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最後の大賢者  作者: 春香秋灯
本編
6/24

筆頭魔法使い

 傷は完全に回復していないが、普通に生活出来るようにはなったので、改めて、城に行くこととなった。

 僕が連れ込まれたのは、代々の筆頭魔法使いが過ごす屋敷だ。城門の内側にありながら、一つの豪邸である。中に働く者たちは、王城勤めの者たちだ。

「お着換えをお持ちしました」

「置いていってくれ」

 着替えを手伝おうと使用人が来るが、僕はそれを拒絶した。背中がまだ痛むので、触られたくなかった。

 この豪邸には、父上もいた。僕がどうにか起きられるようになってから、父上は筆頭魔法使いの仕事をするために、足しげく登城した。あんな高齢者をこき使うなんて、酷いところだ。

 用意された服を着て、外に出れば、すでに案内の魔法使いが待ち構えていた。どこに向かうのかはわからないので、僕は黙ってついていくだけだ。

 登城し、例の儀式を行った広間に通された。儀式時は、魔法使いと皇帝だけだったが、今日は、僕のお披露目とあって、高位貴族や、皇族たちが集まっていた。

 僕の案内をした魔法使いは僕から離れて、魔法使いたちが並びたつところに行く。そこにザガン兄上の姿があった。兄弟子なのに、あの人は、あんな下のほうにいる。

 父上は、皇帝の隣りにいた。そこには、空位の席が一つある。あれが、僕の席だ。

 生まれは貧民の僕が、貴族よりも、ましてや、皇族よりも上の所に座るなんて、なんて皮肉なんだ。

「筆頭魔法使いアランよ、こちらに」

「………はい」

 皇帝に呼ばれても、僕は小さく返事をするだけである。ざわり、と貴族どもが騒ぐが、知ったことじゃない。ここに来ると、背中の傷が熱くうずく。

 ゆっくりと歩き、皇帝の隣りの席に座って、広間を見合す。

 なるほど、これが、筆頭魔法使い様の見る景色か。胸糞悪い。

 品定めをする貴族どもの視線に、吐き気がする。

 ふと、皇族席のどこかから、僕を射貫くように見る視線があった。見れば、いた。


 僕の血がざわりと騒ぎ出した。


「ぎゃぁああ!!」


 母を奪った、あの皇族の男が、僕の制御出来ない力に吹き飛んだ。

「アラン、アラン、落ち着くんじゃ!?」

 皇帝の前だからといって、落ち着けるか!! 背中が燃えるように痛い!!!

「やめよ、アラン」

 冷たい声に、僕の暴走した力がピタリと止まる。僕の中の力が、おさえこまれる。背中が熱く、痛くなる。

「申し訳ない。まだ、傷が癒え切っておらなんだ」

「この場で力を使えるとは、末恐ろしい男だ。いい。後で食事をしよう」

 皇帝は、楽しそうに喉で笑った。





 お披露目は中断するように終了し、僕は皇帝と食事をすることとなった。皇帝の横に座らされ、皇帝と同じものを用意される。

 少し、無理をしすぎて、体が熱く、食欲がわかない。

 僕が手をつけなくても、皇帝が食べるので、残ったものはどんどんと下げられる。

「毒は入っておらぬ」

「熱が出てきたので、食欲がわかないだけです」

 僕の父親くらい年上の皇帝相手に、僕はかなり無礼なことをしている。それが許されるのは、筆頭魔法使いの肩書のお陰だろう。

 食事が終わって、ワインが出された。帝国なのに、赤ワインとは、酷いな。

 赤ワインは、帝国では忌み嫌われている。


 遥か昔、大賢者アラリーラ様の伝説よりも昔、帝国は、一度、滅びかけた。聖域は真っ黒に染まり、王侯貴族や教会は腐敗にまみれていた。

 そこに、皇族で妖精憑きの皇女マリィが誕生する。マリィは、妖精憑きの力で、赤ワインを罪人が飲むと毒になる、という魔法をかけた。マリィは腐敗した実の父親である皇帝をも毒殺し、心ある姉を女帝として、帝国を正しい道へと導いた。

 しかし、マリィの赤ワインを恐れた帝国民は、赤ワインを毛嫌いした。

 そして、偉業を行ったマリィだが、帝国では血のマリィと、今も呼ばれている。


 そんな赤ワインを勧めるなんて、飲まないわけにはいかない。

 僕は一気に飲み干した。

「まずっ」

「………そうか?」

「水ください。お酒、飲んだのは、初めてで」

 酒なんて、飲まなくても生きていける! もう二度と、酒なんて飲まない!!

