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怪我

芽衣は6年、すなわち高校3年生に進級した。


中学から寮に入っている同期の仲間は、友達でもありライバルでもあり家族でもあった。そんなみんなと過ごすのもあと一年。そして進路がまだ決まっていないのは芽衣だけだった。少し芽衣にも焦りが出始めていた。


ある朝のランニング中、芽衣は少し腰に違和感を感じた。足の速い芽衣はいつも部員の中でもランニングでは先頭をいく。それに続くのは玲の妹、桜だった。


桜「芽衣先輩。いつもと走り方違いません?」

芽衣「ちょっと腰に違和感があるんだ。でも痛いわけじゃないから大丈夫」

桜は心配になり、姉の玲に相談していた。


玲はすぐに監督と部長のさえにも報告した。もしエースが怪我でもしたら次のインターハイは一大事だ。すると星野監督がすぐに芽衣を呼び出した。

星野監督「腰の調子はどうだ?」

芽衣「大丈夫です。痛くないので。」

星野監督「ランニングは今日はやめなさい。ストレッチを重点的に。午後の練習には接骨院の先生を呼んでおくので念のため見てもらうように」

芽衣「はい。」


"私そんなに走り方いつもと違ったかな・・・まぁいいか。接骨院の先生のマッサージは最高だし"楽観的な芽衣はまだまだ事の重大さに気づいていなかった。


そしてインターハイ前の部内リーグが行われた。事件はその時だった。


「イタッ!!!!!!」

玲との試合中、芽衣がラケットを落とし、そのまま膝をついた。

対戦相手の玲も思わず「大丈夫?どうした芽衣!」と駆け寄る。部内の皆が芽衣を見た。そして慌てて星野監督が芽衣に駆け寄った。


「今、アキレス腱に電気が走るような痛みが・・・」

エースの怪我に皆が慌てていた。

星野監督「芽衣大丈夫か!!!立てるか?今から病院に行ってみよう・・・」


部内リーグは一時中断され、芽衣は病院へ。他の部員は中学の監督、野々垣監督の元、普段通りの練習に切り替わった。

右足のかかとをつけず、片足でジャンプしながら星野監督の車に乗せてもらい、一緒に病院までいった。


医者「以前から痛みはありましたか?」

芽衣「いいえ。でも走ると少しだけ腰に違和感があった事はありますね。」

医者「アキレス腱をかばって走っていたのでしょう。アキレス腱が切れなくてよかったですね。しばらく休んで冷やすしか方法はないですね」

芽衣「はい。」

星野監督は顔面蒼白だった。"エースの怪我・・インターハイがやばい・・・そしてまだ芽衣は進路も決まっていない"



医者にテーピングをしてもらって星野監督の車に乗り、寮に帰ろうとした。星野監督は運転しながらチラチラと鏡越しに芽衣を見た。

「足大丈夫か?インターハイだからって無理はするなよ。芽衣の選手生命がかかっているんだ。芽衣はこれからどうするつもりなんだ?」

「わかりません。でもインターハイは無理してでも出してください!」

「そんな事はさせられないよ。芽衣は卒業してからも色々な全国大会に出て行く選手なんだから」

「わかりません!」

星野監督は心配した。姉の奈緒のように卓球を引退するとでも言うのかと・・・。


芽衣は危機感に襲われていた。

"痛い・・・・かかとをつくのが怖い。でもかかとをつけずに卓球をするなんて不可能だ・・・もうすぐインターハイなのに・・・このままだと私・・・神様お願い。私から卓球を取ったら、私は何も残らない・・・・"

芽衣は考えれば考えるほどパニックになっていた。


そしてその日は練習を見学し、寮に戻った。さえも玲も焦りは同じだった。

玲「芽衣大丈夫?足痛いの?」

芽衣「うん・・・どうしよう・・・すぐ治るよね?怖いよ・・・」芽衣は寮で泣き出した。いつも明るく楽観的な芽衣が泣き出した事でさえも玲もパニックになった。そして皆で泣きながら祈った。祈るしか方法が見つからなかった。



