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悪魔ヴェロニカ、また死の食卓を所望する

 フベル国にヴェロニカが満足するような食べ物がないことがわかると、ザーム軍は早々にフベルを出立した。目指すは隣国のアルト国であるが距離的には一日もあれば辿りつけた。


 それからザーム国王バルブロは何事もなくアルト王都へ到着すると自然と口角が上がった。なぜなら城までの道がそのまま開け放たれていたからだ。


「陛下、この分では労せずこの国もザームの領地になりそうですね」


「フフ、アルト王はちょっとはまともなようだな」


「そのようで」


 ズカズカと王の間に入ったバルブロは膝をついているアルト王の横を通り、当たり前のように空いている玉座に座った。


「フベル王と違って、其方は賢いようだな、アルト王」


「……」


「よからぬ企みは止めることだぞ、それはお前の死を早めるだけだ」


「バルブロ様、そのようなことは……」


「ふん、まあいい、では早速だが晩餐を用意してもらおうか」


「ば、晩餐でございますか?」


「ああ、そうだ、その席で紹介するお方がいる、死にたくなければ決して料理に手抜きはするなよ」


「?」


 その頃、ヴェロニカがいる部屋では……


「ザームに比べるとずいぶん涼しくなったわ」


「さようですか、あの……仰ぎ団扇は……」


「もういらないわ、いいわね、この国。過ごしやすいわ」


「それはよいことです」


「ただ、あとは食べ物ね」


「晩餐のお時間までもうすぐです」


「それまで横になろうかしら」


「はい、ただいま寝具のご用意をいたします」


 一方、バルブロとの接触を終えたアルト国側では……


「あいつらどういう了見だ?」


「わからんが、いい機会じゃないか、願ったり叶ったりだぞ」


「そうだが、敵国で優雅に晩餐とはふざけている!」


「手筈はもう済んでるんだろう?」


「ああ、ザーム国側の料理にはすべて毒を入れた、しかも紫ムカデの毒だぞ」


「よしよし、奴らが毒死したら戦いの合図だ、いいな」


「ああ、市街戦ならそうは負けない、無傷でこの国から出られると思うなよ」


「陛下、よろしいですね?」


「……」


 それから大部屋での晩餐の用意が済むとフベル国と同じように両国対面に座って晩餐がはじまる。アルト国王は席に着いてから中央に置かれた空席を見て何度も首を捻っていた。そんな彼にバルブロは言う。


「アルト王、晩餐の準備、感謝するぞ」


「いえ」


「それではそこの空席にお座りになられる方をお呼びする」


「はあ」


 バルブロの合図でドアは開いた。そこに立っていたのは黒いドレスに身を包んだ女性だ。スルスルと長い裾を引きずりながら現れたその女性は真っ赤な唇を緩めて穏やかな表情を見せていた。


 バルブロが立ち上がってその女性を紹介する。


「アルト王、こちらは我らが至宝、悪魔ヴェロニカ様だ」


「な! またご冗談を!」


「冗談ではないぞ、アルト王」


 ヴェロニカはニッコリと微笑むと席に座った。


「ええ、わたくし悪魔ヴェロニカと申します、よろしく」


「ま、まさか、召喚が成功したというのか」


「そういうことだ、ふふ、驚いただろう?」


 アルト王はガクガクと足が震え出した。


(信じられない、じゃあフベル国の兵を一瞬でやったというのは……まずい! 悪魔に毒物なんて効くはずがない!)


「あー、お腹すいたわ、早速頂こうかしら」


「あ……」


 アルト王が危惧していることを仕官たちも察したのか、皆が焦りの表情を見せている。そんな中、ヴェロニカはまずは野菜スープに口をつけた。


「ん?」


「な、何か……」


「ふむ、そうね、今までの国では一番まともだわ」


「ヴェロニカ様そうなのですか?」


「ええ、まあ美味しいとは言えないけど」


 それを聞いてバルブロたちは一斉に食事に口をつけた。


「む? ん? え? ぐふっ!! うう……」


 普通の人間であるバルブロやマルセルなどザーム国側にいた者たちは当然それに皆苦しみだした。


「ア、アルト王、き、貴様! 命知らずめ! ど、毒を入れたな!」


「い、今だ! 踏み込め!」


 バルブロたちが苦しみだしたことが合図になって事情を把握してないアルトの武官たちが一斉に動いた。部屋の外からドドドっと次々と雪崩れ込んでくる。


「ここにいる者は皆殺しにしろ! 一人も逃がすな!」


「く……貴様らぁぁ!」


 しかし次の瞬間、襲い掛かってきた者たちは突然バタリバタリと倒れていく。


「さわがしいわね、今食事中なのだけれども。今動いた者は殺す」


「ヴェ、ヴェロニカ様……」


 苦しそうにテーブルの下で蹲っているバルブロはなんとかヴェロニカに助けを求めた。


「あらあら、あなたたち毒を入れられたのね、クスクス、行いが悪いからだわ、油断しすぎよ」


 そう言うと、ヴェロニカは彼らに黒の魔力を流し、毒の影響を無効化した。


「く、グググ…………は! ヴェロニカ様、あ、ありがとうございます。き、貴様! アルト王!」


 そう言って、バルブロはアルト王を睨んだ。


「だから静かに!」


「は、はい!」


「まずアルト王、これはどういうことかしら?」


 アルト王は自分以外、手練れの者たちが一人残らず絶命しているのを見て顔面蒼白なっている。


「い、いえ……こ、これは……」


「この国涼しくて気に入ってたのに残念だわ」


 ヴェロニカがそう言うと、アルト王は頭からテーブルに落ちていった。


「バルブロ様!」


 そこへザーム国騎士が報告のため駆け込んできた。


「なんだ!」


「王都の至る所でアルト兵が決起して我が兵が襲われております」


「なに! マルセル!」


「はっ!」


「すぐに体制を整えよ!」


「はい!」


「まって」


「は、はい、ヴェロニカ様?」


 王城の窓から外を見たヴェロニカは一つため息をつくとバルブロに言った。


「御覧なさい、王都は入り乱れた戦いでもうダメだわ。これを収束するにはかなり時間がかかりそう」


「ここはなんとしてでも私どもで……」


「ここは捨てましょう」


「はい?」


「この混乱を治めるには兵の損害もばかにならないし、なにより長期戦になることでしょうよ、嫌だわ、ここで長期滞在は。あなた達にとっては毒だけど、わたしには多少マシな食べ物でしたよ。ただこんな状態じゃゆっくりできないし、もうここは捨てて隣のフリートにいきましょう、フリートはさらに涼しいでしょう?」


「申し訳ありません、し、しかし……」


「マルセル」


「はい!」


「あなたはザーム兵を王城になんとか集めなさい、集めたら王城以外を一気に焼いてしまうわ」


「ということは……」


「そ、面倒だからこの国は滅ぼしてしまいましょう」


 アルト王都をぐるりと囲むように火柱が天高く上がった。そしてその火柱は柱同士が壁のように繋がるとぐるっと王都は火の壁に囲まれる。上へ上へと波のように立ち昇る炎は、しばらくするとざばーっと波が跳ね返ったように王都に向かって流れた。それによって王都は忽ち火の海に沈んでいき、最後は中央の王城のみを残して生命がいない黒い大地を作り上げた。


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