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紅彩の瞳  作者: 王理友恵
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「もしかして、弟は……修二は、マロの純金の首輪が欲しくて、カッターナイフで、首から外せない純金の首輪を外すために、マロの亡骸の、首を切ったんじゃないか、って……だからあの日、血のついたカッターナイフを持っていたんじゃないかって、私……!

 でも、私、誰にも言えなかった! 修二は、修二はいつもひょうきんで、穏やかで、ニコニコ笑ってる、そんな弟だったから。でも、脳裏にあの光景が張り付いているんです。それで、その後少しして……修二に少し知的障害があることが分かって……私、よく分からないから、こんなのおかしい、偏見だって思うけど、私、やっぱり修二はそういうことをやりかねない人間なんだ、って思ってしまった。今も、思ってる。修二は、理解できない人間なんだと思ってどこかで遠ざけてる。普通の家族ではなくなってしまったんです」

 一気に吐き出す。美晴は項垂(うなだ)れた。安積は腕を組んで、こちらを見つめている。その視線を避ける気力が美晴にはなかった。

 しばらく沈黙した後、安積は言った。

「その金の首輪さ。何か書いてなかった?」

「えっ?」

 急な話題転換に美晴は驚いた。何か?

「名前はもちろんだけど。住所や電話番号、書いてなかった? 迷子になった時に誰かが連絡してくれるように」

 美晴は思い出す。マロ、という名前と、電話番号。

「はい。ありました。それが何か……」

「修二くん。個人情報が漏洩してはまずいと思ったのかもよ」

 美晴は脳天を殴られた気分になった。

「金は腐りもせず、そのまま金。もし、何十年か後に、家がなくなって、楓の木も切られて、マロの死体も風化して……でも、金の首輪は残り続ける。未来の誰かがその首輪に書いてある個人情報を見つけた時、何が起こるか。おそらく何も起こらない。でも、その当時の修二くんはそうは思わなかったのかもしれない。家族を守るために、埋めたマロの首を切ったのかもしれない」

 美晴はポカンと口を開けた。あのひょうきんな修二が、(きん)欲しさにペットの首を切る。美晴の想像していたことの浅はかさを突きつけられた気がした。ずっと、しっくりくる答えだった。

「でも、首を切ったのは後ろめたかったから、カッターを隠したんだろう。どうかな、これで。……ごめん、全部想像だけどね」

「わ、私……私は、じゃあ、ずっと……」

 美晴は両手を小刻みに震わせた。

「須賀野さん、スッキリした?」

「スッキリした、って鷲峰さんの手柄みたいに。いい性格した高校生だなぁ、ホント」

「さっ、これで心置きなく帰れるわけね。気合い入れるわよ、皆さん」


 三人はまた黙り込んで、もっと深い森へ進んでいった。

「楢の木。これ、コナラだよなぁ。ミズナラもあるし。カエンタケはナラ枯れ病の木の根元にある、とか、そういえば聞いたことあったなぁ」

 なんとなくわざとらしく聞こえる口調で安積が言った。

「そんな大事なこと、どうして今思い出したのよ」

「いや、でもナラ枯れ病の木がどれだか分からないし、僕」

 両手を伸ばして木肌に触れ、安積はため息をつく。

「今、五時くらいか。大分暗いもんね。今日は駄目かなぁ」

 いつの間にか辺りは先ほどより薄暗くなっていた。話に夢中で頓着(とんちゃく)していなかったのだ。

「まあ、とりあえず、この黄色とか茶色に紅葉した木々の根元を調べて、っと。これで、なければ明日……」

 薄暗い中で、安積が手にするストックの先に、赤い指先のようなものが触れた。

「あっ、それ!」

 美晴は先ほど取り乱したことも忘れて、大きな声を上げた。

「あ! カエンタケだ!!」

 ストックで落ち葉が寄せられ、そのキノコが(あらわ)になった。

 炎のようにたくさんの指先を伸ばす、赤い赤いカエンタケがあった。

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