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ラリー 〜思いを球にのせて〜  作者: Macou
神明クラブ編
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奈緒の進路

あの試合から芽衣と香苗の卓球人生は始まった。

平日は毎日学校後練習へ。土日は様々な大会へ。小学生低学年の部では勝ち上がれる程実力も伸びている。でも芽衣と香苗の目指す場所はもっと上だった。周りから求められているレベルもどんどん上がる。


香苗は感情が表に出やすい。負けそうになるとまだ勝負がつく前から泣けてしまう。感情がプレーにも出てしまう為、良い時と悪い時の差が大きい。

芽衣は香苗の真似ばかりしていた。1人だと心細いが香苗が隣にいると芽衣は強くなる。


芽衣も香苗も練習時間はどんどん長くなり、厳しい練習になっていった。監督が支持するフットワークは鬼のように厳しかった。練習態度が悪いと監督からビンタされることもあった。2人は毎日競い合いながらも励まし合いながらの練習だった。


試合会場にいくと小さく可愛い卓球少女達に黄色い声援が届く。でも2人にはそんな声援は無視だ。浮かれた表情を監督には見られてはならない。ただただ怒られたくない芽衣と、負けても泣かないように必死な香苗。

2人はどんどん強くなっていった。


小学生3年生になると卓球少女2人は少し有名になってきた。姉の奈緒は6年生。奈緒も少しずつ強くなってきているが小さな妹がどうしても目立つ。奈緒は本当に真面目だ。芽衣が監督が見ていない所で手を抜いて練習しているところを見つけると、きつく芽衣に注意する。今は芽衣より奈緒のが強い。でもそれも時間の問題だと奈緒は薄々感じていた。



そしてある練習の帰り際、佐野監督が芽衣の母を呼び止めた。「藤田さん藤田さん!!!ちょっと話があってねーーー。奈緒のことなんだけど・・・。」

芽衣は香苗と追いかけっこをして遊び、奈緒は近くの友達と喋って話が終わるのを待っていた。



佐野監督は奈緒の進路について話をしていた。ある私立中学から奈緒にスポーツ入学の誘いが来ていたのだ。芽衣の親は佐野監督の話を真剣に聞いていた。30分ほど佐野監督と芽衣の母は話し込んでいた。


そしてその日の帰り道の車の中で母は奈緒に話しかけた。

母「奈緒〜卓球好き?」

奈緒「好きだよ!もっと強くなりたいもん!」

母「来年は中学生じゃない?何か考えてる?」

奈緒「もちろん卓球部に入るよ。でも部活には出れないよね?だって私神明クラブあるもんねぇ」

奈緒はそのまま地域の公立中学に通うものだと思っていたのだ。

母「奈緒この前の大会結構上まで行けたじゃない?そしたら豊富中学の先生がそれ見ててさ?奈緒豊富中学に来ないか?て誘われたよ」

奈緒「えーーーーー!!!!!豊富中学てさーママ豊富高校出身だっけ??そこの中学てこと??」

奈緒は大喜びしていた。自分が誇らしかった。

母「そうそう!私は高校から入ったんだけどね。奈緒は中学からどうだって話がきたのよ。でもさぁ今の小学校の友達と離れ離れになっちゃうよ?明日から少し考えてみてー」

奈緒は友達の事を言われてはっとした。でも嬉しい気持ちが心の大半を占めていた。芽衣はいつも通り、車の中ではすぐに寝てしまっていたので全く話を聞いていなかった。


その日から奈緒は私立中学へ進学したい気持ちが膨らんでいった。卓球の練習にも益々身が入る。そしてそれから毎日、豊富中学について母に聞いていた。今日も神明クラブに行く道中の車内での会話は進学についてだ。

