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王子、初めて腹を割って話す

 クリスタたちが退出すると、ダフネはクリスタを張り倒せなかったことにイライラしていた。


「ダフネ様、あのように生身の力を使ってはお体を傷めてしまいます」


「そうですよ、ダフネ様、あのようなことアルビンに任せればいいことです」


「クリスタが倒れないのもイラついたけど、それよりあのメイドだわ、後ろで私を睨んでいた、それはもう恐ろしい顔してよ」


「ふふふ、それは骨のあるメイドですね」


「私に睨みをきかせて生きていていいのかしら、アルビン?」


「いえ、それは立派な反抗心です。ほっとけばどこで敵と化すかわかったものではありません」


「でしょ? ちょうどいい機会じゃない、パストルに使う前にあのメイドに使ってみたらどうかしら?」


「さすがにそれは……わざわざ貴重な黒王の魔力を使わなくても……」


「詰めが甘いわねアルビン、前もって実演することは大事なのよ、実際に飲食物に入れて試してみなさい。パストルの肌に垂らして殺しては暗殺とはいえないわ、すぐにそれが怪しいとわかってしまうでしょ?」


「たしかに、わかりました。バーバラやれるか?」


「そ、そんな、肌に触れただけで死ぬような毒物わたしには扱えませんよ」


「アルビン、バーバラに今死んでもらっては困るわ、誰かいないの?」


「ハハハ、わかりました、篝火に毒師がいますので、その者にやらせましょう」


 一方、廊下を出た三人は……


「デルフィナ! あんた!」


「しょうがないでしょ、手元が狂ったんだから」


「そうじゃない! クリスタ様に言うことあるでしょ」


 二人の前を一人歩いているクリスタは無言であった。セリカはデルフィナに「謝りなさいよ」と肘を突いている。


「あー、侍従長、ごめんなさい、私のミスで……」


「私がビンタされたことについては気にする必要はありません。私が入らなければ、どうなっていたかの方が心配でしたから」


 クリスタがそう言うと、セリカは思わず涙を流してクリスタに抱き着いた。


「クリスタ様! ごめんなさい!」


「気にしなくていいのですよ」


 デルフィナはそれを見ると、なぜか胸のあたりが熱くなった。人の目線に立ってはじめてわかる人が持つ感情。どうしてそうなるのか、どうして涙を流すのか、デルフィナにもそれが理解できた気がした。彼女もなんとなくセリカと同じようにクリスタに抱きついてしまう。

 クリスタはそんな二人を引き剥がすことなく優しく頭を撫でたのだった。クリスタに頭を撫でられたデルフィナは、彼女から流れる白魔力を不快に思いながらも今はどうしてか、彼女のその手を払いのける気にはなれなかった。


 それから部屋に戻ったデルフィナはクリスタが近くにいた時には湧きあがらなかった怒りが再び込み上がってきた。


「あの女、放ってはおかないわ、私の頬を張ってそのままいられると思わないことね……そのうち」


 デルフィナは気分を落ち着けようと、棚に置いてあるポットとカップを取り出し、何も考えずにポットに入っていたものをカップに注いだ。すると白湯だったことに気づいてすぐにお茶の葉を放り込んだ。


「あらら、茶の葉がもうないわ、貰わないと……」


―――コンコン


「誰?」


「私だ」


「はい?」


「早く開けてくれ、こんなところ見られたらやばい」


「その声はハーラルト?」


「早く」


 侍従宿舎棟のデルフィナの部屋に訪ねてきたのはまさかのハーラルトだった。


「めずらしいこともあるものね、あなたがこっちに来るなんて」


「しかたがないだろ、夜に一人メイドを呼んではどんな噂が立つが知れたもんじゃない」


「ふふ、そんなこと気にしてる場合なのあなた」


 ハーラルトは部屋に入って一息つくと窓際の小さな木椅子に腰かけた。


「で? 聞いたぞ、ダフネのところへ行ったんだってな? まったく何かやらかすかと気が気でなかったぞ」


「別に、私の代わりにクリスタが殴られただけよ」


「それも聞いた、どういうことなんだ一体」


「それはこっちが聞きたいわね。あの女イカれてるわ」


「君はダフネには近づくな」


「……ていうか、あなたどうするつもりなの? あの女のこと」


「私と父では彼女を追い出す力が足りない、それに味方になってくれる騎士も少ない、情けないが戦力はあちらの方が上だ。だから内密にオーア国の力を借りるつもりだ、それが一番確実だろう」


