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【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~  作者: イトカワジンカイ
最終章 逆襲編

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そして悪役令嬢は…

最終話です!

その日、ガイザールは歓喜の声で溢れていた。

輝く太陽がその存在を示すように青空の中で光を放っている。


その天高い青空に、舞い散る色とりどりの花びらは散りばめられ一つの絵のようだ。

風に舞う紙吹雪が笑い声をあげて駆けまわる子供達の上でひらひらと踊っているようだった。


それをまだイリアは知らないまま、王城の一室で緊張な面持ちで椅子に座っていた。


(く…口紅、ずれそう…。というか化粧崩れてたらどうしよう…)


普段は薄くしかつけない化粧をばっちりと施され、少しだけ落ち着かない。

コンコンとドアをノックする音が聞こえたので返事をすると、外から見知った顔ぶれが現れた。


「イリア~!!」

「レオナード、今から泣いてどうするんだ?」

「だって…だってさ…イリアがあいつに奪われるんだよ!…やっぱり王家など滅ぼせばよかった」


冗談とも取れない口調で言う父親にイリアも苦笑してしまう。

それを宥める様にレオナードの肩を叩きつつ、ライラがイリアを見つめた。

そしていつもはキリリとしたクールな目元を少しだけ、眩しいものを見るように目を細めた。


「うん。綺麗だぞ、イリア」

「ありがとうございます、母様」

「色々吟味したがそのデザインが一番似合っている」


イリアは本日真っ白なウエディングドレスに身を包んでいる。

夜会で着るドレスとは違い、着慣れないためなんとなくそわそわしてしまう。


そう、本日はイリアとエリオットの結婚式だ。

断罪劇終了後、いきなりのプロポーズを受け、イリアは一刀両断でお断りした後に、ディボの家へと帰った。

だがエリオットはしつこくプロポーズをしに毎日のようにやって来る。


フィールドワークに出ても出没するし、アイ・アンド・ティー商会の商談の夜会にも待ち受けている。診療所で診察している時にもそばでイリアの診察を見続けていて、患者さんも苦笑しまくっていた。


それだけのストーカー行為をされた上に、国王と王妃が「あなたがいないと世継ぎも出来なくて国が滅んでしまう」などと切々な文面の書簡が何度も届いた。

結果、イリアはもう諦めの境地で結婚を決めたのだった。


イリアは立ち上がって、両親の真正面に立った。

十二年前に屋敷を出てからも、影に日向にとイリアの成長を見守ってくれていたのをイリアは知っている。


「今までお世話になりました。父様と母様の子供に生まれて幸せです。育ててくださってありがとうございました」


深々と礼をすると、両親のハッとしたような顔をしたのち、寂しげで、でも嬉しそうな、そんな複雑な顔をしてイリアを見た。

レオナードは号泣し、ライラの目にも光るものがあった。


「いついかなる時も、お前は私達の誇りだ。トリステン家はこの先王家に忠誠を尽くす。だがそれはお前がいるからだ。家を離れてもお前は私達の可愛い娘だ。辛い事があれば帰ってくるといい」


