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悪魔二人、お茶会をする

 ヴェロニカとは違う悪魔の登場に驚いたのはザームだけではない、フリートの面々もハーラルト以外事情を知らないことから共に驚愕していた。

 バルブロはしばらくポカーンと口を開けていたが、徐々に状況が飲み込めてくるとギュッと口を閉じて眉間に皺を寄せる。ヴェロニカが動かない以上、どうすることもできずただただ事の成り行きを見守るしかなかったからだ。


 その後、晩餐はヴェロニカの取り止めの言葉により即座に散会となった。しかし、皆が静々と退室していく中で一人だけそれに納得できず怒り狂っている者がいた。


(く……嘘だ! これは! こんな小国が!)


 それから翌日になってもマルセルの怒りは収まるどころかさらに増していた。彼の想い人、ダフネを救出する目途が立っていないことが彼の心を乱していたのだ。バルブロからも今情報を収集しているので、かってに動くなと命令されている。けれど彼は今もダフネが地下牢に閉じ込められていることを思うとじっとしていることが出来なかった。


(これは何かの間違いだ! こんな小国がヴェロニカ様と同等のものを召喚できるはずがない! それも……なんだあれは! メイドだったぞ、悪魔がメイド? そんなわけないだろう! メイドがヴェロニカ様より上なわけがない!)


 そう心の中で叫ぶとマルセルは剣の柄を握って力を入れた。


「おい」


「はい」


「部下にここに集まるよう伝達してくれ」


「はい、今ですか?」


「今すぐだ!」


 その後すぐに腹心の部下が集まると言う。


「いいか、俺たちはあのおかしなメイドを殺さなければならない」


「え! マルセル様、それは陛下もご存じのことで……」


「これは私の独断である。別にいいのだぞ、おまえたちが来なくても。私一人であいつを殺しダフネ様を救出してみせる」


「でもマルセル様、あのメイドの素性がわかるまでは待っていた方が……」


「この腑抜けが! そんな時間あるか! ダフネ様は今も冷たい地下牢に収監されているんだぞ! その事実がある以上、この国は滅ぼさなければいかんのだ!」


「「……」」


「あの晩餐の様子だと陛下は動くことに反対すると思われる、あのくそメイドがダフネ様の解放を拒否したらおそらく従ってしまわれるだろう、わたしはなんのためにここへ来たのだ、彼女を救出するためにきたのだぞ!」


「ま、まってくださいマルセル様、ダフネ様の処遇に関しても陛下は交渉されるのではないかと思われます、いま陛下に内緒で行動するのはやはりまずいです」


「もういい! お前たちには頼まん! 私一人でやる!」


「……」


 一方、無事に”死の晩餐”を乗り越えたフリート首脳陣たちは、喜ぶどころか微妙な空気に支配されていた。


 寝台の上で起きているパストルに向かってハーラルトはひたすら一人頭を下げている。


「……」


「……」


「……ダフネを倒せたわけがこれで納得したよ。で? おまえは召喚されたデルフィナ嬢が悪魔だったから黙っていたと?」


「……はい、申し訳ありません」


「ハーラルト、悪魔といえども私らからしたら神のごとき存在、それをおまえは今まで下働きをさせて……」


「今考えれば浅はかで彼女を侮辱していたことに謝罪してもしきれません」


「ハーラルト様、彼女はザーム国が召喚した悪魔ヴェロニカとは何か違う様に思われます、陛下にも先ほどお話ししましたが、カニスが……元気に……う、うう」


「ルフィノ……そのことは後で私からも彼女にお礼を言っておこう」


「彼女の存在は確かに対極の魔力だがこの国に不幸をもたらさなかった。彼女がいなければ、このフリートもフベルやアルトの二の舞を演じていただろう、デルフィナ嬢こそがこの国を守った立役者であった」


「はい」


 この場にいるのは宰相のルフィノだけではない、サヴァリオやレオポルド、多くの上級仕官が立ち会っている。彼らもダフネの実害に悩まされてきた者達だ。デルフィナを悪魔だからといって批判するものはここには誰一人としていなかった。


「まずは彼女の現在の待遇を改善するところからだ、失礼があったこと私からもお詫びしなければいけない、オーア国への報告はどうするかはもう少し協議してからにしよう、彼らは結局いつこの国に来るのか、具体的な連絡はないのだからな。う、ゴホゴホ!」


「陛下、明日はバルブロ王との話し合いが朝からあります、今日はこの辺で……」


「ああ、わかった、ハーラルト、明日の話し合いも頼んだぞ」


「はい……申し訳ありませんでした」


 その頃、渦中の人、デルフィナはステラの部屋で体を休めていた。クリスタからメイドの仕事を免除されたにもかかわらず、習慣になってしまったのか、メイド服は着たままだった。


「あ、あ、あ、あの……デルフィナ様?」


「なに? お茶の準備をしている時いいの話して? 慎重に淹れないと危ないんじゃない?」


「は、はい……お気遣いありがとうございます。いえ、その、あの……そちらのお方が気になってしまって……」


 デルフィナの後ろではステラが寝るベッドにダルそうに横になっている者がいた。


「ヴェロニカのこと? あたしの妹分よ、魔力が入ったお茶が飲みたいっていうから連れてきたの、いいでしょ?」


「は、はい、か、かまいません」


 ステラはすでに確信していた。後ろで足を組んで座っている者と自分のベッドに横になっている者たちがもはや人ではないことに。


「それにしてもデルフィナ様は寛容すぎますわ、メイドをやらされていたなんて。ひどい国じゃありませんか」


「いいのよ、わたしが進んでやっていることですから、ふふ、いまでは仕事も慣れたもんですよ」


「そういう問題じゃありませんよ、召喚主でなければあの王子、ただではおかないわ、それに古くて堅いパンを食べていたなんて!」


「良い勉強になりましたよ」


「まったくこっちの食事はまずくてかないませんよね、わたしはデルフィナ様のように辛抱強くはありませんからね」


「ヴェロニカ、あなたはもっと成長しなければいけないわ。むやみに人を殺してはいけないと言ったでしょ? それなのにアルト王都を滅ぼしてしまって」


「それはしょうがないですよ、イラっとさせたのですから、わたしは優しくはありません」


「それでは人というものがいつまでたっても理解できないのよ、あなたは化け物と思われることに抵抗を感じなければいけないわ」


「いいの! わたしはそれで。人の気持ちなんてわかりたくないわ」


「はぁー」


 ステラはその会話にカタカタと震えをおこした。


「で? あなた、まだなの? お茶は?」


「は、はい! もうすぐ出来上がります!」


「早くして頂戴」


「ヴェロニカ、ステラは私の友達なのよ、いじめないで」


「はーい」


 ステラはそれぞれの魔力を交互に淹れたお茶を間違いないように手渡しする。


「ありがとう、ステラ」


「ん、いい匂いだわ」


 ヴェロニカは召喚されてから美味しい食事にありついていない、この匂いは彼女の鼻をくすぐってそれが美味しい飲み物であることを予感させた。そして……


「美味しいい!」


 召喚されてからやっと正直な感情が言葉として出たのだった。


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