悪魔、エミーリアを守る
「ハーラルト様、大変失礼いたしました」
「アルビン、無礼が過ぎるぞ! ルフィノを拘束したとはどういうことだ?」
「はい、宰相が王妃ダフネ様の暗殺を企てていたことが明らかになりました。本日午前、ダフネ王妃が散歩をしていたところ、突然斬り込んできた者がいたのです。その者を直ちに拘束し、拷問にかけたところ白法院の名が出たことにすぐに調べた結果、第一文官の者達が企てたことがわかったのです。その者達を一斉に捕らえ、聴取をしましたらルフィノの名がでたもので」
「まてまて、第一文官が暗殺者を白昼に母のもとに寄こしたと?」
「はい」
「文官どもがそんな大体なことをするのか? その暗殺者は私が取り調べる、まだ処断するな、いいな、まだ動くな、これは命令だ」
侯爵邸の玄関扉付近では、ハーラルトがエミーリアに絶対に外に出るなと言ったため、彼女は扉の前で不安な表情をして震えていた。そんなエミーリアのもとにセリカを置いて一人出てきたデルフィナは彼女に話しかけた。
「なにがどうなっているの?」
「……」
「そんな震えなくても大丈夫よ、私が話をつけましょう」
「え? ちょっとあなた!」
出て行こうとするデルフィナの肩をエミーリアは掴んだ。
「なに?」
「出てはいけません、今ハーラルト様が話をしておりますから」
「だから、わたしはそのハーラルトを一応守らないといけないのよ」
「そ、それは……あなたハーラルト様のメイドでは……」
「ふふ、メイドに見える? こんな美しいメイドがいる? まあいいわ、これ内緒よ、エミーリア」
「は、はい……」
「わたし、裏部隊に所属しているの、クスクス」
なにが可笑しいのかとエミーリアは思ったが、自分にタメ口を言う時点で、どうやらただのメイドではないことだけは分かった。
一方、外では……
「ハーラルト様、王妃に刃を向けたのは事実なのです、王族への刃はご存じのとおり連帯罪が適用されます。何卒取り調べをさせてください、それにこれはダフネ様の勅令なのです」
「父上はなんと言っているのだ、このこと伝えたのだろう」
「はい、陛下は実際に王妃に刃を向けた者がいたということで、罰しなければいけないと申されました」
「それは父もまだ詳しく取り調べてはいないということだろう? いま父にそのような体力はない、代わりに私が取り調べる、よいな?」
「ハーラルト様、陛下が仰せられたことなのでそこはパストル様に話していただかないと……それとわたしの立場も辛いのです。いまダフネ様はお怒りになっていてこのまま手ぶらでは帰れません、どうか……」
「ルフィノをすでに拘束しているのだろう? 彼から話を聞けばよい、母や娘まで拘束する必要はない、これは私の命令だ、アルビン」
その言葉にアルビンは困った顔を見せたが、ハーラルトの後ろから姿を現した人物に彼は目を見開いた。
それを察知したハーラルトはアルビンの目線の先を追って後ろを振り向く。
「デルフィナ、なにをしている? なぜ出てくる?」
「まさか……どういうことだ……」
「クスクス、エミーリアが怯えているではありませんか、ハーラルト様」
(あいつはあの時のメイドだよな、どうして……生きている、ステラは失敗したのか、あの毒オタクが失敗したというのか、ということはザーム国から送られたあれを飲んでいないということか)
騎士アルビンはデルフィナが生きていることに興味が湧いた。そう言えばメイドが死んだという知らせを聞いてないことに今さらながら気づく。それと同時にステラが失敗したとなれば、パストル王の暗殺も見送る必要が出てきた。今回の事件は完全に邪魔な宰相をターゲットにした前哨戦のようなものであったが、あの黒の毒物を使って失敗したとなれば、計画を立て直す必要があるとアルビンは判断する。
「ハーラルト様、わかりました。母娘のことは私の独断で見逃しましょう、ただ、そのメイドを代わりに連れて行きます」
「は? どういうことだ? 何を言っている? アルビン」
「申し訳ありません、その者からはこちらの事情ですが、どうしても話を聞かなければならないので」
「よくわからん! どういうことか説明しろ!」
「ああ、いいのですよ、ハーラルト様。私が代わりに行きましょう」
そう言って、デルフィナはニッコリと笑って大丈夫と目配せした。
「話が早くて助かる、おい! そこのメイドを連れていけ! もうここに用はない、これにて引き揚げる!」
「はっ!」
「待てアルビン、何をどうしたいのか説明しろ!」
「ハーラルト様、ご安心ください、エミーリア様とカニス様のことは私の権限で不問に致します。私はそのメイドから話を聞くことが優先と判断しました。今回の件とは別件ですが聴取いたします。ただそれだけです、それではハーラルト様、これにて失礼いたします」
その後、わけがわからず邸に戻ったハーラルトにエミーリアが不安な表情で聞いてきた。
「ハーラルト様、今のは一体どういうことなのですか?」
「……エミーリア、今ルフィノ宰相は拘束されている、おそらく地下牢に収監されているのだろう」
「お父様が牢に!」
「ダフネの画策だろう、私はすぐに戻って対応する。大丈夫だ、私は宰相を守る、必ず」
「何卒、お願いいたします。それと今、メイドが出て行きましたが、彼女は……」
「それはよくわからん、アルビンの奴が代わりだと言って連れて行った」
「そ、そんな! 惨いことを!」
「あー、エミーリア、彼女は大丈夫だ。詳しくは話せないが……それよりも今は宰相と文官たちが優先だ、悪い、もう行く」
「あ、は、はい、お気をつけてハーラルト様。父をお願いいたします」
一方、一足先に王城へと戻る馬車の中でデルフィナはドカリと足を組んで座っていた。前では鋭い目つきでアルビンがデルフィナを見ている。
「アルビン、あなたいい目つきをしているわ、どう? あんな女よりも私に使えない?」
「……あんたほんとにメイドか?」
「ええ、そうよ、仮だけど」
「最近、変な味をした飲み物を飲んだ記憶は?」
「ん、なにいきなり? あーそう言えば昨日、美味しい茶葉を頂いたわ、おそらく担当の者がわたしに特別に用意してくれたのよきっと。ほら、わたし頑張ってるじゃない、メイドの仕事」
「……先日、ダフネ様の前で失態を演じたとは思えない発言だな」
「ああ、スープ零したこと? あんぐらいで怒ることではないでしょうに、あんたもそう思うでしょ? まったくあんたの主のせいで、みんな怯えてるじゃない、近衛騎士なら注意しなさいよ」
「わたしは意見を言う立場ではないよ、てかあんた何者なんだ? ダフネ様を恐れていないようだけど」
「ふふ、なにが恐ろしいと言うのよ、あーでも私はただのメイドよ、クスクス」
「……」
アルビンはなぜかわからないが、前にいるこのメイドを不気味に感じた。
(よくわからんが、牢に入れば縮み上がるだろうよ)




