異世界編 第五話 やっぱテンプレっしょ!?
お世話になります。
今回は理不尽には理不尽を!というのがバックボーンです。
容赦しませんw
次の日。
朝食を頂いた後、雄二は予定通り教会を訪れた。
城から連絡があったのだろう、殉職した騎士達のご家族も来ていた。
雄二が異空間収納から亡骸を丁寧に取り出すと、それぞれのご遺族がそれぞれの亡骸にしがみつき、悲しみの対面をしていた。
侍女であったサマンサの実家は遠方にある為、ご遺族が王都まで来るのに時間がかかるという事で、ルネをはじめとする仕事仲間である王城の侍女達がお世話する事になった。
王族やロナウド宰相ら家臣、その他の貴族や騎士達も出席して、厳かに慰霊の儀が執り行われた。
【アカシック・レコード】によると、この星の管理者もやはり『神』と呼ばれているらしい。
(名前をエウリアネと言う女神らしいなぁ。機会があれば逢ってみたいかも。)
この世界でも火葬が一般的らしく、棺ごと焼かれていった。
皆、両手を組み合わせ瞑目し、故人の冥福を祈った。
昼からは特に予定は無かったのでメルシオーネ姫、ルーシェリー姫のお相手をして時間を潰したのだが。
呼び名について、ご本人達から強く要望されたので仕方なく、メルシオーネ姫のことを「メル」、ルーシェリー姫のことをルーシェと愛称で呼ぶことになった。しゃべり方も砕けたしゃべり方を要求されたのでやむなくそうした。
それから何日かは穏やかな王城暮らしが続いた。
その間は専ら、メルとルーシェに魔法を教えたり(というより【状態改変】を行使し、魔力量を増やしてあげたり、魔法を使えるようにしてあげたのだが。)、オルトに頼まれ、騎士団相手に模擬戦をしたりで過ごした。
メル襲撃やゲヴァール公爵のクーデターで数十人減った騎士団だが、急遽国中から新規に募ったのだ。
新入りなので練度が低い。そこで雄二に稽古をつけてもらおうと考えたのだ。
この頃になるとオルトは雄二に対し、全幅の信頼を置くようになっていた。
そんな感じでこちらの世界に来て、10日ほど過ぎた頃、雄二が予め【プレコグニション】で予知していた事象が顕現し始めた。
それがやって来る事は既に10日前にわかっていた。
余計な混乱を招かぬよう、敢えて誰にも教えなかったのだが、雄二の中にある“実際にそれを見てみたい”という欲求と自分なら何とでも対処できるという自信がそうさせたのかも知れない。
(おっ!?ほんとにおるんやなぁ。さすが異世界!)あくまでも呑気な雄二。
しかしこちらの世界に住む者達にとってはあまりにも突然現れた“災厄”。
普通、このような“災厄”が現れる際は、この世界の聖職者達に神からのお告げがあるはずであるのだが。
(エウリアネは何やってんだよぉ!後で説教なっ!)と心に留める。
それは普段、自分のテリトリーである霊峰に住み、決して他の者の住まう処までは下りて来ないはずだった。故に“災厄”と呼ばれる事はなかった。
しかし、ひとたび霊峰から這い出れば、通り過ぎるだけでそこは荒涼とした更地に成り果てる。紛れもなく“厄”へと変貌するのである。
自分の餌となる大型の魔物を追いかけてきて、少しばかり深追いし過ぎたのが運のつきだったのかも知れない。ふと見渡せば、周りには旨そうな餌ばかり。何の苦も無く捕り放題、正に食い散らかし放題なのである。味を占めたそれは霊峰に戻ることなく、そこに居座ってしまった。元々そこに住んでいた者達にとっては堪ったもんじゃない!まさに地獄の始まりであった。
そこはアヌメア大陸中央に位置する広大な草原地帯。奥の方に聳えるは何人の侵入も許さず、君臨する霊峰。普段ならその霊峰にいるはずの主が今、この場に下りてきて、他の者を蹂躙している真っ最中なのだ。
この草原には多くの種族が共存していた。人族、獣人族、ドワーフ、野生動物や魔物の類まで多種多様な生物。それらが逃げ惑う中、咆哮しながら獲物を追うその姿が映し出される。
翼をはためかせ、我が物顔でのし歩く。鋭く光る眼は爬虫類独特の瞳孔。鋭利な爪、牙。その一つ一つが絶対的強者である事を窺わせる。そう、ドラゴンである。しかもこのドラゴンは普通のドラゴンではない。
