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最後の大賢者  作者: 春香秋灯
本編
7/24

皇帝のお手付き

 書類仕事は、まあ、適当にこなしている。ただ、僕が思っていたよりも、多いな、なんて見ていて、気づく。

「皇帝に会ってくる」

 僕は約束なんてなく、皇帝の執務室に一直線だ。ふざけんなよ、あの親父!!

 皇帝の執務室には、一応、見張りの騎士が立っている。

「お約束ですか?」

「そんなものない! 開けろ!!」

 僕の命令に黙って従う騎士。皇帝の部屋を自由に行き来できちゃう権力って、いらないな。

 しかし、僕は言わないといけない。僕は持っていた書類の束を仕事中の皇帝の前に叩きつける。

「どうして、僕に皇族の仕事がまわされるのですか!?」

 いくつか目を通して、終わらせてしまってから気づいた。不連続に、皇族の仕事が放り込まれている。

「皇族、お前のせいで、半分に減ったし、大変なんだよ」

「皇族でやってください!! 僕、皇族じゃないですから!!!」

 皇族減ったのだって、それは仕方のないことなのに、僕のせいにしないでください!! 酷い言いがかりだ。

 同じく書類の山をかかえる皇帝は、深くため息をつく。

「私だって、大変なんだ。しかし、こうして皇族の仕事を割り振れば、お前にも、それなりの権限が出来る。やりたいこと、やれるぞ」

「何、もっともらしいこと言ってんですか。僕はそれに乗りません!」

「ハガルはな、お前みたいな貧民を一人でも減らそうと、本当に苦労していたが、権限がなくってなぁ」

「父上を利用しないでください!!」

 父上に弱いことを知っている皇帝は、ここぞとばかりに使ってくる。乗らない、絶対に乗らない。

「いいですか、僕がこういう皇族関係のものを見ることは、皇族の立場を悪くします。もう少し、精査してください。やってあげますから」

「ハガルも、いい息子を持ったな」

「はいはい。とりあえず、僕のところに来てしまったものは、終わらせました。魔法使いの仕事に混ぜないで、別にしてください。頭の切り替えが面倒なんです」

 乗ったんじゃない、妥協だ。どうせ、明日も同じことをされるのなら、無難な方向に持っていきたいだけだ。

 そう甘い顔をすると、皇帝の目の前にある書類の束がずずーと僕のほうに押される。

「お前でも出来る仕事だ。頼む」

「他に皇族いるでしょう。もっと使いましょう」

「血ばっかりの奴らばっかりでな。ハガルはいいな。こんなに出来た息子がいて」

「今回だけですからね。見せてください」

 父上が褒められるのは、悪くない。仕方がないので、ぱぱっと終わらせた。





 筆頭魔法使いに加え、皇帝のお手付きとなってからは、まあ、色々と陰口もある。魔法使いの中でも、貴族出身や皇族出身もいる。僕の下につくのは、腸煮えくり返るほど腹が立つのだろう。

 そういう時、だいたい、僕関係で弱いところを攻撃されるものだ。それが、ザガン兄上である。

 僕の経歴は赤裸々に公表されている。貧民だった僕が大賢者に拾われ、なんと筆頭魔法使いになりました、なんて小説のような話に、平民も貴族も湧いた。ついでに、劇とかにもなったらしい。見に行かないけど。

 そういう綺麗な成り上がりの裏話もそこはかとである。僕が育ての父親を殺したことは、さすがに伏せられていたが、大賢者に拾われてから生活していた場のことは、隠しても隠しきれなかった。

 そのせいで、ザガン兄上が、酷い扱いを受けていた。

 こうなることは、わかっていたので、僕はザガン兄上を執務室に呼び、人払いをした。

「ザガン兄上、お元気ですか?」

「もう、兄上はやめてください。ザガンとお呼びください、アラン様」

 真面目なザガン兄上は、一歩下がった態度である。予想はしていたが、実際にされると、かなり痛い。

「約束したではありませんか。いつまでも、兄弟子だって。だから、ザガン兄上と呼びます。僕ことは、仕方がないので、様付けでいいですよ。人前に出た時、大変ですからね」

「わかった」

 僕の約束をザガン兄上は守ってくれた。

 僕が用意したお茶を飲みながら、最近のことを話した。

「サマンサが今度、結婚するんだ」

「それはいい話ですね。お祝い、何か贈ります。こういうことは、本当に知らないことばかりだから、何をすればいいか」

「サマンサは、アラン様のことが好きだった」

「………そうだったんですか、知りませんでした」

 知ってた。僕もサマンサのこと、そういうふうに見てた。でも、笑顔で嘘をついた。

 僕は、筆頭魔法使いになった時、母上とザガン兄上の家を選ばされた。結果、母上を選んだ。今更、サマンサのことを好きだった、なんて言えない。

「僕なんかを好きになるなんて、近すぎましたね。結婚相手は、いい人ですか?」

「………普通の人だ。アラン様のほうが、百倍いい」

「離れると、そう思ってしまうものです。僕は、とてもお世話になりましたので、出来ることがありましたら、何でも言ってください」

「師匠のお陰で、かなりたくわえがあるから、心配はない」

 僕と父上がお世話になっている間は、かなりの資金援助をしたらしい。僕は知らなかったが、ザガン兄上の下の弟妹や、ザガン兄上の兄夫婦の兄弟姉妹は、そのお金で学校にも通えたそうだ。