その夜芽衣は姉の奈緒に電話をかけた。

「もしもし奈緒・・・怪我しちゃったよ」

「え!?!?!?!?大丈夫なの??どこを?どうして???」

芽衣は医者から言われた事を奈緒に説明した。そして泣いている芽衣の声を聞いて、奈緒は心配し、芽衣を落ち着かせようとしてくれた。

「こういう時は何もできないんだから・・・芽衣の苦手な戦略の勉強するしかないねん!」奈緒の喝に芽衣も頷いた。

「奈緒・・・奈緒はどうして怪我もしてないのに卓球辞めたの?やりきったの?」

「これはお母さんには内緒ね。いつもお父さんお母さんは忙しく働いてくれてたじゃない?私と芽衣の仕送りや授業料とか、神明クラブだって高いと思うし・・・それでもお母さんは私達の卓球に力が入っていた。お母さん夜までバイトをするようになって、そんなお母さん見てたら、手に職があるって大事だな・・・って感じたの。私の実力じゃどうせプロまでいけないし♪まぁ大学の費用は高いし、結局迷惑かけてるんだけどね。」

芽衣は納得した。奈緒は芽衣のわからない"将来"が見えていると感じた。


「私どうしたらいいのかわからないの。たくさんの大学や企業から誘いがきてても何も選べない。今まで自分で選んだ事がないから・・・環境を重視した方がいいの?実力を重視?就職率を重視?会社の給料重視?何も決断できないの」

「もう少しゆっくり考えればいいよ。どんな道も間違いなんてないと思うから。芽衣の進みたい道を私は応援するよ」

「もう少し考えてみるよ。ありがとう」



芽衣は初めて眠れない夜を経験した。

"私の最後のインターハイ・・・"ベットで天井を見つめながらしばらくぼーっと漠然とした不安と闘っていた。そして颯にLINEを送った。


芽衣 アキレス腱の炎症を起こしてしばらく練習できないかも。でも必ずインターハイは出るから。


颯はこんな時間に芽衣から連絡が入るなんて一大事と慌てた。消灯時間は過ぎていたが、隠れてトイレに行き、電話をかけた。

芽衣もこんな時間の電話に慌てた。そして痛めた右足のかかとはつけないようにしながらトイレに向かった。さえはそんな芽衣の様子を気づいていたが、普段では絶対にしない芽衣の行動を止めなかった。


「もしもし?」2人は寮母さんにバレないように小声で話した。

颯「怪我大丈夫?酷いの?」

芽衣「酷いわけじゃないと思う。でも不安すぎて・・・」

颯「辛いよね。こんな時期だし。大丈夫って安心させたいのにそばに行けなくてごめん」

芽衣「なんで颯が謝るん。みんなに心配と迷惑をかけているのは私なのに」

颯「みんなが芽衣に期待して勝手に心配してるだけだから。俺も含めてね。だから周りのことは気にするな」

こういう時の颯はかっこいい。芽衣は頷き、勇気をもらった。


芽衣「みんなには絶対言わないけどさ。弱気な事言ってもいい?もし私がインターハイ予選で負けても笑わないで?」

颯「ごめん。今笑ったわww何だその幼稚な発言わwみんながみんな出れる舞台じゃない事をわかって言ってるよね?」

芽衣「ん?・・・なんか嫌味っぽかった?確かに。インターハイに出ることが当たり前だと思っていたよ」

颯「お互いできる事は精一杯がんばろ。どんな結果でもいつでも俺は芽衣をリスペクトしてる」

芽衣「ありがと・・・」


そう言って電話を切った。芽衣も気づかないうちに颯をリスペクト?尊敬? どんな感情かわからないが、一目置いていた。そして心の支えになっていた。


電話を終えるとまた片足を引きずりながらベットに戻った。まだまだ眠れそうにない。芽衣の早寝は部員達には有名だ。眠れない自分に芽衣自身も驚いていた。そして思い返していた。


神明クラブの頃・・・

香苗と2人毎日競争しながら練習していたな。奈緒と一緒に行ってた頃の車の中が好きだったな〜。いつしか電車で行くようになったな。そうか。中国人コーチ、王コーチのレッスン代は高額だったのだろう。お母さん無理してバイト増やしちゃって・・・何も言わないし、あの頃は何も感じてなかったな。

香苗の家は金持ちだから、でもそれと同じように同じ環境でいつも卓球をやらせてくれていた親にはもっと感謝しなきゃいけないな。


普段考えない事を考える時間になった。そしていつのまにか朝の起床音楽がなっていた。芽衣は考え事をしながら眠りについていたのだった。


いつもより眠い。体が重い。そして足をつくのが怖い。芽衣はどんよりベットから起き上がった。すると玲が朝から心配してくれた。

「芽衣。歩ける?肩貸すよ」

「ありがと。ちょっとかかとついてみる。うん大丈夫そう。歩けそうだよ」しかし体重を重くかけるとまた電気のような痛みが襲った。


今日も練習は休みかな。

こんな経験は初めてだった。今日の天気は雨。芽衣の心の中も雨がシトシト降り続いていた。



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