本編 第042話 久しぶりの妹孝行
ども^^
ダンジョンだじょw
「うーーん…動物園も遊園地も地球よりアッチの方が凄いし面白いからねぇ;;」
雄二が新世界『ネオアース』を創った数少ない弊害。
あまりにもアチラで好き勝手やり過ぎた結果、動物園や遊園地…いや、有形無形問わず21世紀仕様がふんだんに盛り込まれている為、今居る地球(1976年当時)にある色んな物がどうしても陳腐に見えてしまうのである。
あんなに秀美が喜んでいた上野動物園やスパーランドナガシマさえもだ。
(フム...)
雄二は自分の“やりたい放題”が原因であるとは微塵も自覚していないが、ともかくこの場をどうするか思案している。
「ほんなら本格的なダンジョンにでも潜ってみるか?」
雄二が何気なく思いついて口に出した言葉に、
「行くっ!!」
速攻で食らいつく秀美さん。
(早っ!ちゅか…なんか コイツ迷宮入って以来バトルジャンキーみたいになっとるんちゃうかぁ?(;・∀・))
{あくまでも他人事な物言いである・・・まったく、、誰のせいだと?!}
もちろん雄二の言うダンジョンは異世界ファンタジー的なモノなので地球上に存在するはずがない。
地球に存在するそれらしきモノはせいぜい鍾乳洞であったり、洞窟だったりするのだが、『異世界ダンジョン』のように魔物もいなければ階層が何層もある訳でも無い。
今、雄二が存在を認識できているダンジョンといえば『異世界ズゾロ』にあるものぐらいである。
「ズゾロにいくつかあるから行ってみるか?」
「うんっ!!」
ここも即答である。
早速 兄妹は納屋に設置してある『転移の扉』を潜った。
秀美ももう慣れたもんで鼻歌さえ唄っている。
────光彩が収まり視界が回復して目の前に広がるのは街道沿いの草原。
ここは一年程前にルネと訪れた事のある『フレアルム連邦共和国』の南方国境付近に位置する所だ。
街道に沿って1㎞先を見やれば、検問所が見える。
【アカシック・レコード】からの情報によるとこの『フレアルム連邦共和国』を南下して更に海を越えた位置に無人島があるらしい。
そこは存在は認識されているものの、未だ誰も上陸できていないという。
船で渡ろうとすると何故か急に速くなる渦潮に行く手を阻まれ、船ごと藻屑に消えるらしく、何時しかこの海域一帯は“悪魔の棲む海”と呼ばれ、周辺の住民でさえ恐れて近づく事も無いらしい。
そしてこの何人の侵入を拒む孤島にこの世界では最大級の規模を誇るダンジョンが存在するらしい。
よってこの孤島にあるであろうダンジョンも未開未踏の地であるという事だ。
雄二らはまず件の孤島が遥か遠くに視認できる海岸線へと再び転移してやって来た。
【フィジカル・ブースト】によって上げられている視力で孤島の様子を窺う。同時に【クレヤボヤンス】を駆使して周辺海域、特に海中を探ってみる。
(シーサーペントが数体・・・こいつらが邪魔して近づけんようにしとったんか!)
シーサーペントとはウミヘビに似た巨大な海の魔物だ。その大きさは数百㍍のものもいるらしい。
どうやらこの海の魔物が侵入者を駆墜していたようだ。
一方、島の様子はというと。。。
外見は特に変わった所も無く、どこにでもある緑に覆われたただの島である。
しかし雄二は同時に発動している【魔力センサー】により大きな力を感知した。
それはこの島のほぼ中央に位置するダンジョンの最奥最深部から放たれている。
(うむ...この世界の霊峰におるエンシエントドラゴンより強い魔力やなぁ。これがココの『コア』か。)
しかもこの魔力の影響でこの島に生息している魔物全てが独特の進化を遂げている。
(ガラパゴスかょ!)
