本編 第四十七話 日常 ①
お世話になります。
オリンピック、やるんすかね?やっぱ。
やるにしてもやめるにしてもどのみち、決して小さくない痛手になるんじゃないかと。
イベント盛りだくさんだった3連休も終わり、今日からまた学校が始まる。
(確か今日はいきなりの学力テストやったな。)
そうなのだ。何故か連休明けの第一日目に朝学習の成果を見るという名目で学力テストが予定されているのだ。
もっとも、雄二には【ジニアス・ブレイン】という、とんでもないチートがあるので全く問題はないのだが。
ということで、いつもの通学路を歩いていると、【テレパシー】で呼びかけられる。
《ご無沙汰しております。主様》
呼びかけてきたのは、人間に扮してこの世界に生きている悪魔のひとり、マモンの部下でこれまた、人間に扮しているサキュバスである美千代だった。
彼女は雄二専属窓口なのだ。
《今、お話しても大丈夫でしょうか?》
(あーっ、手短に頼むわ)
《畏まりました。お話したい事は2件あります。1件目は先般、お預かりしておりました商品が捌けました。よって、いつものように口座に振り込まれておりますので、お暇な時にでも残高のご確認をお願いいたします。2件目は少し残念な事なんですが、どうやら何者かが主様からお預かりしている物の出所を探っておりまして。。。もちろん、主様にご迷惑が掛からぬよう細心の注意を払っております。ですが、念のため、万が一に備えて、当面はお取引を中断させて頂きます。勝手なお願いで申し訳ございません。》
(大変やなぁ。。。了解!また、大丈夫になったら連絡くれ)
《勿体無きお言葉、痛み入ります。では、またお取引が可能になりましたら、ご連絡させて頂きます。失礼いたします》
【テレパシー】が切れたのを確認して、状況を探る為、広範囲に【状況察知】と【センサー】を行使して不穏な動きを探る。
(はぁ・・・思った通り奴ら絡みかよぉ!めんどくさっ!)
今日から学校が始まるというのに、朝から憂鬱になる雄二だった。
・・・のだが、学校に着いたら着いたで別な意味で面倒な事になっていた。
「えっ?・・・ふぁんくらぶぅ~?…誰の?」
「あなたのに決まってるでしょ?雄二君」
教室へ入るなり、いきなり隣の席の早矢仕さんはじめ、いつものメンバーが雄二のファンクラブなるものを立ち上げたいので了承して欲しいと迫って来た。
面倒な事、この上ない。本音はもちろん却下なのだが、、、早矢仕さん、澤村さん、安藤さん、杉原さん、松原さんらが一斉にウサギさんのようなつぶらな瞳で見つめてくる。
「って!おいっ!なんで良江までそないな瞳で・・・」
なんと、公式的にも雄二の彼女として認識されているはずの良江までもがウルウルした目で見つめてくる。
「なんとなく…クラスで私だけイイ思いしてるのは申し訳ないかなぁって。。。」
ヤレヤレと言わんばかりに溜息を吐きながら雄二は空気を読まない発言をする。
「今日これからテストやのに余裕やなぁ~・・・お前らw」
それを聞いた途端、教室内が一瞬だけ静寂に包まれるが、刹那、喧騒が大きくなる。
「忘れてたのに~~!!」
「っ!!!」
慌てて自分の席へ戻ってテキストを確認する女子達。
今まで野次馬だった男子生徒らも同様である。
明らかに"焼け石に水"である。
やがて始業のチャイムが鳴り、担任の荒河先生が教室に入ってくる。
「え…今日はみんな待ちに待ったお楽しみ、学力テストを行う。」
「待ってねぇ~よっ!」
毎度の担任と生徒のやり取りが繰り返される。
SHRも終わり、いよいよ学力テストが開始される。
最後まで悪あがきをしていた生徒も諦めて、テキストを仕舞う。
学力テストは主要5科目である国語、数学、理科、社会、英語で行われる。
給食を挟んで5時限までたっぷり実施されるので生徒の疲労感が半端ない。
しかし、やっとテストが終わった生徒にはまだひと仕事残っている。
4人グループに分けられているそのグループ内で1教科ずつ担当を決めて自分達でお互い、採点をするのである。尚、英語は担任がその場で採点する。予め正解用紙は用意されており、採点時配布される。