通常のドラゴンより赤黒く大きさも2倍ほどある変異種なのだ。これが1頭いるだけでも最悪な災厄だというのに、なんとこの変異種が霊峰から仲間を呼び始めたのだ。最悪の最悪である。
やがて豊かな草原地帯だった場所がドラゴン達が縦横無尽に闊歩する荒涼な大地に変わってしまった。
変異種ドラゴンが従えているのは6頭の若いドラゴン。食欲旺盛である。そのうち餌が足りなくなると活動範囲を広げるのは目に見えて明らかなのだが。
命からがら逃げ伸びた者達から事の深刻さが伝わるのが余りにも遅すぎるのだ。
この報告がヴィトゥルブ王国の王都に伝わった頃には既に国境付近までドラゴン達の魔手が迫って来ていた。
ドラゴン来襲の危機が迫る中、王城は大パニック状態に陥っていた。
国境付近の住民は大慌てで逃げ惑い、王都は王都で大混乱である。
そんな中、雄二は(ふむ、そろそろやな。)と考え、エドワード国王に申し出た。
「ちぃとドラゴンと話してきます。」
その場に居合わせた国王はじめ家臣、騎士達全員が一人残らずフリーズした。
1分くらいは固まっていただろうか。いち早く復帰したロナウド宰相が恐る恐る問いかける。
「…い、今なんと?」それに応えて雄二は同じ言葉をゆっくりと口にする。
「ドラゴンとは・な・し・て・きます。」
それを聞いて今度はエドワード国王が震えながらも大きな声で叫ぶように、
「ほ、本気でいっておるのかっ!あ、相手はド、ドラゴンじゃぞっ!?」
「はい。元の住処に戻るように話をつけてきます。」と、あくまでも冷静な物腰の雄二に対して、驚きを通り越してもう訳が分からず、「あ、アハハ…アハハハ…そ、そうか…あいわかった…」と、口に出すのが精一杯の国王であった。
それを受けて雄二は「それじゃあ、今からちょっといってきます。」何処までもお気楽モードの雄二はその言葉を残して、城をあとにした。
その場に残った者たちはただ呆然と雄二が出て行った方向を見つめながら立ち尽くすのであった。
城から出た雄二は誰にも見られないように物陰に隠れ、そこから転移した。
雄二が姿を現したのは正にドラゴン共がヴィトゥルブ王国の国境に差し掛かろうとした処の十数メートル手前だった。既に国境警備兵も避難していた。
突如現れた人間を目にして一瞬、動きを止めるドラゴン共。しかしドラゴンにとって人間など力もない小さきもの、羽虫にも劣る存在。すぐさま咆哮をあげ、威圧をかけ始める。
しかし雄二にはたかがドラゴン如きの威圧など、屁のかっぱである。
逆にドラゴン共に【威圧】をかけながら、全体に響き渡る程の大きな声で、
「しゃらくせぇぇぇっ!!トカゲどもっ!!」と叫ぶ。
すると今までギャーギャー騒いでいたドラゴン達がピタッと動きを止めて黙り込む。
やがて雄二がある一頭のドラゴンの前まで歩を進めるとそのドラゴンを睨みながら、
「ええ加減住処に帰りやがれっ!!」と怒鳴る。
睨まれたドラゴン、今やドラゴン達を統べる存在になった赤黒変異種が怒り狂った形相で
「黙れっ!!小さき下等生物の分際で我にたてつくかぁっ!!」
(ほぉ!こいつしゃべれるんか!?)そう雄二が思ってると、突然、変異種は目の前の雄二に対し、大きく口を開けると、凄まじい勢いのブレスを放射してきた。
数千度に及ぶ青白いブレスがあっという間に雄二を包む、かに思われた。
普通ならそんなブレスを浴びれば、全てのモノが一瞬にして炭さえ残さず消滅するだろう。
予め、【結界】を張っていた雄二は涼しい顔で立っている。
まさかブレスが弾かれるとは思ってもみなかった変異種は目を見開き、驚く。
取り敢えず他のドラゴンが介入できないように6頭の若いドラゴン共を【重力操作】で地面に縫い付けてから、「もう終わりか?トカゲ野郎っ!」馬鹿にしたように変異種を煽る雄二。
それを耳にした変異種は完全にプッツンしていた。
大きく息を吸い込むと、先程とは比較にならない超特大のブレスを再び雄二に叩き込んだ。
しかし相変わらず、雄二は涼しい顔で鼻をほじっているのである。
怒り狂った変異種はブレスが通用しないとみるや、前足や尻尾を使って力技で雄二に襲い掛かる。
すかさず雄二は避けながら、異空間収納から日本刀を取り出し、鞘から抜きながら『神力』を込める。
