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【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~  作者: イトカワジンカイ
第3章 トロンテル魔石編ーまたの名をエリオット追撃編ー
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恋愛偏差値ゼロのツケ


暗い。

体が冷たい。

動かない。

ここはどこ?


体の感覚はなく、立っているのか座っているのかも分からない。

目の前は暗く、ただ暗闇にいるのか目を閉じているのか、それすらも分からなかった。


(私は…どうなったのかしら?死んだのかしら…)


崖から落下したのは覚えている。死んだと言われれば納得できてしまう。


その時、ふわりと体が何かに包まれた。

温かい。

唇から暖かいもの流れてくる。

気持ちがいい。もっとこれが欲しい。


思わずそれを求めて手を伸ばせば、明るい光がイリアを照らし、そして包み込んでいった。

唇が温かくなり、それが離れていく気配がするので思わず縋るようにそれを追った。


そして気づけばゆっくりと目を開けることができた。


(ここは…夢?現実?)


定まらない焦点でぼんやりと前を見ていたイリアは自分の置かれている状況に気づき、一気に覚醒した。


(というかキスされてる!!!!)


「んーんんーん!!!」


思わずその自分の唇を塞ぐ人物の胸を叩いて抵抗すると、ゆっくりと唇が離れていった。

柔らかく温かい感触が離れ、少しだけ唇が冷たくなった。


「はぁはぁはぁ…」


身を起こして大きく息を吸い込むと、自分の名を呼ばれ背中をさすられた。

自分の身に起こった状況が分からないまま、その人物を見れば、心配そうな双眸がイリアを捉えた。


「リ…オ…?」

「良か…った…」


少し泣きそうな顔で覗き込むリオの顔が安堵の色を浮かべた。

そして次の瞬間ぎゅっと抱きしめられた。


「目を覚ましてくれて良かった…」

「えっと?その…?」

「崖から落ちたのは覚えている?」

「ええ」


ドニエ男爵から逃げた時矢を射かけられ、傷を負った拍子に崖下へと落下した。

見れば少し離れたところに川が流れているようだ。

岸辺になんとか流れ着いたのだろう。


リオが縋るようにイリアを抱きしめるので、イリアもぎゅっと抱きしめ返した。

そして謝罪の言葉を口にした。


「リオ…ごめんなさい…巻き込んでしまったわ」

「そんなことは気にしなくていいんだ。イリアが無事で良かった。ここに流れ着い時には君の意識はなくて…死んだのではないかと不安だった」

「大丈夫。リオが助けてくれたのね。ありがとう」


リオがそう耳元で囁くように言った後、ゆっくりとイリアから体を離すと、ようやくほっと息を吐いた。


愛おし気に頬を撫でたリオの手は水に濡れており、見ればサラサラの赤銅色のリオの髪は頬に張り付いていた。

当たり前ながらリオもイリアもずぶ濡れになっている。


「くしゅん!」


突然寒気が襲ってイリアはぶるりと震えくしゃみを一つした。

日中は少し汗ばむ陽気が続いているが、朝夕は少し涼しい。水に濡れた身としては更に寒く感じる。


「寒い?」

「えぇ…でも…大丈夫よ。まずはリオ。貴方の洋服を乾かさないと!このままじゃ風邪引いちゃうわ」


イリアはそう言ってリオの手を握って意識を集中させる。

リオの体を包み込むように温風をまとわせると見る見るうちにリオの服は乾いて行った。

その後イリアは自身にも温風を体に纏わせた。

ほっと温かい空気が体を包み、水に濡れたワンピースが乾いた。


「イリアの魔法はすごいね」

「お役に立てたなら嬉しいわ」


服は乾き、寒さは和らいだがまだ体の芯が冷えたままである。

イリアは反射的に身を震わせると、リオはそっと自らのマントをイリアに羽織らせた。


「え?リオ、大丈夫よ。私は平気。それよりリオは寒くない?」

「いいや、僕は鍛えてるから寒さは感じないよ。水に濡れたままだったから寒いんだろう?僕のことが嫌じゃなければ羽織っていてほしい」

「…ありがとう」


リオに自分が嫌いでなければなどと言われてしまえば、嫌とは言えなかった。

とはいうものの、やはり暖を取ることは必要だろう。

月光が明るいとはいえ、現在地が分からないまま闇雲に歩き回るのは得策ではないし、かといってこのまま暗闇の中でじっとしているのも心許ない。


「リオ、私枯れ枝を取ってくるわ。枝さえあれば魔法で火を熾すことはできるから…っ!」


立ち上がろうとしたイリアの足に激痛が走る。

そういえば逃げる際に足を弓で射られたのだった。いまさらながらにジンジンと痛む。


「イリアは待っていて。僕がとってくるから」

「でも…」

「その足じゃ無理だよ」

「そうね…お手伝いできなくてごめんなさい。お願いします」

「じっとしてるんだよ」

「リオも気を付けてね」


リオは優しい笑みを浮かべて茂みに向かった。その後数分後には両手いっぱいの枯れ枝や薪になるような少し太い枝も採ってきてくれた。

イリアはそれを組み立てるとそこに火をつけた。

暗闇に一つ明かりが灯ると、心理的に安堵できた。なんとなくリオと隣同士に座ってその火を眺める。


「イリアはすごいなぁ。薪組までできるんだ?」

「あぁ…まぁ…うん」


(前世で野外活動とかあったけど…まさか役に立つなんて…)


