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最後の大賢者  作者: 春香秋灯
本編
11/24

次の筆頭魔法使い

 それなりの年齢を重ねると、予防策も考えるものだ。

 とても長生きした父上も、とうとう動けなくなった。少しでも生きてほしいと願うが、ずっと眠っては起きる姿は哀れでならない。随分と、帝国のために働いたのだから、もっと楽しい事をさせてあげたかった。

 時間の合間に、せっせと父上の元に行く。仕事は随分と人に回していたので、やることはなかった。皇帝も、さすがに空気を読んで、仕事をふらないようにしてくれた。

「アラン、アラン」

「はい、父上、ここにいますよ」

 手を握れば、壊れそうなほど細かった。この手で、僕は育てられた。

「すまない、こんな道を歩ませて」

「僕は満足ですよ。父上、謝らないでください。感謝しかありません」

「ワシには、過ぎた息子だ」

「そう思っていただけて、嬉しいです。僕は、父上のように立派な魔法使いになりたいと思っていました。なれていますか?」

「アラリーラ様のようだ」

「ほめ過ぎです」

 大魔法使いアラリーラのことは、よくわからない。伝説の人だが、父上は、その時代を生きて、伝説を見た人だ。

「アラン、もういい。好きに生きなさい」

「離してもらえないんですよ、皇帝が」

「あの男は、アランには手を出すな、とあれほど言ったのに、手を出しおって」

 事後に、父上は激怒して、ライオネル様のところに怒鳴りこみに行ったとか。どういう話をしたのか、今も知らない。戻ってきた父上は、色々と諦めた顔をしていた。

「そのうち、飽きますよ」

「飽きなかったじゃないか」

「元気なだけですよ。そうじゃなくなったら、僕は自由です」

 本当に元気すぎてこまる。僕のほうが力尽きるのが早そうだ。

 遠くを見る父上。思い残すことが多そうだ。

「アランに出会った日、ワシは、公国に行く予定ではなかった」

 初めて聞く話だ。

「何故か、公国の聖域にいた。そして、アランがいた。アラン、あれは、聖域の導きだ。聖域は、時々、神の意思により動く。アランを拾ったのは、神の導きだ。最高のものを拾えた」