「秀美?この海の遥か彼方にある孤島にまだ誰も入った事の無いダンジョンがあるみたいや!俺がおるから大丈夫やろうけど、念のため用心しとけよ?」
「わかったー♪お兄ちゃん♡♡♡」
元々 秀美は雄二との『魂の絆』により、詩織達ほど強くはないが雄二の眷属的な立場であり、ステータスなども既に人間を遥かに超えている。
しかし雄二により普通の人間のスペックに保たれ、リミッターが設定されている。
これは雄二と深い繋がり、具体的には雄二の嫁として雄二に認識された者すべてが対象だ。
ダンジョンに臨むにあたって雄二は秀美のリミッターをやや緩めた。
秀美さんのご要望にお応えしてソードと防具も【クリエイト&フォーム】で生成して与えておく。
尤も秀美に危険が迫りそうになれば即座に【結界】が展開されるので防具など必要ないのだが…曰く、
「だってカッコいいじゃんっ!」
これも雄二が21世紀から持ち込んだいわゆるRPGの影響であろう。
雄二自身も【異空間収納】から刀を取りだし鞘ごと腰に装着させる。
こうして準備を整え終えて、
「んじゃ、いくかっ!」
と告げ、雄二は秀美の手を握りダンジョン入口付近まで転移した。
──────────
入り口はやや靄がかかっていて不気味さを醸し出しているが、それ自体は何の変哲もない洞穴だった。
雄二は『権能』を使えば、各階層のマッピングや全容などを把握する事も容易なのだが、ここは敢えてそこまではせず、【魔力感知】と【危険察知】を行使するに留めた。
中に入ると空気が変わる。ヒンヤリとしてくるが、まだ外気に近いので澱んではいないようだ。
どんどん奥へ進んでいくが、今のところ特に高い反応は無い。
上に蝙蝠がいたり、蟲の類いが若干蠢いているだけだ。
「何もいないねぇ?お兄ちゃん」
「そら入口でいきなりボスは出てこんわなw」
そんな会話をしながら更に奥へ進むと、明らかに作られたであろう引き戸が現れた。
「こっからがいよいよホンマのダンジョンの始まりやな^^」
と言いつつ、秀美に注意を促してから引き戸を開いた。
引き戸を開けると下り階段が続いていた。
入り口もそうだがこの階段も…というかこのダンジョン全体がちゃんと視界を確保できているのもテンプレなのであろう。
階段を下りきると直ぐに先程よりは若干高めの魔力を感知する。
高めとは言っても蝙蝠や蟲に毛が生えた程度だが。
二人の前に姿を現したのは異世界ファンタジー定番の最弱モンスター『スライムくん』だった。
緑色、茶色、鈍色などといった色々なスライムがうようよ居る。
個体としては最弱だがあまりにも数が多いとそれはそれでめんどくさい。
「わぁ~っ!ホントに色々いるねぇ!緑色と茶色とかは前にも見た事あるけど、ピンクのもいるよっ!お兄ちゃん」
「緑のんが圧倒的に多いなぁ。茶色いのは強酸吐くから注意やっ!鈍色の奴は電気を帯びとる。ピンクのんは猛毒を持っとるわ!」
「わわわぁ~っ!こっちに迫ってきそうだよ;;」
速度はそれほどではないが、数に物を言わせて一斉にスライムどもが距離を詰めてきた。
「落ち着けっ!秀美!!ここのダンジョン限定でお前にも『神力』が少し使えるようにしたから使ってみ?」
「ど、どーやって使うの?;;」
「頭の中に火を思い浮かべてみ?そんで…そのソードを火炎放射器に見立てて放射するイメージでスライムに向けて振るんやっ!」
兄の言うとおりに秀美がソードの切っ先をスライムに向かって振り抜いてみた。
するとあ~ら不思議っ!凄まじい勢いでソードから炎が放射されたのだった。
圧倒的な火力でたちまちそこにいた数多のスライムを焼き尽くしてしまった。
「・・・・・えっ?!・・・」
やった本人が唖然となっている。
「おまっ・・・どんだけ出しとんねんっ!つか…何イメージしたん?」
お兄ちゃんドン引きである。{あくまでも他人事な兄である。}
「んとね・・・・ゴ○ラとかガ○ラのイメージ?ww」
腹違いとはいえ、やはり兄妹である。
それにしてもそのイメージでこの火力とはっ!!
「スライムは火に弱いってゲームで知ってたけどホントに弱いんだねぇ^^」
そもそもの話、雄二が21世紀から持ち込んだ様々なゲームをやり込んで来た秀美には何の躊躇も無かったのだ。
その後もこの階層にて遭遇するスライムを全て秀美が火炎放射で蹂躙するのだった。
雄二はそれを傍観するのみである。
「やべ・・・やっぱバトルジャンキーになっとるがなΣ( ̄ロ ̄lll)」
「ん?なんか言ったぁ?お兄ちゃん」
「いえ…何でもありません;;」
やがてこの階層の最奥まで辿り着いた雄二らは下層に降りる階段を見つける。
「まだ浅い階層やから弱いのしかいないのかなぁ?」
「ダンジョンはそないなもんやろ?w」
2階層へ降り立った兄妹が次に遭遇したのは、
60㎝ぐらいの大きさの緑色の犬?のような顔をした二足歩行のモンスター=コボルト。
そして大きさは秀美よりやや小さいが、鬼のような姿の…こちらもファンタジーでお馴染みのゴブリン。
どちらもスライム同様、初心者向きのザコではある。
それでも集団で襲ってくるので少しばかりめんどくさい。
「うぇ~~!何度見ても気持ち悪いねぇ;;;」
秀美は雄二に初めて異世界『ズゾロ』に連れて来られた際にその目で確認はしているのだが、やはりその醜悪な風貌が生理的に無理らしい。
相手が仕掛ける前に問答無用で焼き尽くしていくのであった。
「まだこの辺のレベルやったら動きもそない敏捷やないから火力で殲滅できるけど、上位種になるとすばしっこくなるし、魔法攻撃してくる奴もおるでな。」
コボルトやゴブリン達には理不尽とも言える情け容赦ない波状攻撃によりこの2階層も踏破した雄二と秀美はその後も難なく進み続けるのであった。
雄二は相変わらず後方で眺めているのみ。
既にある程度、雄二の眷属化している秀美の『神力』のリミッターをほんの少し緩くしたに過ぎないのだが、それでも十分に過剰戦力だったわけだ。
3階層ではゴブリンの上位種であるハイパーゴブリン、普通のスライムの数倍はあるハイパースライム。
4階層ではその上のゴブリン・ジェネラルやゴブリン・カイザー。
5階層はボス部屋みたいで何故か毛むくじゃらで大きなトロールだった。
(なんでやねんっ!?)
