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【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~  作者: イトカワジンカイ
最終章 逆襲編

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意外な展開

「何を言いだすのか、エリオット殿下」


怪訝そうにカテリナがエリオットを見た。

イリアもエリオットの発言に戸惑いを覚えた。


(それ以外の証言?どういうこと?)


だがそんな様子も気にすることなくエリオットは言葉を続けた。


「教皇カテリナ、貴女が死の魔石生成に関わったというもう一人の証言者」

「なに?」

「…さぁ、証言をせよ。ドニエ男爵」


エリオットが背後を一瞥すると、手錠をかけられたドニエ男爵が衛兵によって引き摺られるようにしてカタリナの前に登場した。


ドニエ男爵は以前イリアが会った時よりも少しだけしぼんだように見え、その表情には憔悴の色が見て取れた。


「彼がもう一人の証言者だ。ドニエ男爵、お前はトロンテルにて魔石生成の人体実験をしていたな」


「…はい。ある方に指示されました。不思議な魔法陣を渡され、魔石を作るように依頼されました」


「なるほど、お前はその人物の指示で魔石生成を行っていたというのだな」

「そうです」


「お前は魔石を生成するために人の命が必要なことを理解していたな。なんせイリアの命を使おうとしていたのだから」


「わ、私は依頼されただけです。魔石の生成方法についてはそいつから指示されて…私は魔石の毒が遅効性になるように実験しろと言われて従っただけです!私は被害者なんです!」


(なるほど、だから摂取した人間全員が発症するわけではなかったのね)


砂糖を摂取した人間すべてが発症しないことに疑問を持っていたイリアは、この事実を知って納得がいった。

たぶんある程度摂取しなければ発症しないように改良していたのだろう。


「ドニエ男爵の言い分ではあくまで騙されて実験を行っただけだと。それを指示した人物の顔を男爵は見たというのかな」


カテリナはまだ不敵な笑いを浮かべている。

自分の罪がばれないという自信があるのかもしれない。

ドニエ男爵も少しだけ口籠った。


「確かに私は指示した人間の顔は見ていません。だが…右手に痣があった。やけどで爛れたような跡にも似ていたのを覚えております」


ドニエ男爵の言葉にカテリナの顔が強張ったのが見えた。

エリオットはその言葉を受けて、一歩カテリナへ近づき、彼女の手を取った。


「さて…カテリナ教皇、君の手を見せてもらおうか」

「…くっ」



エリオットが握ったカテリナの手には焼けただれたような真っ赤な痣があった。

「もう、言い逃れはできないな。ウィルの証言とドニエ男爵の証言。もう十分だろう。カテリナ、お前はウィルが残した魔法陣を使って魔石生成を行っていた」


その時息を切らせてアイザックが広間に飛び込んできた。


「殿下!ありました!監禁されていた奴隷の証言で教会の地下に魔法陣が!」


「…間に合ったか。と、言うわけだ。教会が魔石生成を行っていたのはもはや疑いようのない事実だな」


エリオットの力強い断言によって、とうとうカテリナも観念したようだ。

今までのカテリナの目に宿っていた炎は霧散し、肩を落として呟く様に言った。


「ふっ…ようやく手に入れた権力も…儚い夢だったな。罪を認めよう…」


少しだけ目を閉じて何か自分の中で整理するようにしていたカタリナは、エリオットからイリアへと顔を向けた。

カテリナはすべてを諦めたように小さく笑いながら言った。


「やはりあの時、情を掛けずに殺しておくべきだったな」

「さて、そう言うことだ。アリシア、君も罪を認めるんだな」


降伏したカテリナに対し、アリシアは金切声を上げた。


「そんな!!…わ、私は知らないわ!カテリナに騙されたのよ!私は被害者だわ!」


アリシアは駆け寄るとエリオットに縋るように腕を掴んだ。

そして同情を誘うように、目に涙をためて懇願する。


「エリオット様!私のこと、信じてくださいますよね!みんなが私を悪者にしようとしてるんです!」


庇護欲をそそるとはこういう態度を言うのだろう。


美しくカーブの描かれた眉を悲し気に顰め、目から零れた涙がその柔肌を伝って床に落ちた。

だがそんなアリシアの言葉を受けて、エリオットが持つ雰囲気がガラリと変わったのを感じた。


「あまり私を甘くみてもらっては困るよ」

「え?」


それは今までイリアが見たことのないほど冷たい眼差しだった。

アリシアも同様で、エリオットの変化に戸惑っているようだった。


「私はとある事件から孤児が奴隷として売られている事実を掴んだ。私がその取引を追うように命じたところ奴隷はトリアス――君の故郷に運ばれていた。そしてそれを指示していた人物、それが君だ」


