異世界編 第三話 謁見のはずが粛清のお時間ですってよ?
お世話になります。
謁見はいずこへ?
謁見の間。扉が開かれ、促されるまま、歩を進め、中に入る雄二。
中に入るやいなや、圧倒的な威圧感が襲ってくるが、神々さえ跪かせる雄二にとっては全くのノーダメージ。どこ吹く風である。
瞬時に状況を把握し、敵味方の判別、必要な者達には【結界】さえ施す。
指定位置で歩みを止め、徐に跪き、礼節の形を取る雄二に早速、方々から鑑定魔法が放たれるが、尽く弾かれる。それを驚いた様な顔で見ているローブ姿の老人。
跪き、首を垂れながらもこの空間全体を把握し終えている雄二は、
(どうやらこのおっさんが一番魔力量が高いようやな。さしずめ宮廷魔術師のトップってとこか。敵やけど。両脇に控えている騎士、近衛兵が総勢40名。その内、王家側に仕えるのは15名、残りは敵。中央の王族を挟むように貴族の連中が22名。その中に恐らく宰相とか国の重臣と思しき貴族が6名。このうち一人は敵。残りは王家側。)
(残りの貴族は6名が敵。残りは王家側。そしてさっきのおっさんを含め、宮廷魔術師が5名だが、残念な事に全員が敵。こんな感じかな?)もはやこの場を支配しているのは王族では無く、雄二なのかもしれない。
(まずはこいつらが一番厄介やから、先に無力化しとくか。)
そう考えた雄二は宮廷魔術師の5名全員を【状態改変】で魔法を発動できなくした。たかが魔法が神の力に敵うわけがないのだ。
(そしてこいつが件の…)
雄二が入って来た時からずっと一貫して雄二を睨みつけて来る男。重臣の中でただ一人、敵対反応を見せているこの男こそが今回の一連の事件の首謀者であるゲヴァール公爵なのだ。
ざわざわする室内に響くのは重臣である一人の貴族の一喝。無論ゲヴァール公爵以外の男の声。
「皆の者!静粛にせよっ!陛下の御前であるぞっ!」
国王の右腕。宰相であるロナウド侯爵だ。
喧騒が収まると、間髪入れずにロナウド侯爵が再び口を開く。
「此度は緊急の事案ゆえ、皆に集まってもらった。招集に応じて頂き、感謝する。本題に移る前に陛下よりのご要望により、一つ確認すべき事がある。」
重々しい口調で粛々と言葉を発する宰相。
「まずはゲヴァール殿、陛下の御前に参られよ。」
ふいに名前を呼ばれたにも関わらず、少しも臆さず、言われた通り、国王の前まで来ると、片膝をつくゲヴァール公爵。雄二の跪いている位置の少し前方である。雄二は首を垂れたままである。
「何用でございますかな?宰相殿。某は軍務を任されておるゆえ、何かと忙しゅうてな。」
ふてぶてしい態度でほざくゲヴォール公爵。
「先ほどウェサン地方より、ご帰還なされたメルシオーネ殿下の護衛の任務として同行し、同じく帰還した騎士団のオルト副団長はじめ、2名の者より、非常に忌々しき事案を耳にしましてな。その確認をと。」
鋭い視線でゲヴァール公爵を射抜くロナウド宰相。
だが、ゲヴァール公爵は何食わぬ顔で「ほほー、それはどのような?」と返して睨み返す。
「出発時は30名ほどの一個師団で向かったはずが、帰って来てみれば、僅か3名。普通に考えてもただ事ではないことは明白。帰ってきた者全員に事情を尋ねたところ、突然、共に行動していたはずの騎士団22名が襲い掛かってきたというではないか。」
その言葉にそこにいる者たちが騒然となる。一部を除いてだが。
「更に驚くべきことに、襲ってきた者たちが口々に…」そこまで発言して再びゲヴァール公爵をジッと睨みながら一泊おいてから「ゲヴァール殿。貴殿の差し金で行なったと言っておったらしいのだが?」このようなロナウド宰相の発言に一同が先程とは比べ物にならないくらい騒然となる。
すると、今まで沈黙を貫いていた国王が右手を掲げる。それを合図にその場にいる者達が黙り込む。
そこで国王が「ゲヴァールよ?この件に対し、何か申す事はあるか?」と問い詰める。
これに対してゲヴァール公爵はあざ笑うかの表情で
「はてさて?何のことやら一向に存じませぬなぁ。陛下ともあろうお方が、たかが騎士どもの戯言を鵜呑みにされるのではありますまいな?」国王ですら侮蔑するような物言いでゲヴァール公爵が宣う。
