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悪魔デルフィナ、お茶会に誘われる

「ねえ、ねえ、聞いた?」


「なにを?」


「デルフィナが侯爵家のお茶会に誘われたんだって」


「ああ、そのこと、聞いたわ、何かの冗談でしょ」


「それがほんとらしいのよ」


「前回のようにハーラルト様の付き添いじゃないの?」


「だからそうじゃないの、デルフィナが招待されたのよ」


「あ! 来たわ、本人が」


 デルフィナが鼻歌を歌いながら食堂に入ってくるのが見えた。


「あ、いたいた、セリカ」


「な、なによ?」


「私、お茶会に呼ばれたじゃない、だからあなたに手伝ってもらおうと思って」


「どうしてわたしがあんたの侍従をしなきゃならないのよ」


「まあ、あんたはメイドとしては優秀だからね、この私が褒めてあげるわ」


「後輩のあんたに褒められて何が嬉しいのよ」


「また強がっちゃって、素直じゃないわね、ほんとは嬉しいくせに」


「今の会話の流れからそう読み取れるあんたはすごいわ」


 そこで食堂にクリスタが入ってきて、セリカに用があるのか近づいてきた。


「こちらにいましたか、セリカ」


「はい、なんでしょうか?」


「デルフィナが明日、侯爵家へ呼ばれましたのであなたに同行してもらおうかと思って」


「……」


「あなたは一度、デルフィナと一緒にエミーリア様の所へ行きましたでしょ? 今度もお願いできないかしら」


「……わかりました。ただ今回はデルフィナのみが呼ばれたということですが……」


「ええ、ルフィノ宰相から直々にお願いがあったのです。それとエミーリア様も前回のお礼をしたいと仰られているそうで」


「一体、どうしたというのかしら? なぜデルフィナを……」


「そういうことでお願いね、セリカ。デルフィナも粗相がないようにお願いしますよ、私が渡した礼儀作法の本はちゃんと読んでますか?」


 前にクリスタから貰った本はしばらく枕代わりにしていたが、もう私には必要ないとすでに燃やしていたのだった。まさかクリスタがまだそれを言ってくるとは思わず、デルフィナは内心驚いてしまった。


「あーっと! 用事思い出した、それじゃ! セリカ頼んだわよ」


「……」


 クリスタはセリカの横でため息をつくと言った。


「セリカ、失礼がないように手を貸してあげて」


「……はい」


 それから翌日、デルフィナは黒いドレスに身を包み、侯爵邸へいく馬車に揺られていた。


「……」


「何かしゃべりなさいよ、セリカ」


 それに反応したのはセリカではなく……


「お召し物、お、お似合いです! デルフィナ様!」


 セリカの横にはお茶くみ担当のステラがいた。


「てか、誰なのこの子?」


「わたしのお茶汲み担当よ」


「よろしくお願いします、セリカさん」


「そしてこちらがわたしの身の回りを担当しているコリンナよ」


「コリンナです、よろしくお願いします」


「だから誰なの!」


 コリンナは母の仇であったダフネが罰を受けて牢に入ったことを知ると今ではその功労者であるデルフィナを心から慕っていた。


「セリカ、あなたもなんなら私の側に使えてもいいのよ」


「後輩のメイドにどうなったらわたしが使えることになるのよ!」


 そんな会話をしていると、すでに馬車の窓からは侯爵邸の広い庭が見えていた。


「え? まって! うそでしょ! ルフィノ様とエミーリア様が外で出迎えているわ!」


「ふふ、まあそうでしょうね」


「宰相様が外で出迎えって、どういうこと?」


 侯爵邸前で馬車が止まると、デルフィナは今日はドレスを着ているためコリンナに手伝ってもらって馬車から降りた。


「おお! デルフィナ嬢! 美しいではないか!」


「ごきげんよう、ルフィノ宰相、エミーリア」


「デ、デ、デルフィナ、敬称をつけないさいよ!」


 後ろでセリカが注意をしているがデルフィナは聞こえないふりをしている。


「ハーラルト様から贈られたドレスだろう? よく似合っているよ、なあエミーリア?」


「はい、よくお似合いですよ、デルフィナ」


「そお?」


(はあ!? ハーラルト様がデルフィナにドレスを? どういうこと?)


