イリアの科学講座
孤児院には昼過ぎに着いた。
イリアが…いや、ほぼカインが焼いたビスコッティは好評で、子供たちは取り合うように食べてくれた。
キラキラリボンは宝物にすると子供たちは喜んだ。
その後は庭に出た子供と遊ぶことになったのだが、
カインは…
「よっし!打ちかかってこい!」
「やぁあああああ!」
「負けないぞ!一斉攻撃だー!!」
少年達に囲まれてちゃんばらをしている。
子供たちがじゃれるようにカインに打ちかかるが、それを華麗に躱しつつたまに軽く打ち返している。
それでも男の子達はあの手この手でカインに立ち向かっている。子供達も楽しんでいるが体育会系のカインもそれを楽しんでいるようだ。
一方リオはというと…
「次は私を抱っこして!」
「分かったよ。さあ、お姫様、お手をどうぞ」
「きゃあああああ!」
女の子達を抱き上げて高いところまで持ち上げたり、お姫さま抱っこをしてあげていた。
皆、幼稚園~小学生低学年くらいの女の子だったが、イケメンに弱いのは年齢に関係ないようだ。
黄色い声を上げたり、頬を染めたりしている。
男の子おねだりに関しては肩車までのサービスをしてもいた。
(カインもリオも楽しそうね)
ではイリアというと…
「お姉ちゃん…どうして空は青いの?」
「太陽からの光のうち、波長の短い青い光が大気中の微粒子によって散乱されているからかな」
「…わかんない」
「ですよねー」
こんな感じで
「太陽はどうして輝いているの?」→水素ガスがヘリウムガスに変わる核融合反応によって非常に高い熱と光のエネルギーを出すからです
「雨はどうして降るの?」→雲の中には小さな水や氷の粒があって、それがくっついてだんだんと大きくなっていきます。それが大きくなりすぎると雨水となって落ちてくるからです
等など
自然科学に関して説明をした。
子供相手なので小手先に嘘を教えてもいいが、科学者の性か、どうしても正確な情報を伝えようとしてしまう。
それにこの些細な疑問から探求心に変わり、それが研究への楽しみにつながる可能性があるのだ。
実際一部の子供は興味津々という反応はもらえたが、飽きてしまう子供もいた。
そこでイリアは魔法を使って見せた。
「さてここに水があります。それを温めます」
「おおお水が無くなった!」
「でちょっと冷やします」
「おおおなんか白いのができてる」
「これが雲です、でこれをいっぱいにして…」
子供の頭の上に雲を広げた。そして雨を降らす。
「雨だ!」
「で、ここに光を当てると…」
イリアは小さなにわか雨に魔法で生み出した光を当てた。
「虹だ!」
「綺麗!」
子供たちは頭上にできた虹を見て目を輝かせた。
「魔法ってすごいね!」
「魔法は凄いかもしれないけど、これは全部みんなの周りで起こっていることなの。だから自然をよく観察してみて。ほかにも色々興味を持って、そしてどうしてそれが起こるのか考えてみるのよ。そうすればいろんな発見があるかもしれないわ」
「そうしたら魔法使いになれる?」
「魔法使いはなれないかもしれないけど、きっと同じくらい凄いことはできるようになるわ。だから勉強もしましょうね」
「うん!」
未来の科学者の卵が産まれることを願いつつイリアは他にも魔法で自然現象を生み出しては子供たちを喜ばせた。
「イリアさん、今日はありがとうございました。子供達も喜んでいます」
「あ、カリオスさん。こちらこそ楽しませて貰ってます」
「本当はちゃんとした教育をしなくてはとは思うのですが…なかなか寄付も集まらないので食べることにも一苦労でそこまで手が回らないのです」
「そうでしたか…」
カリオスは眩しいものを見るように遊んでいる子供達を眺めた。
「でも…彼らは神が与えた大切な人間です。いつか人の役に立つような日も来るでしょう。そのために、私も孤児院の運営を頑張らなくては…」
「はい、そうですね!」
楽しい時間はあっという間にすぎ、そろそろお暇をしようということになった。
子供達が全員見送りに庭の門まで出てくれた。
「今日は楽しかったよ!おねーちゃんたち、また遊んでね」
「おねーさん」
皆別れを惜しむなか、一人の少年がイリアのスカートを引っ張って視線を自分に向けるように促してきた。
先ほど魔法を見せたとき、魔法以上に自然現象の原理について食いついてくれた男の子だ。
「なに?どうしたの?」
「…イリアおねーさんは、カインお兄ちゃんとリオお兄ちゃんのどちらが恋人ですか?」
「!?…え?いえ…どっちの恋人でもないけど…」
「僕…イリアおねーさんに見合うために立派な男になります!科学者にもなります!だから結婚してください!」
その顔を真剣そのものだった。
自分の説明で自然科学に興味を持ってくれただけではなく、科学者になろうと思ってくれるとは!
