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最後の大賢者  作者: 春香秋灯
本編
8/24

悪い遊びを学ぶ

 何故、こうなったのか、わからない。

 気づいたら、平民服がライオネル様の部屋に並べられる。

 ことは、まあ、情事の後のちょっとした話から起こった。

「アランは、意外と、こういうのは平気そうだな」

「いえ、平気ではありませんよ」

 男に後ろから掘られるって、男として、平気であるはずがないだろう。

「事後が普通だ、というのだ。動揺したりしない」

「そりゃ、元貧民ですから、こういう知識もあります。幼い頃には、未遂でしたが、ありましたよ」

「ほぉ、どこのどいつだ」

「知りませんよ。貧民だから、どこかで死んでますよ」

 いちいち、人の過去で怒らないでほしい。あんたに会う遥か昔の話だから。

「ハガルの息子になってから、何か教えられたか?」

「魔法と家事手伝いくらいですね。ザガン兄上の実家は、子どもが多いので、そちらの世話もしました」

「どこか遊びには行ったか?」

「ザガン兄上の実家で過ごしてから、ずっと家でしたね。買い物とかもしたことがありません。貧民は、買い物、命がけでしたから、怖くて行けなかったのもあります」

 それ以前に、出られないように、家のことをさせられていたが。

 そういう話にびっくりしているのは、ライオネル様。

「え、遊んだこと、ない?」

「貧民は、遊ぶと危ないですよ。誘拐されるし、ナイフで斬られることだってありますから」

「ハガルのとこは、安全だろう」

「魔法使いになれば母を助けられる、という話でしたから、それが優先ですよ。どうしましたか?」

 両手で顔を覆って、ちょっと泣いてるライオネル様。え、何か泣かせるようなこと言った?

「ベッドの蜜事で、こんな重い話されるって、どうなの」

「知りませんよ! だったら、もう、この関係も終わらせればいいでしょう!! もっといい蜜事を話してくれる相手を探してください!!!」

「それはイヤだ」

 離してくれない。もう、僕はお役御免でいいと思う。

「休みはどうしてるんだ?」

「休みなんてありませんよ。休みたくても、あんたがこうやってベッドに連れ込むから、休みなくなっちゃうんです」

 お前のせいだよ、お前。もう、不敬罪の毒、吐き出してる。処刑されても仕方がないが、筆頭魔法使いは貴重だから、許される。

「いや、もっと休め。ほら、街で遊ぼう」

「遊ぶって、どうやってですか」

「それも知らないのか! ハガルの奴、どんだけ真面目に育てたの!!」

「いいじゃないですか。それが今の僕です。父上を悪く言わないでください!」

 血は繋がっていないが、父上のことは尊敬している。

 ライオネル様は、僕が父上のことを尊敬するのが、かなり引くことらしい。

「お前は知らないだろうが、ハガルは本当は最低なんだぞ。酒は飲む、博打はする、女遊びはする!」

「僕の前ではしていません」

「もう、年寄りだからだろ! あの伝説の魔法使いアラリーラが書き残した書物を読んでみろ。ハガルの悪行がつらつらと書かれているぞ」

「ちょっと読んでみたいですね、アラリーラの本は」

「食いつくとこ、違う!! いいか、私に悪い遊びを教えたのも、ハガルだぞ」

 僕はライオネル様を見る。悪い遊び、むちゃくちゃしてそうだな、と顔に出たので、おもいっきり頭をはたかれた。

「あいつはな、本当に最低な魔法使いなんだ。賢者じゃなかったら、今頃、野垂れ死んでてもおかしくない」

「父上を悪くいうのはやめてください。もう、帰ります」

「待て待て待て!」

 くそ、このバカ力が! 無理矢理、また、ベッドに押し倒られる。

「せっかくだ、今日は外に出よう」

「大きな問題があります」

「言ってみろ」

「僕の服は、魔法使い関係以外、ありません」

「誰か! 平民服を用意しろ!!」

 こうして、平民服が僕の前に並ぶこととなった。なんで?