このような言い草をされているにも関わらず国王は落ち着き払って尚も、
「ほう…戯言と申すか?我が娘、メルシオーネ。更には侍女のルネも其方の指示によるものだと襲ってきた騎士達から聞いた。と申しておるのだが?」と、言ってゲヴァール公爵を睨む。
しかしこれだけ言われても、ゲヴァール公爵は顔色一つ変えず、
「殿下はきっと変な夢でも見られたのではないですかな?侍女などもってのほか。…それに」
ゲヴァール公爵は一旦言葉を止め、何やら目配せしてから、
「何よりも証拠がありますかな?もし本当に某がその様な大それたことを行なっているというなら、その証拠を是非とも拝見したいものですな!」そう啖呵を切ると、あちらこちらから、
「そうだそうだ!」という掛け声が飛ぶ。勿論ゲヴァール公爵派の者達である。
またもやザワザワとしだす場内。
自信満々に笑みさえ浮かべながら、国王とロナウド宰相を見下す様な態度をとるゲヴァール公爵。
互いに睨み合いが続き、暫くはまた騒然としていたが、そこに貴族らの後ろの方に控えていた一人の文官が前に出てきて、
「証拠ならここにございますっ!!」と言って、持っていた書類の束を掲げる。
一瞬顔色を変えたが、まだ平然としているゲヴァール公爵がその文官を睨みながら嗜める様に、
「陛下の御前であるぞ!無礼者がっ!」と恫喝する。
一瞬怯む文官だが、国王から「構わぬ。ここに持ってまいれ。」の言葉を受けるとすかさず、資料の束を前に出たロナウド宰相に渡す。ロナウド宰相はそれを受け取ると、一通り目を通してから全て国王に献上する。
みるみる顔色が変わり、目を泳がせ、若干冷や汗をかき始めるゲヴァール公爵が見据える中、国王は書類の一つ一つを吟味しながら、「これをどこで?」と文官の男に問いかける。
文官は恐縮しながらも跪いて、はっきりとした口調で
「はい…じ、実は本日、昼食後、私が仕事場へと戻りましたところ、突然何処からともなく、ネズミがこの書類の束を引っ張って持ってまいりました。上司に報告しようにもなかなかつかまらず、どうしようか?と思っているところに今回の招集がありましたゆえ、結局は届けられませんでした。申し訳ございません。」
そう説明すると首を垂れて陳謝した。
「いやいや、其方を責めているのではない。むしろ褒めて遣わす。よう教えてくれた。大儀であったなぁ!」
と笑いながら文官を労う国王。
やがて国王はゲヴァール公爵をこれでもかと言わんばかりの蔑む冷たい視線を向けながら、
「ふむ。。ゲヴァールよ。ここに国家転覆計画の草案、計画書、分担配置図、並びに姫の拉致計画書、実行部隊割り当て覚え書きなどなど。。。全て其方の署名と捺印、家紋が入っておるのだが?これはいったいどういう事だろうか?説明してくれぬか?」と言い放つ。
途端に苦虫を噛み潰した様に歯をギリギリさせ、やがて「チッ!!」と舌打ちを打ちながら仲間に合図をするゲヴァール公爵。
すると、今までそれぞれの位置に散っていた貴族の一部、宮廷魔術師たち、そして騎士、近衛兵の一部が一か所に集まりだす。そこに今まで国王の御前で片膝をついていたはずのゲヴァール公爵が立ち上がり、移動してきて加わる。
「何事だっ!?」と憤怒の表情を露わにロナウド宰相が怒鳴る。
「フッ!バレたのなら仕方ない。まあ、ここで片を付ければ良いだけの話じゃて!貴様ら全員、ここで大人しく死んでもらう。そしてこの国は我がゲヴァールのものになるのだっ!フッハハハハハッ!!」
遂に本性を現したゲヴァール公爵は既に勝ち誇った様に高笑いをする。
「馬鹿がっ!血迷ったか?陛下に牙をむくとはっ!!」と糾弾するロナウド宰相。
しかしゲヴァール公爵は臆する事もなく、「馬鹿は貴様らだっ!ブハハハハハッ!・・・やれっ!」とほざきながら指図する。指図された宮廷魔術師達は一斉に魔法を発動させるための詠唱を始める。
それを見て、今までずっと黙っていた為、存在を忘れられていた雄二が口を開く。
「宰相閣下様、私めに力を行使する許可をお与え下さい。さすれば収束させてみせましょう」
大声でロナウド宰相に向かいそのように叫ぶのだった。
その間にも宮廷魔術師達が詠唱を終えて魔法を発動させようとするが、、、