イリアは非常に嬉しく思い、少年に視線を合わるとその頭を撫でた。
「ありがとう。結婚できるかは分からないけど…でもあなたが立派な科学者になるのを楽しみにしてるね」
「僕、頑張ります!」
嬉しそうに抱き着く少年の背中をポンポンと抱きしめると、ふいにグイっと後ろに引かれた。
見れば不機嫌そうなカインとリオが立っている。
「ガキんちょ…離れろ…」
「そうだよ、イリアは僕と結婚するんだよ」
「はぁ?誰がイリアと結婚するってんだ。お前は王都までの付き合い。こいつはディボの家に戻る予定だぞ」
「あくまでそれは予定だ。決定ではないよ。イリアが王都に残るという選択肢もあるじゃないか」
少年とイリアの存在を無視した形でカインとリオが剣呑な顔を突き合わせている。
(またいがみあってる…いえ、ここまでくるともう仲が良いというのかしら?喧嘩するほど仲が良いっていうし)
「二人がイリアおねーさんの恋人ではないということなら、僕が大人になるまで待っていてくださいね」
「うっせー、ガキんちょ、しれっとイリアを誘惑するな」
「本当だよ。いくら子供でも許せないなぁ」
「もう…二人ともいい加減にして。じゃあ、カリオスさん、みんな、また会うことがあったら遊びましょうね」
今度こそイリアが孤児院から立ち去ろうとしたときふと思い出したようにリオがレオンに手紙を渡した。
「あぁ、忘れるところだった」
「これ?なに?」
「昨日言っていた騎士見習い採用試験の紹介状。明日都合がつくなら騎士団まで一緒に行くよ」
「あの話、本気だったんだ!うん。行く!」
「じゃあ、明日宿屋に来てくれ」
レオンが嬉しそうに紹介状を受け取るとぎゅっとそれを自らの胸に押し当てた。
「騎士団…どういうことですか?」
不思議そうにその光景を見ていたカリオスが一歩リオに近づいて聞いてくる。実は…と事情を説明すると、カリオスは細い目をさらに細めてほほ笑んだ。
「そうでしたか。孤児院から旅立って立派な人生を歩むこと…とても喜ばしいことです。リオさん、ご助力いただきありがとうございます」
「いえ。こんなことしか手伝えなく、申し訳ありません」
「十分です…ならばこちらも手配を進めなくては…」
カリオスが何やら難しい顔で思案する。その表情は少し強張ったもので、イリアは余計なことをしたのではと不安がよぎった。
手配とは何だろうか?
だがカリオスはイリア達の存在にはっとして、再び人好きのする笑顔を浮かべた。
「では、明日」
レオンをはじめ子供達が大きく手を振る。
それを何度も振り返りながらイリアは宿へ変えるのであった。
「早く…あの計画を進めなくては…」
そう、カリオスが呟いていることにも気づかずに…。
カリオスの計画とは…果たして…
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