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【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~  作者: イトカワジンカイ
第2章 孤児院編ーまたの名をアイザック懐柔編ー
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強きを挫け


「ひいいいいいい」


カリオスは反射的にしゃがんだ。そのため間一髪というところでイリアの攻撃を避けられたようだ。

攻撃がカリオスの頬を掠めたせいで一筋の血を流れていたが、それすらも気にせずにカリオスは乗ってきていた栗毛の馬にまたがると一目散に走り出した。


「待ちなさい!!」


イリアは追いかけようとしたが馬の脚には到底追いつけない。

口惜しさでそれを見送ったものの、アイザックのことを思い出してイリアは振り向いて、駆け寄った。


「えっと…」

「…」


呆然していたのはカリオスだけではなかったようで、レオンとアイザックも呆けたように口を開けてイリアを見ている。

何が起こったのか状況が掴めていないようだ。


「えっと…まぁ…とりあえず危機は脱したわね」

「はぁ、そうなりますね…」

「アイザックさんは大丈夫ですか?すみません。私のせいで殴られてしまって…」

「大丈夫です…」


というもののアイザックの口元は殴られた時に薄く切れたようで血が流れている。

それをイリアはスカートを切り裂いて拭った。


「イリア様、スカートが!?」

「いいんです。とりあえずこれで傷を押さえてください。傷は浅いと思うのですが血が出てしまっているので。…レオンも大丈夫?」

「あぁ大丈夫だぜ」


その時イリアを呼ぶ声が遠くからした。

声の方を見れば血相を変えたリオとカインが馬に乗ってこちらに駆けてくるのが見える。

息を切らせながら走ってきたカインとリオを見ると、イリアは彼らに駆け寄った。


「カイン!この馬借りるわ!」

「は!?おい、ちょっとま…!」

「アイザックとレオンのことお願いね!」


イリアはカインが下馬するのも待たずにぐわっと近づくと、そのままカインを馬から引きずり下ろした。

訳も分からないカインが戸惑いの言葉を口にする時間も与えずに、イリアは馬へと跨る。


普通なら女性が乗るにはドレスが邪魔をして乗るのにも苦労するものであるが、先ほどアイザックのためにワンピースのスカートを思いっきり割いたので、それがスリットの役割をした。


鐙に力を籠め、生前からのライフワークで続けていたフィールドワークで培った腕力で馬へと一気に跨る。

驚く馬のいななきにも関わらず、イリアは馬の腹をとんと蹴り、馬を走らせた。


「イリア!!」


後方で馬の蹄の音と共にリオの声がした。

どうやら追いかけてくれているようだ。


「イリア、どこへ?」

「カリオスを追うわ!」


カリオスが向かう先は多分孤児院だ。

どこかにとんずらしようにもまずはお金が必要だ。それを持ち出すために孤児院に戻る可能性が高い。


リオは端的なイリアの言葉に納得したのか、それとも単にイリアと行動を共にすることを決めたのか、それ以上何も言わずに馬を並行に走らせた。


「いた!」


孤児院の庭にはカリオスが乗ってきた馬が放置されている。

イリアはそのまま孤児院へと乗り込んだ。

孤児院の中には子供たちが丸い目をしてイリア達を迎えた。


「カリオスは!」

「おねえさん…え…あっちの部屋ですが…」

「ありがとう!」


イリアはこの間プロポーズをしてきた少年の指さす方向に進む。

すると突き当りに部屋があり、ドアがわずかに空いていた。


その年季の入った木製の扉を思い切りだんと開くと、その音に驚いたびくりと小刻みに体を揺らしたカリオスがこちらを見た。


「大人しく、捕まりなさい!」


カリオスの後ろには子供を売って儲けたと思われる金貨の袋が山ほど積まれている。

それを見てイリアの怒りがさらに増した。

どれほどの子供が売られたのだろうか…

カリオスは死に物狂いの表情でイリアに向かって体当たりをしてきた。


「くそ!えい!!」


イリアは反応が遅れ、床に倒れこみそうになったが、ぐっと足に力を込めそれに耐えた。

そして、逃げていこうとするカリオスの背中に手を翳した。

ここで気を放っては建物ごと崩れてしまう。そうなれば子供達まで巻き添えになるだろう。


(雷の原理…雲を作って、摩擦帯電からのプラスとマイナスの電荷を発生させる!)