6階層~9階層ではオーク、リザードマン、ミノタウロス、オーガ。そしてこれらの上位種。
10階層にはボスとして身長10㍍程のサイクロプスが巨大な棍棒を持って待ち構えていた。
11階層~14階層ではより大きなサイクロプス、ギガンテスら、グレンデル、ターロスといった巨人系が目白押しだった。
しかもここら辺りから明らかに空間が広く高い。
それにしても秀美はゲームや先の迷宮で戦闘の場数を踏んでいる為、相手が切り刻まれようと身体が破裂しようと忌避感とか嫌悪感など微塵も感じていないようだ。
いよいよもってバトルジャンキーである。
15階層ではヘカントケイルという超巨大な多頭多腕の化け物がボスだった。
もはや怪獣である。
この段階になるとさすがに火炎放射、火球弾や斬撃だけでは厳しくなるので雄二が『神力』の使い方、新たな技の伝授を行ないつつ妹のサポートをする。
あくまでも実際に戦うのは秀美だけだが。
16階層からは打って変わって動物系の魔物が出てきた。
コカトリス、ヘルハウンド、ガルム、ムーンビースト、他にも大猿の魔物や雷熊といったラインナップであった。
これらが19階層まで続いた後、20階層にいたのはケルベロスだ。
21階層からは蟲系の魔物が闊歩していた。
ミミズをでかくしたワーム、モ○ラの幼虫のような巨大芋虫、数の脅威である蜂や蟻の大群。
皆の嫌われ者であるコックローチまでいる。
「うぇ~~!!;;虫いやぁ~~~っ!!!(><)」
今までいろんな怪物相手に無双状態だった秀美がここに来て兄の背中に隠れて小さくなっている。
「どゆぅこっちゃ?(;・∀・)」
妹様の判断基準が理解不可能なお兄ちゃんである。
「だってぇ~;;・・・」
ダンジョン攻略は全て秀美にやらせようと思っていた雄二だったのだが、
「しゃーねぇなぁ^^」
と苦笑いを浮かべつつ、秀美と自分に【物理シールド】を施した後、周囲全体の空気の成分を強力な殺虫成分に変換する。
24階層まではこの方法で強行突破する。
しかし25階層にいたボスは何故かバジリスク。
「わけわからん(-_-;)」
体の大きさは30㎝程だが、猛毒と炎のブレスが武器のこれまでで最強の相手である。
動きも俊敏で単なる魔法攻撃であれば通用しない難敵である。
あくまでも魔法であったらの話だ。
万の神々やそれに類する全てが跪く超越なる存在である雄二。そしてその眷属化が発動し始めており、リミッターを緩められている秀美のアビリティは魔法ではなく、『神の力』なのだからバジリスクごとき造作も無いのだ。
ソード一閃、容易くバジリスクの首を刎ねてしまう。
さっきまで蟲系に対し慄き忌み嫌っていたのが嘘のように意気揚々としてらっしゃる。
バジリスクが消え失せ、出てきたドロップアイテムは翡翠の原石である。
ちなみにこれまで倒したボスに応じたドロップアイテムは銀のスプーンだったり、金の延べ棒だったりする。
「なんか貴金属とか宝石ばっかじゃね?」
「てかさぁ…ホントにゲームのドラ○エとかF・ファ○タジーみたいなんだねぇww」
(うーん…妹がゲーム脳になってしまってる件;;)
秀美がドロップアイテムを自分のはめている指輪に付与されている【アイテムボックス】に収めたのを確認して、次の階層へ向かった。
次の階層、つまり26階層からはモンスターは一体も居なくなっていた。
モンスターに代わって二人に立ちはだかったのはトラップ満載の迷路であった。
26階層は普通の土でできた迷路。
27階層は氷でできた迷路。
28階層は鏡の部屋仕様の迷路。
29階層はジャングルのように草木が行く手を阻む迷路だった。
トラップも落とし穴、痺れ薬、高圧電流などなど。
中には1階層目つまり『ふりだし』に戻されるトラップもあった。
面倒くさかったので雄二が【クレヤボヤンス】で出口を探し当て簡単に攻略した。
30階層は何故かクイズ部屋になっていた。
出された問題もこの世界『ズゾロ』の人間ではとても解けそうにない科学的な問題ばかり。
しかし異世界『地球』では常識的な問題ばかりで小学生である秀美にでも簡単に解ける問題ばかりだった。
さて、ここまでさほど大きな問題もなく順調にクリアしてきた雄二と秀美であったが、31階層へ降り立ってやや唖然としてしまう。
何と驚くことに31階層はまたしてもスライム達がうじゃうじゃしている階層であったのだ!
