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悪魔ヴェロニカ、またまた死の食卓を所望するが……


 定刻の鐘が鳴ると、料理人、メイド、侍従たちみんなが安堵の息を吐き出した。なんとか総出で晩餐の準備を時間までに終えたからだ。そんな皆の努力の結晶というべき料理は、晩催会場の長いテーブルに整然と並べられていた。天井のシャンデリアから降り注ぐ光が並べられた料理を宝石のように輝かしている。


「お疲れ様」


「よかった、間に合って」


「あ! 来たわよ」


 ドカドカと足音を立てて晩餐会場へ向かってくる集団に皆が注目した。相も変わらず仏頂面したザーム上層部の者たちである。国王バルブロを先頭に不機嫌を隠さないマルセルたちが正面の大扉からぞろぞろと入ってきた。


 バルブロはハーラルトの案内を無視してそのままドカリと席に座ると前の料理を見た。


(ハハハ、なんだこれは、酷い料理ではないか、さすが小国、ハハハ)


 バルブロは目の前に並べられた料理を見て思わず笑ってしまった。


(これでハーラルトの死も確定か、ダフネの子だから助けたいところだが……まあしかたがないか、その時はパストルも同罪にしてしまえばいいだろう、ダフネの所在はあとでゆっくり仕官でも拷問して聞き出せばよいしな、ふふ、マルセルがもう我慢できないところまで来ている)


「ハーラルト王子よ、これがこの国の晩餐か?」


「はい、突然のことで十分にお出しできなかったことお詫びしなければなりませんが、料理人をはじめ皆よくやってくれました」


「ハハハ、そのようなことは聞いておらんよ、この程度なのかと聞いているのだ」


「え? は、はい、我が国ではこれが精いっぱいです、申し訳ありません」


「そうか、残念だ、ダフネの血が入っているから少しは酌量を考えてもいいかと思ったんだが、これでは助けられんなぁー、ハハハ」


「はあ」


「まあよい」


「バルブロ様、一つ上席が空いておりますが……何かの手違いであったでしょうか?」


「ああ、いやそこにお座りになられる方を今お呼びしている、少し待っていろ」


「は、はい」


 余りにも馬鹿にした態度にルフィノやヘンリクは渋面を作っている。そこで再び大扉が開いた。


 そしてそこから出てきた人に皆が思わず目を見開いてしまう。美しい黒髪に赤い目、その色に合わせるように真っ赤なドレスを床に引きずりながら当たり前のように上座へと向かっている。ドレスにちりばめられた宝石がキラキラと反射して皆の目を眇めた。


「よいしょっと」


 ヴェロニカは席に座るとバルブロと同じように前を睨み、並べられた料理に目をやる。


「うーん、まずそうだわ」


 ヴェロニカが食べる前からそう独り言ちると、バルブロやマルセルがクスクスと静かに笑い声をあげた。ハーラルトはどこかで見たことがあるヴェロニカに目を瞠っていると、その赤い目がキッとハーラルトを捉えた。


「あなたがこの国の王かしら? ずいぶん若いわね」


「あ、あなた様は……」


「ハーラルト、頭が高いぞ、若造はひれ伏すがいい、このお方は黒王ヴェロニカ様でいらっしゃる」


「黒王? はて? 誰かが言っていたような……」


「鈍い奴だな、フベルとアルトから情報を得ていないのか? まったく小国らしく間抜けだわ。いいかよく聞け、このお方は我らザーム国の美しき姫、悪魔ヴェロニカ様である!」


「え!」


 ざわざわと音が鳴る、悲鳴のような声もあちこちから上がった。

 ハーラルトはヴェロニカをあらためて見た。その赤い目は明らかに殺意を纏って自分を見ていることがわかった。


「ハーラルト王子、わたし、まずい食事に堪えられないの、わかる? ここに並べられた食事がわたしの口に合わなければわかっているわね、あなたの命をもって謝罪とさせてもらうわ」


「な、何を……仰っている……」


「聞くところによるとこの国はバルブロの娘を拘束しているそうじゃない、本来ならその時点で国ごと亡ぼすところだけど、まあ一応ね、わたしの機嫌をとれる食事があるかどうか確認しなければいけないでしょ? だから猶予を与えてあげたのよ、理解できたお坊ちゃん?」


「しょ、食事をですか? な、なんのことですか?」


 ザーム国側からは相変わらずクスクスと笑い声が聞こえてる。


「わたしがあなたに聞いたのよ、大丈夫あなた? これ以上わたしの機嫌―――!」


(ん? な、なに今すごい圧を感じたけど)


「も、申し訳ありません! ヴェロニカ様」


(気のせいか……なんだが背筋がヒヤッとしたような、いえ、気のせいよね)


「まあいいわ、では頂きましょうか、どれ……」


 ヴェロニカがまずは目の前の肉にフォークを突き刺そうかと手を動かしたその時、突然、どこからかカラカラとカートを押す音が聞こえてきた。


「ん? え? なに?」


「申し訳ありません、食前のスープをお出しするのを忘れてしまいましたのでこちらからお召し上がりください」


「はあ?」


 一人のメイドがヴェロニカの横へスープを運んできた。あまりの無作法にヴェロニカは渋面を作り不機嫌を露わにしている。ザーム国王もその不手際に思わずニヤリと表情を崩してしまった。


(ハハハ、忘れたスープをいま持ってくるなんて無礼すぎるわ、ふふ、終わったなこの国は)


 バルブロはそう心の中で呟くと、すでにこの先のことを考え出した。


(さて、フリートもこれでザームがもらったとして、このまま南下するのはさすがに危険であるな、この国を対オーア国の前線基地にでもするか、ただそれには一旦、国に戻って……ん?)


「お、お、お、美味しいです」


「「……」」


「ヴェ、ヴェロニカ様? 今何と?」


「だからこのスープは美味しいです」


「は?」


「ヴェロニカ様?」


「だ、だから美味しいと言ったの、聞こえているでしょ?」


「い、いえ、そういうことではなくて……」


 ヴェロニカは横に来た者を見て動けなかった。


「ふー! あなたねぇ」


「ひっ!」


「用意するの大変だったのよ、あー、もう動き過ぎて足が痛いわ、それにエミーリアとの時間をね、このくだらない晩餐で邪魔されたのよ」


「あ、ああ、はい、ごめんなさい、デルフィナ様」


「まずいのはわかりますよ、わたしだってまずい堅いパンを食わされているのですからね、ただいま言わせませんよそれは」


「はい、ごもっともです」


「それとあなたハーラルトを殺そうとしたわね?」


「え? そ、そんなことは……」


「彼はわたしの召喚主よ」


「えー! あなた様を彼が一人で!」


「そういうことよ、ならわかるでしょ? 彼を殺そうとしたということは……」


「誤解です! 知らなかったんです!」


「まあ、そうね、知らなかったでしょうね、バカにしてる小国の情報収集なんてこの人たちしなそうだし」


「それにしてもまさかデルフィナ様がこちらに来られていたなんて、ヴィルマとアンシェラがよく了解しましたね」


「まあね、実はあなたが暴走しないか心配でもあったのよ、留守は彼女らに任せてあるわ」


(あ! やばい! つい皆の前で話し込んでしまったわ!)


 デルフィナは怒りのままに飛び出していったが、ようやく冷静になって辺りを見渡した。


 案の定、皆放心状態だった。


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