死の森を抜けて
いよいよ最終章です!
まず最初の問題は、ここが死の森のどこに位置するかであったが、これは案外すぐ解決できた。
「えっとっすね、あたしらはここから入ってこっちの方向に進んだっすね。時間としては三十分くらいだったすかね」
ミレーヌはこういった不測の事態に対応できるように、絶対の方向感覚と時間感覚を身につけるように特訓されているという。
ミレーヌ曰く「普通っすよ!」とのこと。
「ということは……成人の走る速度の平均は時速16㎞くらい……私がちょっと遅いくらいだから……時速18㎞かぁ……」
となると入口からは1㎞弱となる。
走ってから暫く歩いたことを考慮した結果、カインが持っていた地図を広げ、現在位置をイリアは示した。
「このあたりが私たちの現在位置。近くの街は……この辺りまで行く感じ?」
「うーん、俺達が教会から追われているとなると、ガイザール内の街を進んでランディックに行くのは得策じゃねーよな。もうここまで来たら死の森を突っ切って行った方がいいな」
「分かったわ」
元々死の森があるから迂回路を通ってランディック王国を目指していたのだ。
イリアの魔法により死の森でも問題なく進めることが分かった今、直接ランディック王国を目指した方が効率的だ。
「ウィルも歩ける?」
「うん。包帯もきつく巻いてもらったから痛みも和らいだよ。これ以上キミ達には迷惑かけたくない」
落ち着きを取り戻したウィルは、力強い意志を持った顔でイリアを見つめた。
「ボクがやるべきは解毒剤を作ること。それがボクの贖罪だから。例えこの命を使ったとしても……。だから一刻も早くランディックに行きたい」
「分かったわ。でも無理しないでいきましょう」
「つーことで向かうは、ランディック王国国境の街イアドネスだな。ここに行けば魔法通信機もあるしディボとも連絡取れるな」
カインの言葉を受けて、イリアは持っていた方位磁針を地図の上に置く。
太陽の位置や走ってきた方向などを総合して進行方向を決めた。
「さぁ、準備ができたかしら。行きましょ!」
イリアが声がけをするとカイン達も荷物を背負い歩き出した。
死の魔石の件がありウィルに対して憤りもあったカインだが、なんだかんだ肩を貸しながら歩き始めた。
イリアはもう一度消えた焚き火の跡を見回して、忘れ物がないか確認した。
(うん、皆の忘れ物もないし……ん?)
イリアの耳にボコリと何か不思議な音がした。
たが聞き覚えのある音だった。
それは鈍い音で粘性のある液体から空気が漏れる音だと気づいたイリアは、ふらふらとそちらへと歩みを進めた。
「イリア? どうした?」
少し先を行っていたカインは、イリアが動かないことに気づき声をかけてきた。
だがイリアはそちらには顔を向けずに考え込んだ。
(水音? 何かが湧いてるのかしら……。硫黄の匂いということは火山ガスとか? じゃあ温泉? ……もしやレアな鉱物があるかも!! というか調査したい!!)
