戻るとさえの部屋をノックした。
玲「さえ?あんたどうしたの?」
さえ「芽衣のこと?見てたの?」
玲「私も会話に入りたいな〜なんて行こうとしたら・・・ねえ?あんな会話になってたから行けなくて・・・。あんた颯に惚れてんの?」
さえ「わかんない・・・でも颯に冷たくする芽衣が嫌だったの・・・芽衣も大事な友達だし失いたくないのに・・・」さえは泣いた。玲はため息をついた。
玲「・・・惚れてんじゃん。」
秋の風は強かった。友達も恋人もみんな巻き込む嵐になって芽衣にふりかかってきていた。




