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最後の大賢者  作者: 春香秋灯
本編
14/24

王国との取引

 ライオネル様を僕が殺したことで、僕は離宮への幽閉となった。筆頭魔法使いを野放しには出来ないし、かといって、貴重な妖精憑きを殺すわけにはいかない。

 誰も邪魔が入らないそこで、アグリは僕に命令し放題だった。もうちょっと、穏やかな感じの子を運命の相手にしてくれればよかったのに。

 そうして血なまぐさい日々を送るある日、王国から密書が届けられ、それを僕はアランリールから見せられた。

「今日も激しかったんだね」

「ライオネル様やられたことをそのままアグリにしているだけです。あれ、女性相手でもかわらないんですね」

 ベッド上で力尽きるアグリに、アランリールが熱い視線を送る。好きなら、口説けばいいのに。

 アランリールとアグリは結婚し、皇帝とその妻となった。表向きは、アランリールが夫のような役割をしているように見せて、実は、僕がアグリの相手をさせられていた。

 長年、ライオネル様の相手をさせられていた僕は、受け身ながらも、それなりに知識があった。お陰で、毎日のようにアグリを満足させていた。

 僕は、満足出来ていませんがね。

「兄上、王国からの密書、出来ますか?」

「また、無理難題を」

 王国からの密書には、第二王子の幽閉への手伝いが書かれていた。第二王子は、かなり優秀な男の上、妖精憑きだ。人間的に幽閉したとしても、妖精憑きには効果がない。

 その妖精憑きの力をどうにか封じてほしい、と密書に書かれていた。今のところ、妖精憑きの力が発揮されていないのは、使いこなせていないからだろう。本気になれば、あんな離宮、吹っ飛ぶ。

「兄上は、筆頭魔法使いだから、出来ますよね」

「格が違いすぎまず。あの第二王子は、帝国の妖精憑きが束になったって勝てません。断ってください」

「やってください」

「やってもいいですが、一年ですよ。あと、どうなっても知りませんよ」

 命令されたら、やるしかない。本当にこの背中の焼き印、消してやりたい。

 僕は久しぶりに外に出るため、適当な服に着替える。これから王国に密入国するのだから、筆頭魔法使いの服はダメだ。

「兄上」

「何ですか?」

「僕も兄上とやりたい」

「やめてください、そういうの」

「僕はアグリとは出来ない。だったら、かわりに兄上としたい」

「上手に誘導しなさい。同じ血筋なんだから、きっと妖精憑きが生まれる、なんて言って」

「アグリは兄上のこと一目惚れなんだって。夢に出るほど、ずっと愛してる。僕は、見てもらえない」

 アグリの傍に腰かけ、やさしく髪を撫でるアランリール。こういうのは、うまくいかないものだ。

 こんな狂った女を愛したために、国をめちゃくちゃにしている。聖域は、緩やかに穢れていっている。すぐには滅びないが、皇族の妖精憑きを生み出さないと、今度こそ、滅ぶだろう。


 何故、アグリはアランリールを探して、仮の夫にしたのか。


 もう少し待っていれば、僕とアグリは公の場で夫婦になれた。そうなるように、僕はライオネル様を説得していた。だから、待てばよかったんだ。

 なのに、待てなかったアグリは、ライオネル様を殺して、公の夫婦ではなく、秘密の関係を選んだ。お陰で、僕はずっと娼夫だ。最低だ。

「アランリール、なるべく優しくしてあげますよ」

「お願いします、兄上」

 結局、僕の背中の焼き印は、皇族の願いを叶えよと熱く、苦痛を与えた。





 王国には、聖域を通して侵入した。人を連れて行くのは目立つので、僕一人だ。王宮の作りは、どこか、帝国のものと似通っているな、と思ったら、同じだった。ライオネル様によって、裏の通路も全て網羅している僕は、離宮にいる国王の所まで、誰にも見つかることなく侵入出来た。

 まさか、僕一人で侵入してくるとは思ってもいなかった国王は驚いて、剣を構えた。

「帝国の筆頭魔法使いアランです。皇帝の命により、こちらに参上いたしました」

「ああ、あの時の、魔法使いか」

「あまり、公にするわけにはいきませんので、僕一人で来ました。さて、あの妖精憑きを封じるのですか」

「出来るか?」

 目に見えない力なだけに、国王も困っているのだろう。

 離宮自体には、それなりの魔法がかけられている。今は、その魔法のお陰で、第二王子の妖精憑きの力がおさえられていた。しかし、所詮は一時しのぎだ。あのような化け物、簡単に封じられるものではない。