 セリカの疑問を余所にデルフィナは二人からの挨拶に頬が緩みっぱなしだった。


 それからすぐに応接室に案内され、ステラがデルフィナのために特別に茶を出すとルフィノがそれを見て首を傾げた。


「ん? 珍しいね、それは黒いお茶かね?」


「ええ、これはわたし専用のお茶なのよ、申し訳ないけどあなたたちには出せないの、そうよね、ステラ?」


「はい、申し訳ありません、特殊なお茶でして、デルフィナ様しかお飲みできないのです」


(なんなのよそれ! アーバル産のお茶よりそれっておかしいでしょ)


 セリカは心の中で思わず突っ込んだ。


「ほんとに不思議な方だな、デルフィナ嬢は。あーまずはエミーリアの身代わりに行ってくれたことや牢でのことを礼を言わねばならないな」


「いいのよ、そんなことは」


「そうはいかないよ、デルフィナ嬢、どうだろうか、エミーリアとは歳も近いし、友達になってくれないだろうか?」


(は? どういうことこれは)


 セリカは一人渋面を作っている。


「ふふ、友達ね、いいわよ、なってあげても」


(こいつ! 上から過ぎるわ!)


「エミーリアどうだい?」


「お父様、嬉しいです」


「それはよかった、そうだ、デルフィナ嬢はハーラルト様と前からお知り合いということだが、どちらで出会われたんだい?」


「ハーラルトとは……」


―――コンコン


 そこでドアがノックされる。


「なんだい? 入りたまえ」


 侯爵家の侍女が申し訳ありませんとルフィノに伝えてきた。


「失礼いたします、ルフィノ様。奥様がお目覚めになられましたので……」


「おお! そうか! これはよいタイミングだ、デルフィナ嬢に妻を紹介しよう」


「お父様、デルフィナは前にお母さまとお会いしているわ」


「ああ、そうだったのか」


「そうだわ、お父様。お母さまを連れて楠木までお散歩へ行きましょうよ、デルフィナもどうかしら?」


「ええ、いいわよ、わたしからもカニス夫人にはきちんとご挨拶申し上げなければと思っていたところよ」


「ありがとう、デルフィナ」


 それからデルフィナ達は一足先に侯爵邸の庭に出てエミーリアたちがカニスを連れてくるのを待った。


「ちょ、ちょっと、これどういうこと?」


「セリカなんなのさっきから、落ち着きなさいよ、あんた一人でテンパっているわよね」


「いや、そうなるでしょ、ていうかあんたなんなの? ほんとにメイドよね?」


「ふふ、だからこんな美しいメイドがいる?」


 そう言ったところでエミーリアとルフィノがカニスを車いすに乗せて出てきた。


「デルフィナ、お待たせしましたね、では行きましょうか、ほら、あそこに大きな木があるでしょ? あそこから西側の景色が一望できるのよ。目を覚ましたらお母さまとあそこまで散歩に出かけるのが日課なの」


「へーそうなの、夫人、ご挨拶は初めてね」


 カニスはデルフィナを虚ろな目で見返した。


「……」


「そうね、夫人の経緯は聞いたわ、ダフネはもう牢に入ったんだし、夫人もそろそろその苦しみから解放されてもいいと私は思うわ」


「そうだな、ほんとにそうだ……」


「ふふ、信じてないわね、ルフィノ」


「?」


「私の命令に抗えるのは天使のみでしょうよ」


「デルフィナ嬢、それはどういう意味……」


「クスクス、こう命ずればいいのよ、カニス、あそこに見える楠木まで歩きなさい」


 デルフィナがそう言うと喋ることも動くこともできなかったカニスが反応した。


「う、う……」


「え? カニス?」


「お、お母さまが声を!」


「う……」


 カニスは車いすから自力で立ち上がろうとしている。


「カ、カニス、なにを!」


 エミーリアが立ち上がりかけたカニスの腕を掴もうとした時、声がはっきりと聞こえてきた。


「だ、だ、大丈夫、自分で歩けるわ」


「カ、カニス!」


「お、お母さま!」


 カニスはデルフィナの命ずるままに意識を覚醒させ、そして立ち上がった。


 彼女は楠木まで少しずつ歩いていくと見る見るうちにおぼつかなかった足腰が整い、大木に到着するころには本来の筋肉を取り戻し、肌も以前の輝きと美しさを取り戻していた。


 カニスは楠木の下まで行くと、無邪気に皆に手を振って見せた。

 それを見たルフィノとエミーリアは夢中になってそこに走っていく。


 二人が楠木まで駆けていくのをセリカは呆然としながら見送ると、震える唇を引締めて何とか声を出した。


「デ、デ、デ、デルフィナ! こ、これはどういう―――」


 そこで突然背後から聞こえた声にセリカの声は忽ち打ち消された。


「デルフィナ様! ルフィノ様! 大変です! ザーム国軍がこの国に向かって進軍しています! すでにフベル、アルト両国は一日掛からず占領されたとのことです! お二人はハーラルト様より急ぎ城に戻るようにとのご命令です!」


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