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悪魔、怒る

 翌朝、デルフィナは朝早くクリスタから呼び出されていた。


「デルフィナ、ハーラルト様から正式に侍女の仕事の任を解くと申し出がありました。あなたのこれからの待遇は決まっていませんが、どうするかはハーラルト様の指示に従っていくことになるでしょう。短い間でしたがご苦労様でした」


「そうね、さすがに身元がバレてしまったようだからメイドは続けられないわね、あなたはどういうつもりか知らないけど、よく侍従の仕事を続けられるわ」


「ふふ、どうなのでしょうね、あなたも私と共に働きたいというならハーラルト様も要望にお応えするでしょう、せっかく最近は動きもよくなり、慣れてきたところなのに私はもったいなく思ってますよ」


「冗談ではありませんよ、ただまあ、良い経験にはなったわ、セリカやドリスたちも最初こそは嫌いでしたけど、共に仕事をしていくうちに彼女たちを可愛く感じてしまいましたからね」


「わたくしは投げ出さずに仕事をするあなたを愛らしく感じましたよ」


 そう言って、クリスタはデルフィナにハグしてきた。


「ちょっと! やめて頂戴、あなたの魔力が流れてきて不快になるのよ」


 クリスタはその言葉にもニッコリと笑った。


「あー、その笑顔も眩しくて不快だわ」


「ふふ、あなたはわたしのことを詮索しませんでしたね、ならわたしもあなたのことを追求いたしません……ですがオーア国にいる妹はもしかしたら何か言ってくるかもしれません。その時は私の顔を立ててお手柔らかにお願いしますよ」


「あーそうだとは思ったけど、あなたの召喚主はやはりオーア国なのね、ま、わたしヴェロニカとちがって度量が大きいから安心なさい」


 その言葉にクリスタは目を細めた。


 それからデルフィナはクリスタと別れた後、ハーラルトから朝の会議に参加して欲しいと言われていたことを思い出す。


「まだその時間には早いわね、どうせヴェロニカも寝坊するでしょうし、すっかり忘れていたモーリにダフネを捕らえたことでも伝えときましょうかね」


 そう独り言ちると、デルフィナは地下倉庫へと足を向けた。

 しかしそんなデルフィナを後ろから窺う者がいた、そこにいたのは怒りに目が血走っているマルセルだ。彼はデルフィナが人気がない地下へと降りていくのを見て口角を上げていた。


「よし、今が好機だ。見ておれよ、ニセ悪魔め」


 地下へと降りたデルフィナは倉庫へと繋がる木扉を開けて変わらず薄暗い廊下へと出る。


「相変わらず暗いところね、モーリはまだメイドを脅かしているのかしら。モーリ! 来たわよ、生きてる?」


 すでに死んでいるモーリに言った言葉に彼女は自分にクスクスと笑ってしまった。


 その声に反応するように、か細い声がドアの向こうから聞こえてきた。

扉が勝手に開くと中からモーリが姿を現した。


「あんた! ずいぶん久しぶりじゃない、忘れてたでしょ!」


「ああ、まだ生きてたか、クスクス」


「何よ! 揶揄いに来たの!」


「いい知らせを持ってきたのよ、モーリ。喜びなさい、あの女は捕らえたわ」


「捕らえた? 殺したんじゃないの?」


「ええ、殺してもよかったんだけど、状況的にそれはまだまずいと思ってね、捕らえることにしたのよ、彼女はザームに帰すわ」


「そんな! あいつが行ってきた罪は死刑でも足りないのにザームに帰すって、あなたそれでも悪―――!」


 そうモーリが言ったところで、突然後ろからヒューっと剣が振り降ろされた。その剣風でモーリはサァーと煙のように真っ二つに分かれて消えていく。


 モーリの対面にいたデルフィナはすでに背後からの攻撃を見切っていた。彼女が避けたことで剣がモーリに届いたのだ。


「くそ! 躱したか!」


「誰あなた?」


「ダフネ様はフリートをザームの一部にすべく苦心されていた。それを今さらなかったことにはさせない! こんな一人で世迷言をいうおかしな奴に計画を邪魔されてたまるか!」


「あーもしかしてあんたダフネの想い人? ダフネはザームに帰しますよ、それの何が不服なの? それとも殺した方がよかったか?」


「この国はダフネ様と俺のものになるはずだったのだ、今更納得できるはずがないだろう!」


「それで私を殺せばいいと? 大丈夫あなた? ダフネは生きているんだから一緒に帰ればいいじゃない? この国になにを固執してるの。小国と言ってバカにしてたんじゃなかった?」


「だまれ! メイド風情が! あの王子が召喚しただと? んなわけあるか! こっちは一万人が消えたんだぞ! おまえはヴェロニカ様とは違う、下等なものにちがいない!」


「あ? お前いまなんて言った?」


「お前が悪魔であるはずがないと―――あが? ぐぐぐ!」


 デルフィナはマルセルの首を絞めつけるとそのまま壁に打ち当てた。それによってモーリの部屋の壁が破壊され、マルセルは部屋の中へ吹っ飛んでいく。部屋の中はモーリの遺品の椅子やら宝石やらが飛び散ってしまっている。


「あー、わ、わたしの遺品が……」


 どこからかそんな声が聞こえたが、強く打ちつけられたマルセルには聞こえていなかった。


「ぐ……何だこの力は」


 赤い目をしたデルフィナが砕けた壁から入って来てマルセルを睨みつけた。


「ぐは……嘘だ、下等な悪魔にこんな力があるはずがない……」


 それでもなんとか立ち上がったマルセルは近づいてくるデルフィナに剣を構えて突進していこうとするが……


「な! う、動けない!」


 マルセルは突きの体勢のまま固まっている。薄暗くてわからなかったが無数の黒蛇がマルセルの体に絡みついて動きを阻害していた。


「うわわ! なんだこれは!」


 巻き付いた黒蛇たちはその締め付けを強めてマルセルの生気を奪っていく。それによってマルセルは忽ち干からびていった……


「ぐぐへへ……」


「モーリ、ダフネの処遇はハーラルトとパストルに任せているわ、だからもうあなたがここにいる必要はないのよ、部屋も壊れたことだし、そろそろ出て行っていいんじゃない?」


「……そうね……悪魔デルフィナ、あなたの力を間近で見れて良かったわ、わたしもこんな成りだからどうも狭量になってしまったようね、素直にお礼を言えないなんて……レオポルドに顔向けできないわ」


「別にいいよ、ダフネには個人的な恨みもあったことだしね」


「その男はどうするの、なんか干からびてるけど」


「ええ、こんなんでもザームの要人らしいから、このまま会議に出席させるわ」


「さすが悪魔、クスクス」


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