「そんな悠長でいいのかしらね、ていうかあの魔力はオーア国でもそうは対応できないのではないかしら」


「どういうことだ?」


「あなた何も知らないのね。レオポルドから聞いてない?」


「町に行ったとき会ったそうだな、彼から手紙が来たぞ」


「だからダフネはザーム国と繋がっているということ」


「そんなことみんな知っている、だからオーア国と……」


「早く対応しないとまずいんじゃないの? レオポルドからは黒の宝玉を探して欲しいと言われたんだけど」


「ああ、それも知っているよ、レオポルドはあなたの正体を知ったのか?」


「いいえ、私のことをあなたの裏部隊の一員と勘違いしてるみたい」


「そんなものないのは知っているはずだが……まあいい、それでその黒の宝玉がどこにあるかは私も父上も探りを入れたのだがわからず仕舞いなんだ。母がそれを使って白の宝典を汚していることは確実なのだが……」


「うーん、黒の宝玉ね……」


「レオポルドにも手紙を書いたが……わたしは君の力は借りない。ルードルフはこの国が奪われないためには召喚魔法しかないと考えたようだが、わたしは王族として最後まで自分の力でこの国を守りたいんだ、いやそうすべきだ」


「それはそうだろうけど、大丈夫なの?」


「たしかに母と面と向かって争って勝てる戦力はこちらにはない、それに戦いに勝っても黒の宝玉を奪わなければ意味がないだろう。それでもこの国の宝玉と書物を何としてもわたしは守らなければならない」


「この国の白魔力だけど、そもそもそんなに強いと思えないのだけれどもね」


「そんなことはない、この国の白宝玉はオーア国から譲り受けたものだ。そのお陰でこの国は成り立ってきたのだ、ザーム国が保有している黒宝玉の方が強いということはないよ」


「その割にはその白宝玉を黒が占有できてることが不思議なのだけれども」


「どちらにせよ、母の後ろにザーム国がいる以上、こちらもオーア国の力を借りるしかない、これはまだ内密だが、今度オーア国から特使が来ることになっている。そこで相談するつもりだ、動くのはその後だ」


「そう、それはよかったわね、そもそも私が悪魔でなくて天使だったらよかったのにね?」


「それでも私は自分の力で解決したはずだ。天使だったらオーア国の交渉には使っただろうがその力を使って反抗する者を従わせるようなことはしなかっただろう。それこそ母と同じになってしまう」


「不器用だわ、あなた」


「国を存続させるにはそれだけの信念が必要なのだ、ただ私も一人の人間、理想を前に砕け散ることもあるかもしれない、そうなったときはあなたに見届けて欲しいと思っている、オイゲンとルードルフが命に代えてあなたを呼び出したのだから……これが願いでもいいだろうか?」


「ふふ、あの二人は私が殺したようなもんだけど、美談にするのは嫌いじゃないわ。でも願いはそれじゃダメね、もっと具体的なものではなくてはダメだわ」


「そうか」


「それを言いに来たの?」


「いや、そういうわけじゃないけど、何かあってはと思ってな」


「別に私の方は問題ないわよ」


「なあ、デルフィナ」


「名前で呼んだわね」


「今になってこんなこと言うのはいけないことだが……」


「なに?」


「側にいてくれないか、見届けて欲しいと言ってしまったからな」


「あなたは召喚主なのだから、普通は側にいるものよ、そのためにメイドをしているんだし」


「クリスタに頼んでみよう、それと……デルフィナ、君を邪険にしたこと謝りたい」


「いまさら?」


「すまない、私がもし死んだら君は帰れるのだろう?」


「それはそうなるわね、なに? 母親を排除する自信がないの?」


「そういうことじゃないよ、わたしがいなくなったら君はこの国にはもう関係ないよな」


「ええ、もう関係ないし、留まる気もないわね」


「そうか」


「ちょっと、大丈夫?」


「ああ、すまない、変な話をしてしまったな」

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