 まあまあ普通の水を貰って、僕は人心地をついた。

「あれは、皇族の末席の男だが、何かしたのかな?」

 やはり、聞かれた。末席とはいえ、皇族に魔法使いが攻撃したのだ。ただで済むはずがない。

 これは、皇帝からの取引だ。父上から、聞いているのだろう。

「皇帝陛下にとっては、筆頭魔法使いと皇族の末席、どちらが大事ですか?」

 せっかくなので、乗ってみた。ダメならダメで、次の手段を探すだけだ。

 目の前には最高権力者がいて、僕を捕まえようとエサまで連れ下げているのだ。僕のほうに天秤が傾くと予想した。

 皇帝はワインを飲み干し、僕をじっと見る。

「そうだな、もう一つ、上にのぼるのなら、考えよう」

 もう一つ上って、賢者ですか? それは無理ですよ。

 賢者になるには、後続となる筆頭魔法使いを育てないといけない。長年、筆頭魔法使いになれるような妖精憑きが見つからなかったというのに、僕が見つけられるはずがない。

「ほれ、もう少し飲みなさい」

「美味しくないですし、まだ、背中が痛むので」

「飲め」

 こういう時、卑怯にも、皇族の権威を振りかざす。

 普通の人なら、まあ、逆らって、不敬罪になるのだが、僕は違う。

 筆頭魔法使いの儀式で背中につけられた焼き印は、皇族に逆らわないようにするための首輪の役割がある。皇族が命じれば、僕は逆らえない。

 仕方なく、赤ワインを少しずつ飲む。さっきみたいに、一気飲みをしなければ、我慢して飲める。

 そうして、勧められるままに赤ワインを飲んだ僕は、途中、意識を失った。





 気づいたら、見知らぬベッドの上で、何故か、皇帝が隣りで寝ていた。

 服を探すが、ない。中を見れば、事後だという形跡がある。これはあれだ、お手付きというやつだ。

「いや、僕は男だし」

「もう起きたのか。もう少し、休ませろ」

「これは、どういうことですか?」

 休ませてやるものか! 酒に酔った勢いにしては、随分と計画的にこなしたな、この親父は!! しかも、僕は酒に飲まれても、記憶が残っている。頭の中には、昨夜行われた皇帝の情事が再生される。いや、これ、いらないから!!

 もっと心温まる記憶を呼び覚ましたいけど、昨夜のことが痛烈すぎて、吹っ飛んだ。頭が色々な意味で痛い。

 めんどくさそうに横になったまま、皇帝は僕を見上げる。

「これで、一段階あがったな」

「予想外だよ!!」

 皇帝のお手付きって、とんでもない上がり方だな!!

 いや、待て、冷静になれ。皇帝は、子どもが五人はいる。これは、お互いの間違いだろう。

「では、これは酔った勢いの間違い、ということで、なかったことにしましょう」

「私は、男のほうが好きなんだ」

「やめてぇ!!」

 耳を塞ぐが、この人、容赦なく、俺の両腕をふさいで、ベッドに押し倒してきた。この親父、僕よりもしっかり鍛えてやがるよ!!

「良かったじゃないか。お前の望み通り、あの役立たずな皇族の末席を平民に落としてやろう」

「背中が痛いから、やめてください!!」

 羞恥もあるが、それよりも、まだ癒え切っていない背中が痛い。昨夜も容赦なくやってくれたけど、まだ、完治じゃないからね!!

「仕方がない。今日はここまでにしよう。明日には、お前の母親を屋敷に送ってやろう」

「もうやりません!!」

 僕の決意など、皇帝の耳には届いていない。このズブズブな関係は、長く続いた。





 酷いもので、食事に誘われると、赤ワインが最後にくる。皇帝は絶対だから、逆らえないので、赤ワインを飲んで、前後不覚となっているところをベッドに連れ込まれることが多かった。

 もう、王宮中が、僕が皇帝のお手付きだって知られている。恥ずかしい!!

 僕は知らなかったが、皇帝が男色なのは、有名な話だった。皇帝なので、子作りは立派にこなしたから、誰も文句は言わなかった。

 子作りをするようになってから、男色が見られなくなったので、まともになったんだねー、なんて言われていたところ、僕が犠牲になった。何故、僕!?

