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最後の大賢者  作者: 春香秋灯
本編
9/24

母との再会

 母が屋敷に戻された。その報せを聞き、僕は仕事どころではない。というか、仕事、まだ引継ぎする前だったので、帰った。

 屋敷では、母を迎えてあわただしくなっていた。何か、空気が悪いような気がする。

 父上が先に来て、母がいるだろう部屋の前で待っていた。

「アラン、待て、話がある」

「後で聞きます」

 僕はやっと助けられた母に、はやく会いたくて、部屋に入る。


 随分と老けたな、とは思う。それでも、綺麗だった。あの皇族の末席は、母をどんなふうに扱ったのかは、見た限りではわからない。

「はは、………」

 母上、と呼ぶには、過去の自分と齟齬があることに気づいた。仕方なく、ゆっくりと母に歩み寄る。

 母は、窓の外を見ながら、不細工な人形を撫でていた。母が作ったのだろう。母は、不器用だった。

 僕が傍に立つと、母は驚いて、そして、微笑んだ。成長しても、わかるもんだな、と感動した。

「アルロ、見てください、アランですよ」

 母は、あの不細工な人形を大事そうになでながら、僕にいう。

 これだけで、父上が何を話そうとしたのか、わかった。そして、諦めた。

 そうか、僕は、実の父と瓜二つか。

 あの皇族の末席が、僕を見て睨んだのは、父と瓜二つだったからだろう。そこから、僕が母の子どもと勘ぐったのかもしれない。

 僕は、母の横に跪き、あの不細工な人形を撫でた。

「元気な男の子だね、ナターシャ」





 それから、三文芝居にならないように、実の父・アルロの情報を集めさせた。僕が生まれる前に死んだ男だが、親しい友人もいたようで、それなりに集まり、無難に母を満足させられるようにはなった。

 しかし、困ったのは、母ナターシャは、女だということだ。

 いつものように、不細工な人形を誉めて、会話をあわせていると、母は僕をじっと見上げた。

「アルロ、アランも一人では可哀想ですから、妹か弟を作ったほうが………」

 頬を染めていう母。僕は笑顔のまま固まる。え、こんな時でも子作りのこと口に出来ちゃうの!?

「もう少し、一人にしてあげよう。二人目は、君の体が落ち着いてからだ。ほら、最近も熱が出ただろう」

 出た出た。体も精神も弱っているから、発熱するする。

「ごめんなさい、私が弱くて。アルロは、その、したいでしょ?」

「………君の体のほうが大事だよ。さあさあ、今日もゆっくり寝なさい」

 僕はその話をぶった切って、母を無理矢理、ベッドに寝かせた。





 これは困ったことになった、ということで、相談したのだが。

「ライオネル様はいらない」

 何故か、ライオネル様がいる。もう、僕はこの人に敬意は持たない。

「ワシだけでは、解決するのは難しい話じゃ」

 話す人、選んでください父上! むちゃくちゃ面白がってるでしょ、この親父!!

「大家族だけど、こんな重い話は、相談に乗れないな」

「いてくれるだけでいいです。お願いです、置いてかないでください!」

 道連れは、もちろん、ザガン兄上。ダメ、父上とライオネル様と三人は、絶対にダメ!!

 場所は、歴代の筆頭魔法使いが使う屋敷の地下である。この地下、王城にも繋がっていたりする。

 うかつな所で話すわけにもいかず、ここにしたのだが、ライオネル様まで来た。仕事しろよ、仕事!

「そうか、子作りか。せっかくだから、教えてもらえ」

 本当に、このクソ皇帝、腐ってるよね。捨てた倫理観、取り戻してこい!

「いやだよ! なんで実の母親で初体験しなきゃいけないんだ!!」

「え、まだなの?」

 ザガン兄上はびっくりだ。

「そうだよなー、あんなにサマンサといい感じだったのに、手を出さなかったからな」

「それもこれも、ワシがアランに悪い遊びを教えなかったからじゃな」

「古傷抉るのはやめてぇ!!」

 サマンサの話はやめてほしい。だいたい、付き合ってもいないし、家族扱いだよ!!

「なぁんだ、やっぱり、お前、サマンサのことが好きだったのか」

「その話はいいでしょ! 母上のことですよ、今は!!」

「それで、サマンサちゃんとはどうしてたの?」

「何もありませんよ! やめてください、サマンサの話は!!」

「私としては、気になるなー。皇帝のお手付きのお前が、どんな甘酸っぱい恋していたか、とぉっても気になる」

「それ以前で、筆頭魔法使いになったんですよ。はい、終わり!」

 ライオネル様に言えるようなこと、本当にない。さりげなく命令しているけど、出てこないよ、何も!

 本当に何もないとわかって、つまらなそうにするライオネル様。帰れ!

「誤魔化して、もう一体、人形でも与えてはどうだ?」

「あの人形、母上の手作りなんです。下手に与えたら、浮気なんて言われそうで」

「難しいな」

 ザガン兄上が、真摯に考えてくれる。やはり、ザガン兄上は頼りになります。

「じゃが、ナターシャは、アルロと子作りしたいんじゃろ」

「よし、してしまえ」

「アンタは帰れ」

 不敬罪になってもいいから、この皇帝をどうにかしたい。

「これは、俺が間に入って、親子でやっちゃおう」

「僕の母上に手を出したら、命をかけてでも殺してやる!!」

「え、やめろ! ちょっと興味を持っただけだ!!」

 普段は鍛錬しか使わない剣を抜きはなって、あの倫理観ゼロの皇帝に刃を向ける。魔法は封じられるが、この武器なら、痛みに耐えればいける。

「やめろ、アラン様!!」

「落ち着くんじゃ、アラン!!」

 ザガン兄上と父上に止められた。





 こんな相談をしたが、母上は次の日には、また、もとに戻っていた。同じことを毎日、繰り返しては忘れて、となっているのだろう。杞憂な話で、安心した。

 毎日の、この三文芝居も、馴れてきて、僕は心が疲弊してきたのだと思う。母を選んだというのに、僕は満たされない。だけど、この現実から逃げるわけにもいかなかった。





 相変わらず、赤ワインで酔わされ、僕はライオネル様に蹂躙された。よくも飽きもしないな、と事後に思う。

「どうして、母を選んだ?」

「また、急に」

 終われば、ライオネル様は蜜事を求めた。楽しい話なんて、出てこないってのに。

「僕は育てのクソ親父を殺して、売られた母を見捨てた。また、見捨てるわけにはいかなかった」

「両方を選べただろう。あのサマンサという女も」

「筆頭魔法使いというものは、ライオネル様が想像している以上に重いものです。僕は、魔法使いとしての勉強をして、それがわかっていました。サマンサは、僕とは幸せになれない。だから、選べなかった。結局、逃げたんですよ」

 背中の焼き印で苦しんでいたあの頃、自分のことで手一杯だった。どうして、どうして、と苦しんでいるだけで、なんと、サマンサのことも思い出さなかった。こんな薄情な男、誰も幸せに出来ない。

 取り戻してみれば、母はおかしくなっていた。そんな結果は、逃げてばかりの僕にはお似合いだ。

「難しいことばかり考えて。もっと頭悪くなれ」

「あなたを相手にしている時は、頭が悪くなっているから、大丈夫ですよ」

 この男の前では、いつも、不敬罪なことばかりやって、考えている。

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