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召喚!

「ルードルフ伯爵が天使を召喚する方法を見つけたというのか?」


「はい、白魔法と黒魔法を融合させた魔術を成功させたらしいのです」


「……なんだそれ、そんなことできるわけがないだろう」


「それが成功したと白魔法院に報告してきたもので、私では判断しかねるため殿下にご報告しに参ったのです」


「……面倒なことだな、そんな話聞きたくなかった、白と黒の魔力を合わせるだなんてな。魔力が暴走したらどうする気だ、まったく。それにルードルフ伯爵は今までも怪しげな魔術を研究して拘束された前科があったな」


「はい、一度生贄を使った白魔法を研究していたため、当局で拘束しました」


「ハアー、しょうがない奴だな、今回も拘束すればいいだろ、私の名前を出してもいい」


「いえ、殿下、まだなにもしてないうちに拘束するのはさすがにできません、白の書に引っ掛からなければ一方的に身柄を拘束することは……」


「そんなこと言ってる場合か、オーア国にうちの貴族が黒魔法を使って召喚魔術をしているなんてバレたらまずいだろう」


「ですがそれが黒魔法かどうかはまだわかりませんし、それに伯爵は今回の魔術式にはぜひハーラルト殿下に見てもらいたいと言っているのです。ですから処分も含めて当日ご判断していただければ……」


「ルードルフの奴、俺を巻き込みやがって」


「あと伯爵の希望で、立ち合いはわたしと殿下の二人だけを希望しております」


「ハハ、怪しすぎる、オーア国での召喚術は大広間に何百人もの魔法師が一斉に魔力を集中させるんだ、おまえも一度は見たことあるだろ?」


「はい、一度だけですが。わたしが見学に行ったときは千人以上で行っていました、やはり大国はすごいです」


「だろ? それがこの国は魔法師一人と見物人二人ということだ。そんなもんで召喚できたらこの国は両大国に媚びへつらってないわ」


「たしかに」


「全くルードルフ伯爵はその辺わかってやっているのか、召喚魔法を研究することは大いに結構なことであるが、もう少し現実を見て欲しいものだな。あー、いっそう誰か天使でも召喚してくれればこの大陸で一気にのしあがれるだろうに……わかったよ、しょうがない私が行って処理しよう」


「申し訳ございません、ハーラルト様」


 大陸を二分する勢力、白魔法のオーア国と黒魔法のザーム国。そしてその二大勢力に挟まれるように存在している小国家の一つがハーラルトがいるフリート国である。両大国に比べれば小国に位置づけられるこのフリート国は、白魔法国の傘下に入ることでかろうじて生きながらえていた歴史だった。そしてこの両大国が躍起になって求めているのが最高位魔法の召喚術である。未だにどちらも召喚に成功した記録はここ数百年記されてはいなかったが、それでも古に存在した国では召喚に成功したという記述はある。神のごとき力を有した存在を召喚することは大陸統一に欠かせない大魔法であったのだ。


 それから数日後、ルードルフ伯爵邸へ向かう日の朝、午前中の執務をこなすべく、ハーラルトは士官達が上げてきた最終決裁書に適当に目を通しながら次々と判子を押していた。


「あ、やべぇ、二回押してしまったよ、何の決裁だろ?  ん、なになに、アーバル産のお茶は一人三杯までとする、また今後茶葉の持ち帰りは禁止とす。……クレ上級仕官」


「なんだこれ、俺の決裁印必要か」


―――コンコン


「入れ」


「殿下、そろそろルードルフ伯爵の所へ向かう時間です」


「お、もうそんな時間か、あー、面倒だな、ほんと行かなきゃダメか?」


「はい、お願いします」


「まったく、ご令嬢からの招待であれば喜んで行くというのに、寄りによって変人からの招待とはな。刑務官を帯同させる件の方は大丈夫か?」


「はい、十人程帯同させます」


「よろしい、俺は父上に一声かけてから行くから先に馬車で待っていろ」


「はい」


―――フリート国王都 ヴァンヒルデ


 王城東側に広がる造林地の中にハーラルト達が目指すルードルフ伯爵邸がある。ルードルフは魔術研究者であったが、奇抜な魔法研究に世間の目は厳しく、それから逃げるように森の中に住居を構えていた。


