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悪魔、黒ちゃんのごはんをゲットする

 デルフィナは駆け上りながら、「しかたがない力を使うか」とコリンナの気配を魔力を使って探っていた。最初からそうすればと思うのだが、なぜか彼女はなんでも力で圧することを嫌っていた。なぜならこの世界の道理を知るならば、周りと目線を同じにしないとその真相には辿り着けないと彼女は思っている。彼女のその性質は、他の攻撃的な悪魔を見ているからか、力で圧したあとには何も残らない虚しさがあることを知っているからであった。


「ハァ、ハァ、疲れたー」


 塔を一気に駆け上ったデルフィナはそう言って王都の夜を見渡した。


「うーん、どこにいるのかしらね? やはりライザ家にはコリンナの気配はしないわ。ここに来れば見えると思ったんだけどな」


 そう言うと彼女はコツンと自分の頭を軽く叩いた。


「なにやってるのよ、わたしは! さっきの奴らを脅して聞き出せばいいじゃない! わたしとしたことがサヴァリオが急に飛び出してきたからテンパってしまったわ」


 一方、その頃コリンナは王都の東通りを歩いていた。彼女の足はここを真っすぐ行った所にあるライザ家に向いていた。すでに彼女の後ろからは篝火が数人後をつけている。すぐに殺さないのは王妃暗殺に関しての情報を聞き出すためだろう。コリンナはこの命が助かるには、唯一反王妃を掲げる貴族、ライザ伯爵家の門を叩いて保護してもらうこと以外に選択はないと考えている。そもそも王妃暗殺を企てているのはライザ家だ、失敗したからといって邪険に扱うことはないと考えていた。ちなみにコリンナはデルフィナのことをどうしても信用できず、もしかしたら王妃が呼び出した化け物ではないかと思い込んでいる。


「おい、ライザ家に逃げ込まれたら厄介だ、そろそろ捕まえるか?」


「一応、騒ぎにならないように迅速に捕まえるぞ」


「わかった」


 彼らは王城から出たコリンナの行動を呼んでいた。反王妃の者が逃げる所はライザ伯爵家しかない、その近くを張っていれば姿を現すと踏んでいたのだ。


「くそ! あの黒髪どこへ行った!」 


 他方、サヴァリオと争いにならなかった別の篝火達はというと、見失ってしまったデルフィナを捕まえるため街中を探し回っていた。


「兄者、いません、こっちの方向に逃げたはずなのですが」


「必ず探せ、王都の”治安”を任されている者としてあの女を逃がすことはできない、必ずザーム国の奴隷商に引き渡す。それで? ダフネ様を暗殺しようとした女の方は大丈夫だろうな?」


「はい、そちらはご安心ください、ライザ家の周辺でネズミが来るのを待っております」


「いいだろう、そっちは情報を聞き出したあと必ず殺せ、ダフネ様の勅令だからな」


「はい」


 部下が全員再度散らばっていったのを確認すると、一人その場に残った男は、懐から小さな瓶酒を取り出しそれを一気にあおる。


「この国が正式にザーム国の一部になればわたしは貴族に上がれるんだ。こんな仕事は早々に部下に任せて優雅に暮らしてやる、くく、そのためには邪魔な奴らは一人残らず処理していかなければならない」


