本編 第十六話 サヨナラは別れの言葉じゃなく・・・そして年の瀬
お世話になります。 いつもありがとうございます。
今回もシリアス続きました。
「みんなで一緒に幸せ」を目指してはいますので、いずれ回収しますw
(ほ、他には?・・・他にないの?)
絞り出すような思いで【アカシック・レコード】に問う。
〔同じく【常識改変】で対象が日本から離れなくても良い状態にするか。ですね〕
(それってつまりは…)
〔はい、お察しの通り、対象の父親の転勤を無かった事にする。ですね〕
圭子の父親は大学病院に勤めており、それなりに名の知れた優秀な医学博士であり、細菌学の研究者でもあるらしい。
{この時の雄二はまだまだ全ての権能を把握できておらず、しかも自分に直接関わらない事についてはあまり積極的に知ろうとはしなかったのである。よって圭子の父親についての詳細も知らないままであった。}
そして、、、
(それはちょっと避けたいよな・・・)
雄二は雄二の中である程度、ルールを決めていた。
せっかくこの歳から生き直しができるようになり、面倒な宇宙の管理やら"宇宙の意思"やらは出来る事ならやりたくないし、なりたくもない。だから宇宙の管理などは神々らに今まで通り、任せる事にした。"宇宙の意思"も今まで通り、自然律の流れるままにしてある。よほど自分に影響がない限りは。{この時の雄二はそんな大層なもんになるなどこれっぽちも思ってないのである。}
よって、直接は自分に関係のない事象である圭子の父親関連のそれを改変してしまうのは、自分の決めたルールに明らかに抵触していると考える雄二なのだ。
冷静に熟慮すればもっと的確な方法が見つかるかもしれないのだが、この時の雄二は目の前の今にも崩れ落ちてそのまま消えてしまいそうなあまりにも儚げな圭子を見ている為、焦って冷静さも失い、権能さえ上手く使いこなせていない。
雄二という人間は根本的にこういう人間なのだ。タイムリープしようがしまいが。
(圭子も俺もまだ中学生やしな…親の保護下やないと生活できんしなぁ。特にこの時代は。)
雄二があれこれ思い悩んでるいると、漸く圭子が口を開く。
「お父さんが…父は今…大学病院に…勤めてるんだけどね。…先日、西ドイツの…有名な…研究所に…派遣がね…決まって…」ポツリポツリと、少しかすれた小さな声で言葉を紡いでいく。
「私…一人娘…だし…一緒に…ついて…行くしか…」後の言葉を飲み込んでまた黙り込む。
静寂がまたしばらく続いた。
だが、その静寂を破ったのは俯いたまま、思いの丈を呟くように吐露する圭子だった。
「せっかく…せっかく…想いが…私の…想いが…せっかく…雄ちゃんと…」
ふいに顔を上げ、虚ろな瞳で雄二を見つめ、やがて瞳から溢れ出る泪を拭おうともせず、
「ぅぅぅ…嫌だ…よ…離れたく…ないよ…えぐっ…えぐっ…ぅぅぅ…うあ・・・うあ~~~~~んっ!!!」
ついには堰を切ったように大きな声で号泣し始めた。
見ていられずに雄二は圭子をきつく抱きしめた。どお言葉をかけていいか分からず、ただただ圭子を抱きしめるしかできなかった。
もはや圭子の心の中では「日本を離れる=雄二と別れる」と言うあまりにも極端な公式しか成立しておらず、他の考え方は全く存在していないようだった。少しでも心に余裕があれば、もっと前向きな考え方もできたであろう。その公式が唯一の真実であり、事実なのだと完全に思い込んでしまっている。
そんな今の圭子に雄二がもっとポジティブな考え方を提案したところで、恐らくは頑なに拒み、否定するのが関の山だろう。それ程までに圭子は自らを追い込んでいた。
このままではドイツに行っても普通の生活は出来そうもない。仮に日本に残ったとしても、全てを拒絶し、自分の殻に閉じこもったままだろう。いくら雄二が傍にいて語りかけても圭子の心に届くかどうか・・・。
(こんなに思い込みが激しい子やったっけ?)
圭子の想像以上の心の闇に雄二は慄いていた。
圭子の心はもう既にそこまで来ている。壊れかけている。いや壊れ始めている。
(俺に逢わんかったら…俺が受け入れんかったら…こんな……)
雄二は自責の念にかられていた。そして完全に冷静さを失っていた。
繰り返すが、この時、雄二が少しでも冷静さを保っていたらもっとより良い方法が見つけられたもしれなかった。
雄二に抱きしめられていた圭子が尚も泣きながらついには、
「死…に…た…い……死のう………そ…だ…死ねば……」とポツリ。
そんな言葉を聞かされたのではもうどうしようもない。
(圭子は素直なええ子やっ!普通に幸せにならんとあかんっ!…もう、あかんっ!)
