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最後の大賢者  作者: 春香秋灯
外伝 大賢者の弟子
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違う道

 何故、皇帝候補を三人に絞ったのか? そのことがわかるのは、俺たちが学校に通う年頃になってからだ。

 結局、最後まで皇帝の勉強をさせられた。

 頭がいいコモンは良かった。腕っぷしだけのテリウスは大変だった。

 そのテリウスをも教育してしまうアランはすごかった。ようは、要点だけをテリウスに教え込んだだけだ。皇帝になる者は、バカと気狂いでなければいい、をそのまま体現させた。

 俺はというと、手を抜いていると、貧民問題に関われないので、さっさと終わらせた。終わらせたけど、コモンとテリウスが終わっていないので、結局、待つこととなった。

 学校に通うのが一番ははやいのは、テリウスだ。その次は、俺。そして、コモンが最後の予定だった。

「年齢で通う期間を決めると、後々、面倒なので、テリウス様にあわせて、さっさとライアン様とコモン様も学校に通わせてしまいましょう」

 アランの提案に、ライオネルお祖父様は頷く。アランの提案に反対したとこ、見たことないな。あれか、面倒だから、いうこと聞いてるだけだろうな。

 というわけで、年齢に達していないというのに、俺とコモンまで学校に通うこととなったのだが、その前に、とんでもない洗礼を受けることとなった。





 アランは暗部にも手を伸ばしている。暗部は何かと後ろ暗いことをしている。ちょっと前は、アランが捕まえた密偵を暗部が拷問したりしていた。そこの見学をさせられる俺たち。皇帝候補は、視覚的にもアウトなものも受け入れないといけない。

 しばらく夢に出たな、なんてお互い、仲良く話して、地下に行く俺たち。もう、馴れたものだった。

 地下には、暗部の部隊長カシウスとアランがいた。

「今日は、アラン様がやるんですか?」

 アランは人も殺さないような顔をして、かなりえぐい拷問をする、と話では聞いていた。とうとう、アランの本性を垣間見れるな、なんて俺は軽く思っていた。

「それぞれ、座ってください」

 拷問を命じる人が座る椅子を勧められる皇帝候補三人。かなり、複雑な気持ちなるが、アランには逆らわない。ほら、本気になったアランは怖いから。

 それぞれ、アランには恐ろしい目にあわされているので、逆らわない。アランは皇族の制約なんかの隙をついて、精神的に苦痛を与えてきた。本当にえぐいんだよ。

 アランはというと、拷問を受ける人間を拘束する椅子に座った。アランが座ると、なんか、違う椅子に見えてしまう。

「どうですか、拷問を見るのは慣れましたか?」

「馴れた、というより、吐かなくなったよな」

「夢には出ますが」

「肉が食べられなくなりました」

「馴れてよかったです」

 いや、馴れてないって。俺たちが、遠まわしに、まだ無理ですよ、と訴えているのに、アランは全く無視だ。

「カシウス、針を渡してください」

 カシウスは、無言で俺たちに縫い針を渡す。

「それは、拷問用の針です」

「いえ、縫い針です!」

 俺は思いっきり否定してやった。これは絶対に縫い針と言い張らないといけない!!

「そういう使い方もあります。ですが、ここでは、拷問用の針です」

「縫い針にしてくださいーーー!!」

「貧民問題の見学で見たでしょう。使われた後のところを」

「………み、見ました」

 嘘はつけない。嘘はすぐ、見破られる。だって、妖精は嘘を見破る。そんな妖精の声を聞いて見れるアランには嘘がばれる。

「というわけで、拷問の練習です。ちょうどいいのがいませんので、僕が拷問を受けましょう。カシウス、拘束を」

「はっ」

 とんでもないことを顔色一つ変えずにいうアラン。

 俺だけではない。コモンもテリウスだって、驚いて、一瞬、呼吸が止まった。

 そんな俺たちなど無視して、カシウスはアランの両手両足をベルトで椅子に拘束する。

「僕の目に、その針を刺してください」

「出来ません!!」

 何言ってんだよ、この男は!? 俺はこの縫い針と言い張った針を投げ捨てた。

「そんなことしたら、失明しちゃうじゃないですか!?」

「僕はしません。僕は貧民であった時に、目に物凄い数の針を刺されても、失明しませんでした。力の強い妖精憑きは、目ぐらい、すぐに治してしまえるんですよ」

 初めて聞く話だった。

「ライアン様は、貧民問題に関わりたいとおっしゃいました。だったら、拷問は出来るようにならなければなりません」

「皇帝候補だったら、やらなくていい?」

「ライオネル様にも、僕の目を潰してもらいましたよ」

 なんて酷いことをさせたんだ。

 アランが表に出る前までは、ライオネルお祖父様はそこまでのめりこむような相手はいなかった。一時の遊び程度と、誰が見てもわかっていた。

 ライオネルお祖父様は、アランのことを溺愛している。アランのために権力を与え、アランが呼んでも来ないならライオネルお祖父様が足を運んだ。そんなライオネルお祖父様に、なんて残酷なことをさせたんだ!?

