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最後の大賢者  作者: 春香秋灯
本編
10/24

次の皇帝の選別

 定期的に、皇族は選別される。その度に、僕はライオネル様の靴をなめさせられた。最悪だな、この男は。

 ここまで出来る皇族はいないため、なかなか、次の皇帝候補は決まらなかった。皇帝は、血筋だけではなく、その能力も必要なので、もっと大きな見方で選ばれるが。

 大人はもう手遅れなので、若い子どもをとうとう連れてきた。

 赤ん坊はまだ無理なので、それなりの年齢の子どもが集められる。男大好きだけど、五人の子どもを作ったライオネル様の孫は、かなり多い。皇族の役目はしっかり果たされている証拠だ。

 もう、隠されることなく、おおっぴらに皇帝のお手付きになってしまった僕は、ともかく蔑まされるように見られる。お前らの親だろう、どうにかしろ。

 子どもは、魔法使いは見ることはないので、物珍しそうに見てくる。が、親は絶対に僕に近づけさせない。僕が被害者なんだよ、僕が!

「とりあえず、一人ずつ、アランに命じてみろ。座れくらいでいいから」

「お願いですから、靴をなめろはやめてくださいね」

 子どもに言われたら、しばらく立ち直れないよ、僕。

 ライオネル様に言われた通り、子どもたちは、僕に「座れ」と命じる。イヤな命令ではないので、背中は軽くうずくだけで、僕は座る。それの繰り返しをしていると、いやなものを見てしまった。

 一人、どこか空気の違う女の子がいた。その子は、じっと僕を穴があくほど見つめた。そのまなざしと面差しに、僕は何かを感じた。

 誰かに似ていると思うが、ライオネル様の血縁だから、そう思うのだろう、と僕はその時、勘違いしていた。

 そして、最後に、その女の子・アグリが僕の前に立った。


「苦しんで」


 燃えるほど恐ろしい痛みが背中に走る。強制的な命令に、僕は呼吸が止まり、倒れて、悶絶した。

 声も出ないまま、悶絶する僕を助けたのは、ライオネル様だった。ライオネル様は、アグリをひっぱたいた。

「うわぁあああああーーーー」

「この小娘を外に出せ!

 アラン、アラン! もういい。元に戻れ!!」

 アグリの泣き声が遠くなるにつれ、僕の支配はライオネル様にうつり、呼吸が戻った。しかし、酷い苦痛を一度、受けてしまったため、意識を失った。





 気づいたのは、いつもの皇帝の寝室である。こういう時、別の部屋にしてくれればいいのに。

 てっきり、一人かと思ったら、ベッドの横で、僕の様子を睨むように見ているライオネル様が座っていた。

「大丈夫か?」

「優しくしないでください。男にやられても、気持ち悪いだけです」

「酷いな」

 いつもの調子なので、ライオネル様は安心したように笑う。いや、本音だから。

「あの子はどうしましたか?」

「城から出した。あいつは、皇族にしない」

 アグリのことを口にすると、再び、ライオネル様の怒りに火をつけた。そういうのは、本当にやめてほしい。

「皇族にしましょう。彼女、アグリは、あなたよりも血が強い」

「皇帝にするのか?」

「いえ、皇帝には出来ないでしょう。僕が命をかけて、皇帝にさせません。せっかくなので、皇族の誰かと結婚させ、子をなしなさい。そうすれば、血筋のしっかりした、立派な跡継ぎになります」

「随分と、遠大な話だな」

「ただ、気を付けないといけない。アグリは、たぶん、僕の運命だ」

「運命?」

 皇族の血筋と、あの幻の女を見せる聖域の謎が、なんとなく、解けた。

 僕は、たぶん、皇族の血がそれなりに濃い。あの聖域は、皇族の血筋で何かを作るために、皇族の妖精憑きに、運命の相手を見せている。

 父上は、妖精憑きとしては力があるが、皇族の血が足りなくて、あの聖域では運命の相手が見れなかったのだろう。

 聖域が見せた運命の相手は、あの幼い少女・アグリが大人になった姿だ。見たことがあるはずだ。

「あんな恐ろしい女が好みなのか? 見た目か?」

「違う。まだ、確証がないから、はっきりとは言えないが、僕とアグリは、何か繋がっているだろう。これが、いいことなのか、悪い事なのか、今はわからない」

「あんな女はやめろやめろ」

「皇族なんて、あなただけで十分ですよ。もう、大丈夫ですから、帰らせてください」

「ダメだ。ここにいろ」

「僕がまわりで、どう言われているか、知っていますか? 皇帝の娼夫です。それはまあ、元貧民ですから、僕は気にしませんが、あなたの家族は気にするでしょう」

 何言われても、僕の精神は鋼鉄だから、逆にやりかえすが。

 今日の儀式での、ライオネル様の子どもたちの視線は、なかなか痛い。色々と、言われているのだろう。可哀想に。

「いいんだ。私は、皇帝になってやったんだ。これくらい、好きにする」

「そうですね。皇帝って仕事は、大変ですよね。わかりますわかります。手伝わされていますから。あの人たちも、もっとやればいいんですよ。皇帝の娼夫がやってる仕事、やらせてください」