 城はだいたい、秘密の通路がある。それも、魔法とか使われているので、普通には出入りが出来ない。そういうところを通って、ライオネル様と外に出た。

「街は危ないので、ついて行きます」

 と父上もついてきた。父上のほうが危ないから、僕が守ろう。

「荷物持ちくらいなら」

 ザガン兄上は道連れだ。僕じゃない。ライオネル様が呼び出した。僕じゃない!!

「すみません、ザガン兄上。ライオネル様は一度言い出したら、きかないので」

「不敬罪になったら、助けてね」

「絶対にさせません」

 という面々で、街を歩く。平民服を着ていていも、目立つのだ。

 特に父上が。

「大賢者様だ!」

「大賢者様、どうしましたか?」

「大賢者様!!」

 大人気だ。

「さすが、父上」

「普通にしていれば、ああなんだがな」

「師匠も、はめを外さなければ、まともなんですが」

 ライオネル様だけではなく、ザガン兄上まで、父上を斜め下に見ている。なんで?

 そういう歓迎を抜けて、どんどんと裏へと歩いていく。もっと表に行こうよ。

「せっかくだから、賭け事を覚えよう」

「やったことがないですが」

 ライオネル様、いきなり裏からですか。もっと表の遊びを教えてください。

 どっかの違法賭場に連れこまれる。皇帝が犯罪に手を染めるようなことするのは、やめたほうがいい。

 レートが普通の三倍だ。ついでに、いかさまやってるのが、ちらほらと。そこは、妖精憑きにはバレバレである。

 そんなとこに連れ込まれるのは、ザガン兄上も馴れているようで、普通である。

「ルールはわかるか?」

「子ども同士でやる程度は」

「じゃあ、一緒にやろう」

 というわけで、僕とライオネル様、父上のその他の客でカードをやることになった。配るのは、店側である。

 しばらくは、勝った負けたをしていると………

「負けたーーーー!!!!」

 父上がすっかりかけ金を失った。想像していたのと、違った。弱いんだ。

 下手な横好きなんだから、これは仕方がない。僕は、無難である。まあ、負けないし、負けそうなら降りるから。

「なんか、アランは強くない?」

「ライオネル様は運まかせですよね。やめたほうがいいですよ。あと、そこの、カード隠し持つのはやめろ。見える」

 さっさとイカサマを摘発して、ついでに貰っていく。イカサマがばれると、かけ金は、見つけた人のものである。

「ちょ、ちょっと、アラン、強すぎない?」

「陛下陛下、アラン、むちゃくちゃ強いんです。家でも、負け知らずだったんですよ」

 ザガン兄上が、ライオネル様にいう。

「ザガン兄上、それは、あの家の中だけですよ。初めてだから、手を抜いてくれたんでしょう。もっと本気出していいですよ」

 ライオネル様も優しいところがあるんだな。

 何故か、その場の面々が固まる。何か、おかしなことを言ったか?





「次は、酒と女だ!」

「おうー」

「はいはい」

 ライオネル様と父上はノリノリだ。ザガン兄上は、ちょっと引いてる。僕は、どう反応をすればいいかわからない。

 賭場ではいっぱい儲けてしまったので、そのお金を還元しよう、ということで、酒と女がセットとなる飲み屋に連れていかれた。僕のお金なんだが、ま、いっか。

 また、怪しい裏路地を歩いて、なんか、地下にある飲み屋に連れていかれた。もっと明るい所に連れてってほしい。

 なかなか露出の高い服装の、若い女があちこちにいる。案内されたテーブルには、可愛らしい女の子が、こちらと同じ人数、座っていた。

「お酒をどうぞ」

 なんて酒を勧められるが、僕は拒否。今日は、ライオネル様がいるので、絶対に飲まない。

「固いこというな、ほら、赤ワイン」

「やめてっ!」

 禁忌のものを注文すると、どーんとその場が暗くなる。赤ワインはダメだって。

「冗談だから。適当なのでいい」

 ライオネル様の注文に、値段のわからない飲み物が机に並ぶ。いくらなんだろう?