「僕も、素晴らしい父上に出会えました」

「そうか。そうか。嬉しいな」

 そうして、眠るようにして、父上は息を引き取った。





 大賢者が亡くなったことで、先送りにしていた問題を解決しなければならなかった。

 これまで、実力がなければ、筆頭魔法使いにはなれなかった。そのため、長年、筆頭魔法使いは空席となった。しかし、たった一人の賢者が担うには、重責すぎた。

 そこで、僕の代からは、名目上の筆頭魔法使いをたて、その知識や教えを伝達させることにした。実力は、まあ、そういう人が出た時に、どうにかすればいい。

 実力のある筆頭魔法使いの繋ぎとしての魔法使いを選定することとなった。

 そこで、誰がいいか、という面談を数人の魔法使いにすることとなった。





 まずは、皇族出身のロンガールだ。さすが、ライオネル様の血族だけあって、おおらかな人である。

「お呼びたてして、すみません。最近はどうですか?」

「皇帝陛下とはどうなの?」

「貧民対策のこと話してください」

「しっかりやってるよ。貴族出身の魔法使いも、頭おさえてるから、安心して」

 やることやってるけど、余計なこと話すのは、勘弁してほしい。そこが、血筋だな、と思い知らされる。

「どうですか、筆頭魔法使いに向きそうな人はいますか?」

「え、俺じゃダメなの?」

「若返ってから戻ってこい」

「若さって、実力的には俺もいけるでしょう」

「僕より十くらい若かったらいいですが、僕より年上でしょう。実力以前に、先に寿命全うしそうな人を僕の次には置きません」

「………何人かいるよ。平民だけど。平民は、難しいと思うよ」

 思い当たる実力者がいるけど、身分が難しいのか。

「そこは、ロンガールが後ろ盾で頑張ればいいことだ。頑張れ」

「え、アランは後ろ盾にならないの?」

「その時は、賢者になっている予定だから、それどころじゃないだろう。父上、賢者でも、忙しそうだった」

「引退がないんだね」

 妖精憑きは、死ぬまで妖精憑きだ。





 次は、貴族出身のヘインズだ。かなり平民や貧民に対して蔑みがあるが、実力と見る目はある。話せばわかる。

「来てくれて、ありがとうございます、ヘインズ」

「皇帝の娼夫に呼ばれたら、来るしかないでしょう」

「悔しかったら、寝てみろ」

「男に掘られてたまるか」

「皇帝のお手付きになれば、一つ位があがるぞ」

 僕に対して、本当に尊敬とかない。だから、僕もそういうのはヘインズに向けない。

「貧民対策はどうですか?」

「言われた通りにやってる。掃除するのは大切だからな。変な病気がはやるのは困る」

「そうか。女遊びはほどほどにな。病気貰って大変なことになっても、責任はとれない」

「………」

 個人情報なんて、暴露されているのは、僕だけではない。本人はうまく隠しているつもりだが、ほら、バラすやつはいるから。

「ここからが本題なんだが、筆頭魔法使いに向いていそうな魔法使いはいますか?」

「俺」

「あー、はいはい。それ、ロンガールからも言われました。なので、却下です」

 みんな、自信満々に自己主張してくるな。僕なんか、なりたくてなったわけじゃないのに、世の中は、不公平だ。

 あんな痛い目にあいたいとは、とは心の中で思っておく。皇帝の言葉一つで翻弄されるような契約紋が背中について、初めてわかることだろう。背中が痛い。

「貴族でいるかというと、いないなー。子どもはわからないが」

「子どもから育ててみてみるしかないかなー」

「お前が子ども育てるのかよ」

「こう見えても、魔法使いになる前は、大家族で子育て手伝ってたんだよ。みんな、今は立派に大人だ」

「知ってる。なんでもそつなくこなすな。本当にむかつく」

「経験値の差だろう。まあ、いい子がいたら、教えてくれ。ついでに、筆頭魔法使いになったら、後ろ盾になってやってくれ」

「お前がやればいいじゃん。貴族じゃない筆頭魔法使いなんか、イヤだぜ」

 本当に偏見の塊だな。これで仕事出来なかったら、役立たずだよ。

「帝国のためだ。そういうものは飲み込め」

「そういう契約だもんな」

 妖精憑きは、終生、帝国のために生きる契約をさせられている。





 最後は、平民代表であるザガン兄上である。困った時は呼び出されているばかりなので、ビクビクしていた。大丈夫、皇帝はいない。

「お久しぶりです、ザガン兄上。皆さんは元気ですか?」

「みんな、元気だよ。もうそろそろ、僕も身をかためろって言われてる」

「ああ、確かに」

 そういえば、ザガン兄上、未だに独身だ。

 先に呼んだ二人も、何故か独身だった。仕事割り振りすぎたか?

「もう少し、仕事減らしましょうか」

「いやいや、いい出会いがないだけだよ。アラン様に比べれば、休む時間はいっぱいある」

「僕を比較対象にするのはやめたほうがいいですよ。筆頭魔法使いって、本当に人権とかないですから」

「あ、うん、そうなんだ」

 休みの日は、皇帝のベッドだよ。本当に、僕の安らぎどこにあるのやら。

「誰かには聞いているかもしれませんが、筆頭魔法使いになれそうな若者はいますか?」

「僕よりも実力上の魔法使いはいっぱいだからね、どれもなれるって言っちゃうよ。その中でも、ロンガール様とヘインズ様は際立ってるね」

「本人たちも自薦してました。まあ、わかります」

 年齢がそれなりに若かったら、僕もあの二人のうちのどちらかを選んでいた。生まれなおして来てくれれば、筆頭魔法使いになれる。

「まあ、いっそのこと、アラン様が誰かと子どもつくればいいんじゃない?」

「………」

 思い浮かぶのは、運命の人アグリである。しかし、彼女はちょっと、あれだな、危険な気がする。

「もしかして、そういう人がいる?」

「そういうのじゃない。ただ、筆頭魔法使いとして、調べていることがあって、それが僕の子作りと関わっているだけだ。あまり、いい話じゃない」

「アラン様は、どこまでも仕事人間だね」

「あ、うん、そうだね」

 思い返すと、人生の半分以上が魔法漬けである。魔法なしの生活って、してなかったな。

「ザガン兄上の提案も、考慮にいれましょう。子作りするかは、まず、相手だ」

 僕の運命の人は、まだ若すぎる。





 というような面談の後に、皇帝の食事に呼ばれる。拒否したい。

 今日も最後の〆は赤ワインだ。もう、赤ワインは一生分飲んだから、もういらない。

「後継者探しをしているそうだな」

「父上も亡くなりましたし、僕も危機感を持たないと」

「まだ若いだろう」

「あなたはいい歳なのに、若いですよね」

 もうちょっと落ちついてくれ。孫までいるのに。

「あの運命の女と結婚するのか?」

「ぐっ、ごほっ!」

 どこまで情報漏れてるんだろう。あれ、書面で残してないけど。

「誰にも聞いてない。そういう話になるのは、後継者を探している時点で、出てくるだろう」

「可能性の問題です。僕の子どもが才能を受け継ぐとは限らない」

「皇族の血は濃くなるがな」

「………こういうことも、もう、ほどほどにしてください。僕も、もう少し、あの聖域のことを調べたい」

 いい加減、このズブズブな関係をきりたい。

「いいじゃないか、命令されてやらされてるだけなんだから」

「………そうじゃなくなってきてるから、イヤなんだ」

 背中の焼き印の痛みは、心から抵抗する時に起こる。僕が望まないことをさせようとすると、痛みとなって、強制的にさせられるのだ。

 ライオネル様との行為は、最初こそ、痛みしかなかったが、それも馴れてきたのか、今では、痛みもなく、強く求めるほうへと操作されている。

 ライオネル様は嬉しそうに笑う。

「酒もほどほどに、行こうか」

「飲みます。絶対に素面ではやらない」

 僕は一気に赤ワインを飲み干した。

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