雄二は数学を担当し、自分を含めたグループ内4人分の答案用紙を黙々と採点して行く。
採点もようやく終わり、結果を確認する。
雄二はいつものようにただ一人オール満点の500点。
3連休中、ほとんど机に向かっていないにもかかわらずこの結果である。
(ホンマ、チート様様やなぁ!なんか申し訳ないわぁ♪)
心にもない事を…(呆。
当然、クラスメイト全員驚愕である。
「やっぱ、モテ王にはかなわねぇっす!」ゆきっつぁが降参のポーズをする。
他の生徒達もそれに同意するようにウンウンと首を縦に振る。
かくして1回目の学力テストは無事?に終了する。
終業の合図とともに、再び数名の女子達が雄二を囲むように集まってくる。
「雄二君?逃げようたってダメだよ?OKもらうまではっ!」
澤村さんが腕組みをしてふんぞり返っている。
(ふむ、、着癒せするタイプぅ?なかなか形の良いおム…ケホッケホッ)
相変わらず煩悩の塊であるアホがここにいる。おまわりさーんっ!!
「稲村君っ!?私達ももう少しかまってくれても良いと思うのっ!」
かまうって…いったいどうすればいいのか?と嘆息するばかりである。
「だからぁ!ファンクラブつくっていいよね?いいよねっ?ねっ?」
何がだからなのか?まったくもって意味不明である。
「良江に迷惑をかけないんやったら別に好き勝手にしてもかまわんが?」
このままでは埒が明かないと感じた雄二がそう発言すると、
「やったぁ~♪言質取ったぁ~!大丈夫だよ?良江ちゃんには会長に就任してもらうからネッ♪」
ウィンクしながら早矢仕さんがそんな事を宣った。
突然、雄二のファンクラブ会長に就任する事が決まってしまった当の良江は想定外の事だったようで大きな瞳を更に大きくしてアワアワしている。とんだとばっちりである。
周りで相変わらず野次馬をしていた男子生徒達はというと、
「あやかりたや~!」などとほざいている。
そしてこの日、あれよあれよという間に雄二のファンクラブが発足してしまうのだった。
早速、追っかけてくる女子達をどうにかこうにかかわし、家に辿り着いた。
すると、母親の京子が、
「なぁ?雄、昼間にお前から預かった銀行口座からお金を降ろしに行ったら、残高がまたどえらい増えとったんやけど?なんで?」
「あー、たぶん前に売った分の残りやろ?俺も忘れとったわ」
などと、適当に言いくるめて着替える為、自室へ退散する。
母親が驚くのも無理はない。現残高は20億以上あるのだ。
現在住んでる家のローンを完済させ、父親に新車を現金で買ってやり、更に隣にあった工場跡を建物ごと買い取ってそこに新たに縫製工場を建築中、加えて家自体も増改築中でその費用を賄ってもなお、20億あるのだ。尚、税金対策は雄二が力技で強引に解決した。
普通は所得税、不動産取得税やらなんやらかなり追徴されるはずなのだが、雄二だから出来うる解決策でやってしまったのだ。反省もないが後悔もないっ!(きっぱり)
「ああ、そういえば来週、三者面談があるんやけど?」
「何日の何時からや?」
「12日の午後2時ちょうどからやな」
「わかった。お父ちゃんに行ってもらうわ」
「了解!」
雄二も中学3年生であるので、高校受験を控えている。その進路相談の為の三者面談が何回かあり、その1回目が来週月曜日から始まるのだ。
雄二は既に詩織と同じ高校に行く事を決めているのであまり意味はないのだが。
最近はメルとルネもかなり地球の生活に馴染んできたようで、二人だけで出歩いたりしているようだ。
あれだけの加護を付与した指輪、ペンダントを常時、身に着けているのだから心配はいらないだろう。
そして相変わらず、詩織、圭子、メルのローテーションで夜はイチャイチャするのだが、秀美とルネの要求により、週一はこの二人と添い寝をしなくてはいけなくなった。秀美はまだ小学生のお子ちゃまなのでさすがにそのような事をイタすわけにはいかない。妹なんだしネッ!