そう言ってライラはイリアをそっと抱きしめた。


「おーい、イリア。準備できてっか?」

「あ、カインも来てくれたのね!」

「あたりまえだろ?」


続いて入ってきたのはカインだ。

本日はランディック国王名代として参列していることもあり、正装をしている。

どう見ても立派な王族という雰囲気だ。

カインは少しだけ驚いた表情をしてからじーっとイリアを見るので、イリアはドレスが似合わないのではと急に不安になった。


「や、やっぱり変かしら?」

「いや…なんつーか。綺麗だなと思ってさ」

「あ、ありがとう。カインが言ってくれるなら自信が出るわ」


カインの笑顔はいつもと変わらずで、イリアの緊張もほぐれていくようだ。

思えばいつもカインには支えられてきた。


「前も言ったけど、私に出来ることならなんでも言ってね。カインの力になりたいから」

「それならば、一つ頼みごとを聞いて欲しい」

「うん、なんでも言って!」


カインが初めてイリアを頼ってくれたことにイリアは嬉しかった。

これで今まで受けた恩を少しでも返せると思ったのだ。


「それならさ…イリア、幸せになってくれ」

「え…それがカインの頼みごと?」

「ああ」


ようやくカインが望んでくれたこと。それはイリアの幸せだった。

本当に最後までカインは優しい。

思わず涙がこぼれる。


「ほら泣くんじゃねーよ」

「カイン、ありがとう」

「今度エリオットに傷つけられるようなことがあれば、いつでもランディックに来いよ。兄貴なんて泣いて喜ぶぜ」


そしてイリアの頭をぽんと優しく叩いた。


「これからも俺はお前の兄弟子だ。いつでも頼ってこいよ」

「うん!」


そう言って二人で笑い合っていると、ドアの入り口からものすごく不機嫌そうな声がした。


「イリアを傷つけるような事はしないし、ランディックなんかに行かせない」

「おう、肝に銘じておけよ。マジで今度イリアを泣かせたらお前をぶっ飛ばしてイリアを連れて行く」

「絶対にそんな事はさせないよ。イリアは僕が幸せにする」


エリオットが誓えば、カインも納得したように笑った。


「殿下、イリア様、お時間です。バルコニーへ」

「分かったよ、アイザック。さぁお手をどうぞお姫様」


エリオットは恭しくイリアの手を取り、その指先にキスをする。そしてそのままバルコニーへの廊下を進んだ。


「イリア様!お綺麗っすね!」

「ミレーヌ!」

「今日は警護体制もばっちりなんで、安心してくださいっす」

「心強いわ」


本日ミレーヌは近衛兵隊長として警備の責任者となっている。

彼女には旅の時から断罪されて国を出るまで、ずっと守ってもらってきた。


「ミレーヌ、ありがとう。旅の時も同じ女性がいてくれて心強かったし、相談にも乗ってもらったり。追放されても私に危険が及ばないようにしてくれてた。他にもいっぱい、助けてくれて、ありがとう」


「いやいや、そんな頭上げて下さいよ!これからもイリア様をお守りします。主君に仕えるのが騎士の喜びっす。是非末永くよろしくお願いします。あと、レオンも配置についてるんですよ。顔を見たら手でも振ってやってほしいっす!」


「もちろん!」


レオンはスタットの騎士団に無事入団できたのだが、ミレーヌが目をかけて王都へ呼び、現在は王宮騎士団の騎士見習いとして在籍しているという。

久しく会ってないので、そのうちゆっくりと会いたい。


「でも、私もイリア様がこうして城に戻ってきてくださって、本当に安心しました。こちらこそ感謝いたします」


アイザックがイリアに感謝の意を伝える。

それを見てイリアはアイザックと出会った時の事を思い出していた。


あの時の塩対応だったアイザックは今はイリアを女主人と認め、そして忠誠を誓ってくれている。

今回の断罪劇やイリアの名誉回復、そしてエリオットとの結婚式の采配など、アイザックの協力なくしては実現できなかったことだ。


「アイザックさん。若輩者で国政に関しては右も左も分かりませんが、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします」


「それに関しては、イリア様の能力でしたら問題ありませんよ。むしろエリオット殿下のお世話をお願いします。四六時中ベタベタされ、ストーカーのように付き纏われ、少し男性と親しくすれば嫉妬の嵐を向けられるようになると思いますので、覚悟くださいね」