「そうですね、一度、妖精憑きになってみませんか?」

「どういう意味だ?」

「あれだけの妖精を封じるのは不可能です。だったら、一時的に、他の人に妖精を憑けるのです。血縁ですし、いけますよ」

「妖精憑きの力か。よし、それでいい」

 儀式は簡単だ。なにせ、血縁だから、妖精のほうが間違える。ちょっと国王のほうに間違えるように、僕が簡単な術を施した。

 いきなり、妖精憑きとなったといっても、本人はよくわからないだろう。妖精憑きの力は、本人の才能に左右される。

 しかし、この国王は妖精憑きの才能はない。妖精は使いこなせないだろう。

 ただ、一方的に妖精に憑かれた国王は、目に見えないことだから、よくわからない、と首を傾げる。

「これで終了です。気を付けてください。妖精は、悪戯をしますよ」

「わかった」

 これで終了だ。国王は、妖精憑きの才能がないというのに、あの恐ろしい数の妖精を引き連れて、離宮を出て行った。

「まあ、一年といったところでしょうね」

 一応、言われた通りのことをした。後は、どうなっても、僕には関係ない。僕は来た時と同じく、誰にも見られない通路を通り、帝国に帰った。





 そして、一年後、妖精の力に耐えきれなかった国王は、死んだ。





 国王が死ぬと、次の国王が立ち、離宮に幽閉されていた第二王子は、王弟殿下として解放された。そしてすぐ、王弟殿下は、僕の妖精を王国にいるにもかかわらず、盗った。

 とてつもない剛腕で妖精を根こそぎ盗られた僕は、もう、帝国では役に立たない、それどころか、妖精憑きを怒らせた火種となった。

「いや! アラン様!!」

 妊娠して、身重となったアグリが僕を離さない。

「王国の妖精憑きは、帝国の妖精憑きが束になっても勝てません。アグリ、離しなさい」

「一緒にいきます!」

「身重のあなたがですか? あなたは、僕の子どもを無事、産みなさい。いいですね」

 妖精が全て引きはがされたからか、僕は、一時的に皇族の命令が効かなくなった。そこをバレてしまうと危ないので、僕は言葉を選んだ。

「アラン様、愛しています」

「僕もです。アランリール、アグリを頼みましたよ」

「はい、兄上」

 アランリール、とっても嬉しそうだな。そりゃ、僕は邪魔だからな。

 アランリールとしては、ぜひ、王国で僕に死んでほしいのだろう。どうなるかは、あの王弟殿下次第である。

 アグリを説得し、帝国の船に乗せられた。見張りに、皇族出身の魔法使いロンガールと貴族出身の魔法使いヘインズが同行した。

「アラン、これからどうなる」

 魔法使いたちは、帝国の現状を誰よりも理解している。縋るように、ロンガールが僕を見る。ヘインズも、口には出さないが、僕を見た。

「もうすぐ、王国と公国が戦争を始めます。僕は、そこに連れて行かれるでしょう」

 国王が死んだ今、公国は停戦協定が終わる。国王の寿命が停戦協定の期間だからだ。もう、情報は、公国に流れているだろう。


 まあ、もっと前に、僕のほうで流したが。


 あの国王が、妖精の力に負けることは、すでにわかっていることだった。第二王子を解放するには、あの国王が邪魔だ。だったら、穏便に退場してもらえばいい。そして、解放された第二王子は、僕の妖精を盗るだろう。妖精が、復讐するはずだから、そうなることは、一年前からわかっていた。そして、妖精がいなくなった僕は、帝国では用無しとなる。ついでに、離宮の幽閉に力を貸した責任を僕一人に押し付ければ、帝国としても痛みはないわけだ。

 かといって、王国は帝国に色々と責めている場合ではない。戦争が始まるのだ。そっちのほうを優先するだろう。

「もう、裏で暗躍するのは、面倒なんですよ。それで、僕に何をしてほしいんですか」

 そこらの説明をしてみると、ロンガールとヘインズが真っ青になる。悪いこと、しまくりだからね、僕。

「何やってるの、アンタ」

「それ、むちゃくちゃ国家間問題だよ」

「このまま帝国に縛り付けられてたら、僕の力で帝国滅びますよ! 今は、時間稼ぎをするしかありません。

 いいですか、アグリの子どもで、妖精憑きのほうは、絶対に引き離してください。貴族どもで、バカなことを考えている奴らなんていくらでもいます。そいつらをそそのかして、誘拐させなさい。あとは、妖精がどうにかしてくれます」

「自分の子どもだろう!」

「煩い! だいたい、ライオネル様がアグリに刺されるようなこととなったから、こうなったんです。僕がいれば、絶対になかったことです!」

 あの頃は、昼夜問わず、僕はライオネル様の近辺を妖精に見張らせていた。お陰で、休み返上していた。

「僕とアグリの子は、運命の子です。神の祝福があります。絶対に大丈夫です」

「その運命の子って、何?」

「僕は、どうやら、皇族の血筋が濃いようです。そういう妖精憑きは、神が定めた相手と子をなすと、何かが起きるらしいです。その検証をしよう、とライオネル様を説得しているところに、あの小娘、クーデターをしやがって。次に会った時は、殺してやる」

「え、殺すの?」

「ええ、殺します。アグリも、アランリールも」

 絶対に、僕の手で、あの二人は殺す。それは決定事項だ。

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