いつまで経っても発動しない。何度も繰り返すがうんともすんとも言わない。
その最中、「わかった。貴殿にこの場を任せよう」とロナウド宰相に許可をもらった雄二。
ゲヴァール公爵が全く魔法を発動させる事ができない宮廷魔術師達を睨みつけて、
「くそっ!この役立たずどもがっ!!」と怒鳴り散らかすと、すぐさま、自分の側にいる騎士や近衛兵に向かって
「魔法がダメなら力ずくで潰すのみっ!!者どもっ!かかれっ!!!」と命令する。
しかし、騎士や近衛兵が剣や槍を持って、一挙に動こうとした瞬間、雄二が【空間状態操作】を行使し、この場にいる、ゲヴァール公爵に追随して謀反を企てた者達に対して、一人残らず、重力を加重してそのまま床に貼り付ける。無論、ゲヴァール公爵も。
「ぶへらっ!!!!!!!」「ぐぎぎぎ~~~~っ!!」
一斉に体を床に縫い付けられ、奇妙な呻き声を上げるバカ一味。
一味以外の者達はその光景を驚愕の表情でただ、見つめるだけだった。
そんな中、国王だけは「ほほーっ♪」と感嘆しながらニヤリと笑うのであった。
その後、ゲヴァール公爵一味は全員、重力加重は解かれたものの、【状態改変】により体の自由を奪われ、無抵抗のまま拘束され、牢獄にぶち込まれた。
国家転覆を目論見、王族に対して謀反を起こしたのである。重罪である反逆罪が適用され、全員私財没収の上、死刑。ゲヴァール公爵家をはじめ、加担した貴族家は全てお取り潰し。家族は全員幽閉された上で平民に落とされるよう、沙汰が下った。
予定された謁見も取りやめになり、雄二は元の客室に戻された。
(今日はもうこれで何も無い事を期待したいのだが・・・)
雄二がそんな希望的観測をしていたのもつかの間、さっきとは別の執事が再び、雄二を呼びに来た。
通された部屋は先程の謁見の間ではなく、応接室みたいな部屋だった。ソファーがふかふかである。メイドがお茶を淹れながら、
「少々お待ちください」と言ってきたので、仕方なくお茶を飲みながら待つことにした。
5分くらい経った頃、「コンコン」とドアがノックされ、返事をするとドアが開かれた。
中に入ってきたのは、
ヴィトゥルブ王国国王を筆頭に王妃であろう美女が3名。そして皇太子であろう美青年。その後ろにはメルシオーネ姫とその妹であろうもう一人の小さな可愛いお姫様。更にはロナウド宰相をはじめとする恐らくは何らかの役職を持った貴族が全部で5名。
つまり現在この部屋にこの国の最重要人物が全員集合しているのである。
咄嗟に跪こうとする雄二に国王が「よいよい、公式の場ではないのだから、楽にされるが良い」と笑いながら手をソファーに向けて、座るよう促す。
それからメイドが何人か入って来て、人数分のお茶を用意し、一息つく。
やがて国王が「まずは自己紹介からじゃな」と言うと順番に自己紹介をしていった。
「余はこの国を統べる、ヴィトゥルブ王国国王、エドワード・ゼス・ヴィトゥルブだ。」
「私はヴィトゥルブ王国第一王妃、マリアンナ・リゼ・ヴィトゥルブと申します。」
「私は同じくヴィトゥルブ王国第二王妃、メアリー・ルゼ・ヴィトゥルブよ。」
「私は同じくヴィトゥルブ王国第三王妃、ファナ・レゼ・ヴィトゥルブといいます。」
「僕はヴィトゥルブ王国第一王子、フィリップ・ゼル・ヴィトゥルブだよ。」
「えっと…既にご存知でしょうけど、私はヴィトゥルブ王国第一王女、メルシオーネ・ロゼ・ヴィトゥルブと申します。」
「えと…あの…私は同じくヴィトゥルブ王国第二王女で、ルーシェリー・ラゼ・ヴィトゥルブって言うのですぅ。」
いきなりのロイヤルファミリー勢ぞろいである。
(も、もうお腹いっぱいです…)
続いて紹介されたのは宰相のロナウド侯爵、財務のヴィクセン伯爵、雑務のロッペン伯爵、宗務のアスター卿、文務のリベラール男爵。本来なら軍務を担当する者もいたのだが、つい先ほど空席になった。
そして最後に
「私はユージと言う名の異国からのしがない旅人でございます。何卒宜しくお願い致します。」
と、自己紹介した。
ちなみに皇太子は17歳。末っ子のルーシェリーちゃんは7歳です。
登場人物一覧ってあった方が良いですかね?




