ダメな店員
「いらっしゃいませー、こんにちは,お持ち帰りですか? こちらでお召し上がりですか?」
「....」
「あのーお客様?」
「あっ、はい。食べていきます」
後ろを見るとこの駅前のワイルドハンバーガショップの昼食時は、いつもの3倍の客で溢れている。広いレジカウンターまえにワッとやってきてワッと去っていく怒涛の時間帯だ。
それでも設立5年目を迎えて、当初メンバーを筆頭に手慣れた様子で列の波をこなしていく。
アシスタントの京塚 莉菜は公休日だったが、真面目な性格ゆえに仕事場に立ち寄ってみた。外から自動ドアの前に立つとその異変に気が付いた。その慌ただしい空気の中でなかなか進まない列がある。
皆をかき分けて前方にでるとそこには、花村 凛子とサブアシストの水木 玲奈が何やら、家族ずれのお客に対して平謝りを繰り返している。その後ろに待たされたお客たちの顔は苛立ちを隠せない。
私に気づいた玲奈は、目で救いを求めてくる。もう、お昼を食べに寄っただけなのにと思いながらも気が付いたら要領よくその場を収めていた。2時間の臨時出勤である。(ありえない)
場が収まってきてから同じ立場のアシストに「なぜ彼女、花村さんを接客にだしたの?」と問い詰めるとバイトが集まらなくて2年目の彼女を戦力にしたらしい。
それにしたってクビにしたいぐらいのダメなやつだった。それでも人が嫌がる土日祝祭日に出てくれるのでシフトには入れるが、いまだに新人でもやらないミスを繰り返す。パンを一つ頼むと1個持ってくるし(1つは、50個入りの1袋のこと)暗黙の了解なんだけど。マニュアルがあるにもかかわらず毎回ミスを連発する。当然いつまでたっても裏方。なのに…いまだに把握していないスタッフのメンバーのおかげでたまったものじゃない。
この日のことは当然、後日会議にかけられて彼女のことが問いただされた。
「彼女が入ると、ドジをした分の仕事が増えて大変なんです」
「何度言っても同じミスをくりかえすんです」
いくつもの不満がでて、予想はできてたつもりが褒められたことは一つもなかった。
いや、たった一つあるとしたら人がやりたがらない時間帯や祝祭日にも率先して出てくれること。それらの日は超忙しい日だけに、猫の手も借りたいぐらいなのだ。
当然やめてもらう方向性にきまりかけたとき、上司の一人が来月に店長が入れ替わるだろう!? 新しい店長に任せてみては…。といったん決まりかけた意見の流れが、真逆の方向を向いた。
若いのに、もの凄くやり手の店長らしいと評判の彼に花村さんの指導を任せることに決まった。