ルネはメルと同い年なのだが、いかんせん幼児体型のちんちくりんである。
よってこの二人は単純に添い寝をするだけではあるのだが。
圭子は時差の関係で早朝になるのはご愛敬である。
雄二にとっては毎夜の恋人たちとの逢瀬より、昼間の学校でのドタバタの方が何倍も疲れるのが玉に瑕である。
翌朝、いつものルーチンである直近での出来事のチェックをして、特に大した問題が起きない事を確認する。それから通い慣れた通学路を通って学校へ向かう。
すると、学校に近づくたびに何故か女子が待ち伏せ?をしてて、偶然を装うように挨拶してくる。
(ナニコレ?怖いんですけど?・・・それより偶然を装いって…それこそ『まちぶせ♪』やんっ!)
出待ちならぬ入待ち?である。
どうやらこの女子達はファンクラブとは関係ないらしい。
昨日のうちに雄二の与り知らぬところでファンクラブの要綱がまとめられており、雄二やその親しい人に対する迷惑行為はご法度として厳禁なので待ち伏せとか絶対しないそうである。
ちなみにファンクラブ会長は良江なのだが、お飾り的なものであって実際は副会長に就任した澤村さんと早矢仕さんが実質運営していくようである。
(なんやそれ?・・・なんだかなぁ、、、)
隣の席の安藤さんの話によれば、現在ファンクラブ会員数は既に100人いるらしい。
(えっ?!昨日発足したばっかやろ?・・・なんでやねん!)
このクラスの女子、約2/3ほどは既に昨日のうちに会員になったらしい。
(ほかにやる事あるやろ?・・・呆)
今週もこのまま騒がしくも平和な?学校生活でやり過ごせると思っていた雄二なのだが、そうは問屋が卸さなかった。
その週の土曜日の授業終了後、何故か雄二は女子達に拉致られて第2音楽室に連れてこられた。
そこには女子ばかりが60人くらい集まっていた。
(な、何だこれ?!・・・俺氏って生贄にでもされるんかなぁ?怖いんですけどぉ~!!)
拉致った張本人である澤村さん、早矢仕さんに視線を送る。
「ごめんね。。雄二君…他の子達もあなたの演奏がぜひ聴きたいって・・・」
「そーだよぉ!私達って軽音クラブじゃないからなかなか雄二君の演奏なんて聴けないじゃない?それって不公平だと思うのよねぇ。」
「「「「「そうだそうだ!私達にも聴かせてよぉ!!」」」」」
「で、でも俺…昼飯持ってきてねぇし。」
「それなら大丈夫だよぉ♪ちゃんと用意してあるからネッ♡」
何という事でしょう!!何人かの女子がお重を差し出してきた。
「それじゃあ、まずはお昼にしましょうか♪」
有無を言わさず、座席に座らされる。
「今日はファンクラブ発足の記念イベントも兼ねてるから協力してネッ♪雄二君♡」
もう、こうなってしまえばどーすることも出来ない。
仕方ないので雄二は【テレパシー】を使って、メル、ルネ、秀美に事の次第を伝え、遅くなる事と、昼飯は不要だという事も付け加える。
秀美からは帰ったら取り調べを断行するという理不尽な事を言われたが…。
(そもそも…何でこうなった?)などと思っていると、
「はいっ♪雄二君、あーーんして?」
「ぇ…あっ!いや、自分で食える「あーーん?」」
「・・・あ、あーーん・・・」
笑顔だ。笑顔なのだが、その瞳の奥には狙った獲物は決して逃さないといった肉食獣のような鋭い光が宿っていた。
とても抗えない。とても逆らえない。本能がそう伝えてきている。
そう悟った雄二はおとなしく口を「あーん」する。
すると、まずは「トップバッターは私よ♪」と言わんばかりに澤村さんが唐揚げを箸で摘まんで雄二の口に投入していく。これを皮切りに4人の女子、恐らくは"『あーん』をする権利"を勝ち取ったのだろう女子達が代わる代わる雄二に『あーん』を敢行していく。飲み物はストローでちゅるちゅる。
