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悪魔、町に出た途端夜の店に入店する

「ちょっと! なにその女!」


「ジーナ、この娘を頼む、人を探しているらしいんだが」


「また、誘拐してきたんじゃないでしょうね?」


「今はそんなことしてないよ、きちんと交渉してきてくれたんだ、彼女を見ればわかるだろ、別に嫌がっている風ではない」


「人を探しているのよ、あなたコリンナって娘知らない?」


「コリンナ?」


「そう」


「コリンナという名だったら子供のころからここで下働きしてたよ。大きくなってからは反王妃派のライザ家に出稼ぎに行ったけど、それっきりよ。そのコリンナかどうかはわかんないけど」


「そうよ! そのコリンナよ! 反王妃派だわ」


「ちょ、ちょっと! 君たち声、大きいよ。どこに”篝火”がいるかわからないんだから、連中に睨まれたらこんな店すぐに闇に葬られてしまう、ジーナもわかってるだろ?」


「なにをビクついてんのよ、ここには私らしかいないじゃない」


「いやいや、”篝火”を甘く見過ぎだよ。奴らが反王妃派を殺しているところを何回見たと思ってるんだ。わかってると思うが客の前ではぜったいに王妃の悪口は言うなよ」


「ふん、そんなヘマしたことないでしょ、で? どうするのあなたは」


「この大きな町を探すのは大変だわ、黒ちゃんも部屋に置いたままだし」


「黒ちゃんて何?」


「ペットの蛇よ」


「あなた蛇飼ってるの? 珍しいわね、あーそうだわ、私に伝手がいるから聞いてみるわよ、それでいい?」


「ありがとう、ジーナだっけ?」


「ええ、よろしくあなたは?」


「デルフィナ」


「デルフィナね、あなた綺麗だわ、この仕事向いていると思う。さっそく今日の夜から私の側で接客を見て覚えなさい」


「クスクス、情報はタダじゃないってことね、まあ、私はなんでもできるからいいわよ、夜だけね」


「おお! ありがとう! デルフィナ嬢、店を盛り上げるために頼むよ」


「あー、でも夜までは時間があるでしょ? その時間にライザ家に行ってくるからジーナ、場所を教えてくれない?」


「いや、行っても入れないと思うけど……まあわかったわ、順路を書いてあげる」


 店長らしき男はライザ家に行くことに反対したが、デルフィナはコリンナに会うことを優先すると譲らなかった。


(大丈夫よ、店長、渡した道順は大回りして最終的にここへ繋げたから)


(……おまえも悪い奴だな)


 ジーナから順路を書いたメモを持って外へ出たデルフィナはそれを確認しながら進んでみた。


(なになに? 店を出て真っすぐに行ったら、八百屋を右に見てパン屋を左に折れる……大きな通りに出たら、今度は乾物屋を左に見て肉屋を右に折れる……そして小さな通りを右に宝石屋が見えてきたら左の小道に入って……)


「いや、図で書いてよ!」


 その後も彼女は暗くなるまで適当にぶらついて見たが、結局ライザ家は見つからず、デルフィナは律儀にジーナがいる夜の店に戻ってきた。後ろで彼女を尾行しているフィーヌは同じ所を三十回もまわったことに疲れ切っていた。


(なんなの! あのメイド! よくもあきずに同じところをグルグルと……)


 店に入ると……


「デルフィナ! あんたの服届いたよ!」


「ちょっと! ジーナ! これじゃ辿り着けなかったんだけど?」


「あー、だめだった? それ対”篝火”用で奴らをまくための道順なの」


「私にはそんなの必要ないって、まったく」


「ごめん! 店終わったら付き合ってあげるから。それよりこれよ!」


 そう言ってジーナは黒いドレスを広げて見せた。そのドレスは胸元が開いており、長いスカートには際どいスリットが入っている。


「似合うわよ、デルフィナ。先輩だけどあなたの美しさに嫉妬してしまうわ、今日からさっそくあなたの客がつくかもね」


「まあね、美貌ならわたしが負けるはずがないもの。でもジーナ、あなたは素直でいいわ、あなたも綺麗よ」


「ありがとう、デルフィナ」


 その頃店の外では……


「フィーヌ、何してるんだ?」


「サヴァリオ団長! あんたこそなんで」


「なんでじゃない、デルフィナはどうした?」


「ええ、あの店に入っていったわ」


「お前なぁ、連れ戻さなかったのか?」


「連れ戻す? だって尾行する命令じゃ」


「あのな、いつまで尾行してるんだって話、もう夜だぞ」


「そういうことだったの? 団長は彼女を連れ戻しに?」


「殿下の命令を受けたんだよ。で? なぜ、店に入るのを止めなかったんだ? 彼女は城のメイドだぞ、あの店で働いたら二重契約でクビだ」


「あーそこまで考えなかったわ、尾行していただけで……」


「はぁー」


 サヴァリオはため息をついた。


 一方、店の中は開店と同時に大忙しだった。


「デルフィナ、これを三番テーブルにお願い」


 その指示でデルフィナは見たことがない、青色の飲み物をカートに乗せて持っていく。


「三番は……あそこかな、えっと端から一、二、三、間違いないわ」


 はじめて見るデルフィナに客たちは色めき立った。すかさず店長に聞いてくる。


「おい、店長、誰だい、あの娘は? すごい美人じゃないか」


「いらっしゃいませ、はい、今日から入りました新人です」


「ここにつけてくれないか? もちろん希望の金額は出すから」


「ありがとうございます、ただ、接客の方はいきなりは……」


「気にしないよ、なんなら私が自分で注いでもいいよ」


「そ、そんな! 滅相もない」


「いいから、無礼講だ」


「ジーナ、デルフィナにご指名だ、四番からだ」


「まあ、そうなるわね、わたしも一緒に入るわ」


「ああ、頼む、礼金は期待していいはずだ」


 それからデルフィナはテーブルにつくとジーナの見よう見まねで、青い色の飲み物を隣にいる客に注いだ。


「今日からだとは思えないな、上手いじゃないか」


 そう言ってお金をデルフィナの胸の谷間に差し込んだ。


「あら、お金、いいのかしら」


「あなたのその美しさに」


「まあ、見る目があるわ、あなた」


(わたし、メイドよりもこっちの方が天職かしらね、わたしに合ってるわ、クスクス)


 遠くの方の席ではサヴァリオとフィーヌが、盛り上がっているデルフィナの席を窺っている。サヴァリオは隣にいる女性に聞いた。


「君、あの娘に用があるんだが、呼んでもらえないかい?」


「ああ、今あの子、競り合いになっていてすごい金額になっていますよ?」


「そうなんだ、いくらだい?」


 隣にいた女性はサヴァリオの耳に顔を近づけると聞こえないように金額を耳打ちした。


「……そんなに、わたしの給料の三か月分じゃないか、フィーヌ持ってないよね?」


「持ってるわけないでしょ! ていうか一切払いませんよ、わたしは」


「だよね」


「騎士様、今日はこちらで満足してくだいませ、ねえ?」


 そう言うと、その女性はサヴァリオにピッタリと体を押し付けた。


「なにやってるんですか、あなたは。ハーラルト様には私から報告しますからね」


「ははは、困ったな」


 そんなことを話していると、どうしたのか、デルフィナの席では先ほどの盛り上がりが嘘のように場が静まり返っていた。


「ん? なになに? どうしたのみなさん、王妃の暗殺は失敗してしまったのよ、知らない?」


 酒の匂いが漂う広間に、その匂いすらも凍らす絶対零度の風が吹いた。


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