表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の大賢者  作者: 春香秋灯
本編
13/24

皇帝の交代

 ライオネル様のお見舞いにいけば、平気そうな顔をしている。しかし、もう手足が毒のせいで動かないそうだ。

 一生、ベッドから動けない。

「どうだった、王国は」

「あんた、バカですか。だから、離れたくないって言ったのに」

 僕はベッドの脇に跪き、自由に動かないライオネル様の手を握る。握っても、握り返されない。

「誰にやられたんですか」

「お前の運命の女だ」

「はっ、あの女、どこまでも嫉妬深いな」

 すっかり女性として育ったアグリは、僕のことを見れば、愛をささやいてきた。もう手をつけてもいい頃合いだろう、と言われたが、ライオネル様がそれを許さなかった。

 アグリとライオネル様は、仲が悪い。すっかり女性となったアグリは、笑顔で毒を吐くしし、ライオネルはもういい歳だというのに、同じように毒を吐く。結果、この二人を一緒にすることは危険だった。

 まさか、毒殺までやるとは。アグリも恐ろしい女に成長したものだ。

 もっとこう、穏やかな女性がいいな、と僕は思うが、現実はそうはいかなかった。血筋だな、血筋。

「これからどうするんですか? もう皇帝出来ませんよ」

「お前が皇帝になれ」

「アホ言わないでください。筆頭魔法使いは僕一人です。兼任は危険です」

「アグリと結婚して、あいつを女帝にすればいいだろう」

「僕はもうちょっと、大人しい女性がいいです」

「サマンサちゃんな。調べた。普通の大人しい女だな」

「やめてください。彼女は、そういうのじゃありません」

 そういう気持ちになりかかった所でわかれた。サマンサのことは、それ以前の状態だ。

 どうしてこう、ドロドロするかなー、と僕が困る。それを嘲笑うかのように、アグリが一人の男を連れてやってきた。

「アラン様、こちらにいたのですね!」

「アグリ、なんてことをしたのですか。ていうか、どうして自由に歩いてるの」

「私の夫が皇帝になるからです。見てください、この男、見つけました」

 笑顔で連れてきた男を僕に見せる。嫉妬させたいのか? しないけど。

 一目見て、その可能性もあったよな、と僕は今更ながら気づかされた。

 面差しが、随分前に他界した母に似ていた。あの元皇族の末席と母の間に生まれた息子だ。背中がうずく。血筋的にも、申し分ない。

「初めまして、兄上、アランリールといいます」

 手を差し出してくる、父親違いの弟は、どこか、狂った目をしていた。




 アランリールは、母から生まれたのだが、生まれてすぐ、養子に出されていた。そのため、誰も気づかれなかったのだ。

 僕の元に来た時には、母は狂っていた。子どもがいないな、と不思議には思ったが、まあ、そういうこともある、と気にしなかった。まさか、こんな立派な皇族の血筋の子を誕生させたとは。

「復讐にでも、来ましたか?」

「まさか! 父親の情なんてありませんよ」

 場所をかえて話してみれば、僕には特に思うことはないようだった。だけど、その目は違う。

 集まった皇族は、アグリとアランリールを恐れた。あの皇帝を毒殺する凶事を起こしたが、皇族としての血筋が濃すぎだ。僕では対抗出来ないのだ。

 むしろ、僕はこの二人に操られてしまう。

 いつかは気づかれる。その前に、僕は彼らの方向を変えることにした。

「それで、君が皇帝に決定か。血筋的にも、申し分ないからな」

「そうです! 僕は筆頭魔法使いの兄上のように、立派な皇帝になります!!」

「僕は、立派ではありませんよ。むしろ、最低ですから」

 皇帝のお手付きをいいことに、権力を使いまくっていたからな。最低だ。

「知ってます。兄上は、少しでも国のために、と貧民たちを助けようとしていたのですよね。優しい兄上です。ですが、僕だったら、もっと簡単に解決します」

「まさかっ!」

 僕は窓に駆け寄り、遠くを見る。見えないので、妖精の力をかりた。

「燃やしてしまえばいいんですよ」

 アランリールは笑顔で言った。やりすぎだ、このクソガキ。

「さて、動けなくなった皇帝は、どうにかしないと。兄上、お別れの挨拶、してください」

「もう、浮気はいけませんよ」

 アランリールとアグリは、他の皇族たちを連れて、部屋を出ていった。





 最後挨拶しろ、というので、仕方なく、僕はライオネル様が寝る部屋に戻った。

「戻ったら、悪夢ですよ。何やってんですか、あなたは」

「油断した。悪い」

「まあ、いいですよ。ほら、最後の挨拶に来ましたよ」

「もっと、こう、情感をこめていってくれ。愛してる、とか」

「………」

「え、愛してくれない?」

「僕のどこがよかったんですか」

 随分と長いこと、この男に翻弄された。ライオネル様ほどの男であれば、僕にこだわる必要はないだろう。むしろ、僕みたいに嫌がる男なんて、相手にするだけ無駄なはずだ。

 情事は、完全な一方通行だ。僕からは求めないし、奉仕もしない。ただ、ライオネル様にされるがままだ。酒に酔わせないと出来ないなんて、何が楽しいのやら。時々、失敗して、情事の最中に吐いたことだってある。

 首だけは動かせるライオネル様は、僕をまっすぐ見る。

「一目惚れだな。あの儀式で絶望にひしがれているお前に、惚れた。あれが、私の初恋だ」

「最低だな、あんた」

 なんつう場面を一目惚れにしてるの。頭おかしいんじゃないか。

 僕が筆頭魔法使いになるために、背中にとんでもない焼き鏝をあてられ、悶絶している僕を見て惚れるなんて、最低だ。

「アランはずっと受け身だな。来るもの拒まずだろう」

「拒ませてもらえなかっただけです。アグリも、これから拒ませてもらえないでしょうね」

 あのドロドロとした執着は、気持ち悪い。

「まあ、良かったです。僕なりに、ライオネル様には情があります。だから、僕が殺してあげます」

 筆頭魔法使いだからと、武器を調べないとは、甘いよ、あいつら。僕は隠し持っていた切れ味抜群のナイフを出す。

「良かったですね。妖精が、きちんと導いてくれますよ。ほら、ここを斬れば、助かりません」

 あのクソ親父の時と同じく、ライオネル様の首をさす妖精。妖精、こわっ!

 この後、ライオネル様はそれなりの拷問を受けてからの処刑となるだろう。このまま放置というわけにはいかない。だったら、さっさと楽にさせたほうがいい。

「アラン、すまん」

「黙れ」

 初めて、僕からライオネル様に口づけした。そして、首をナイフで切り裂いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