奈緒「豊富中学てどこにあるの?」

母「ここから電車で1時間くらいかな?もし豊富中学に入ったら寮生活になるんだよ?ママはそれがなにより心配だよ」

奈緒「そっか。じゃぁ神明クラブにも行かなくなるの?」

母「そうだよ。今度中学の練習体験に行ってみる?」

奈緒「行く行く!!!!楽しい寮生活だったらいいなー」

芽衣「お姉ちゃん寮行っちゃうの?家帰ってこなくなくなるってこと?」

奈緒は鼻を高くして言った。

奈緒「そうだよー推薦入学の誘いが来ちゃったからね♪」

母「中学の練習は芽衣もいくんだからね。」

芽衣はやっぱり・・・とため息ついた。奈緒は不満そうだった。

奈緒「なんで芽衣も行くの?芽衣はまだ次4年生じゃないの!中学生はまだまだだよ?芽衣にはまだ早いよ!」

母「そういう決まりなのよ。奈緒が入学するなら芽衣も入学することになる。だから芽衣もどんな場所か知っておかないといけないのよ。これからどんどん芽衣は中学の練習に参加していくことになるだろうし」

奈緒「私が入学しなかったら芽衣もしないってわけ?」

母「さぁ〜。芽衣や香苗を欲しがる中学は多いだろうからね」


奈緒は理解した。豊富中学は私が欲しい訳じゃないんだ。芽衣が欲しいのだ・・・。

奈緒「私がおまけってわけね」

奈緒は不貞腐れた。その日の奈緒の練習はまるで身が入っていなかった。抜け殻のような練習態度に監督が鬼のような形相で近づいてきた。

「奈緒!やる気がないなら帰れ!くるな!」

奈緒は悔しくて悔しくて涙が溢れてきた。我慢してた涙がたくさん流れてきた。

監督が怒ってくれたおかげで素直に泣くことができて少しほっとした。



そして体育館の外に出て、風に触れた。外は肌寒かった。秋の虫の声だけが聞こえて心地よく泣けた。

「芽衣が欲しいのもわかるよ。でも私・・・何勘違いしてたんだろ・・・」

そう独り言を呟くと心配そうに母がやってきた。

母「大丈夫??奈緒は自分の進路だけ考えればいいのよ?」

奈緒「だって私が強くなったから豊富中学から推薦が来たと思ったんだもん」

母「そうよ。その通りじゃない?何が不満だったの?」

奈緒「違うよ。豊富中学が欲しいのは私じゃない。芽衣よ。」

母「言ってるでしょ?芽衣や香苗はこれからどんどん誘いがくるわ?でも豊富中学の推薦が来たのは奈緒。もちろん芽衣も来て欲しいに決まってると思うよ。でもこれからの生活態度、試合態度どんな試合でも査定が始まってるの。そんな風に奈緒の試合も見られてたってこと。そして豊富中学は奈緒が欲しかったのよ。もっと自信持ちなさい?」

奈緒「私が入学したら芽衣も豊富中学でしょ?」

母「そうね。これからの芽衣の試合で相手側の気が変わらなかったらね。あと芽衣の意思がそれでよければ。でもそれは芽衣の話。今は奈緒の進路の話よ?」

奈緒「だって芽衣と私、セットでの推薦話でしょ?」

母「豊富中学はそれが1番の望みでしょうね。私も今のところはそれが嬉しいわ。でも言ってるでしょ?芽衣は芽衣。まだ入学を意識させるのははやいのよ。だから今は奈緒だけのことを考えればいいの」


奈緒は頷き、また真剣に進路について考え始めた。


奈緒「今度豊富中学の体験練習に行ってみる。」

母「寮にも泊まっておいで。それから返事しても遅くはないわ。」

母の表情はどこか寂しさがあった。奈緒は公立中学に入学すると思っていたからだ。この話が来た時、母は複雑だった。入寮する寂しさがあったからだ。でも奈緒が喜んでいる姿を見て、背中を押す決心がついたのだ。


奈緒は豊富中学に練習させてもらいに行った。芽衣と香苗も一緒に行くことになった。

そのまま奈緒だけ寮に泊めてもらい、芽衣と香苗は帰宅した。そして奈緒は豊富中学へ入学を決めた。

神明クラブの佐野監督は喜んだ。

「奈緒頑張れよ。いつでも神明クラブに遊びにこいよ」


奈緒は豊富中学の一年生になった。そして芽衣も香苗も4年生になった。

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