「明日にでも、やらせよう」

 仕事が増えそうだな。うかつなことを言って、後悔した。





 儀式はあんな終わり方をしたが、しばらくは、皇族の仕事がなくなった。本当にさせたんだな、と感心したのだが、すぐに、ブーメランのごとく戻ってきた。

 あの時に、僕を蔑むように見ていた、ライオネル様の子どもたちは、僕に書類を持ってきた。

「あなたがこれ程の方だとは、存じませんでした」

「これは、我々では手に負えません」

「よろしくお願いします」

 早いよ、ギブアップするの!!

 仕事、やってあげないと、下々が困るので、僕は受け取る。これ、ライオネル様のもあるよね。後で絞めてやる。

「ものは相談なのですが、次の皇帝になるかもしれない、我々の子どもたちの教育をお願いしたいのですが」

「それは、きちんとした教師にまかせたほうがいいですよ」

「これほどの仕事が出来る方なんです。むしろ、よい経験になります」

 皇帝の娼夫なんで、ろくなことを教えれないと思いますよ。なんて毒をどうにか飲み込んだ。いけないけない、こういう事は、あの皇帝だけにしか言ってはいけない。

 書類を精査し、ライオネル様に文句を言ったけど、子どもの教育の件は、僕に丸投げされた。本当に酷いな、この男。





 言われた以上、教育は週一で行うこととなった。年齢も性別もバラバラだから、知っていることと知らないことがある。そういう基本は、教育係りにやらせればいいので、僕がやるのは、心得を教え込むことだ。

 といっても、僕の心得は筆頭魔法使いの心得である。それは、皇族の心得に近い。

「特に難しいことではありません。皇帝は、帝国の民のために生きる、これだけを心がけてください」

「皇帝になったら、好きなことは出来るんじゃないんですか?」

「やっていいですよ。帝国が滅ぶだけですから」

「え、滅ぶの?」

「一度、好き勝手やった皇帝がいて、滅びかけましたよ。血のマリィの話は知っていますか?」

「悪い事したら、毒殺されるって言われた」

「まあ、あながち間違っていませんね」

 こういう話をするだけだ。これ、魔法使いの勉強だって、読まされた本の中にあった。後で考えてみれば、皇帝とかが読む本だよね、あれ。何も知らないって、恐ろしいものだ。

 僕の話には、だいたいの子は熱心に聞いてくれたが、アグリは違った。彼女は、僕をじっと見つめるだけで、何も言わない。目が怖い。

 運命の相手だったら、好意でも自然と抱くかな、と僕は思ったのだが、実際はそうではない。何の感情もない相手と政略結婚する感じだ。思ったよりも、情熱がない。

 逆に、アグリのほうには、情熱らしきものが見られる。ライオネル様に見られているようだ。顔立ちも血縁だから、似てるし。いかんいかん、ほだされるな。





 魔法使いでも、皇帝でも、基本は一緒だが、絶対に間違えていけないことがある。

「帝国と王国は、公国と違って、妖精と神の祝福で生かされています。神の祝福は、帝国では十の聖域から流れていると言われています。この聖域を清廉に保つことが大切なのですが、こちらは、人のあり方によって、穢れてしまうことがあります」

「悪い事をしたら、ダメというのですよね」

「そうですね。でも、人間はやはり悪いことをしてしまいますから、常に神に許しを得るために、祈り、見直すことが大事です。やってしまったことは仕方がないので、次はやらないようにしよう、ということですよ」

 この話は、なかなか難しい。妖精と神と聖域は、一言では説明が出来ない。

 子ども向けに、悪いことをしないように、と言ったところで、それだけでは終わらない話もある。

「妖精憑きは、わかりますか?」

「妖精の姿が見えたり、声が聞こえたりする人のことですよね」

「その通りです。僕も妖精憑きです。妖精憑きは、神様から与えられた力を使うことが出来ます。妖精憑きの特別さは、聖域と対話する力にあります。聖域と対話し、聖域を浄化するのです」

「魔法は?」

「魔法は、妖精の力です。妖精は、色々なことが出来ます。火を灯したり、水を出したり、土を掘ったり、遠い場所へ飛ぶことも出来ます。その力を妖精憑きはかりているだけです。それが、魔法と呼ばれます」

「すごく便利だ」

「だから、妖精憑きは、最初に、帝国のために働くように、契約をします。そして、僕みたいに強い妖精憑きは、危険なので、強い契約をさせられます。その契約の強さが、君たち皇族の血の濃さです。

 間違ってはいけないのは、皇族の血が濃いからといって、皇帝になれるわけではありません。皇帝になれるのは、きちんと勉強し、帝国のために生き、帝国のために戦い、帝国のために死ねる人です。まあ、その心得を心の片隅に持っていればいいですよ。普段は、とりあえず、国のために良いことをしてください」

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