 皇帝は、僕との約束通り、母を取り戻してくれた。こういう取り戻し方は、考えてなかったな。

 納得はいかないが、それでも、母を取り戻し、あの、皇族の末席を平民に落とせたので、感謝するしかない。





 筆頭魔法使いになったので、父上がこなしていた仕事が僕のほうにどんとまわされた。家、帰れるのかな? なんて考えてしまうほどである。

 だいたいは、聖域関係である。帝国には、元ある聖域は十個だが、そこに、元公国の聖域十個がある。合計ニ十個の聖域を常に監視しなければならないが、それは、筆頭魔法使いの役目となっている。聖域の力を使いこなせるのが、上位の妖精憑きでないと無理だからだ。

 聖域同士は、道が繋がっている。本来なら、馬で行くか、魔法具を使って転移するかであるが、筆頭魔法使いは聖域から聖域へと渡れる。

 僕が幼い頃に帝国の聖域から元公国の聖域へと渡れたのは、それだけ、上位の妖精憑きだったという証だ。

 上位の妖精憑きでも、これが、皇族だと、話は違うらしい。そこは、帝国の筆頭魔法使い以上が口伝で伝えられていて、普通の魔法使いは知らないことだ。


 最初は、父上と一緒に聖域を移動する。初めてなので、僕にはわからなかったが、一度、体験すれば、すぐに吸収した。

 いくつかの聖域を飛んでいくと、あの、因縁の聖域で、僕の足が止まる。僕にしか見えない幻の女が、僕を待ち構えていたかのごとく、姿を表す。

「父上、この聖域だけ、気味が悪いんですが」

「………お前は、皇族の血が強いのかもな」

「あれですか、王国の王族と帝国の皇族は特別だって話」

 血のマリィが誕生する前に、聖域の資料等は燃やされてなくなり、もう、知っている者もいないという話だ。

 王族と皇族は、もともと、神様に選ばれた血族だ。神様は、王族と皇族に妖精を与え、聖域を守らせたという。聖域を守るかわりに、自然の豊かさを与えることを神は約束した。だから、聖域を守るのは、王族と皇族の役目である。

 どう守らせるのか、という所が、大昔の間違いによって抜けてしまったので、現在は、手探りの状態で行っているだけだ。

 かの血のマリィでさえ、儀式と称して、生まれた赤ん坊を聖域に連れていかせ、ら妖精憑きを見つけ、それを魔法使いにする方法を継承させたにすぎない。それまでは、皇族が魔法使いの役割を担っていたはずだ。

 皇族の血族といっても、貴族に嫁入りしたり、婿入りしたり、あっちこっちに広がっていっている。聖域に連れていけば、妖精憑きの赤んぼうが市井で見つかってもおかしくない。

 しかし、現在、皇族には妖精憑きは生まれていない。だからといって、権威が落ちるわけではない。皇族は、絶対に存在しなければならない。その理由が、まだ、わかっていない。

「過去の口伝を一度、文章に落としましょう」

「いや、それはダメだ」

「たまたま、僕という筆頭魔法使いが父上の存命中に見つかりましたが、次はどうなるかわかりませんよ。これは、体制を変える必要があります。父上は、ゆっくり休んでください。あとは、僕がやります」

 権力握ったので、もう、やりたい放題してやろう。

 父上には悪いが、退場してもらった。まあ、父上、楽できるって、むちゃくちゃ喜んでたけど。





 あの、どうしようもない皇族の末席も、ただ、平民に落とすわけにはいかなかった。一応、儀式はやったのだ。

 簡単だ。僕に命じれるかどうかである。

 僕の戒めは、皇族の血の濃さが関係する。皇帝は、もう、問答無用である。酒飲め、と命じられれば、飲みたくなくても飲むよ。

 簡単な儀式を皇帝のお手付きとなった次の日にやらされた。

 もう、僕が皇帝のお手付きだって、皇族のみなさん、わかっていらっしゃる。女からは蔑まれ、男からは気持ち悪いと見られ、酷いものだ。誰も好きでなったわけではないのに。

 皇帝から見て、叔父叔母、兄弟姉妹、子、甥姪、と集まった。

 あの、皇族の末席は、前皇帝の玄孫になるそうだ。皇族同士で、上手に混ざっていたりすれば、それなりに濃い血筋になるはずだ。

 そして、その皇族の末席の男は、僕に向かって、

「跪け!」

 なんて命じてきた。

 残念なことに、僕の背中はうんともすんとも言わなかった。こういうのを見ると、皇帝の恐ろしさが身に染みた。

 そうして、篩にかけられる皇族たち。なんと、半数が皇族ではなくなった。

「想像以上に、凄まじいな」

「え、僕が悪いの?」

 恨みつらみの視線がすごい。僕に命じる血の濃さが足りなかっただけだよね!!

 皇帝はいたく感動して、あの皇族の末席の男を除く皇族失格者は、貴族にしてくれた。

「ふざけるな!! こいつ、わざと従わなかっただろう!!」

 わかってる、苦情でるよね。僕でもそうなる。

 暴れる皇族の末席の男を納得させるため、皇帝が前に出る。

「アラン、私の靴をなめろ」

 僕は抵抗出来るはずもなく、皇帝の靴を舐めた。酷いな、この親父。

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