もうどうしようもないと悟った雄二はとうとう決断する。
最良で最悪な方法でこの状況を解決する事を。
一旦、圭子の意識を【状態改変】で奪って、その場に横たえる。
徐に圭子の額に手を当て、【常識改変】を行使する。
「ごめんな?圭子。俺のせいで…追い込んでまったな?。。。ほんと苦しめて、ごめん。」
これにより圭子の記憶の中の『雄二』が消えてゆく。
「これしか…これしかお前を救う方法、思い浮かばんかった・・・悪いっ!消させてもらうわ」
小学校で同じクラスだった事も。中一で再び同じクラスになった事も。勇気を出して告白して受け入れてもらった事も。初めてのデートで一緒に映画を観に行った事も。クリスマスプレゼントとしてブレスレットを贈られた事も。そのブレスレットを使ってテレパシーによる会話をした事も。クラスの皆に冷やかされながらも祝福された事も。そして…みんなが帰ってしまって誰もいない教室で初めて口づけを交わした事も。
こうして…今、全てが消え去った。
「・・・これで…ええんや…これで。……こうするしか…」
自分に言い聞かせるようにつぶやく雄二。
(これで圭子は普通に生活していけるやろ)
そう思いながら仕上げを行う。
(いちおう念のためな)【コーリング】で使い魔『茶々』を召喚すると、圭子の影に忍ばせる。
実はクリスマスにブレスレットを圭子に贈った際、一旦『茶々』は回収しておいたのだ。
(頼んだぞっ!)」と念じると「わんっ!」とひと吠えして消えていった。
無自覚に過保護な雄二である。
更に圭子に【状態改変】を施し、体調や精神面を改善させ落ち着かせる。
やがて圭子の意識を回復させ、立たせると【認識阻害】で自分の気配を消すと同時に【異空間部屋】を消して喧騒で沸き返っている街中に戻った。
雄二はそのまま振り返ることなく、踵を返して家に帰る事にした。
「さよならっ!圭子っ!こんな俺を好いてくれてありがとなっ!今度はちゃんと別の誰かと幸せになれよっ!」と独り言を言いながら。
雄二の目が潤んでいたのは見間違いではないはずだ。
残された圭子は頭に「?」マークをいくつも浮かべ、
「あ…れぇ、どうして私、こんなとこにいるんだろ?・・・ええっ!?」
と口にだしていた。しかしその風貌は先ほどまでのそれとはまったく別人であった。
これで圭子と雄二の繋がりは切れて、二人の恋は終わった。……はずだった。
雄二はまだこの時は気付いていなかった。あるものの存在を忘れていることに。それ程、冷静さを失っていたのだ。
家に戻るなり、雄二は帰宅の報告をした後、自分の部屋へ直行した。
秀美は友達と遊びに行っているらしく、まだ帰ってきていない。
ベッドに寝転がると目を閉じ、先ほどまでの出来事を思い返していた。
(・・・あれでよかったんや…ああするしか・・・)再びそう自分に言い訳をする。
しばらくは何もやる気が起きない雄二はそのまま、ボケーッとして時間を潰していた。
やがて、いくら強大な力を得ても、全てが思い通りにはならない事をこれでもかっという程、思い知らされた雄二はこれからのことを考えていた。
せっかく人生をもう一度生き直せる機会を得たというのに、もう二度と悔いの残るような生き方はしたくないというのに。
「難しいなぁ。。。何の憂いもなく生きるのって」ポツリ漏らす。
しかし、今回の圭子のケースは誰が悪いというわけではなく、単純に不幸な偶然が重なった結果なのだ。
それでも自分を責める雄二なのだ。
自分の安直さ。自分の浅はかさ。自分の軽率さ。そして…自分の愚かさ。
今回の圭子の件。更に秀美を傷つけてしまっていた件。この二つが大きく雄二の心に影を落としていた。
夕方になり、食事の声がかかる。家族に心配させないように、普段通りに振る舞った。
既に家に帰って来ていた秀美には何か感づかれたみたいだが、秀美も敢えて気付かぬふりをしていた。
風呂にも入り終わり、早めに床に就こうかと部屋を暗くし、ベッドに潜り込んだ。
なかなか寝付けず、何度も寝返りを繰り返し、それでもやっとウトウトし始めた頃、名前を呼ばれた。
[雄くん!雄くん!]そうだった。この時間帯くらいにはいつも詩織が話しかけてくるのだった。
(ん?…詩織?)雄二がそう返すと、
[雄くん?なんかあった?大丈夫ぅ?]と心配そうに声をかけてくる詩織。
(えっ?なんで?)とぼける雄二。
[だって、今日1日ずっと変だよ?伝わってくるの…雄くんが不安そうだったり、悩んでたりすると…なんとなくだけどね。それでね、いつ声かけようか迷ってたんだけどね…雄くんから話しかけてくるまで待っていようかなって思って。…でも全然話しかけてこないし、どんどん雄くんが沈んじゃってるし、我慢できなくなってね。話しかけてみたの。]
(っ!!)