「えーと…はい」


下手するとヤンデレ監禁エンドになりやしないかとも一瞬本気で思ってしまった。

多少のスキンシップは我慢できるが…やっぱり人前では控えて欲しいという気持ちはある。

まぁ、エリオットに注意しても無駄だと思うので、このちょっとぶっ飛んだエリオットの溺愛状態は受け入れるしかないだろう。


「はぁ、さっきからみんな僕に対しての評価酷くないか?」

「日頃の行いだと思いますが」


エリオットのぼやきをアイザックが一刀両断する。


「ま、僕はイリアが居ればなんでもいいよ。それにしても、イリアはその格好でいいの?」

「やっぱり…ドレスに着られてる感出てるかしら?」

「いや、イリアは何を着ても最高に可愛くて似合うんだけど」

「あ、ありがとう」

「僕としてはもっと宝石つけたり煌びやかでもいいと思うんだよね」


確かにイリアが身につける宝飾品は王太子と結婚する花嫁としてはあまりにも質素だ。

小ぶりのイヤリングとネックレス、そしてシンプルなデザインの指輪だけである。


「ううん、これで十分よ」


これらはどれもイリアにとっては思い入れのあるものだ。

イヤリングは翡翠でできている。これはトロンテルで出会ったブランシェがプレゼントしてくれたもの。

胸に光る紺碧のパライバトルマリンは母が結婚式で身につけていたものだ。

そして、イリアの指にはエリオットと同じペアリングが飾られている。


「ううん、これが一番いいのよ」


この指輪はエリオットと王都でデートした時にオーダーしていたものだ。

すっかり忘れていたのだが、エリオットが受け取り大切に保管していてくれた。


「イリアと別れた時に、もうこの指輪を渡せないんだと思ったら…本当に辛かった。でも、こうして渡せてよかった」

「ふふふ、素敵な結婚指輪になったわ。ありがとう、エリオット」


指輪にそっと触れる。

このシンプルな指輪の内側には二人のイニシャルと永遠の愛を違うという文言が刻まれていた。

オーダーした後に、エリオットが店の人に何か依頼をしていたようだが、どうやらこの文言を刻んでくれと頼んでいたらしい。

この世界には指輪の交換という習慣はない。

だが意図せず結婚指輪となったことに、イリアは少しだけ運命を感じた。


「でもね…本当、私に王太子妃務まるのかしら?いくら侯爵家出身でも辺境で暮らしてた田舎娘よ。得意なことなんて地学の研究くらいだし…」


「王太子妃勉強は全部合格してるんだし、自信持って大丈夫だよ。それにイリアにはランディック国軍を動かせるような交渉力や手腕がある。その辺の貴族のお嬢さんには到底無理だ。イリア以外に王太子妃になれる人間なんていないよ」