「トリステン家訓その4!弱きを助け強きを挫く!はぁあああああ!!」


イリアの掛け声と共にドーンと雷鳴が響き、カリオスは電流に感電した。

黒くプスプスと音を立てて、カリオスは倒れている。

服も顔も黒くはなっているが、死なない程度の攻撃だ。


「ふん…悪よ、滅びるがいいわ」


地に伏すカリオスにイリアが冷たく一瞥する。


「はぁ…僕の出番はないようだね」

「リオ!」

「君を華麗に助けたかったのに…残念だな。でも…本当に君には驚かされる」


そう苦笑交じりにリオは言いながら、カリオスを縛り上げた。

それから間もなくして、警邏隊がやってきてカリオスを連行していく。


「おい、さっさと歩け!」

「く…」


警邏隊にせっつかれながら、よろよろと歩き出したカリオスは思い出したように足を止めてイリアを振り返った。

イリアの攻撃を受けてヒビが入った丸眼鏡をこちらに向け、カリオスはぽつりと呟く。


「…トリステン?まさか…イリア・トリステン?禁書の…悪役令嬢?やはり…実在したのか?」

「え?」


何を言われたか一瞬分からないイリアが聞き返すが、カリオスはそれには答えず、急に高笑いを上げた。

そして憎々し気にイリアを見て言った。


「お前など断罪されて殺されればいいんだ!」

「…あいにくと私、断罪されるつもりも死ぬ予定もないので」


冷静にイリアがそう返すのを薄く笑ってカリオスは連行されるのだった。


カリオスの後姿を見送っていると、背後に視線を感じて振り返った。

入口に潜むように顔を覗かせている子供達をみて、イリアは思った。


「これから…皆をどうしたらいいのかしら…」

「あぁ、それなら大丈夫。この領地にいる知り合いの貴族に保護をお願いしたよ」

「知り合い?リオって顔が広いのね」

「まぁ…えっと…王太子付にもなると…色々人脈ができるんだよ」


そういえばリオは騎士ではあるが、騎士は平民出身も多く貴族を名乗れない人間も多い。

だが貴族にそんな依頼ができるというのは、リオもまた貴族なのかもしれない。


「私リオのことあんまり知らないわね」

「僕に興味が出てきた?」


イリアの顔を覗き込んで熱の混じった声でそう言われると、少しドキドキしてしまう。

それを隠すように、イリアは顔を少し右に逸らして答えた。


「それはそうね…。一緒に旅をする仲間だし」

「じゃあ、異性として興味を持ってもらえるように頑張るかな」

「にしても、よく私達の居場所が分かったわね?」

「僕はイリアがどこにいても見つけられるよ」


軽くウィンクなどされるがなんとなく誤魔化された気がする。

急にイリアに緑のマントがかけられる。リオの纏っているレモングラスの香りがイリアを包んだ。


「ん?なに?」

「ねぇ、イリア。その足」

「足…あぁ、アイザックさんの血を拭くのに破いちゃったの」

「…生足…アイザックも見たの?」

「どうかしら?一瞬だけど見えたかも」

「…アイザック殺す」

「!?な、どうしたの?」

「イリア、もう金輪際こういうことしないで。スカート破くとか…足見せるとか!」

「まぁ…はしたないわよね。反省してる」

「…僕が一番に君の肌を見たかった…。足でも他の男が見るなんて許せない…」


ぎろりとリオの目が光り、なんとなく不穏なものを感じる。


「アイザックは後でお仕置きするとして…レディとしては軽率な行動だったのは認める?」

「そうね」

「じゃあ、一緒の馬に乗ること。これ以上肌を見せて街には帰れないだろ?」


リオの言い分はもっともなのでイリアはその案を飲んでおとなしくリオの馬に同乗して街へと戻った。

が、この軽率な行動をイリアは後で後悔することになった。


ぎゅっと後ろから抱きしめられ、耳元で囁かれ、そして軽く耳や髪にキスされていたような気もする…

とにかくドキドキと鼓動がせわしなく鳴り響き、宿に着く頃にはヘロヘロになっていたのだった。


「…ようやく…解放された」


先ほど不穏な空気を纏わせていたリオはすでに意気揚々として宿へ戻っていく。

イリアがぜーはーと呼吸をしていると、アイザックが寄ってきて珍しく声をかけてきた。


「イリア様」

「アイザックさん?」

「先ほどは、ありがとうございました」

「いいえ。怪我は大丈夫ですか?」

「かすり傷です。ミレーヌに手当もしてもらいましたし問題ありません」

「そうでしたか」

「…」

「…」


その後お互い無言になる。


(えーっと…これはどういう状況?帰っていいのかしら?それとも何か怒っているの?)


どういう行動をとればいいのかしばし悩んでいたイリアに、アイザックはひどく申し訳なさそうな顔で頭を下げた。


「!?」

「私は貴女を誤解していました。殿下の婚約の申し出を断った我儘な女性だと思っていました。貴族の序列も無視して、勝手をし、嫌だからと貴族の役目を放って逃げる。殿下に相応しくないと、心底思っていました」


「はぁ…」

「でも、今回貴女は私を仲間だと言って庇った。命の危険があるのにも関わらず、私を見捨てるどころか盾になろうとした。そして魔力を見て分かりました。貴方はその魔法により国に利用されることを恐れたのですね…」


「え?」

「それだけの魔力。腹黒い貴族に狙われるかもしれません。それに国に悪用されるかもしれないという恐怖もあったことでしょう…ですが、大丈夫です。殿下は決してそのような方ではないのです!」


アイザックの中でも婚約話からとんずらしたのは魔法を悪用される可能性があり身を隠したことになっているようだ。


「ですから、私もこれからは心を込めてお仕えしましょう。たとえあの方の理不尽があろうと、貴女のためなら尽力しましょう」

「はぁ…」


文脈だけ捉えるとよく理解できない。

が、とりあえずアイザックはイリアを認めてくれたようだ。


「これからよろしくお願いします、イリア様」

「はい、こちらこそ!」


アイザックが初めて微笑んでくれたのでイリアはそれだけで嬉しくなり、満面の笑みで答えた。

その後、レオンに別れを告げ、アイザックとも和解したイリアはスタットの街を後にするのだった。


とりあえず一件落着。次話で第2章は完結する予定です!

ちなみにトリステン家家訓はこの5つです


【トリステン家家訓】

1.目には目を、歯には歯を!

2.目的のために手段は選ばず

3.力に奢るべからず

4.弱きを助け強きを挫く

5.拳で語れ!


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