雄二はそれを聞いて驚いたと同時に(秀美と同じ?)と感じ、更に驚くのだった。
[今は相当滅入ってるみたいだし、疲れてるみたいだから聞くのはやめておくよ。落ち着いて話せるようになったら話してね?私はいつでも雄くんの傍にいるよ?絶対に雄くんを見放したりしないから!…それだけは覚えておいてね?]と優しく声をかけてくる詩織。
(ありがとう…ほんとありがとっ!!…ちゃんと話すからっ!少し時間くれっ!)
[うん。わかった!あっ!あと最後にこれだけ伝えておくね?心からあなたを愛しています。世界で一番愛しています。…たぶん、雄くん覚えてないかもだけど…私達、ずっと前から知り合いだったんだよ?その時から私はずっと雄くんを好きだったの。まぁ、私もはっきり確信できたのは最近なんだけどね。じゃあ、落ち着いたら声かけてね?おやすみ♪雄くん]
それだけ言い終えると、【テレパシー】を切ったようだった。
(これが『魂の繋がり』か…)
秀美といい、詩織といい、本当に深いところで繋がってるからこそ、雄二の機微に敏感に反応するのだ。
そんな二人が居てくれることに物凄く感謝するとともに心配をかけてしまって申し訳なく思う雄二であった。
同時に二人のように"もっと人を思いやれるようにならなくては"…と、心に刻むのだった。
詩織のおかげで幾分心が救われた雄二だが、さっきの詩織の最後に告げた言葉が気になり始める雄二でもあった。
「ずっと前から知り合い?・・・えっ?…ええぇぇ!?」
「あの山道での出逢いが初めてなんじゃ?・・・・・・んん?」
そういえば…今までの詩織との会話においても何度となく「??」な部分があったし、心のどこかに何か引っかかるような、大切な何かを忘れているような…感じだった訳なのだが。
混乱しながらも何とか自分の記憶を辿ろうとするのだが。
雄二は記憶力が良かったはずなのだが。
(う~~ん!4、5歳くらいから小学校の低学年……確かに少しあやふやなところがあるなぁ。)
それ以降の記憶は大体覚えているのだが、小学校低学年までの記憶は覚えてるところと定かでない部分が混濁していた。
そうこうしているうちに雄二はだんだん眠くなり、いつの間にか意識を手放した。
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{ゆうくん、ゆうくん!あそぼぉー}
{ゆうくん!だいすきぃ~}
{ゆうくん!おっきくなったらけっこんしよ?}
{ゆうくん!ゆうくん!ゆうくん!・・・・・・
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あくる朝、目覚めた雄二。(なんかすんげー懐かしい夢をみたんやけど…)
朧げに誰かと遊んだ夢を見た雄二。ただ誰と遊んだのかは思い出せない。そのへんがはっきりしないのだ。
霞がかかったようなふわふわとした夢だった。
(思い出せんもんはしゃーないわな)
もやもやするが、仕方ないので一旦気分を切り替える事にした。
明日は大晦日である。今日は自分の部屋の掃除をして、それが終わったら風呂場掃除をした。
何も考えず、体を動かす事で気を紛らわす。それが一番だと考えたのだ。
そしてあっという間に大晦日。
家族揃って年の瀬を迎えられる事を皆で喜んだ。この時代、ネット、携帯は勿論のこと。ビデオもまだ普及しておらず、レンタルビデオさえまだ無い時代である。
大晦日の恒例と言えば、レ〇ード大賞と紅〇歌合戦の2トップが当たり前だった。
この2つを見てこそ、正月を迎えられるという流れが日本の主流だった。
ちなみにこの年、1974年のレコー〇大賞は森〇一だった。
(ふむ、この頃はまだ演歌が強かったなぁ。確かに)
こんな風にしてこの時代にタイムリープした『稲村雄二』が生き直して初めて迎える年の瀬は過ぎてゆくのだった。
1974年。この年にチュー〇ップの「青〇の影」という曲が発表されました。
とても好きな曲です。
そして圭子へのレクイエムになっていきます。




