空白
散文詩のような500文字掌編小説。
鉛筆を置く。
答案用紙を見直す。
途中で面倒になる。
残り十二分。
僕は教室の窓から外を見る。
白い雲が水たまりみたいに空に浮かんでいる。
じっと見ていると形が変わる。
小さい雲に消えろと命じる。
しばらくすると消える。
僕が消したのだろうか。
わからない。
雲は形を変えながら流れていく。
教室に視線を戻す。
右斜め前にいる女生徒は誰だろう。
茶色いリボンで髪を結んでいる。
僕は名前を忘れている。
窓の隙間から風が流れ込む。
リボンがかすかに揺れる。
時計を見る。
秒針が動いている。
なめらかに。
チクタクと一歩ずつ刻むタイプの秒針ではない。
流れるように動くタイプだ。
でもこのタイプは苦手だ。
一秒と二秒の境目がわからない。
わかるのはただ時が流れていることだけ。
残り三分。
目を閉じる。
腹が空いていることに気づく。
今朝食べたものはどこにいったのだろう。
なにを食べたのか忘れている。
爪を見る。
この爪は僕が食べた何でできているのだろう。
なぜ伸び続けるのだろう。
腹がぐぅと鳴る。
腹に力を入れる。
チャイムが鳴る。
「腹の音、聞こえたぞ」後ろの奴が言う。
僕はこいつの名前も忘れている。
なにもかもが流れ去っていく。
それなのに。
僕はなぜ生き続けるのだろう。
それでも明日も生きていく…