 金銭感覚が、僕にはない。買い物したことがないし、筆頭魔法使いでの生活は城の中だから、使うものってないような気がする。

 珍しく飲む飲む父上。普段から、節制させているので、たまには飲んだほうがいい。

「そういえば、父上はどうして結婚しなかったんですか?」

 酔っている時にしか聞けない話をしてみた。女嫌い、みたいなことをザガン兄上が言っていたが、ライオネル様は女好きっぽいことを言っている。どっちだ?

「結婚、したかったんじゃが、貢いだ女の子は、みぃんな、他の男と結婚したんじゃよ」

 本当に、女で遊んでいた。真面目なのかな、と思い込んでいた僕は、見知らぬ一面が見れて、ちょっと嬉しかった。子どもの前では、かっこつけたかったのかもしれません。

 どんどんと自白させたくて、僕は飲ませる。

「父上を振るなんて、見る目がない女性ですね」

「ワシは、普通じゃったよ。アラリーラ様は、すごい美形でな。こういう所に来ると、もてもてじゃった。羨ましかった」

「お陰で、僕は父上の子どもになれて、幸せです。最後まで、僕が面倒をみます」

「アランーーーー!!」

 父上は、僕の膝で泣き出した。泣かせてしまった。喜ばせようとしたのに。

 そんな僕と父上の話を聞いていた接待する側の女性は、ぐすぐすと泣き出した。

「なんていい親子なの。あなた、とってもいい子ね」

「すみません、湿っぽい話になってしまって。もっと飲んでください。食べ物はありますか? 果物にしてください。お酒飲む時は、果物と一緒だといいそうですよ」

 適当に注文して、泣いたままつぶれた父上を横に寝かせた。飲ませ過ぎたな。

「お前なー、遊びに来たんだから、遊べ。ここで、女を買うんだよ」

「ちょ、待ってください! アラン様にそういうことは、なんというか」

「確かに、そういう経験はありませんね」

 目の前の男ばっかり経験値あげてるな。ザガン兄上は止めるけど、こういう機会がないと、やらないような気がする。

「え、初めてなの?」

「知識はありますが、経験はないですね。あ、ある所がありますが」

「よしよし、誰か、こいつに女を教えてやってくれ!」

「ダメですよ! アラン様、断って!!」

「いや、ライオネル様のいうことは、絶対だから」

 僕が断っても、ライオネル様が命じれば、逆らえない。こういうことにも、平気で使うからな、皇権。最低な皇帝だ。

 平民であるザガン兄上では、ライオネル様を止められるはずもなく、何人かの女性が立候補してきた。

「どの子がいい?」

「どの子って、どの子も綺麗だったり可愛かったりしますから、選べませんよ。きっと、男性のほうがほおっておかないでしょうね。僕には勿体ない人たちだ」

「ちょっと、眩しい!」

「ムリムリ、善人すぎる!!」

 その後、女性たちは退散していった。なんで?





 父上が酒で起きなくなったので、ここで、終了となった。ザガン兄上は、そのまま実家に帰っていく。僕も行きたいけど、ライオネル様がいるからなー。

 城に戻れば、父上は、騎士が僕の屋敷に運ぶこととなった。いや、運んで、そのまま帰りたかったのに、ライオネル様が帰らせてくれない。

 そのまま、ライオネル様の寝室に連れ込まれるが、断固、拒否した。

「今日はイヤですよ。素面ですし」

「一回ぐらいいいだろう。別に、奉仕はさせないし」

 不思議なことに、ライオネル様は僕に奉仕をさせない。させられたら、吐きそうだけど。

「ライオネル様は、僕じゃない人を相手にしてください。僕は、靡いたりしませんよ」

「サマンサという女が好きなんだってな」

「違います。それに、サマンサは、もう結婚しています」

 余計なことを言ったのは、誰だ? 父上しかいない。ここで拒否っておかないと、とんでもないことになる。

「余計な勘ぐりはやめてください。僕は帰ります。母上に会いたくなりました」

「………そうか」

 卑怯なカードだが、ライオネル様は、僕を解放してくれた。

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