王子、死す?
「さてと、ヘンリクが戻ってくる前に毒でとどめだ」
壁にもたれかかるように倒れているハーラルトからの返事はない。彼は今も黒い魔力に覆われていて目を覚ませずにいる。
アルビンはハーラルトの側に落ちている白の宝玉の欠片を手に取った。その瞬間、彼の手は対極の魔力に触れてジリジリと手が焼かれた。
「ふん、この程度の魔力でダフネ様を倒そうとは愚かな奴らだ、私のこの魔力でさえも覆す力もないではないか、ただこれでようやくこの国は我らザームのものになる」
そう言うと、アルビンはポケットから小瓶と盃を取り出した。小瓶には黒い液体が入っている。
「あなたはある意味幸せかもしれない、父親と一緒に今日死ねるのですから」
アルビンは小さな金色の盃に零さないようゆっくりと黒い液体を流し入れた。
「白の魔力が尽きたとわかったあなたはここで一人毒杯をあおって自害するのです」
そう言うとアルビンはハーラルトの顎を上げ、金の盃を王子の口へと傾けた。
「ヘンリクがあなたを見つけてくれるでしょうよ、おっとこれもお持ちください」
そう言ったのを最後にアルビンはその姿を夜の闇と同化させて静かに部屋を出て行く。意識がないハーラルトの手には輝きを失った白の書が握られていた。
その頃、第二塔ダフネ王妃がいる部屋の前では……
「どうしたんだ? ハーラルト様はまだか!」
「まずいぞ、敵が来てしまう! これでは奇襲の意味がなくなる! レオポルド殿、我々だけで先に踏み込むか? わたしたちは陛下より王命を賜っている、待ってる時間が惜しい」
「まて、白の宝玉がなければダフネは……」
「しかし、ここで突っ立ってても状況が悪化するだけだ」
「く……」
「団長! 大変です! 門にいた分隊が外から来た騎士たちと交戦しています!」
「気づかれたか! ハーラルト様はなぜこない!」
「サヴァリオ殿、門が交戦に入ったとするともうダメだ。我々だけで突っ込むぞ」
「わかった! おまえたち! これよりダフネを捕らえる、いくぞ!」
「「はい!」」
両開きのドアを蹴破るとドドドと一気にダフネの部屋になだれ込んだ。
しかし……
「いない?」
「捜せ! 隠れているはずだ!」
そして同時刻、パストル王が匿われている部屋では……
「ダフネ……どうしてここに」
「パストル、あなたはもう用済みよ、大人しくザーム国にこの国を引き渡していただけるかしら」
「気でも触れたか、ダフネよ。このような小国をザームに引き渡して何になる。お前がやっていることはオーア国との戦争の火種を作っているということがわからんか」
「ほほほほ、あまりにも普通のことを言ったので笑ってしまったわ。いい? 近々ザーム国はこの中央小国家群に侵攻する予定なのよ。よく考えなさいよ、戦争になればこの国は勝てないし、しかも多大な被害をもたらすでしょう。わかる? 平和に譲渡すれば民衆も死ぬことは無いのよ。あなた一人の命でみーんな助かるの、わたしはそれを提案しているのよ」
「そうはならんよ、白魔法国が黙っているとは思えない」
「ふふふ、ほんとに動くと思う?」
「どういう意味だ?」
「悪魔がいる国にオーア国が戦端を開くと本当に思うといっているのよ?」
「なんだと、まさか……」
「ええ、そうなの、ほほほ、ザーム国はついに悪魔ヴェロニカ様を召喚したのよ!」
「そんなこと嘘に決まっておる。おまえはそれを直接見たのか? そんなの高い黒魔力を持っている魔術師であろう」
「ふふふ、愚かねパストル、証拠ならここにあるわ!」
ダフネはそう言うと胸のあたりから突然黒い魔力が放出された。
「私の中にあるこの膨大な魔力こそ悪魔ヴェロニカの魔力が分け与えられているのよ!」
「そ、それは黒の宝玉! おまえ宝玉を自分に取り込んだのか」
「そうよ、ここには悪魔同等の魔力がある。それは宝玉など優に超えた魔力だわ。これこそがこの国がすでにザーム国の傘下に入った何よりの証拠なのよ、理解してくれたかしら?」
「ルフィノ、おまえはここから逃げろ!」
「な、なにを仰います陛下!」
「今の我らに勝てる術はない」
「オ、オーア国に急ぎ連絡を……があ!」
ルフィノの体が勢いよく壁際に叩きつけられた。
「ルフィノ!」
「バカな宰相ね、だから! もうオーア国なんてどうでもいいのよ。わからない? 眼中に入らないの、聞いてた私の話?」
「ダフネ、貴様!」
「死にぞこないが、威勢だけはいいわね、毒でゆっくり殺すつもりだったけど、ハーラルトの勇み足で急ぐことになってしまったわ。まあ、二人の命で国が戦争にならないのだから喜んで死になさい」
そう言ってダフネは身動きできないパストルに向かって魔力を放った。




