猫かもしれない
たこす様主催「第二回この作品の作者はだーれだ企画」の参加作品です。
「お前の全財産を渡すんだニャン。数十倍にして返してやるニャン」
目が覚めると枕元に、強盗かサギのような発言をする白い猫がいた。
真っ白な毛に青い瞳。いわゆる美猫と呼ばれるやつだろう。
それが、しっかりと人の言葉を話している。
(昨日、ストロングな缶チューハイ何本飲んだっけ……)
夢なのか、まだ酔っているのか分からないが、俺はとりあえず話を聞いてみることにした。
「数十倍にして返すって、どうやって?」
「昨日、高級クラブで大企業の社長が新規事業を立ち上げると酔って話してたニャン」
「それ、インサイダーって言うんだよ。犯罪だ」
白猫が前足をぺろっと舐めて、笑った。
「学生時代に、酒の勢いで賭け麻雀してたの知ってるニャン」
「な、なぜ、それを?! 俺の黒歴史だ!」
「まだ実家に雀卓あるニャン」
「今は使ってない! 捨てるのが、もったいないだけだ!」
「いいから有り金、全部出すニャン」
相手は猫だが、弱みを握られた俺は渋々、財布から一万円札を取り出した。
「しけてるニャン」
「ほっとけ」
万札をくわえた猫は、片足で窓を開けて出て行った。
そして数日後、銀行のATMの前で俺は目を疑った。
預金残高が十万円増えている。
(本当にこんなことが……)
しかし、ラッキーなことには違いない。
十万円を引き出した俺は、足取りも軽やかに家路についた。
帰宅すると、ちょうど宅配業者が来ていた。
「あ、Sさんですか? クール便でお届けものです!」
そう言った宅配業者の男性から、発泡スチロールの箱と明細書を受け取った。
「……鴨肉?」
鴨肉など、頼んだ覚えがなかった。
「商品代金が十万円と代引き手数料になります」
「十万円と手数料……」
金額を聞くと、まるで催眠術にでもかけられたように、なぜか意識が朦朧としてきた。
そして、ぼんやりとした頭で、引き出したばかりの十万円を封筒から出した。
次に、手数料を支払うために、のろのろと財布を開ける。
しかし、そこでハッと我にかえった。
(そうだ、受け取り拒否をしたら良いんじゃないか。頼んだ覚えがないんだから)
「これ、私が頼んだ物じゃ……」
『やっと届いたニャン』
鴨肉を送り返してもらおうと口を開いたと同時に、そんな言葉が背後から聞こえてきた。
振り向くと、したり顔で笑う猫がいた。
お読みくださり、ありがとうニャン。