「な…何を言ってらっしゃるんですか?」


「君は直接奴隷商人から人を買っていたな。もちろん金の取引記録もある。人身売買の事実だけでも重罪だが、先のウィルの証言。魔石生成に使う奴隷の引き渡しは君がしたという。言い逃れはできないだろう」


「それは…!いえ、私は魔石生成に人が使われるなんて知らなかったんです!」


「では視点を変えよう。先ほどの教会の陣の件だが、発見されたのは君が聖水を作っていた場所だ。加えて君の周りの人間が不自然に失踪している。君に反発していた人間は教会に呼び出されて消えている。君が材料にしたんじゃないのか?これだけの証拠、言い逃れできるかい?」


動揺したアリシアは青ざめながら一歩後ずさると一度被りを振った。

そしてハッとしたような表情をして、突然イリアを指さした。


「そうだ…殿下はこの女に騙されているんです!この女があることないこと吹き込んだんですね!婚約破棄をしたことを逆恨みされて脅されてるんだわ。目を覚ましてください!」


「目を覚ますのは君の方だよ。これだけの証拠を突きつけられてもまだ言い逃れをするのか、アリシア殿。そもそも私はイリアに騙されてはいない。婚約破棄でさえしたくはなかった」


「どういうことです?」


理解できないという色を濃く滲ませてアリシアは尋ねるがそれはイリアも同じことだった。


なにをどうして婚約破棄したくないとなるのだ?

イリアが身に覚えのない罪で断罪され、国外追放したのはエリオットだ。


「まず一つずつ説明しよう。私は王家祖先の血を濃く受け継いでいてね。人よりも五感が優れている。加えて魔力を有しているのだ。だから君が私に差し出してきたマドレーヌになんらかの魔力を帯びたものが混入していることは分かった」


「まさか…知ってて食べたの?」


「ああ。イリアの研究から今回の伝染病には魔力が関連していることは知っていた。だからもしやと思ったのだよ。そして私は予想通り奇病に倒れた。だから確信した。君がこの奇病に関係していることを」


確かにエリオットはアリシアが作ったマドレーヌを食べた瞬間に心変わりしていた。

しかもその後に奇病に倒れたのだ。

辻褄は合う。


だとしてもそれを体を張って突き止めるのは王太子としてどうだろうか…とイリアは思った。

そんなことをぼーっと思いつつ、イリアはエリオットとアリシアを見つめた。


「だがどうやって君がこの奇病を流しているのか、何が原因かも掴めない。その時ミレーヌから君がイリアを貶めようと画策しているという報告を受けた。このままでは君がイリアに危害を加える可能性もある。城で匿うという手も考えたが、どうやって伝染病に感染させているのか分からない。このままではイリアにも危害を加えられるのではと考えていた。そんな時、とうとう君はイリアに架空の罪をでっち上げ、婚約破棄を提案してきた。だから、それを利用して、私はイリアを国外追放という名目で逃したんだ」


その一言でミレーヌがイリアに着いてきた理由も、人知れずカテリナからの追っ手を撃退していた理由を察した。


(だからミレーヌがついてきたのね。監視じゃなくて守ってくれていたんだわ)


イリアの気持ちに温かいものが湧いた。

それは守ってくれたという感謝の念であった。


同時に自分を好きだと言ってくれたエリオットの気持ちが決して嘘ではなかったという事実が嬉しかったのだ。

そしてその想いを込めてイリアはエリオットを見つめた。


イリアの視線を受け止めて、エリオットは少しだけイリアに微笑んだ。しかし、また厳しい顔をしてアリシアへの断罪を続けた。


「君が伝染病に関与しているのは間違いないが、どう関与しているのか繋がりが見えなかった。君に逃げられてしまえば聖水は作れない。だから君を自由にさせて逃げれないようにして、しっぽを出す瞬間を狙っていたんだ。だが今回思いもよらずイリアが伝染病の正体を暴いてくれた。それでこれまでの証拠が一気に繋がったわけだよ」