「やっぱりだ! 白魔法と黒魔法を融合させると感じたことがない魔力が生まれる! これは絶対に召喚魔法に繋がっているにちがいない。白魔力をどんなに多く集めても全く召喚術式が反応しなかった、ということは魔力量を高めるために何百人集めようが意味がないと言うことだ。ハハハ、いつまでたっても成功しないはずだ」


 ルードルフは己が導き出した答えに一人にやけてしまう。そこへドアの外から声が聞こえてきた。


「ルードルフ様」


「ん、なんだね」


「ハーラルト様がお着きになられました」


「来られたか! 応接室にお通ししなさい、私は後から行く」


「はい」


「アホな貴族共はこの理論を端から馬鹿にして聞こうともしない、それならば国のトップを認めさせればいいのだ、王族が認めればそれが事実となって伝わっていく、ふふ、あとから私に頭を下げに来てももう遅い! ハハハ」


 一方、応接室に案内されたハーラルトとオイゲンは侍女が用意した茶に一口つけたところだった。


「君、この茶葉はアーバル産かね?」


「え、いえ! 申し訳ありません、こちらはアーパル産でございます」


「そうか、なら三杯以上お代わりしてもいいんだな」


「は、はい」


「ふふ、殿下がそんなにお茶がお好きだとは思いませんでした。高級なアーバル産と安価なアーパル産をご存じとは」


「ん? 知らんよ、というかまずは酷似した名前を取り締まるべきじゃないのかな? クレ上級仕官は」


「ハハ、そうですね」


「お待たせして申し訳ございません、殿下」


「お、ルードルフ来たか」


「本日は……」


「あーいい、ルードルフ、それよりはやく話を聞かせてくれ」


「おお! さすが殿下、召喚魔術にご興味がおわりで」


「いや、そう言うわけではない、少し確認しなければならないと思ってな」


「はい、なんでしょうか」


「あー、なんでも我が国の宝典である白の書に反する研究がされていると聞いてな」


「ハーラルト様、それなんですが、禁忌を恐れていてはいつまでも召喚魔法は成功しません、なので私としては実際に見てもらうしかないのです」


「黒魔法を使うと? 伯爵、あなたは黒魔法を使えないよな」


「はい、白魔法しか使えませんが、黒魔力に関してはクリスタルに溜め込んだものを私のもとへ輸送してもらいました」


「おいおい、黒魔力の取り扱いは禁止しているはずだぞ。それにそもそもオーア国がなぜ白魔法の召喚にこだわっているか知っているだろう、究極の白魔法は天使を召喚できるとされてるからだ。わたしもそれを信じている。間違って対極にある悪魔か化け物が召喚されたらどうする気だ。黒魔法は破壊と破滅をもたらしてでも強大な悪魔の力に頼ろうとするものだろう? 私たちが望むものはそんなものではないはずだ」


「しかしハーラルト様、それはあくまでも逸話です。実際に悪魔が召喚された記録はありません。まあ、天使も作り話かもしれませんが……それに私が行う魔術は黒魔法と白魔法を合わせたものです。どちらかに引っ張られることはないと思うのです」


「……う~ん」


「ハーラルト様、召喚魔法が記録に残っているのは大昔の作り話程に風化してしまった過去の話です。いつまでもそれに倣ってやっては何も進んでいかないのです。なのでダメもとで試してみるべきではありませんか」


「……まあ、大国は多くて千人単位で行う魔術だ、ハハ、そうだな伯爵、一人で召喚できたらオーア国も苦労してないよな。わかったよ、俺が見届ける、やってみろ」


「殿下よろしいのですか?」


 横にいるオイゲンの言葉にハーラルトは、伯爵に聞こえないよう小声で指示をした。


(……失敗に終わったら外で待機させている刑務官を突入させろ)


(わかりました)


「よし! ルードルフ伯爵やってくれ!」


「ありがとうございます、さすがハーラルト様だ、では私の研究室に準備が整っております、そちらへどうぞ」


 案内された部屋に行くと、そこには魔力が溜め込まれた白黒の二つのクリスタルと空のクリスタルが一つ置かれていた。空のクリスタルを最終地点としてなんの模様か、見たことがない幾何学模様が床に描かれている。そのなぞった線の色は真っ赤であった。