イリアはそう考えると好奇心が止められなかった。
音の方へと走り出し振り向きざまにカインに答えた。
「すぐ戻るから!! 待ってて!!」
「あ! おい!」
カインの静止の声も聞こえずイリアは森の中を少し分け進む。
濃い茶色い土が徐々に黒くなり、少しだけ粘性を帯びるものとなっていった。
そのまま進むとそれはぬかるみになりイリアは足を止める。
なぜならばそこにはボコボコと音を立てて黒い粘性の水が湧いていたからだ。
そして強い腐臭がして、思わずハンカチで口を覆う。
(これ……やっぱり……原油だわ)
森全体を覆う硫黄ガスの匂いの正体はこの原油だった。
日本でも秋田には自然に原油が湧き、昔は「臭い水」と呼ばれていた。
たぶんここも同様に原油が滲み出ているのだろう。
(それで森にガスが充満してたのね。でも森を覆うほどのガスってことは森の下には油田がある可能性が高いわ)
ボーリング調査をしたい気持ちがムクムクと湧き上がる。
だが残念ながらここには調査機器がないため試掘は不可能だ。
イリアはガックリと肩を落としたが、手ぶらで帰るのも腹が立つ。
しかたなく、地面の土と中心の液体部分の原油をサンプリングして持ち帰ることにした。
そんな作業をしているとカインもやって来たようだ。
「うわ! なんだこの匂い! 空気ボンベ魔法あるのに匂うぞ。って、なに落ち込んでるんだ?」
「はぁ……調査したかったな……。絶対いつか調査に来よ!」
「?? まぁ元気になったならいいんだけどよ」
イリアは持っていた地図を広げ、鼻息を荒くしながら油田の場所にバツ印をつけた。
「絶対戻ってくるんだからね!」
原油が湧いている部分に指を差し、高らかに宣言するとカインを引っ張るようにして再びイアドネスへと向かうことにしたのだった。
※ ※ ※
無事に死の森から抜けイアドネスへと辿り着くことができた。
死の森まで追っ手が来ないか不安ではあったが杞憂に終わった。
イアドネスの街に着き宿を確保したイリアは、カインと連れ立って街へと繰り出していた。
別に遊びのためではない。
魔法通信機を借りるためである。
「やっぱりガイザールとは違う雰囲気ね」
イリアは見慣れないランディック国の街をキョロキョロとしながら歩いていた。
「おい、はぐれんなよ。……ほら、手、繋ぐぞ」
カインはイリアの手を強引に掴むと指を絡めてきた。
(おっと……これは……恋人繋ぎ……)
だが、エリオットとしたことがあるために免疫が出たのだろうか。
死ぬほど恥ずかしいという思いはなかった。
むしろ少し落ち着くような、心地いいような気持ちだった。
ふとイリアは思った。
いつも一緒にいたけど手を握るなんていつぶりだろうか。
カインの手は剣を握るため豆だらけだ。
ゴツゴツしていてイリアの手よりも格段に大きい。
それがとても男らしく感じられる。
(カインも男の人なんだなあ)
当たり前ではあるのだが、イリアは改めてそう思いながらカインを見上げた。
自分よりも頭二つは高い位置にある顔。その距離に、いつの間にこんなに身長差ができてしまったのだろうとイリアは思った。
逞しい筋肉も肩幅ももう少年の面影はない。
そんな風にマジマジ見ているとカインがこちらに顔を向けたので、ばっちりと目が合ってしまった。
悪いことをしていないのに、なぜか鼓動が跳ねた。
「あ……えっと……」
言葉を探しているとカインが急にそっぽを向いた。
口に手を当て少し耳が赤い。
「どうしたの?」
「いや……なんつーか。凄く嬉しい」
「え?」
「ようやく手、繋げたから」
今度は顔をこちらに向けて嬉しそうに破顔するカイン。
その屈託のない笑顔にイリアの鼓動がひと際大きく鳴った気がする。
「魔法通信社はこっちだ。帰りの道にはテイクアウトのエッグマフィンの店があるから昼食用に買って行こうぜ」
「うん。それにしてもカインはこの街初めてよね? よく知ってるのね」
「あぁ……まぁ、ほら、マップとか見てるからさ」
「そう?」
カインの言葉の歯切れが悪かったが、深く突っ込むことはやめた。
ただ、予想外に訪れたカインとの穏やかな時間をイリアは少しの間だけでも楽しむことにしたのだった。
秋田の油田は江戸時代から認知されているようで、現在でも国内油田として採油されています。
ナニこれ珍百景でも「住宅地に油田があって採油されてる!」みたいなのが投稿されてました
いよいよ最終章です。
これまでの伏線というか小ネタが回収されますので、引き続き読んでいただけると嬉しいです!
ブクマ、星評価、ありがとうございます!