「そんな…エリオット殿下は私を愛しているんだから守ってくれるはずでしょ?聖女が奇跡の力で人を救って、それに心を打たれた王子が聖女を愛する。それがゲームのストーリーなんだから!そうなるべきなんだから!愛するヒロインを断罪するなんてありえないでしょ?」


周囲の人間もアリシアの言葉を理解できないと言うようで戸惑っている。

ただイリアは彼女の言葉が何を意味しているのか理解できた。


(ゲーム?ヒロイン…もしかして)


一瞬浮かんだ可能性を考えている時、広場を一喝するように厳しい声が響いた。


「何を言っているかは分からないが、これだけははっきり言っておく。私は一度も君に愛していると言ったことはない。口づけだってしたことはない。私が愛しているのはイリア、ただ一人だ」


「そんな…」


流石の言葉にアリシアはへたり込んだ。

茫然自失という言葉が似合うだろう。

そんなアリシアに対してエリオットは容赦なく衛兵に命じた。


「衛兵、カテリナ、アリシア、両名を連れて行け!!」

「嫌よ!私はヒロインなのよ!なんで私が捕まらなくちゃならないの!!断罪されるべきは悪役令嬢でしょ?こんなのおかしいわ!離して!」


叫ぶアリシアに対し、カテリナはと言うと背筋を凛と伸ばし、ゆっくりと歩き出した。そしてチラリとイリアを見るがすぐに前を見据えて歩き出した。


一方アリシアはサラサラと真っ直ぐな髪が乱れるほどに暴れた。

エリオットに手を伸ばししがみつこうとするのを衛兵が無常にも拘束し、引き摺るようにして連れて行った。


気づけば外からの砲弾の音はなくなっている。

どうやら城の外はカイン達の軍に制圧されたのだろう。


ぽっかり空いた屋根の穴から、雀の長閑な声がピピピと聞こえてきた。


(えーと、何が起こったんだっけ?)


自分がエリオット、アリシア、カテリナを断罪しにきたのに、何故かエリオットが二人を断罪して…いまいち状況が理解できなかった。


(つまり、エリオットが私を国外追放したのは私をアリシアから守るためで?アリシアを溺愛して相思相愛に思わせたのは計算だったってこと?)


何とか状況を自分の中で整理した。


エリオットにも逆襲してやると思っていただけに少しだけ肩透かしを食らった気分だ。

だが冷静に考えればエリオットへの逆襲といっても、彼がしたのはアリシアやカテリナを好き勝手させていたということだけだ。

しかもそれは二人を断罪するための狂言だったのだ。

その時イリアの頭によぎったのは安堵の気持ちだった。


(私が好きになったエリオットと変わらなかったんだわ…ってあれ?好き?ん?)