(あー・・・味わかんねぇ・・・)率直な感想である。
こうして、楽しい?『あーん地獄』による昼食は滞りなく終了した。
(ん?そーいえば良江見ないなぁ)ふと気が付いたので【センサー】で探してみると、既に自宅に戻っているようだ。【アナライズ】で状態を察知してみると、特に嫌がらせだとかイジメとかではなく、純粋に他のクラスメイト達とかに気を遣って遠慮したようだった。
本人にしてみれば、自分の想いが通じて晴れて彼女になってとても嬉しいのだが、反面、他にも存在する雄二の事を好きな人達に申し訳ないと思ってしまっているようだ。
(んな、、、気ぃ遣わんでもええのに・・・)
少々のやるせなさと良江の奥ゆかしさ、清廉さに感銘しつつもあれこれ思案するのだった。
それと同時に雄二はここにいる女の子達を一通り見渡して、
(やっぱりこの女子達は・・・違うよな)と改めて思うのだった。
詩織、圭子、メル、良江のように純粋で本当に心から溢れてくるような暖かなモノ、無償の愛をココにいる女子達からは微塵も感じられないのだ。見えているのは・・・以下略。
しかし、そうは思いつつもそれ程までして雄二のギグを聴きたがっているこの子らを邪険に扱うのも、それはそれでどうか?とも思うのだった。
そこで、
「ここの使用許可とか大丈夫なん?今更やけど」と澤村さんに尋ねる。
「うんっ♪ちゃんと先生の許可もらったよ?」
「ふーーん、ならええんやけどな。…で?俺、何したらええの?」
「あのっ!澤村さんから聞いたんだけど、何でも大体できるってほんと?」
と、聞いてきたのは別のクラスの女子だった。
「俺の知っとる曲やったらやけどな」
本当は雄二の知らない曲だろうと何だろうと、【アカシック・レコード】からその情報を習得して第一の権能【フィジカル・ブースト】を行使すれば、完コピできてしまうのだが。
(めんどくせぇしな。)
「じゃあ、まず初めにこのピアノでビー○ルズの『レッ○・イット・ビー』から弾いてくれるかなぁ?やっぱり定番だし、何度聴いても濡れちゃうのぉ~♡♡」
(おまわりさぁ~~~ん!!}
澤村さんが曲を決めてくれたのはありがたいが、とんでもないことを口にした。
聞こえなかったことにして、グランドピアノの所に腰かけ、蓋を開けてまず軽く指を慣らした後、リクエストに応える。無論、弾き語りである。
初めて間近に雄二の演奏を聴く女生徒達はそれが耳に入った途端、あるものはガタガタ震えだし、あるものは目を閉じてジッと動かない、またあるものは感動のあまり涙を流していた。
(オーバーやなぁ~w)
雄二はそんな事を思って苦笑いを浮かべるのだが、雄二はまだ知らない。
自分のただでさえ達人級のチートレベルのギグテクが無自覚のうちに引き上げられている事を。
更に『権能』から派生したとはいえ、もはや『権能』とは別物になりつつある雄二独自の無自覚魅了系スキル【女たらし】が発動されている事を。
その後もリクエストに応えて全ての曲を完コピで演奏した。
何曲か演奏し終える頃には女の子的にそれは不味いだろうと思う状態の女子が何人かいたが、見ないふり、気付かないふりを貫き通す雄二であった。
やっと解放されて帰宅できたのは4時近い頃だった。
家に帰るやいなや、案の定、秀美に連行され、取り調べ並びに強制捜査が行われた。
問答無用である。
メルとルネはというと、そんな兄妹の心温まる?ふれあいを生温かい眼差しで見つめるだけであった。
(理不尽やぁ~~~~っ!!!)
雄二の心の叫びは誰にも届かない。。。なんて不憫な(涙;;;)
今後は三者面談あたりを少し触れて、修学旅行を絡めた後、夏休みまで飛ばすかもですw




