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悪魔、幽霊モーリ夫人のことを思い出す

  一介の少女が一人で篝火どもを殺せるはずがない、レオポルドの目は明らかに前にいる一人の女性を推し量っている、何者なんだと。


「あー、あなた鋭い目をしているわね。でもごめんなさい、今はこれしか言えないの、きてきて」


「え、なに?」


 デルフィナはレオポルドに隣に来るように言った。その動作でレオポルドは何か隠し事を耳打ちで伝えようとしていることがわかった。


(一体どんな隠し事なのだろう?)


 レオポルドの片耳に顔を近づけたデルフィナは、誰にも聞こえないように小さな声で言う。


「わたしね……ハーラルトのこれなの」


「ん? これって?」


「鈍いわね、わからない」


「これって言われても、何も仕草がないとわからないけど、まあ、あれってことかな」


「そうよ」


「なるほど」


(ハーラルト様直属の裏部隊ということか……でもおかしいな、今まで聞いたことがない、王妃に対抗するため作られたのか? いや、私に言わずに作るだろうか?)


 デルフィナは自分はハーラルトの女だと言ったのだが、レオポルドは会話の流れからそれが想像できず妥当な解釈をしてしまった。


「それはすごいことだ、反王妃派としてそれを歓迎するよ」


「ありがとう、これでわかったでしょ、怪しい者ではないことが、それじゃコリンナと会わせてくれる?」


「うむ、ドナート、コリンナを呼んできてくれ、誤解があったことわたしから説明しよう」


「わかりました」


 コリンナが来る間、デルフィナは一息ついて残りの茶を飲み干すと、あー疲れたと座りながらグイっと両手をあげて背伸びした。


「ん?」


「どうかしました?」


「あれ?」


 後ろに体を反らせた際、背後の壁に掛けられた肖像画が目に入った。


「この人どっかで見たような……」


「え? そうですか? 母が亡くなったのはもう十年以上も前なのですが……」


「死んでる……あ! この人地下倉庫にいた幽霊だわ!」


「ハハ、母が城の地下倉庫に?」


「ええ、間違いないわよ、モーリだわ! たしか」


「そうです、母の名はモーリですが、ああ、もしかして、遺品の一部が城に保管されていましたね。陛下が城の母の部屋にあったものを保管したようですが、それは母にとっては大事な物だったのかな」


「そういうこと、でもモーリはずいぶん王妃を憎んでいましたけど」


「ええ、当時母はダフネと対立していて……ダフネがザーム国に送った手紙を盗んで読んだことがそもそもの始まりなのです。ダフネが出した手紙の内容はまさにザーム国をこちらに誘致してこの国を売り渡す内容でした。それからしばらくして母はこの世を去ったのですが、その母の意志をいま私が継いでいるのです」


「なるほど、モーリはずいぶんこの世に悔いを残しているようだったわ、あーそれで化けてメイドを脅かしているのね、きっと」


「ハハ、噂にはわたしも聞いたことがありましたが、ほんとに出るのですか?


「ええ、わたしも驚かさせられた一人ですよ」


「ハハ、母はメイドよりダフネを脅かしたいでしょうに」


 そこでちょうど、コリンナがドナートに連れられて姿を現した。

 コリンナはデルフィナに目を合わせようとしない。


「コリンナ、そんなに私が嫌い?」


「そ、そんなことはありません! わたし混乱しているんです」


 そこでレオポルドが口をはさむ。


「コリンナ、彼女の正体がわかったよ」


「え?」


「よく聞きなさい、彼女は私たちの仲間だ。彼女はハーラルト様直属の裏部隊に所属していた」


「王子の? でも……このひと、人では……」


 それにはすかさずデルフィナの注意が入った。


「コリンナ」


「はい!」


「コリンナ、裏組織に所属している者の身元の詮索はしないきまりだよ」


「は、はい! 申し訳ありません」


「クスクス、裏組織とはまた、まあ、間違ってはいないけど」


「レオポルド様が言うのでしたらもう疑いません、仲間であるということがわかりました」


「仲間じゃないわよ、友達でしょ?」


「はい、と、友達です」


 デルフィナはやっとわかったかと満足顔を見せた。

 二人が和解したことに笑みを浮かべたレオポルドは、次に篝火を始末したデルフィナの腕を見込んで言う。


「デルフィナ、コリンナと友達になったところで悪いが、今回練りに練った王妃暗殺計画は失敗に終わってしまった。そしてコリンナも、もう城には戻れない、だから私の望みは君だけだ。ハーラルト様にも了解を得なければいけないが……頼む! 王妃が持っている黒の宝玉を探してくれないか?」


「黒の宝玉?」


「ああ、ザーム国から将来の占領地に配られている宝玉なんだ。ダフネはこれを使って膨大な魔力を使っている。これがある限りわたしたちは彼女に勝つことはできない」


「うーん、王妃は黒魔法を使うということ?」


「いいや、彼女はもともとは白魔法を使っていた。だからこんな小国に来させられたのだろうよ。ところがダフネはその宝玉を使って白から黒へ切り替えてしまったんだ。信じられない話だがこれは事実だ、陛下はオーア国にそれを伝えているらしいのだが、やはり小国の言うことだからかオーア国からの動きは何もないんだ」


「あーだからハーラルトは黒い魔力のうえに、母から吸い取られたのかほとんど魔力を持っていなかったのね」


「……デルフィナ」


「なに?」


「それはハーラルト様には言わないでおいてくれ、赤子の頃の話だ」


「ええ、そうね」


「まあ、宝玉の話はハーラルト様に話を通した方がいいだろう、彼は母の裏切りを自分で解決しようとしている節がある。でもわたしはそんな悠長に構えている時間はないと考えている。この国の危機はもうすぐそこまできているのだからね、取り返しのつかない所まで来てるんだ」


「なるほど、ハーラルトは王子としての責任を自分で果たそうとしているのね。ふふ、わたしに願いを言えばいいものを王子のプライドが邪魔しているのかしら、可哀想な人だわ」


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