小学生の頃の野外活動や、大学の地学サークルで度々野外活動をした際に学んでいたアウトドア知識がここで役立つとは思わなかったが、人生どんな経験も無駄ではないものだとイリアは痛感した。


「手慣れているし。凄いよ。並みの男よりも頼りになるね…あ、これは誉め言葉だからね」

「ふふふ、お褒めに預かり光栄だわ」


ただ単に男に守られ庇護されるというキャラでもないし、それを甘んじて受けようとも思っていない。


自分の人生は自分で切り開いてきたし、自立できる人間という自負もある。

だがこの世界はおしとやかな女性が推奨される風潮にはあるので、正直イリアはそんな意味でも規格外である。

しかしリオは男女対等に評価してくれる男性であることがなんとなくイリアは嬉しかった。


「でも…不甲斐ないわ。うまく脱出できたと思ったのに…またリオに迷惑をかけてしまったわ」

「この程度なんて迷惑じゃないよ。逆に…また救出に間に合わなかったな。君は自力で逃げ出したのだしね。騎士としても男としても…ちょっと情けないかな」


「そんなことない!リオはヒーローだわ。いつもいつも助けてくれる。出会った時に酔っ払いに絡まれたり、そのあともナンパ男とかカリオスの時とか。本当に切羽詰まった時に現れてくれるヒーローよ」


「そう言ってもらえると嬉しいな。こんなヒーローで良ければずっと君のヒーローで居させてほしい。少しでも君の役に立てるならば…僕はなんだってする。全ての悪意から君を守りたいと思ってる」


真摯にそう告げられて、イリアはドキリとした。

暗闇の中で焚火の赤い光に照らされた瞳は煌めいていて、なんとなく目が離せない。

リオはイリアの金の巻き毛を一房掬い、そっと自らの口元に寄せた。


「僕を君だけのヒーローにさせてはもらえないだろうか?」


リオの少し掠れた声にイリアの鼓動がドキドキと早鐘のようになっている。


(恋愛偏差値ゼロの私には刺激が強すぎる…!!)


こんなことならもっとちゃんと乙女ゲーをして恋愛について免疫をつければ良かった。


(まぁ…確かにイリア・トリステンは乙女ゲームのキャラではあるけど…まさか自分が乙女ゲーみたいなシチュエーションに遭遇するとは思わないじゃない!)


そうは言っても何かうまく返事をしなくてはならない。

前世で乙女ゲームを勧めてきたあの友人であれば上手く返せるのだろうか?

とにかく、なんて返せばいいのか分からないイリアはパニックになりながらもなんとか答えた。


「わ、私は…その守ってもらうような柄の女ではないわ。ほら、気も強いし…カインにはじゃじゃ馬って言われているし、お淑やかでもないし…!!」


「確かに君は守られるタイプの人間ではないのは承知しているよ。君はいつもなんでも一人でやろうとする。抱えようとする。人の気持ちに寄り添い、その他人のために戦う強さもある。だからこそ何かあった時には支えたい。僕では…ダメかな?」


「う…」


ここまで言われたら恋愛偏差値ゼロだとしても乙女心はときめくものである。

ただこの気持ちが恋なのだろうか?

正直分からないでいる。

ここまで真摯に言われているのに、YESともNOとも言えない自分が本当に情けなかった。


「本当は、こんなに急に距離を詰めようとは思わなかったんだ。さっき、君が崖から転落して、川から救出したとき、君の呼吸は止まっていた。その時は怖かった。君が手の届かない場所に行ってしまう、その恐怖に心臓が止まるかと思ったよ。だから…ごめんね。追い詰めるようなことを言ってしまった」


リオはそう苦笑したかと思うと、口元に寄せたイリアの髪にちゅっとリップ音を鳴らして口づけを落とし、それを解放した。

サラリと髪が静かに流れ落ちる。


「今日は遅いし、寝よう。火の番は僕がするから、イリアはゆっくり休んで」


急にリオの声が明るいものとなる。

今までの雰囲気が嘘のように消え、いつものリオの柔らかな笑顔だ。

少しホッとしつつもイリアは動揺を抑えて返事をした。


「あ…ありがとう…」

「なんなら…ほら。ここを使って」


リオはポンポンと自分の膝を叩いた。

意味が分からずイリアはきょとんとしてしまう。

するとリオはそんなイリアの手を取ったかと思うと自分の膝にイリアの頭を乗せた。

いわゆる膝枕である。


「む…無理!!」

「いいから」


肩を抱かれるようにされてしまうので逃れられない。


「じゃあ、お休み」


(じゃあお休みって…こんなの寝れるわけないじゃない!!)


観念してイリアはリオの膝枕を甘んじて受けることにしたものの、恥ずかしさで一杯になり眠れぬ夜を過ごすことになった…。


リオの猛追!ぐいぐいぐいぐい来ます!

この辺のリオ視点は後日書きますのでお楽しみに~

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