「あなた方は、帝国に絶対に必要な三人です。一人は、皇帝。もう一人は、戦場に立つ者。そして、最後の一人は、暗部です。ライオネル様は、三つの役割を一人でこなしていました。しかし、それは、皇帝を失った時に穴があきます。だから、三つにわけたんです。三つにわけ、一人欠けても、皇帝の役割をこなせるようにしました」

 拒否する言葉が出せない。アランは、色々なことを平行して行っている。それは、遠い未来に向けて、着実に進めていた。今は無駄だと思われることも、遠い未来ではそうでないように、進めている。

 カシウスが新しい針を俺に持たせた。

「感染症は痛いので、消毒してあります。大丈夫ですよ。僕は、すぐに治りますから」

「痛みは? 痛みはどうなんですか?」

「今は、切り離すことが出来ますから、大丈夫です」

「はっ、なんだ、それ」

 拒否する道を全て塞がれ、俺は、仕方なく、アランの目に針を刺すこととなった。





 終わった後、手が震えた。アランはどこを刺しても、平然としていた。それが、日常だったんだろう。

 コモンは出来なくて、カシウスの手で無理矢理、やらされた。その感触に、泣いた。

 テリウスは勢いでやってみたが、かなりの出血に、吐いた。

 とんでもない最後の洗礼を受けた俺たちの前で、傷だらけのアランは血で汚れた服を着替え、見栄えが良くなくなった片目を包帯で塞いで、平然と立っていた。

「また、時間をおいて、やってもらいますから、心構えをしっかりしてください」

「まだ、やるんですか!?」

「いい罪人がいたら、殺さないようにしてくださいね。証言は必要ですから」

 斜め上のことをいうアラン。

 見た目や物腰は穏やかだから、アランはとても安心できる人だ。しかし、そのままで、口から吐き出される悍ましい内容は、アランを異様にさせた。

「ここだけの話をしましょう」

 片目となったアランは、憔悴している俺たちの前に、普通の椅子を持ってきて座った。

「僕が筆頭魔法使いになったばかりの頃に、ある貴族の処刑をライオネル様にお願いしました。その貴族は、僕が貧民だった頃、僕を拷問していた貴族でした。その貴族は、僕が妖精憑きだと知り、拷問して、将来的には僕を貴族の暗部にしよう、と画策していました。

 もちろん、当時の僕はそんなこと知りませんでした。貴族にそんなふうに狙われているとも知らず、拷問を受け、その日のはした金を受け取っていました。それも、僕は育ての父親を殺し、街にいられなくなり、さ迷っていた所を、大賢者だった父上に保護され、生き延びました」

 それは、隠された、アランの過去だ。

 表向きでは、アランは貧民だったところをたまたま大賢者ハガルに保護されたこととなっている。

 アランが貧民の頃に人を殺したことなど、聞いたことがない。

 アランが貧民の頃に拷問を受けて、金を受け取っていたことなど、知らない。

「妖精憑きを隠していた罪で、その貴族を捕縛し、僕自らが拷問して、情報を出させました。なんと、その貴族、僕以外にも、妖精憑きを見つけて、屋敷に隠していました。力はそれほど強くなかったですが、僕のように、傷がすぐ治るので、日常的に拷問されていましたよ。それが、そこにいる、カシウスです」

 カシウスは、新しい暗部の部隊長だ。見た目は俺たちより上で、アランよりは下の大人だ。

「カシウスは、気の毒に、回復が追いつかず、失明してしまいました。もう、世界が見えないカシウスに、仕方がないので、僕は魔法を教えました。カシウスは、僕よりも遠くを見渡せる、妖精の目を手に入れました。妖精憑きとして、力が弱いので、それ以上のことは出来ません。だから、体術のほうを鍛え、ここまで昇り詰めました。どうですか、カシウス。ここまで生きて」

「アラン様のお陰で、汚れたものだけでなく、綺麗なものも見えるようになりました。感謝しかありません」

 カシウスは、アランの前に跪き、深く、頭を下げた。

「たまたまですよ。あの貴族には、恨みがあったから、やっただけです。運が良かったですね」

「妖精のお導きです」

 笑っていう二人。壮絶な過去だというのに、今は笑っている。

「僕とカシウスの過去の話は以上です。もう、帰っていいですよ」

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