悪魔、ブラック部署へ行くことを決める
ライザ家で一泊したデルフィナは、翌日朝には城に戻っていた。朝帰りしたことに案の定、クリスタに叱られたデルフィナであったが、あとの三日間はそのクリスタの監視もあって大人しく部屋で過ごすことになった。
また、町では篝火の惨殺死体が転がっていたことから、サヴァリオは調査のため騎士達を城から呼んでいた。それに加えて彼は平行して夜通しデルフィナを探し回り、連れ去られたのかと意気消沈して城に戻った彼だったが、結局探していた本人は城にいたという結末であった。
そして謹慎最終日、従業員専用食堂にて……
「次の問題は座っている目上の人にお茶を出す方向です。右からか左からか、渡した本を読んでいればわかる問題ですよ」
(ふふ、二者択一、当たる確率は高いわ)
「左」
クリスタは持っている分厚い本で軽くコツンとデルフィナの頭を叩いた。
「右からです」
「なんで当たらないの、不思議だわ」
「デルフィナ、あなたはハーラルト様の近くで仕事をしたいのでしょ? これではいつまでたってもあなたの希望はとおりませんよ、それともあきらめたのですか?」
「あきらめてはいないけど、引っ掛け問題が多すぎるのよ」
「どこが引っ掛け問題ですか、問題文はストレートに聞いているでしょ?」
城の従業者たちが使う大きな食堂でクリスタとデルフィナは対面に座って、謹慎最終日、礼義作法の試験をしていた。
「ハァー、では次の問題……」
クリスタがそう言ったところでガタンと音を立ててセリカが食堂に駆け込んできた。
「ク、クリスタ様! 大変です! き、今日のダフネ様の晩餐には第三部門からメイドを派遣して欲しいとバーバラ様から伝達がありました」
「……バーバラ様から、わかりましたセリカ、それでは皆に集まるよう伝えてもらえますか」
「は、はい」
王妃所属の第二部門のメイドたちは常に人が足りていない部署であった。
なぜなら少しでもダフネ王妃に目をつけられれば、クビか最悪処刑されるというブラック部署であるからだ。そのことから他の部署のメイドたちは、皆理由をつけてそこへ行くことを拒んでいた。
ちなみにあまりにもダフネの周りには侍従する者が長続きしないことから、その部門を統括しているバーバラは騎士のアルビンに頼んで、コリンナのように町から不遇なものを連れてきて仕事をさせたりしていた。
第二部門からの派遣要請により、デルフィナの礼儀作法の試験どころではなくなったクリスタ率いる第三部門のメイドたちは、全員食堂に集まると皆何とも言えない暗い雰囲気に包まれていた。いつも元気なメイドたちが顔を下に向けてカタカタと体を震わせている。
「バーバラ様から今日の晩餐会の給仕ということで三名派遣要請がきております、できればベテランの者を送りたいのですが、どなたか希望はありますか?」
セリカがベテランと聞いて自分に白羽の矢が立つことを危惧して言った。
「わたしはデルフィナがいいと思います」
「わ、わたしもデルフィナが行くべきだと思います」
「……あなた達、デルフィナ一人行かせるわけではないのですから」
「それでは私の方で決めましょう、夜の晩餐の手伝いに行く者は、私とセリカ、ドリスにします」
クリスタは侍従長として当然行くにしても、他の二人はベテランであるため名前が呼ばれるのではないかと恐れていた。セリカは青ざめた顔をしながらも覚悟を決めたようで眉間に皺を寄せているのだが、もう一人のドリスは、突然うつ伏して大声で泣き始めた。
「私だめです、怖い、怖い、嫌です!」
「「……」」
クリスタはそれを見て困った顔してため息をついている。こんなに嫌がる者を無理やり業務に当たらせるのはクリスタ自身悩むところであった。
しばらくドリスの泣き声だけが食堂に響き渡ると、それにあきれた一人のメイドが口を開いた。
「あーだったらわたしがいってもいいよ、王妃のこと興味あるし」
「デルフィナ?」
皆がびっくりした顔をしている中、さらにデルフィナは言った。
「要は実戦なのよ。本を読んでたって結局対応できないわ、いいよ、わたしがいくわ」
「しかしあなたは……」
クリスタがそれを却下しようと口を開けかけた時、他のメイドが一斉に声を上げた。
「デルフィナがいいと思います」
「デルフィナなら大丈夫よ」
「デルフィナに経験させるべきだと思います」
「……あなたたち」
最後にドリスが立ち上がってデルフィナに言う。
「あ、ありがとうデルフィナ、この恩は忘れないわ、ほんとにありがとう!」
「あんたに恩を感じて欲しくないけど」
ドリスはいつだったか、デルフィナと殴り合ったり、彼女を地下倉庫の幽霊部屋に閉じ込めたり、デルフィナにとっていわば天敵のメイドだった。
「ハァー、仕方ありませんね、それではお願いしますねデルフィナ。私が指示をしますからその通りやりなさい」
クリスタは不安を抱きながらもしょうがないと了解するしかなかった。
それから皆が解散してそれぞれが持ち場に戻っていくと、デルフィナは夜まではまだ時間があるため、彼女は肖像画を見て思い出したモーリを訪ねてみることにした。
食堂からすぐに向かったデルフィナは、モーリがいる地下へと続く階段を降りていく、そこは相変わらず薄暗く、階段からすでに幽霊がでる雰囲気を漂わせていた。そしていつもの地下倉庫の木扉を開けると、細い廊下の魔法灯は青白い光を照らし出していた。メイドたちに言わせると、どうしても白い色の魔法灯にならず、どう交換しても青白い色になってしまうとのことだった。
デルフィナは先が見えない薄暗い暗闇を進む、そして問題の第二地下倉庫に近づくとヒューっと冷たい風が頬を掠めた。彼女は目的の扉を見つけ、ドアの小窓から真っ暗闇の部屋を覗いてモーリはいるかしらとドアを開ける、続けて魔法灯のスイッチに手を伸ばした瞬間、ニョロっと青白い両手がデルフィナの顔に近づいてきた。そしてその腕の間からバーッと骸骨顔の老婆が迫る。
「……」
「……」
「いや、二度は驚かないからね」
「あ、あ、あんたは悪魔!」
「名前言ってなかったけ? デルフィナよ」
「悪魔デルフィナ……いや、あんた! どういうことなの! あれっきり一度もこないじゃない!」
「ていうか何してるのあなたは? 相変わらず脅かすの好きだよね」
「あんたの指示でやってるんですよ!」
「そんな指示したっけな?」
「な、なんなの! あんたほんとに悪魔なの!」
「それより会ったわよ、息子のレオポルドに」
「!」
それを聞いて幽霊モーリの目に光が宿った。