自分で思って自分で疑問を持っていると、突然名を呼ばれたかと思うとイリアを温かいものが包んだ。


「イリア!!」


自分がエリオットに抱きしめられていることに気づくのに少しだけ時間がかかった。

と同時に驚きながらエリオットの腕から逃れようとその体を押し返した。

それにも負けじとエリオットは更に強くイリアの体を抱きしめた。


「え、エリオット!?ちょ、ちょっと!?」

「イリア…傷つけてごめん。騙してごめん…」


そう謝るエリオットの声は後半は掠れていて、その体も震えていた。

泣いているのかもしれない。


ただ縋るようにイリアを抱きしめるエリオットの体温を感じてイリアは抱きしめ返したのち、エリオットの頭を優しく撫でた。


「許して欲しい。どんな理由でも国外追放なんてして、辛い思いをさせたと思う。もう僕は見捨てられても仕方ないいと思っている。本当…ごめん」

「…まぁ、エリオットも頑張ってたみたいだし」

「許してくれるの?」


エリオットが恐る恐ると言った様子でイリアから少しだけ体を離した。

イリアの表情を探るような、そして捨てられた子犬のような泣きそうな顔を見たらもう許すしかない。


だが色々振り回されてしまったのは事実だ。

だからイリアはすぐに許すとは言わなかった。ただ少しだけ笑い悪戯っぽく返答した。


「私、城こんなにしちゃったし。それをチャラにしてくれるのなら、お互いさまってことよね」


瞬間、エリオットの顔が花が綻ぶような笑顔になった。


「本当ありがとう!なら結婚しよう!!」

「はぁ?なんでそうなるのよ!」


相変わらずの思考の飛躍にイリアは間髪入れずに突っ込んだ。


「うーん、イリアに結婚してもらわないと、僕は死んじゃうんだよね」

「??どういうこと?」

「えっとね。婚約式でイリアだけ愛するって誓約したよね?」

「あ…そういえばそうね」

「あれは神への誓約で、誓いを破ると死ぬという魔法がかけられているんだよ」


「は?じゃあ、もし私が今回殴り込みに来ないで、アリシアと婚約して…結婚とかなったらどうなるの?」

「ははは、そりゃ僕は死ぬってことだよ」


あっけらかんというエリオットに対してイリアはドン引きしていた。

そして一言言った。


「重っ!」

「やだなぁ。イリアのいない人生なんて僕は生きている価値ないし、それなら死んだ方がましだよ」


はははと笑うイリアに思わず顔が引きつった。

なんだこの男は。愛が重いというか…。


「あー、ちょっと遅かったか?ってお前ら何してんだ?」


声を掛けられてそちらを向けばそこには軍服姿のカインが、マントを翻しながら颯爽と歩いてきた。

それを認めたエリオットはイリアから離れた。


「カイン、その恰好…」

「エリオット・ガイザール殿下。俺の名はカイン・ランディック。ランディック国王の弟だ。本日は王の名代として来た」


「…これは驚いたな」

「リオだったお前がエリオット王太子だったことを考えればお互い様だろ」

「はっ、そうだな。今回ランディックがイリアについたのはカインがいたからか?」


「いや、ランディックがイリアに力を貸したのはイリアの交渉結果だ」

「イリアの?」

「まぁ、そこはイリアから改めて聞いてもらうとして、この城はランディック軍が制圧している。こちらの要求を飲んでくれるのであれば、我がランディック軍は撤退する」


「それを退ければ?」

「総攻撃ってところだな。まぁ、俺達ランディック軍がどうこうするより、イリアが魔法で国ごとぶっ飛ばすかもしれねーけど」

「…だね」


エリオットはイリアを見て納得するように頷くと、表情を引き締めた。


「要求を聞こう」

「条件は二つ。イリアのガイザールへの帰国許可。そしてイリアが悪役令嬢だという汚名を濯ぐこと。以上だ」

「…それだけでいいのか?」


緊張の面持ちで要求を聞いていたエリオットは驚きの声と共に再度カインに聞いた。


「あぁ。それだけ守ってくれればいい。要求はそれだけだ」

「えっ、カイン!?なにその要求?もっとランディックに有益な交渉あるでしょ?」

「いいんだよ。今回の件は全部イリアのためだ。兄貴もそうしろって言ってる」


確かにイリアがレヴァインと交渉して軍を借りている。

だがそれはイリアの提示した条件が国にとって損はないからである。

だが、国軍を動かすならばそれ以上の益が必要であるはずだ。


カインの言葉に戸惑うイリアの横で、エリオットが力強くカインに返事をした。


「そのような要求、頼まれるまでもない」

「だろうな…つーことで、俺達は撤退する。じゃあな、イリア」

「え?!じゃあなって私も帰るわよ」

「ばーか、お前はこの国で生きるんだよ。それにエリオットがお前を手放すわけねーだろ?」


イリアは慌ててカインを追おうとする。しかしカインはイリアの頭をポンと叩き、それを止めた。

いつものようにカラりと笑ったカインは、ちょっとだけ苦笑するように言った。


「はぁ…また重要なところでお前の傍にいれなかったな」

「え…」

「ま、また会いにくるさ。お前もいつでもランディックに来いよ!」

「ちょ、ちょっと待って!」


追いかけようとするイリアを後ろからエリオットは覆い被さるように抱きしめた。

それを確かめるように見たカインは後ろを向いたままひらひらと手を振って広間から出て行ってしまった。


カインに置いていかれる形となったイリアに、エリオットが頬にキスしたのでイリアは驚いてエリオットを見上げた。

そんなエリオットはと言えば満面の笑みを浮かべている。


「といういうことで結婚しよう!」

「だからどうしてそうなるのよ!!」


イリアの叫びにも似たツッコミを空の上から雀はのんびりと聞いていたのだった。


ちょっと長くなりましてすみません。あと長セリフ…読みにくくてすみません

次話はエリオット視点です。

あと2話くらいで終わる予定です

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