「そう言わずに、色々と、告げ口してください。ここに、これまで下っ端魔法使いにやられたことを書いてください」

 僕は、笑顔で真っ白な紙とペンを差し出す。

「………何を?」

「ザガン兄上にされた不当な扱いです。丁度いいので、絞めましょう」

「え、何を」

「使えない奴らは、使えるようにしないと、僕の仕事が増えます」

 本当に使えなんだよね、奴ら。仕事ぜんぜんこなしていないくせに、口だけは煩いから、耳が腐りそうだ。

 ザガン兄上は、真っ白な紙を見下ろす。僕は、ザガン兄上にペンを持たせる。

「証拠は出そろっているので、あとは、まあ、私情ですよ。ほら、書いて。叩けば、いっぱい埃が出てくるので、掃除しないと」

「あ、はい」

 諦めて、ザガン兄上は書いた。全部書いてね、証拠でそろってるから。





 筆頭魔法使いの仕事、多すぎる。なので、ここは平魔法使いに割り振ろう、と僕はその仕分けを出来る魔法使いたちを集めてすることとなった。その中には、ザガン兄上を無理矢理参加させる。

「ちょ、これ、まずいって」

「まあまあ、出来ないダメ魔法使いなんか、煩いだけだから」

 僕に無理矢理押し込まれるザガン兄上。わかる、この場で一番、下っ端なのはザガン兄上だ。

 けど、出来ないやつらはいらない。もう、本当に勘弁。

 集まったのは、皇族から貴族、平民の、それなりに仕事を魔法から書類仕事までこなせる面々である。いい感じだ。

 この面々の中で、実は一番下なのは、僕だけど。ほら、貧民だから。貧民出身、実はここにはいない。あえて外したわけではなく、貧民は、儀式をやらないのだ。たぶん、知らないのだろう。

「せっかく権力を皇帝陛下にいただいたので、貧民対策を行います」

「え、決定なんだ」

 皇族出身のロンガールが突っ込む。

「皇帝陛下には、好きにしろ、と言われたので、そこら辺の仕事、全部、こちらに集中します。よろしくお願いします」

 貧民対策の皇族系の書類は、全部、僕の所にまわされた。本当に酷いよ、あの親父。

「貧民なんて、病気の温床だよ」

 貴族出身のヘインズが文句をいう。

「僕、貧民出身。こういうこともあるので、貧民の扱いもしっかりしましょう。とりあえず、儀式を強制参加させるように、人を動かしましょう。不正行為が横行するかもしれないけど、まあ、そこは妖精の契約でしっかりやるということで」

「これ、魔法使い何人使うんですか!?」

 平民代表のザガン兄上が、僕が作った計画書にびびる。一人二人で出来ることじゃないよね。

「貴族どもは、ロンガールとヘインズが指導してください。なまけるやつは、減給で。不正行為は、常に僕の妖精が監視しているので、バレます。

 ザガン兄上は、平民のほうをお願いします。あまりいうこと聞かない時は、告げ口してください。絞めます」

 つい最近、貴族出身の魔法使いを絞めたけど。

 僕の実力は、ここにいる魔法使い全員が束になっても勝てない。なので、皆さん、大人しくいう通りに従った。





 それなりの許可がないと入れない禁書庫の鍵は、もう許可なく使えた。まあ、鍵というが、魔法だから。ある程度の妖精憑きなら、入ることが出来る。筆頭魔法使いだったらね。

 妖精憑きの皇族のことは、謎が多い。この、僕の背中に押された焼き印だって、はるか昔の技術である。なんとなく使っているのだが、わかっていないものは、使い方を間違えると、大変なことになる。

 書類仕事はすぐ終わらせ、貧民のほうは、計画書だけ作って部下に投げ渡すと、意外と時間がとれる。僕は本を読みふけっていて、人が近づいてくるのに気づかなかった。

「探してみれば、こんな辛気臭い所にいるとはな」

「ライオネル様、仕事はどうしたのですか?」

 それなりにズブズブになってしまい、皇帝陛下からライオネル様と呼び方を矯正させられた。名前呼びは、完全に強制なので、どうしようもない。

 僕と同じく、それなりに仕事があるはずだ。でも、鍛え抜かれた肉体から、僕のように、仕事を簡単にこなせるのだろう。出来るなら、僕に回さないでほしい。

「茶でも飲もうと呼んだら、いないというから、探した」

「一人で飲めばいいでしょう。僕は忙しいんです」

「忙しいやつが、本読むのか」

「筆頭魔法使いとしては、やらねばならないことですよ。他の魔法使いにはやらせられない」

 まさか、皇族の秘密を調べろ、なんて命じれない。とても大事なことなんだけど、皇族相手にするのは、普通の魔法使いには荷が重い。

「ちょ、やめてください!」

「読めばいいだろう」

「読めません!!」

 狭い場所で、ライオネル様が後ろから触ってくる。禁書庫であるがゆえに、持ち出せないので、ここで読むしかない。

 僕は集中出来ないので、本を戻した。

「お茶、付き合えばいいんですね。行きますよ」

「ちょっといいだろう」

「素面は絶対にイヤです!!!」

「一回くらいいいだろう。仕方がない、我慢してやろう」

 もっと我慢してよ、本当に!!

 時々、ライオネル様に仕事を邪魔された。

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