「調子こいてんじゃねぇぞっ!トカゲ野郎ぉ!今度はこっちから行くぞっ!!」
「ガキィーンッ!」
通常の剣では受け止めるどころか、脆く砕けてしまう程の硬度を誇るドラゴンの鈎爪だが、神力を込めた雄二の刃なら逆に砕いてしまうのだ。
驚きを隠せず、戸惑う変異種ドラゴンを尻目にあっという間に全ての足爪を切断してしまう雄二。
未だかって味わったことのない激痛が変異種を襲う。その激痛から逃れようと翼をばたつかせ、飛び上がる。
「お次はココだぁっ!オラァッ!!」『第一の権能』【フィジカル・ブースト】により身体能力爆上げさせた雄二はドラゴンより素早く飛び上がって、変異種の背中に回り込むと、そのまま空中に停空しながら、その翼をたたき切った。
「ぎゃあああああっ!!お、おのれぇぇぇ!!」耳を劈く様な悲鳴をあげながら、落下していき、「ズシーーンッ!!」と、大きな地響きを轟かせて地面に激突した。
(うわぁっ!すげぇ砂煙やなぁ!)雄二も地面に降りた。
砂煙に紛れてブレスが飛んでくるが、勢いがさっきより無い為、造作もない。
全身、傷だらけになり、鱗も剥がれ落ちてきた。
後に回り、尻尾を切り裂く。
「ぐあぁぁぁ!!や、やめろぉぉぉっ!!い、痛いぃぃぃ!!」
痛みに耐えられなくなったのか変異種ドラゴンは泣き叫ぶような声を上げる。
「ギャアギャアうるせぇなぁっ!てめぇはそうやって泣き叫ぶ者達をどおしたぁ?!・・ああん?」
そう言いながら雄二は変異種の四肢を根こそぎ切り落とした。
無慈悲ともいえる容赦ない蹂躙劇を目の当たりにした周りの若いドラゴン達は地面に縫い付けられながらもブルブル震え、自分たちがしでかした事の重大さに今更ながら気付くのだった。
最早、声さえ出なくなってきている変異種ドラゴンに雄二は最後の一言を告げる。
「大人しく住処で暮らしていればこんな事にはならんかったのになぁ。。。自分が犯した罪をせいぜい悔やんで逝きやがれっ!!じゃあなっ!あばよっ!!」
そして一悶。「スパァっ!」と変異種ドラゴンの胴体から頭部が切り離された。
一瞬静寂がその場を支配するが、間を置かず、そこにあったはずの変異種ドラゴンの亡骸が切断された部位と共に消え去る。異空間収納で回収したのだ。
やがて雄二は残っているドラゴン達を睨みつけながら、
「てめぇらっ!どちらか選べっ!大人しく住処に帰るか?大人しく俺に殺られるか?」
【テレパシー】を使い同じことをドラゴン達の頭にも直接語り掛ける。
《すすす…すみ…すみませんでしたぁぁぁ…ど…どぉか…い・いのちだけはぁぁ!!》
そんな悲痛な叫びが雄二の頭に入ってきた。
(じゃあ、とっとと帰りやがれぇっ!!)
ドラゴン達は体を解放されるや否や物凄いスピードで霊峰へ向かって飛んでいくのだった。
それを眺めながら「ふぅっ」と大きく息を吐いて、
やるせない気持ちになりながら、【アカシック・レコード】に尋ねた。
(今回犠牲になったのってどれくらい?)
〔人間はおよそ1万5千人、亜人種、獣人種が合わせて2万7千人、野生動物が2万、魔物が3万ほどです。〕
(それって俺が生き返らせちゃ不味いよなぁ?)
〔別世界の人間がそこまで干渉すると、この世界にあまり良い影響を与えません。無責任な干渉は不測の事態を生み出しかねません。どうしても生き返らせたいのであれば、今の立場を全て捨てて、全てを行える立場。つまりマスターご自身が正式に名実共に全宇宙を管理される≪宇宙の意思≫になられる必要があります。〕
(・・・だよなぁ。。。)
せっかくやり直し人生で好き勝手できるのに、まだまだやりたい事を全然できてないのだ。
そんな大層なもんなんかにできればなりたくないのである。そんな覚悟なんてまだまだある訳が無い。
〔ただ今回の事態はどうやらこの世界の管理者にも大きな責任があるように推測します。よってある程度はその管理者に責任を取らせるのは有りかと〕
(そうだ!それっ!エウリアネだっけ?そのクソ女神の居場所を教えてくれ!)
〔畏まりました〕
こうして雄二は怒りの矛先をドラゴンからこの世界の管理者たる女神に向けて、そこに転移するのだった。
異世界のテンプレをまた一つ小出しに出してみました。




