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悪魔、牢屋に入る

 城に着くとアルビンは、デルフィナの腕を掴んで別棟にある地下収容所へと連れて行った。


「ちょっと! ちょっと! あんたどこに連れて行く気よ!」


「あなたは危険だと判断させてもらった、逃げられない場所で取り調べを行う」


「だから取り調べるのはいいけど、なんで地下なの。あんたちょっと真面目過ぎるのよ、ダフネの命令のままどれだけ人を殺してきたの」


「それが騎士の役目なんだよ、しばらくそこにいろ、もう話しかけるな」


 そう言ってアルビンはデルフィナを牢屋へと押し込んだ。


「わたしをこんな小汚いところに! 罰当たりめ! まったくダフネの奴、お返しのビンタを倍にしないとね」


 デルフィナがドカリと牢屋のベッドに座ると、隣から笑い声が聞こえてきた。


「ハハハ、お嬢さん元気だね。王妃を呼び捨てとは今この国にそんな気概を持った者はいないだろうよ」


「ん? 隣?」


「ああ、お嬢さんと同じで今日入れられた新人だよ、よろしく」


「そうなの、もしかして今日の事件に関わった人かな? 王妃暗殺事件」


「ハハ、そうその件だよ」


 ルフィノがそう言うと、他の牢屋からも声が上がった。


「濡れ衣だ! 王妃に嵌められたんだ!」


「あら、いっぱいいたのね」


「くそ! もう終わりだ俺たちは」


「もしかしてアルビンが言っていた文官たち」


「ああ、みんなそうだよ」


「それで、もしかして隣にいるのは宰相様?」


「よろしく、お嬢さん」


「エミーリアのお父様ね」


「そうだよ、あなたも娘と同じぐらいの歳だろうか?」


「そうね、同じぐらいかな、さっき会ったばかりだけど」


「エミーリアに?」


「そう、わたしハーラルトの付き添いであなたの家にさっき行ってきたのよ」


「そうだったのか、エミーリア達は無事だろうか?」


「ええ、大丈夫よ。アルビンが連れて行こうとしていたけど、代わりに私が捕まったから」


「なんだって! どういうことだ?」


「長話になるからやめとくけど、今回の件はハーラルトが何とかするでしょうよ」


「……」


「どうしたの?」


「ハーラルト様でも、パストル様でも難しいだろうな、もうこの国は敵だらけだ」


「そうね」


「それよりお嬢さんが身代わりにここへ来たとはどういうことか知りたいな」


「わたしのことはいいのよ、気にしないで、まあ、ハーラルトがダメだったら私がなんとかするつもりだけど」


 そう言ったところでガチャリと扉が開く音が聞こえた、誰かがきたようだ。 足音は二人分ある、その音はデルフィナの牢の前で止まった。一人は先ほど別れたアルビンであったが、もう一人は全身を長いローブで身を包み、顔も深いフードで隠している。その者は小さな木箱を両手で持っていて、デルフィナを見ると、一瞬、体を引いたように見えた。


「あれ? あなた、たしか部屋に茶葉を交換しに来た子? なに? もう食事の時間?」


「この者で間違いないのか?」


「はい、たしかに」


「それで手に持っている物は、例のもので間違いないな?」


「はい、アルビン様」


「今度は間違いない、よし、やれ」


「はい」


 そう返事をすると毒師ステラはそろりと慎重に木箱をあける。中には小さな瓶に黒い液体が入っていた。


「デルフィナ、お茶の時間だ」


「なに? お茶? 昨日の茶葉を持ってきてくれたの? あんた気がきくじゃない」


 ステラは廊下の棚に置かれていたポットとカップを取り出すと、まずは慎重にカップに黒い液体を入れた。それから飛び散らないようにゆっくりとポットの水をカップに注いでいく。そして注いだカップを両手で慎重に牢の中へと押し込んだ。


 その時、事情を察した隣のルフィノが叫んだ。


「お嬢さん! それを飲んではいかん! おい! アルビン、これはどういうことだ! 何の理由でこんなことをやる! 不当にもほどがあるぞ!」


「黙れ、罪人め! おまえもそのうち飲んでもらうぞ、それとも斬首刑か」


「何の罪があって彼女を!」


「不当だ!」


「悪の所業だ!」


 文官たちも、見えないながらも、何が行われるかを察して抗議の声を上げている。


「ふん、どうとでも言え、どうせおまえらの声など誰も聞いておらん」


「いえ、待って!」


 そこでその声を制するようにデルフィナの声が牢に響き渡った。


「これ、あの時の!」


 デルフィナは置かれたカップに飛びついた。そしてためらいもなくそれを飲み込む。


「や、やめろ! 飲むな! 毒だ!」


 ルフィノのその声を最後に、牢は恐ろしいぐらい静まり返った。そして……次に聞こえてきたのはまたもや……


「美味しいい!!」


 そう叫んだ瞬間、ステラは再び後ろに尻餅をついた。


「ひっ!」


「は?」


「この味! あなたやっぱりあの時の娘ね、まさかアルビンの下で働いていたとは思わなかったけど、あー、これは私にとってまさに栄養剤だわ!」


「ど、どういうことだ、これは」


 ステラは後ずさりしたあと、叫びながら走って逃げてしまった。


「あ、ちょっと! もう一杯ちょうだいよ!」


「お、お茶の時間は終わりだ!」


 そう言って、アルビンもステラを追いかけるように行ってしまった。

 二人がいなくなるとしばらく牢はシーンと沈黙が支配する。


「アルビンの奴、いい物持ってるじゃない、今度分捕りにいこうかな」


「「……」」


「ほ、ほんとにお茶の時間だったのか」


 ルフィノの独り言に反応するものはいなかった。


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