「まぁ…あれは軍事費の提供をしたからよ」


「でもそれを貯めたのはイリアでしょ?アイ・アンド・ティー商会の社長なのもびっくりだったけど、一国の軍事費出せるって…どれだけ手広く商売してたんだい?」

「色々必死だったのよ!でももうすっからかんよ。今ガイザールを追放されたら路頭に迷ってしまうわ」


冗談混じりにイリアがそう言うと、エリオットは酷く真剣な眼差しでイリアを見つめた。


「もう…離さないから。あんな思い…二度としたくない。イリアも僕から離れないでくれ。お願いだ…」


今回の事件でイリアが思う以上にエリオットが傷ついているように見えた。

罪悪感と恋慕と執着と。色々な想いがエリオットの中にあるのだろう。

だがもう、過ぎたことだし、いつまでも引き摺られても困る。

だからイリアは敢えて明るく言った。


「大丈夫よ。お城の修繕代も支払わなくちゃだし、今度逃げたら本当に反逆罪で私が殺されてしまうわ」

「そうしたら僕も死ぬから大丈夫だよ!」

「だから重い!」


エリオットの言葉が冗談に聞こえないから余計怖い。


「ただひとつだけ約束して欲しいな」

「なに?イリアとの約束なら絶対に守るよ」

「…もう隠し事は無し。これから二人で生きるんだもの、なにか問題が有れば二人で解決すべきだと思うの。だからなんでも話して」

「二人で生きる…か。うん、そうだね。約束する。これからは力を合わせて行こう」

「うん」


その時、城の塔にある鐘が一際大きく鳴った。

バルコニーに出て、国民に挨拶をする時間だ。

イリアは少しだけ緊張してしまい、静かに呼吸を整えた。


「大丈夫。僕がいるから」


イリアはエリオットの腕に手を絡ませる。

そしてバルコニーへと二人同時に足を踏み出した。

歓声が上がる。

人々がイリアとエリオットの門出を祝福していた。


悪役令嬢であることを知ってからの十二年。本当に色々あった。

エリオットからの執着と溺愛、そして婚約破棄。もう交わらないと思っていたエリオットとの縁が再び重なるなど、なんとドラマティック…いやジェットコースター人生だろう。


エリオットは聖女アリシアではく、悪役令嬢イリアを選んだ。

そして、多分イリアもエリオットを共に生き愛する者として選んだのだ。


恋とはどんなものかもわからなかったし、親愛の愛と恋愛の愛の違いにも悩んだ。

だけど気づけばエリオットはイリアの窮地にいつも現れ、助けてくれるヒーローだった。

そんなエリオットにきっといつしか惹かれていたのかもしれない。

そういえば、とイリアは思った。


(私、エリオットに好きって言ったことないかもな)


いざ面と向かって好きと言うのは恥ずかしい。が、このお祭り騒ぎみたいなテンションの中であれば勢いで言えそうだ。

イリアは隣で国民に手を振るエリオットに一歩近づき身を寄せた。

そして少しだけ彼を引っ張って、そっと囁いた。


「エリオット、好きだからね」

「イリアが…僕を好きって言ってくれた…!!」


子犬のようなキラキラした瞳となったと思ったら、エリオットはイリアをきつく抱きしめた。

戸惑うまもなくエリオットの端正な顔が近づいてくる。

気づけば唇に柔らかいものが押し当てられている。


「?!?!」


それがキスだと気づくのに少しだけ時間がかかった。

頭が真っ白になっていると体を離したエリオットは今まで見たどの笑顔よりも輝く笑顔で言った。


「僕と結婚してくれてありがとう!イリア、君を死ぬまで…いや死んでからも愛するから覚悟してね!」


(重い!そして人前でキスとか最大級に恥ずい!!)


そんな重い愛の言葉を口にして、再びエリオットがキスをしてきた。

それを見た国民はわっと声をあげ、王都は更なる歓声に包まれるのであった。


※ ※ ※


巷では今流行っている劇がある。


聖女を語った悪女アリシアは、王太子エリオットの婚約者であったイリアを追放し、我が物顔で国を支配した。

反発する貴族を捉え、罰を下し、贅沢三昧で好き勝手をするアリシア。

エリオットは愛する人を失った苦しみに耐えながらも、必死でアリシアの悪行を止めようとするが、逆に殺されそうになってしまう。


そこに真の聖女であるイリアが現れ、アリシアの悪行を明らかにし、アリシアから国を救った。そして真実の愛で結ばれていたエリオットとイリアはその愛を取り戻すというストーリー。


その名も「フロイライン」というタイトルの物語だ。


劇場前では客引きの男が高らかに声をあげ、聴衆の関心を引いた。


「さぁさぁ!今流行りの劇、フロイラインが始まるよ!」


惹きつけられるように観客が劇場へと足を向ける。

真の聖女イリア・トリステンの物語はその後も永く語り継がれるのであった。


ここまで読んでいただけまして本当にありがとうございました。

この物語を少しでも楽しんでいただけたのであれば幸いです。

執筆中は悩んだり落ち込んだりすることも多かったのですが、読者の方々のいいねやブクマ、星評価等に励まされてここまで連載を終えることができました

重ねて感謝申し上げます


また、違う作品でもお目にかかれたら嬉しいです

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― 新着の感想 ―
[一言] 圧倒的カイン派です!!、、ʕノ•ᴥ•ʔノ︵┻━┻
[良い点] 一気読みしました。 面白かったです。 [一言] 犬がエリオットだったんですよね?? それってイリアは知らないままだったのでしょうか? それとも、知った事どこかに書いてましたっけ? もし、見…
[一言] 違う作品でまた出会えるのを楽しみにしてます!
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