「無理よ、あなたには」


「は? 誰だ! どこだ!」


「ここよ」


「うわ!!」


 声がしたのは真後ろだった。


「あんた! あきらめて来たのか、殊勝なことだ」


「ふふ、あきらめるのはあなたよ」


「何を言っているのだ、自分から来るとは……こんなイカれた奴だったのかおまえは?」


 デルフィナは返事をせず、ガシっと男の首を掴んだ。


「え! ぐぐぐ……」


「コリンナはどこにいるの?」


「ぐっ……」


「喋れないか?」


 吐かせるために絞める手を離した。


「ぐはっ! な、なんだこの力は」


「もう一度聞くわ、コリンナはどこ?」


「な、なんのことだ? まさかもう一人の女の話か」


「そうよ、あなたなら知っているでしょ?」


「なぜおまえがそれを聞く、まさかおまえライザ家の者だったのか?」


「ライザ家ねぇ、コリンナはそもそもそこの家の者ということ?」


「おまえ! 篝火に逆らった者がどうなるか知っていて戻ってきたんだろうな?」


「あー、そういう話はもういいわ」


 そう言って、再び男の首を締めあげた。


「ぐああ!」


「ライザ家はどこなのよ、簡単な地図だから頭に入ってたはずなのに、塔に上って降りたらわからなくなってしまったのよ、もう一度登るのいやだし」


「い、言うわけないだろう……わ、わたしは篝火だ……ぞ」


「だからもうそういうのいいって、ああそうだわ、あなたの目を貰おうかしら、黒ちゃん、目玉も好きなのよ、ほらコロコロ転がるでしょ?」


 デルフィナは片手で男を締め上げたまま持ち上げると、もう一方の手でいきなり男の目玉を抉り取った。


「ぎゃあああ!!」


「さあ、吐きたくなった? 口は動くでしょ?」


「ラ、ライザ家は王都東通り、墓地の横にある邸……」


「それじゃわからないのよ、ここからどう行けばいいの? 次は左目かな?」


「……こ、ここから真っすぐ行って右!」


「吐くの早いって、まだ左目を貰ってないでしょ」


「ぎゃあああ!」


 デルフィナは締め上げた手を離すと、両目を失った男はばたりと地面に落ちた。


「この両目は黒ちゃんのおやつに持って帰ろっと」


 彼女がそう言った時、突然、デルフィナの肩に黒蛇が現れ、高速でぱくりぱくりと手に持っていた両目を飲み込んだ。勢いよくおやつを食べたのはいいが、なぜか黒蛇の体はカタカタと小刻みに震えていた。


「え? なに? ちょっと! 黒ちゃんどうしてここにいるのよ!」


 黒蛇は目玉を胃まで転がし込むと、ブルっと怯えた様子で主の首に絡みついた。


「ど、どうしたの黒ちゃん! あなたが怖がるなんて」


 黒蛇は何も言わずにスルスルと逃げるようにデルフィナの中へ消えていった。


「……私の部屋で何かあったのかしら……あー! それより今はコリンナよ!」


 そう言うとデルフィナはキリっと通りの先に目を向ける。


「た、助けてくれ、見えないんだ……俺は将来、貴族になるんだよ。なあ、頼む、助けてくれ……目玉を返してくれ、話したんだからもういいだろ」


「そんなわけないでしょ、まだ黒ちゃんの明日のごはんをもらってないわ、心臓、貰っていくわね」


「うそだろ! や、やめろ!! 近づくな! ぐひ……」


 一方その頃、追手に気づいたコリンナは顔面蒼白になって全力でライザ家に向かって逃げていた。後ろには篝火の者たちが無言でコリンナを追っている。人通りがないわけではない、皆何が起きてるかを理解して目を逸らしている。そしてコリンナの背中に追手が接近したところで初めて輩が声を出した。


「逃がすか!」


「た、たすけ……」


 そこでタイミングよく前から元気な声が聞こえる。コリンナの危険を察知したデルフィナは力を使って短時間で移動したのだ。


「コリンナ! 助けに来たよ!」


「え!」


 走る先にいた人物に、コリンナは逆に絶望した。

 コリンナにとってデルフィナは知ってはいけない異体の知れない存在だった。普段は人に化けてはいるが、あの時のように内側には計り知れない何かを隠していることがわかっていた。たしかに王妃派の組織である篝火や王妃直属と化しているアルビン率いる騎士団の存在は恐ろしい、ただそれでも彼らは人間だ。どこかで脆いものを必死に隠して生きている、コリンナにはそう思えた。しかし、彼女はちがう、あの恐怖を知らない笑顔、人の不幸というものがなんなのかまったくわからないその雰囲気。コリンナにとっては彼女から放たれるものは決して人が触れてはいけないのだと警告しているのだ。コリンナは勇気を振り絞って走っている足に最後の力を入れた。前にいるデルフィナは勢いよく向かってくるコリンナを受け止めようと両手を広げる。

 しかし、接触する瞬間、コリンナの足は九十度に方向を変えて横道へと逃げたのだった。


 デルフィナは両手を広げたまま無表情になる。赤いものが沸々と上に込み上がってくる。彼女の目は美しい赤紅色へと変化した。


 その瞬間、向かってきた篝火たちの心臓が空高く舞い上がった。


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