「伯爵、術式で書いたものは赤いけどまさか血じゃないよな?」


「さて……なんだったか」


「ちょっとまて! なにを召喚する気だ。オーア国では魔法線だったはずだ、なんの血か知らんがそんなもんで召喚魔法陣が反応するわけがない」


「殿下、ザーム国では大昔血を使ったことが記録に残っているそうです、それに実際実験では反応を見せました」


「しかしだな」


「……殿下、しかたがないではありませんか、私一人では魔力を使った線を使えるほどの力はありませんから」


「だからって血で魔法線を描くとは……まあいい、とりあえずやってみせてくれ、なんの血かは聞かないことにする」


「はい、それではさっそく始めます、お二人は念のため離れていてください」


 ルードルフ伯爵は二人が離れたことを確認すると白黒の魔力が溜め込まれたクリスタルを起動させた。二つの魔力は血の線を伝っていき、初めに白の魔力が空のクリスタルに到達した。そしてもう一方の魔力も空のクリスタルに向けて赤い線をなぞっていく、しかしそこで二つのクリスタルに手を添えていたルードルフが苦しそうに渋面を作り始めた。顔からは吹き出るような汗で顔を濡らしている。


「おい伯爵! どうした、大丈夫か!」


「ググ……ググ……」


「おい!」


「で、殿下……魔力が……」


「なんだ?」


「殿下! 行っては危険です!」


「し、しかし、オイゲン、死んだらまずいぞ! クリスタルから伯爵を引き剥がすんだ! やはり様子がおかしい! 手伝え、オイゲン!」


「は、はい!」

 

 傍観を決めていたハーラルトとオイゲンは伯爵の異常にしかたがなく走り寄った。しかし……


「ちがう! わたしを引き剝がしてはダメだ! ま、魔力が足りない。殿下、魔力を! こ、ここへ!」


「いやしかし! わたしはほとんど魔力を持ち合わせていないぞ、知っているだろ」


 ハーラルトは次期王でありながら生まれた時からあまり魔力を持ち合わせていなかった。それが彼にとっては劣等感にもなっており、将来の跡継ぎのことを考えると、結婚する相手は普通より魔力が多い女性をと言われていた。


「あなたはこの国を背負っているのでしょう! このままではこの国はどちらかに併合されてしまいます! この機会を逃してはなりません! 大丈夫、ここに手を当てれば、わずかでも魔力を吸い上げてくれる、あと少しなのです!」


 ハーラルトは急に話が大きくなったことに一瞬体を引いたが、ルードルフは強引に迷っているハーラルトの手を掴んで無理やりクリスタルに触らせてきた。


「な、なにをする!」


「このまま動かないで! もう少しだ! そこに流し込んでくれ! この国の存続をかけると思って魔力を流すのです! あなたならわかるはずだ!」


「まてまて! それなら魔力が多いオイゲンがいるだろう」


「わたしは王族の魔力を、あなたの魔力を加えたいのです! だってあなたの魔力は……」


 黒のクリスタルから出た魔力は、一足先に半分まで白魔力で満たされたクリスタルの手前で止まっている、そのことからハーラルトも今の状況は理解できている。


「オイゲン! 何を突っ立っている、魔力だ!」


 そう言われたオイゲンがクリスタルに触ろうとした瞬間、彼はなぜかそれから弾かれた。彼はそのまま勢いよく壁に衝突して邸に大きな音を響かした。


「大丈夫か! ど、どうして、弾かれたんだ?」


「お、おそらく白魔法に反発して弾かれたのです、白の魔力はもう一杯です、く、黒の魔力が少し足りないのです! 殿下! はやく魔力を!」


「ええい、わかった、だが俺も弾かれるはずだぞ!」


「いいから!」


 ハーラルトはやけくそになって自身の魔力を流した。弾かれることを想定して全身に力を入れる。しかし、彼の魔力はなぜかスルスルとクリスタルに吸い込まれていく。


「いいですぞ、そのまま!」


「な、なぜ弾かれない!」


 流し込まれた魔力によってやっと空のクリスタルにたどり着いた黒い魔力は、ようやく二つ魔力が融合されて目的のクリスタルを光らした。それによって部屋の中に閃光が走る。閃光は次第に光の塊になり、白と黒の光が部屋の中で膨張していく、吹き飛ぶような光量にハーラルトは思わずその場で身を縮こませた。そしてしばらくして光が止んだ次に来たのは予想通りか、何事もなかったかのような静けさだった。


「な、なにも変化がない、そ、そんなはずは……」


 いつもの静かな部屋に戻ったことにルードルフは愕然としている。

 しかしハーラルトは違った。見えていたのだ、術式の向こうで佇む黒髪の人を。


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