一瞬 1階層に戻されたのか?という思考が頭に浮かんだが、そうでは無いらしい。
周囲の様相が明らかに1階層とは異なっていたのだ。
1階層は全体が文字通りダークな地下洞窟と言う雰囲気だったが、この31階層は人工的?に創られたアイボリー調の石畳と煉瓦に囲まれているのだ。
「じゃあ、今日はここまでにしといて休むか?w」
30階層まで踏破したとは言っても何も一気に30階層まで来た訳では無い。
5階層ごとに休憩は入れていたし、敢えて記述はしなかったが、体感時間的には既に2日ほど経過しているのだ。
という事で雄二は自分専用の【異空間部屋】を開いて秀美を伴って休憩する事にした。
雄二専用の【異空間部屋】は無駄に広くあらゆる物が設置されており、極端な話 そのままずっと暮らしていけるぐらい何でも備わっている。
加えて雄二の【異空間収納】にはそれこそ万物が無限に貯蔵されている。
さておき、まずは身体を綺麗にするため、入浴する事にした。
秀美が「一緒に入るぅっ!!」とゴネたが、さすがにいくらお兄ちゃんLOVEな妹であってもまだ純粋に兄妹のままでいたい雄二はどうにか秀美に踏み留まってもらうのであった。
代わりに添い寝はしっかり約束させられたが。
夕食は秀美のリクエストにお応えしてふわとろオムライス&特製チョコパフェを作った雄二は、
(やっぱ俺ってシスコンなんかなぁ?)
{際限なく今更である。}
秀美は秀美で久しぶりのお兄ちゃん独占状態なので、この時とばかりに甘える甘える。
翌日 朝食を摂ってから早速、31階層から攻略を再開した。
このフロア全体の外観もさることながら、モンスターであるスライムの方も1階層にいたソレとは別ものになっていた。
以降の階層も然り。
それでも一部の階層を除いてこれまでと同じように“妹無双”は揺るぎないものだった。
このように31階層~60階層の第二クールを難なくクリアするのだった。しかも最速スピードで一気に駆け抜けた。
次の日はいよいよ61階層からのスタートだった。
61階層はそれまでの雰囲気とはガラリと変わり、最初に入ったフロアや1階層以上に暗くどんよりと澱んだ空気が漂っていた。
「ふむ...どうやらここから数階層は『アンデッド』が続くみたいやなw」
そんな言葉を口にする雄二、そして秀美の目の前に現れたのはいわゆる『ゾンビ』だ。
しかも死臭と土の匂いが混ざり合った独特の刺激臭をまき散らせている。
ゾンビなので動きは鈍く単調なのだが、ヴィジュアル的にNGである。
目玉が飛び出てたり、脳みそや内臓をだらしなくはみ出させながらユラユラ歩いて近づいてくる。
しかも夥しい数である。
蟲の類いが苦手な秀美さんはというと・・・全然ノープロブレムらしい。
嬉々とした顔をしながら雄二が与えた無限に弾丸が放てる自動小銃を撃ちまくってらっしゃった。
まるで『バイオ○ザード』さながらである。
何故か蟲はダメだけどゾンビは平気らしい。
(そーいやぁこの前も迷宮でゾンビを相手に蹂躙劇を演じとったもんなぁ^^;;・・・理解できん)
{あくまでも他人事である。いったい誰があの純粋無垢だった彼女をこんなバトルジャンキーに変えたというのだろう!?}
こうしてこのフロアに溢れていたゾンビ共はこの妹により、何の躊躇も無しに頭を粉砕され、紅蓮の業火で消し炭に変えられていくのだった。
~つづく。
何階層まであるんだろうか?w




