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悪魔、友達かどうか再度確認しにいく

 次の朝、仕事がはじまるとデルフィナはすぐにクリスタ侍従長に呼び出された。


「デルフィナ、夜食をかってにハーラルト様にお出ししてはいけないと思わなかったの?」


「ええ、いいことだと思いましたが」


「夜食をお出しすること自体は悪いことではありません、私が言いたいのは自己判断で、しかも料理人の賄いを誰にも了解なしに持って行ったことが問題なのです。これはあなたが知らなくていいことですが、この国の王族の方々には複雑な事情があります。それぞれお出しする物には念のため毒物検査をしているのです。そう考えればあなたがしたことが問題になるとわかるでしょ? それにあなたは賊が侵入したことに関係があるなんて嫌疑までかけられたのですよ」


「ええ、まあそうですね」


「ええ、まあではありません、あなたの勝手な行動によって、一生懸命行っている他の者達までそのような目で見られ信用を落としているのです、わかりますか?」


「はい……」


「いいですか、あなたは規則に則って数日謹慎処分といたします。このことはハーラルト様にもすでに報告しております」


「わかりました、クリスタ長。ただコリンナのことだけは教えてください、友達なので」


「……本来なら、他部署のメイドのことをあなたが知る必要はないのですが、友達だと言うことであなたも気になるのでしょう、彼女は焼いてないパンを王妃様に出したことと、それと今回の取り調べもあって所属長から退職を言い渡されましたよ」


「重くない?」


「あなたが判断することではありません、さ、話はここまでです。大人しく謹慎して自分がしたことを反省なさい」


「わかりました」


 侍従長室を出るとデルフィナは早速部屋での謹慎を無視して真っ直ぐにコリンナの所へ向かった。


(えっと、東の別棟だったよね……この景色は一階かな?)


 一方、その頃、コリンナはまだ騎士団から事情聴取を受けていた。その顔は真っ青になり、唇はプルプルと震えている。


「どうしたんだい? なにをそんなに怯えているんだい?」


「わ、わたしは何も……」


 サヴァリオは彼女の表情に首を傾げた。


(なにをそんなに怯えているんだ? やはりなにか隠しているのか?)


 サヴァリオの対面に座っているコリンナは、唇がプルプルと震えて声にならなかった。彼女は身の安全のために自分が賊の一味であることを黙っていなければいけなかったが、それよりもなによりも仲間を一瞬で殺したデルフィナのことを少しでも喋ってしまえば、自分の命はこの瞬間無くなるのだとわかったことの方が恐ろしかったのだ。なぜならそれがコリンナを見ていたからだ。

 サヴァリオの背後の格子窓にぬるぬるとそれが絡みついていた。その暗く深い紅色の目に感情はない、ただただそれはコリンナを凝視していた。


「……もういいよ、聴取は終わりにしよう。コリンナ、仕事のことは残念だったね?」


「……」


「フィーヌ、連れて行ってあげなさい」


「はい」


 フィーヌに連れられて廊下に出たコリンナはその人が扉の外にいたことに悲鳴を上げた。


「ひ――っ!」


「コリンナ、終わった?」


「あなたはたしか団長と話していた……デルフィナよね、こんな所で何してるの? あなたは謹慎と聞いたけど?」


「これから休むところよ、その前に友達に会いに来たの、いい?」


「友達ね……まあいいわ、コリンナはここを出るんですし。それではわたしはこれで」


「あ……二人にしないで……」


 小さすぎるコリンナの声はフィーヌには聞こえず、スタスタと騎士らしく早足で行ってしまった。

 フィーヌが行くと、デルフィナはガシっとコリンナの両肩を掴んで満面の笑みを浮かべる。


「もう、心配したのよ、コリンナ。まさかパンのことでクビになるなんてね、ほんとひどいわ。それでこれからどうするの? 行く当てある? あなたの仲間を殺してしまったことは恨んでないよね? それがちょっと気になってね。でもこれからは私という友達がいるんですもの寂しくないでしょ?」


「……はい」


「コリンナ、何をそんなに怯えているの? わたしは友達には怒らないわよ、基本的にはですけど、ちょっと落ち着いて、ほら、深呼吸して、さあ」


「はい……スーハ―……ハ……ゴホッ……だ、大丈夫です。す、少し落ち着いてきました……あの……」


「なに?」


「私を殺さないのですか?」


「どうして友達を殺すのよ」


「ご、ご存じのとおり私たちはダフネ王妃を暗殺しに来て……」


「あーそのこと? わたし細かいことは気にしないのよ。安心して、心臓頂いたことも悪い奴らだからいいかなって思っただけなの、あ! あなたの仲間だったわね」


「ひーっ! 心臓を王妃に献上したのですか?」


「いえいえ、何を言ってるの、何故私がそんなことを? まあいいわ、それよりここを出るんでしょ? これからどうするの?」


「ま、町に戻ります」


「そうなの、それだったらわたしもちょうどメイド長からお休みを貰ったところなのよ。暇だからあなたについていくわ」


「い、いえ! 結構です。王妃の暗殺に失敗したとなれば、しばらく身を隠さないといけませんから」


「ふーん、報復を受けるということね、そういえば……誰だったか、王妃を恨んでるとかなんだとか言ってた人がいたのような、誰だったかな?」


「わたしが暗殺に協力するのは昔ここで働いていた母の仇だからです、あの女は血が通ってない悪魔だから……」


「まあ! でもわたしとは格がちがいますよね、ふふ」


「あなたは一体……わたしはダフネが遣わした護衛かと思っていましたがちがうのですか?」


「だから関係ないっていってるでしょ、あなたの仲間殺しちゃって悪かったわよ、謝るから。ねえ、それよりわたしがここに来たのは本当にあなたが友達かどうか確認しにきたのよ」


「私はてっきり殺しに来たのかと……」


「だからしないって、昨日の夜にあなたの命は助けるといったでしょう? 大丈夫だからそんなに怯えないで。でも安心したわ、ここにきてあなたの顔を見たらやはり友達になれそうだとわかったの。友達というのは私のために働いてくれることを言うんでしょ? こっちでは」


「……」


 コリンナはやはりこの人は危険だと、人知れず悪寒が走ったのだった。


 その後、コリンナと城の門で待ち合わせることを約束をしたデルフィナは、着替えるため、一旦、部屋に戻ると扉の所にクリスタが置いたのか、分厚い本とメモが置かれていた。


「なに? これ? ん? メモ? なになに」


―――デルフィナ、謹慎と言い渡されたのにさっそく部屋にいないとはどうゆうことですか? どうやらあなたには管理が必要なようですね。毎日部屋にいるかどうか確認しにいきますからそのつもりで。もうこれ以上信用を落とすような行動はしてはなりませんよ。それと謹慎中にあなたが読むべき本を借りてきました、これを全て覚えること。毎日、きちんと読んだか感想を聞きます。それと最終日には簡単ですが試験もします。毎日百ページずつ進めばすべて読み終わるでしょう。わかりましたね

                            クリスタ


 ちなみに置かれていた本は「体で覚える千の礼儀作法」であった。


「うわー……あの人なんか苦手だわ、しかもなぜか逆らえないし……しょうがないダミーに黒ちゃんを置いていこう」


 部屋の電灯に絡まっていた黒い蛇は久々に人間の心臓を給餌されて、満足そうに目を細くしていた。


「ふふ、黒ちゃん、おいしかった? 滅多にないから贅沢したらダメよー、あ、でも町でごはん手に入るかな?」


 そう言って手に持っていた分厚い本をポイッとベッドに放り投げたのだった。


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