悪魔、牢でのお茶の時間を楽しみにする
「まて! ステラ」
「……」
「どうしたんだ? お前らしくない、いままでお前が毒殺に失敗したことなんてなかっただろう?」
「でも、あ、あの人怖い」
「まて、冷静になれ、あれは間違いなくザーム国から送られた毒物だな?」
「ええ、間違いありません、わたしあんな毒があったなんて感動していたんです。肌に触れるだけで即死するなんてすばらしい毒だと……」
「それが効かなかったと?」
「……」
「ふぅー、よし、これはまだダフネ様には報告しないでおこう」
「お、お願いします! アルビン様、毒殺に失敗したとなれば私の命は……」
「ああ、わかっている。ならこうしよう、今まで通りでやるんだ」
「?」
「お前が研究して作り上げた毒を使うんだよ」
「そうか! 彼女はあの毒には耐性があったのかもしれない! そういうことですか! たまにいるんですよそういう人」
「おろらくそういうことだろ、次はやれるな?」
「はい、やらしてください」
そうと決まれば早速ステラは研究部屋と化している私室に籠った。篝火としては珍しくその功績が認められて王城の一室をアルビンから与えられていた。
部屋の中に入ったステラは、「よし!」と言うと腕をまくってまずは手をマッサージする。それから棚に置かれていた紫毒ムカデと毒キノコの瓶を取り出しそれを一センチぐらいに切る、そして切ったそれを小さな瓶に放り込んだ。次にその瓶の中に熱湯を入れ小一時間放置する。その待つ時間を利用してステラは仮眠をとった。それから一時間半後、寝過ごしたと飛び起きたステラはすぐに机に座り、その抽出された水をアーパル産の茶葉に染み込ませた。
「よし! いいでしょう」
ステラはさっそくその茶葉を持ってデルフィナがいる牢へ向かうと、彼女はベッドにゴロリと横になっていた。どうやらちょうど早い夕食を終えたところだったようだ。
「食後のお茶です」
「あら、あなた? 食後のお茶なんてあるとは気が利くわね、さっきの茶を持ってきてくれたのかしら?」
「いえ、あれは貴重な物なのでもうないんです。代わりにこちらを持ってきました、今淹れますからお待ちください」
「そう、まあいいわ」
ステラはあらかじめ用意した茶葉にゆっくりと冷水を入れていく。
「このまま三分ほどおまちください」
「手間かかるわね」
隣の牢にいるルフィノは「牢暮らしにお茶の時間なんてあるわけないだろ」と叫んでいる。
「まあまあ、落ち着いてルフィノ、私だけ特別なのよ」
「そろそろ頃合いです、ど、どうぞ」
「どれどれ、ん? さっきと匂いが違うわ、でもこれはこれでいい香りが出ている」
「……」
そう言うと冷茶であったためかごくごくと飲み干した。
「うーん、さっきのと比べると味は落ちるけど、アーバル産のお茶よりは美味しいと思うわ、あなた茶を淹れるの上手いじゃない、将来わたしのお茶汲み担当にならない?」
「……そ、そんな……、わ、私の傑作が……うわぁぁー!」
「ちょっと! あなた名は? あら、また行ってしまったわ」
「「……」」
牢屋はまた静けさを取り戻したのだった。
翌日朝……
「うーん、それにしても……もう一日か、さすがにこれ以上ハーラルトを放置できないわね、様子を見に行かないと……殺されては元も子もないし」
「ハーラルト様は私たちの潔白を証明できるだろうか……」
「まあ、味方が少ないし、サヴァリオたちだけでは難しそうね、それにあなたもここにいるし」
「まったく王妃は道理も何もない、ただ……」
「ただ何?」
「パストル様が暗殺されれば、王妃は一気に動くだろうな」
「そうなの?」
「それがこの国が終わる時だろう」
「そういうこと、よし! どんな状況か見に行くか、あーその前にお茶を頂きに行こうかな、次のお茶の時間までは大分ありそうだからね」
「デルフィナ嬢、一体何を言っているのだ? 私はもうさっぱりあなたのことがわからんよ」
ルフィノがそう言った時、牢の前を誰かが横切った。
「はあ⁉」
「ちょっと行ってくるわね、エミーリアが可哀想だからあなたのことは助けてあげますよ、ただハーラルトがどうなのか見てくるから、もう少しあなたたちはそこにいて頂戴」
「え? はあ⁉」
一方、その頃、昨日、叫びながら自室へと逃げたステラは……まだ混乱していた。
(どういうことなの! 死人を出してまでウンベルト山で手に入れた希少な毒物が効かないなんて……)
ステラはそう言って、紫ムカデの匂いを嗅いだ。
「うおっぷ! ダメだ、匂いだけでヤバイ、死ぬ! ……どうしてこれが美味しいのよ……待てよ……あの人強力な毒物だけに耐性があるんじゃ……うーん……基本に返ってみるか……」
「何ぶつぶつ言ってるのよ」
「うわあああああ!!」
突然後ろから聞こえた声にステラは飛び上がった。
「こっちからお茶を頂きに来たわ、最初に出したお茶くれない?」
「うわうわうわ! なんでなんで……いるの!」
デルフィナは部屋のベッドにドカリと座って言った。
「あなた、茶を淹れるの上手いから友達になってあげてもいいよ」
「あ、あ、あ……」
「なにをそんなに驚いてるの、あんな牢出ることなんて難しいことじゃないでしょうに、それよりどうなの?」
「あ、あ、あ、は、はい、お茶の話ですよね」
「そうよ」
ステラはどうやって牢を出たかなんて正直興味がなかったし、どうやって鍵がかかっているこの部屋に入ったかも深く考えないことにした。そう割り切れば彼女の興味はただ一つ、毒のみだ。
「ふー、少し落ち着いてきました。お茶ですね、あのー、もう一杯召し上がっていただきたい茶があります」
「いや、本当は最初に頂いた茶を飲みたいのだけど、もしかして高級?」
「はい、すごい希少な毒……いえ! お茶です」
「あー、やっぱり? そうかー」
「あのー、代わりと言ってはなんですが、これから調合しますのでぜひ飲んでいって欲しい一品があるのです」
「あらそう、いいわよ。時間ないから早くしてね」
「はい! ありがとうございます!」




